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機械仕掛けの悪魔 -Ghost_Writer-  作者: 赤魂緋鯉
ゴースト・ライター
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第2話

「な、何者なんだあんたぁ!?」


 横目でスモークマシンと化した事務所兼自宅を見て怯えながらも、ヒロインと化しているアイーダは女サイボーグに訊ねる。


「舌をむからしゃべらない方がいい。細かい事は後で言うが、私は公安局特殊部隊・通称〝0課〟のヤタ・カガミだ」

「明らかに偽名じゃねーか」

「……本名だが」

「ああそう……」

「ウチのご主人様がどーもすいませんねー」


 思い切り予想を外し、ばつが悪そうに目線を逸らしたアイーダを、ナビがからかう様な事を言うので、彼女は端末を腕から外されかけて命乞いをした。


「よし」


 すると、ふいにカガミは後ろを見てそうつぶやくと足を緩め、低層ビル街にへその様に飛び出た中層ビルの廃墟に飛び込んだ。


「いや。追っ手からまる見えだろ」

「気付いていたのか。問題はない。〝目〟はもう〝盗んで〟ある」

「へ?」


 2人と1体を追いかけていた、ダークスーツの黒サングラスのサイボーグ2人は、目の前のビルの屋上に着地したが、そのまま踏ん張って中層ビルを飛び越えて行ってしまった。


「電脳化してある眼をハックした。奴らの視界には真っ直ぐ逃げる我々が映っている」

「ただ単にパルクールしてたのにか?」

「一流ハッカーともなれば寝ててもできますからねー」

「そうなのか」

「……流石に睡眠と同時は聞いたことが無い」

「嘘かよ!」

「アイーダさんチョ――ピュアだから騙せそうだったのに、なんで言うんですかー」

「は? 誰がチョロいだって?」

「あー、逆さまに付けるのやめてくださいよー。私、後ろ姿じゃ可愛さ半減なんですよー」

「半分ぐらいで丁度だろ。――つかそろそろ降ろしてくれ。アタシゃお嬢って年でもないんだが」

「すまない」


 横抱きにされたままだった事を思い出したアイーダは、うだうだとしたナビと会話を打ち切って、気恥ずかしそうに抗議して降ろして貰った。


「うえー、雑巾臭え……」

「あっ、半分で十分ってことは、アイーダさんは200%私にメロメロなんですね! もうー! 言って下さったらもっと強めに愛を伝えていたところでしたのにー」

「なわけねェだろ。1%あれば出来すぎぐらいだ」

「んもー、アイーダさんは照れ屋さんですねー。あっ、向き戻していただいて感謝ですー。やっぱりアイーダさんには100%可愛い私を見て貰って、もっと愛して頂きたいですからねー!」

「――そろそろ移動したいんだが」


 放っておくといつまでも漫才してそうな1人と1体へ、ポーカーフェイスなカガミも流石に困った顔をしていた。


「おら迷惑かかってんじゃねえか」

「そうですねー。で、お風呂ってありますか? アイーダさんが臭いのは忍びないんで」

「このスカポンタンの言う通りなのはシャクだけどよ、風呂入らせて貰えるか?」

「だーれがスカポンタンですかー! ナビちゃんはウルトラでーす」

「ウルトラスカポンタン?」

「そういう意味じゃありませーん! もー、アイーダさんのい・け・ずぅ」

「……?」

「……いや、風呂入るのがそんな珍しいか?」

「ああ、いや。あなたは、ほぼ生身だからそれはそうか」


 奇妙な風習を目撃した様に数度瞬きをしたカガミは、確か設備はあったはず、と言って付いてくる様に促す。


 先行する彼女が、どう見ても薄汚れさび付いた鉄扉を開けると階段が現われ、拳銃を抜いて下についているライトで足元を照らした。


「なんでちょっと間が空いたんだよ。人間なら風呂入るぐらい普通やるだろ」

「物心着いた頃から私は全身義肢だった。だから、入浴という概念への実体験がない」

「……あ、いやスマン。そんな事を言わせるつもりは無かった」


 コートの内ポケットにあった、ペンライトで足元を照らして続くアイーダは、無神経な事を言ったと感じて口元を塞いだ。


「嫌だ、とも、哀しい、とも思った事は無い。魂の重さは感じている」

「というと、21グラムですね」

「たった?」

「ああ。――私が生きていると、人間であると証明する重さだ」

「ちなみにナビちゃんには無いやつですね」

「そりゃな」


 心音の代わりに、モーターが駆動する微かな音がする胸元に手を当て、カガミは硬い表情が薄暗い中でほんの少し穏やかなものになった――様にアイーダは感じた。


「ここだ」


 1階と2階の間にある踊り場まで降りたところで、カガミは階数表示板以外は何も無い壁の前に立ち止まった。


「何がだよ。どうみても廃墟の壁にしかアタシには見えねえが」

「セーフハウス。例え核が落ちようと安全が補償される」


 その丁度中央辺りに触れると、コンクリートの亀裂に見える部分が音も無く広がり、青く縁取りされてかすかに光る、明らかに真新しいシャッタードアが顔を出した。


「おいおいおい、秘密結社かよ」

「……公安だが?」

「やだもー。アイーダさん、カガミさんそう名乗ってたじゃないですかー。ぷぷぷ」


 ジョークに対して、カガミから不思議そうな顔をされたアイーダをナビがニタニタ笑って煽り、


「……」

「あっ、振りかぶるのはやめてくださーいー」


 彼女に無言でサイバー端末を壁に叩き付けられかけた。


「んもー、冗談通じないんですからー」


 不機嫌そうに鼻を鳴らすアイーダを先に入れ、偵察されていないかを確認してから、カガミはドア横のパネルを操作してそれを閉めた。


 セーフハウス内は窓が無く、少し階段を降りたところにある室内は、太陽光色の間接照明で優しく照らされていた。


 縦に長いリビングは、右の壁に着いているモニターの前に置かれた、ローテーブルを弓なりに囲むようにソファーが中央付近に置いてある。

 その後ろには対面式のバーカウンター付きキッチンを挟むように、リビングの幅ちょうど3分の1程の広さの部屋が2つあり、どん詰まりにもう一部屋、というシンプルな構造だった。


「見ろよナビ、ウチが4つぐらい入るぞここ……!」

「こんなに広い部屋なんに使うんですかねー」

「……あなたたちの仲は、良いのか悪いのか測りかねるな」


 3LDKの広々とした空間に圧倒されている1人と1体へ、カガミはさっきまで半分けんか腰だったアイーダを見ながら少し首を傾げて訊く。


「もちろんなーかよしですよー! まあ、こんな鬱屈とした世の中で清涼剤たるプリティな私は癒やしでしかありませんしー」

「どうやっても消えてくれねえから仕方なくだ」

「ランサムウェアみたいにナビを言わないで下さいよー」

「じゃあ、お前を消す方法を教えろ」

「検索結果にありませんねー」

「お前を消す方法」

「検索結果にありません」

「検索出来ねえくせに何言ってんだか」

「あっても出しませんよナビは! そんなに私が嫌いなんです……?」

「う……。――別に嫌いとは言わねえが」

「そうですかっ! そうなんですよね! そうなんです! 嫌われてはいないなら、ナビちゃんはとっても嬉しいなって」

「まあ、なにかと便利だしなお前」

「ぬふふ、当然です。ナビちゃんは拡張機能次第で、お食事から下のお世話までドンとこいなのですよ」

「その予定はねえけどな」

「そんなーっ。四十八手に至るまでせっかく色々学習したのに……」

「んなもんは学習すんな」


 隙あらば自分達の世界に入って漫才を始める1人と1体に、置いて行かれて困惑するカガミは、仲が良いという認識にしておく事にした。

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