プロローグ
仮面(一話)
キィイイイイン
耳をつんざくほどではない甲高い音が何メートルと高いガラス越しに響いてくるような気がした。
「さよなら」
「また会おうね」
「〇〇に行くの楽しみ」
「乗り換えいつだっけ?」
しかし、それ以上に束となって騒音となる周りの人達の声が数多くあり、少年の心を踏みつけようとしていた。
『ABC空港○〇〇県行き6555便はただ今、81番ゲートよりご搭乗いただいております』
しばらくするとその騒音を抑えつけるようにしてアナウンスが流れて始めた。
ここは空港の中であり、甲高い音を鳴らしているのは飛行機だった。
『繰り返しお伝えします』
人が作り上げていた騒音をまるで縛り続け抑えつけるようにアナウンスは再度流れ始めることで、少年はまるで自分が息継ぎをして体を楽にしたような感覚になっていった。
キィイイイイン
先ほどとは違う飛行機がまた一機、空に飛ぶための準備をしており、少年はその飛行機を眺める。
いつアニメとコラボしていたのだろうか?テレビで見た可愛らしいキャラクターが描かれている機体がエンジン部分から空に飛ぶためのエネルギーが作られているのをただただぼんやりと飛行機と自分たちを分けていたガラス越しに眺めている。
その飛行機の窓から覗く人たちを一人一人見ていく。窓から一心に外を見ている長い髪をした女の子、空港の購買で買った飛行機のオモチャで遊んでいる子どもたちの他にも、アイマスクをつけて寝ている人、何かを飲んでいる人がいた。
そして、そんな中まるで隠すようにしてカーテンが閉めてある窓が一つだけある。周りの人から見たらそれは珍しくもない光景で、日を嫌がる人が閉めたのだろうと思うだろう。
けど、少年にとっては違った、そこに座る人を見つけることができないことは少年にとって絶望に近かった。
不意に涙がポロポロと出そうになる「カーテンの奥にいる人は自分たちを探そうとしてくれない」そのことがわかり、少年は悲しくなった。
カーテンの奥にいるのは少年の母親だ。母親は飛行機に乗る前に飛行機の名前とその飛行機にはアニメのキャラクターが描いてある特徴があること、そして何番目の席に座っているのかを少年に伝えていた。そしてちょうどその位置のカーテンが一枚の布であるはずなのに壁のようになっていた。
「大丈夫」
不意に隣から声が聞こえる。少年はチラリと見るとそこには自分より一回り大きい、しかし、それでも世間では小さいとされる部類の身長の少女が立っていた。
「大丈夫だから」
そう言って、今度は少年の手を握ってくれた。自分より暖かく、大きい手はまるで自分を包み込むかのように優しく握ってくれた。
「……」
少年はその手を見る、先ほどまで飛行機を眺めていたはずの目から涙はひき、優しく包んでくれた少し震える手を見る。
「うん」
少年は元気よくという訳にはいかなかったが力強く頷く。
飛行機はそんな二人から離れていき空に向かって飛び始めていった。
二人は飛行機を最後まで見ることはなく、背を向けてまっすぐ出口に向かっていった。
「」
「」
「」
先ほどまであった雑音はまったく少年の耳には入らず少年は隣の少女と自分の足音に耳を傾けていた。
それからしばらくして自分たちが見送った、あの飛行機が原因不明の爆発により墜落したことを少年は知ったが、そのことに対してあまり大きな衝撃もなく、彼は最近始まった自分たちの日常を進めていった。