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機械仕掛けの悪魔 -Ghost_Writer-  作者: 赤魂緋鯉
フェンダメンタル・トリートメント
31/66

第7話

「ナビ、カメラとかその辺偽装してるよな?」

「そうおっしゃると思ってすでにやってますよー。ちなみにDブロックを南下して逃げてることになっていまーす」

「おっ、さすが」


 猛烈に不機嫌そうではあったが、ナビはカメラのサーバーに潜り込み、映像を合成して警察の追跡を撹乱していた。


 北西部にある公安局へと向かってはいるが、実際に警官などから目撃されないため、巨大企業の社屋が建つ中心部外縁の、内工業地域の北側を右往左往しているため、一向にたどり着けないでいた。


「ナビ。今B52ブロックの207らへんだよな?」

「はい」

「そうか。よし、カガミ。あのシャッターがぶらぶらしてるとこに隠れるぞ」

「了解」


 巨大モールに客を奪われて消滅した、船上から商品を買える形式の商店街に来たところで、ナビに位置情報を訊いて頷いたアイーダは、橋のたもとにある窃盗犯にシャッターの左右が切り取られた廃店舗を指さした。


「持ち主には悪いことをした、な……」


 店の前で止まってハンドルの外にでたカガミは、非常事態とはいえ盗んだも同然のリアカーを見て申し訳なさそうに眉を寄せて言うが、


「言って無かったけどな、これアタシの知り合いのもんだからな。アタシが言えば盗ったとは思わねえから安心しろ」


 持ち主を知っている、というアイーダの言葉にカガミは胸をなで下ろした。


 カガミがシャッターを持ち上げている間に、アイーダが引いてナビが押す形で店の中へと入った。


「隠れたのはいいが……」


 音がしないよう、慎重にシャッターを戻してアイーダ達のところに来たカガミは、ペンライトを出してアイーダに渡しつつ、ケーブルをアイーダの端末に接続すると、電脳通信でそう言いながら目線をニナへ落とす。


 アイーダが唾液でむせないように、回復体位をとらせた彼女は、相変わらずよだれを垂れ流しながら浅い呼吸を繰り返していた


「で、ホシミヤさんの状態は?」

「一応致死量ではないですが、けっこうキツめに投与されてます」

「どこの誰だが知らねえが、ヒデエ事しやがる」

「ああ。我々がいなければ現行犯で逮捕されているところだ」


 ナビが再度状態をチェックしてアイーダに報告すると、腰に手をあてて舌打ち混じりに彼女は言い、カガミも拳を強く握って怒りの表情を見せる。


「――せっかく……、くすり……、やめられたのに……。こんなの……、ないよ……」


 意識が少しはっきりしてきたニナは、面会に来た仲間達から励まされ、死に物狂いで脱した苦労が水の泡となり、ほとんど呻き声でそう言ってさめざめと涙を流し始めた。


「――安心しろ。お前に臭い飯は食わせねえよ」


 理不尽さに絶望するニナの肩に手を置き、つっても他力本願なアタシ言われても頼りにならねえかもだが、と、自虐混じりにアイーダは小声でも力強く聞こえる声で言った。


「ほん、とう……?」

「おうよ。ここにいるアタシの助手も友達も、大分優秀な連中でな。まあまかせろ」


 アイーダは自身の顔にライトを当てて、ニカッとした微笑みをニナへ見せる。


「……うん」


 地獄の中に仏を見たように、彼女は見知らぬはずの女へ、妙に説得力と安心感を感じていた。


「――てなわけで、何とかたのむぞマジで。言っちまったからには裏切れねえから」

「全くもう、なんで確証がない事をそう堂々と言えるんですか。まあ、ナビちゃんに不可能はないのでお任せあれ」

「私も最悪課長に無茶振りすればいいから、な」


 電脳通信でちょっと情けない声を出すアイーダに、少し苦笑しながらもナビとカガミは、確信めいた物言いでそう返した。


「で、そこに至るには公安局に行かないといけないんですが、なにか策があるんですよね?」

「もちろん。まあプランAが見込み違いなら、プランBでアタシが囮になって時間稼ぐしかねえけど」

「ちょっとー! 絶対ダメですからね!」

「ダメつっても、アタシが1番なんも背負ってねえんだからな。優先順位が1番下なのが囮になるのが最適解だろうが」

「そんな事は無いぞ……!」

「最悪のパターンだっつの。それにいろいろ()()()()()()()しても、死なねえ限りお前らが死ぬ物狂いで助けてくれるじゃねえか」


 前後からそれぞれ上下の半身をホールドしてくるカガミとナビに、いてえから、といって離れるように言う。


「嫌です! どっか行っちゃいそうなんで!」

「目を離したらいなくなるとかは勘弁だから、な……!」

「アタシは妖精かなんかか……」


 力は弱めたものの、脚にしがみつくナビはコアラのようになって放さず、カガミはジェットコースターの安全バーのように羽交い締めにして動かなかった。


「アタシはな、確実性が高けえプランを簡単に捨てるようなマヌケじゃねえっつの。大事に思ってくれてんのはありがてえけども」

「その内容によりますねぇ!」

「聞いてから離すか判断したい」

「分かった分かった」


 いつもならデレデレしそうな事を言っても、1人と1体は微動だにしなかったため、ため息交じりのアイーダはさっさと言ってしまう事にした。


「マサオカさんが何でもするっていうからよ、10分前の時間になってアタシから連絡がなければ、ゴミ回収船をここの運河まで操縦してこいっていう手はずになってんだ」

「えっ、私はカメラの少ない方に逃げただけだが……」

「それを計算してここって指示しといた」

「えっ、いつの間に?」

「お前らがライブを聴いてた時だよ」


 例の三流週刊誌記者を見かけた際、アイーダはカガミとナビが音楽に夢中になってる間に、交換していたマサオカの連絡先へ電脳通信を飛ばし、確証はないが嫌な予感がするから、と作戦を伝えていた。


「何となくカガミに見せてもらっといたのが吉と出たわけだ」

「なーるほど。さすがアイーダさんですねえ」

「ま、問題はそんな程度でリスクがいくらでも考えられる話をマジにしてくれるか、だけどな」


 その言葉ほどの不安そうなものはなく、アイーダは腕を組んで1つ息を吐いた。


「――む。船が来たようだが……」

「ちょっと確認してみますね! ここでナビちゃんの99の秘密の1つ――」

「さっき違う事言って無かった、か? それに機能ではないだろう」

「細かい事はこの際良いですし、そして話の腰を折らないでもらって良いですか?」

「いいから早く出せ」

「ぬう……。まあ良いでしょう。自律撮影用小型ドローン!」


 不本意そうに口を尖らせるナビは、そう言ってバッグの中から小さなカプセルトイのカプセルを取りだし、てっぺんのスイッチを押すと、パカッと上下3層に分かれた。


「詳細は省きますが、今回は音のするものを撮影する機能を使います」


 ナビが取りだしたそれは、上下にプロペラが入っていて、互い違いに回ることで飛行し、真ん中の層に登載された小型カメラで撮影が出来る、偵察用ドローンだった。


 それはハチの様な羽音と共に浮上し、天井の一部に空いた穴から外へと出ていった。


「この前頼んだ自撮りカメラってこれかよ」

「はいー。これならアイーダさんの格好いいお姿を余すことなく撮影できるかと思いまして!」

「アタシ撮るんなら自撮り用じゃねえじゃねえか」

「商品の能書き的には自動で追尾してくれる自撮りカメラですから。それに、アイーダさんのお側には常に私がいますし、実質私を自撮りしているようなものですよ」

「そう……、かなあ?」


 サムズアップするナビの理屈りくつに、あんまり納得していない様子でアイーダが首を傾げると、丁度撮影を終えたカメラが戻ってきた。


「画像ちぇーっく!」

「本物なら格好はオレンジの作業服に緑のヘルメットで、船の名前は第4サイノ丸だけどな。どうだ?」

「その通りです」

「よっしゃ」


 ナビが撮影した画像を確認すると、アイーダの言った通りの格好で船を操縦しているキリノと、暗渠あんきょや夜間でも作業可能なようにライトが付いた船がバッチリ映っていた。


「おいホシミヤさん。アンタのマネージャーが助けに来てくれたぜ?」

「キリノ……、が……?」

「おう。かなり危ねえ橋を渡ってな」


 小さくガッツポーズを作ったアイーダは、身体を丸めていたニナへ肉声で呼びかけ、やや虚ろな目を見開いて口元を両手で押える彼女へ、くれぐれも大事にしろよ、と続けた。


「ナビ、雨がっぱ貸せ」

「この人のサイズだとつんつるてんですけど。どうぞ」

「隠れれば良いんだよ」


 今度は喜びの涙を流すニナの半身を起こさせて、ナビに彼女を支えさえたアイーダは、ボタンを留めずにフードだけ被せ、カガミに運ぶように指示する。


 周囲の安全を確認してから外に出たアイーダ達は、川縁のステップから水面近くの歩道まで降りて乗り込み、船底部にある本来はゴミを溜めておくスペースの中に入った。


 少し大きめな漁船サイズのそれの中は洗浄がしっかりされていて、中にベニヤ板と廃材の角材で出来た脚の付いた、簡易的な小上がりが設置されていた。


「お、しっかり洗ってあるな」

「はいっ。ニナはッ?」

「ちょいと治療がいるが死んではねえよ」

「キリノぉ……」

「ニナ……。ごめんね、ちょっと疑ってた私もいたんだ……」

「すまねえが、感動の再会は後だ。早く船出せ」

「そ、そうですよねっ」


 一瞬、状況を忘れてニナを抱きしめたキリノは、アイーダの鋭い声にスッと我に返ると、もう少しの辛抱だよ、とニナへ告げてコンテナの扉を閉めた。


 ちなみに、護衛として甲板上にいるようにアイーダから指示されたカガミは、キリノと同じ格好で、大変渋い顔をして作業員のフリをしていた。


「――ウエッ。洗ってもクッサッ!」

「あ、5時間経ちましたね……」


 丁度そのタイミングでマスクの効果が切れて、染みついた腐敗臭が鼻にダイレクトアタックし始めた。


「2個あって良かった――」

「く、くさい……」

「ええい、使え使え!」


 素早くもう1個のマスクを取り出したアイーダだが、死にそうな声で悪臭を訴えるニナへ迷わず装着させた。


「うう……。ナビ、なんとかしてくれ……」

「そんなときにはこの」

「おお?」

「ビニール袋に吐いちゃってください。吸水材入りです」

「いや、秘密機能ねえのかよ……」

「残念ながらこれがそれですね」


 すでに顔色が悪くなっているアイーダは、相棒に助けを求めたが、ナビは申し訳なさそうにマスクと同じサイズで丸めてある、乗り物酔い対応のための黒いビニール袋を彼女へ渡した。


 警察は陸路で逃げるとばかり考えていて、明らかに作業帰りの河川清掃船には目もくれず、まんまと一行は公安局まで逃げおおせる事に成功した。

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