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これはいつかやってくる未来

 蝙蝠(こくもり)のような翼、額の左右から生えた歪んだ角、尖った耳の先が指す先にあるはずの天にはなにもない。闇が人の形になったような巨大な存在の、虚無の瞳がこちらを見ていた。

「悪魔、か」

思わず呟いた言葉が聞こえたのだろうか。唇の片端がつり上がり、尖った歯がのぞいた。


「私をそう呼ぶものもいるな。お前がそう呼ばれたように」

「違う!」

叫び声は、周囲を取り囲む何も無い闇に吸い込まれていく。

「何が違う。人類は滅んだ」

尖った歯の隙間から、蛇のように先が裂けた舌が見えかくれしている。

「滅びを始めたのはお前だ」


「違う」

耳を塞いでいるのに、相手の低い声が幾重にも頭の中まで響いてくる。

「お前だろう。人工知能に機械学習でありとあらゆるものをとりこませたのは。絵画、写真、音声、音、漫画、音楽、映画、小説、新聞、公文書もそうだったな。そして何を作った。忘れたはずがない。作ったのはお前だ」

「違う、違う、違う!」

渾身の叫びはいつしか力なく、つぶやきとなり消えた。


「最初全てはお前の作った偽りだった。各国の国家元首が互いに宣戦布告し、宗教指導者たちは聖戦をあおった」

「そんな映画の、映画でいくらでもあるじゃないか。別に珍しくなんか」

「そうだな。お前は本人に断りなく、インターネット上にあった赤の他人の写真と音声のデータをつかって、でたらめなことを喋る動画をつくってインターネットに流しただけだ」


「そうだ。それくらいだれでも」

「誰でも出来るのに、誰もやらないことをやったな」

人形の闇が笑う。


「空を戦闘機やミサイルや砲弾やドローンが覆い、海は空母や駆逐艦や潜水艦が互いに相手を沈めようと争い、戦車が覆う地上に砲弾と銃弾が雨のように降り注ぐ、実在する地名をつかい、起こってもいない紛争の動画もつくったな」

「戦争映画くらいどこにでもあるじゃないか。それが、なんだってんだ」

「実際にその町に住む人が現実を伝える動画を公表したら、お前の動画の信者たちがインターネット上で炎上させて、配信者は自殺した」

「自殺だ、殺してなんかない」

「もちろんお前は、銃で打ったわけでもなく、ナイフで刺したわけでもない」

呵呵と笑った黒い人影の口の中では、炎が燃え上がっていた。


「原子力発電所がメルトダウンし、水力発電のダムが決壊し、火力発電所が火災をおこし、化学薬品工場が爆発炎上し、森林が燃え、河は溢れ、湖や海は干上がり、砂漠は砂嵐が吹き荒れ、地震や津波で都市が破壊され、巨大竜巻が家や工場を砕き、火山は噴火し火砕流が麓の村や町を遅い、台風やハリケーンが地上の人々を蹂躙し、土石流が全てを飲み込む動画もあったか」

「そんなもの、映画じゃめずらしくないし、過去の実際の映像だって普通にインターネット上にあるだろう。原発事故のときに、科学的な根拠もなくでたらめな報道をして不安をあおったのは、報道機関じゃないか」

「もちろんそうだとも。ワクチンの副作用や偶発的に発生した併存症の不安をことさらに報道し、ワクチン忌避の風潮をあおりたて、死者や後遺症患者を増加させ、政府や医療機関を批判したのも報道機関だ。お前の大先輩だ。かつての大災害のときに、外国人が暴徒化し略奪しているとデマを流布した。お前は大先輩にならって、同じ内容の偽動画を世界中に放った」


「他にも同じことをしたやつは」

「勿論たくさんいるさ。同じような動画を作成してインターネットに放った。企業やスポーツチームのロゴやキャラクターを使って、偽の会見や卑猥な画像を生成した連中もいる」


「少しからかっただけ」

「そうだな、ちょっとしたいたずらだ。いたずらなんて可愛いものさ。なぁ。お前が人工知能で生成しインターネットに放った偽りを信じた者たちが、実際に暴徒となったのだから。それにくらべれば、お前は指先一つで、世界の疑心暗鬼を煽っただけだ。お前は人類破壊の父だ。素晴らしい。人類を滅ぼした者よ」


「違う、そんなつもりじゃ、冗談で、ちょとバズりたくて、有名になろうと」

愚かだったという後悔も懺悔も、周囲の闇を一層濃くするだけだ。


「おめでとう。世界を滅ぼした者よ。お前を知らぬものはない。お前は望みを叶えた。おめでとう」

闇色の巨大な塊が、笑っているかのように揺れていた。


 多くの作品で繰り返し指摘されている問題が、人工知能の高度化により可能となりつつ今、このSFがフィクションで終わることを願っています。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 絶対現実になってほしくないと思いました。 面白かったです。 [一言] 楽しい嘘(創作)は偽りだとちゃんとわかるからいいんです。 事実と見分けのつかない嘘は事実と変わらないです。
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