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隣の席に座る女の子にラブレターを間違えて送った  作者: 橘 瑠伊
第二章〜出会う二人〜
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解決策

「はぁー! 楽しかった!」


 いろんな店を見て回った俺達は、休憩でコンビニの飲み物を買って、ビル内にある椅子に座っていた。


 明らかに俺、座る場所間違えたな。由衣と京子の間に座っている。由衣と京子を隣同士にして、俺は端でも良かった。


 京子の方を見ると、表情に疲れが見える。


 京子は休みの日、あまり外に出歩かないらしい。部屋に籠って読書をするのが日課で、店を回って歩くことはしないみたいだ。


「由衣、体力凄いわね」


 結構歩いたもんな。俺も歩き、疲れた。


 俺は、ペットボトルのコーヒーを開けて、一口飲む。


「でも、楽しかったでしょ?」


 由衣は、無邪気そうな笑顔で京子のことを見る。


「そうね、とても楽しかったわ。普段、経験できないことばかりだったかもしれない」


 京子の言葉を聞いて、俺は手が止まった。このまま楽しかったで、終わらせていいのだろうか。京子が、抱えている問題は解決していない。


「京子」


「なに?」


 京子が、俺の方を見る。


「気を悪くしたら、申し訳ない。クラスで何があったんだ?」


 京子は、その言葉を聞いて黙り込んでしまう。


 由衣の方を見ると、由衣自身も気になっていたのか何も言わずに見守っていた。


「そうね。今日一緒に遊んだのも、心配になったからって言うのもあるでしょ」


「京子ちゃん……」


 由衣は、悲しそうな声で京子の名前を言う。


 由衣も明るく振舞っていた反面、京子に何があったのか気になっていたのだろう。


「無理に言わなくてもいい。心の整理がついてからでも構わない」


 俺は、一応念のためとして言っておく。


 つい前にあった出来事かもしれない。傷口をえぐるようなことは、したくない。


「大丈夫だわ」


 京子が、そう言うと、辺りの空気が静まり返ったのを感じた。


「二年生になって、すぐの頃よ。私、クラスの男性に告白されたの」


 京子は、他クラスである由衣も話題に出すくらい、美しい容姿をしている。


 何日か前も告白されたって言っていたけど、そんな深刻な事態になるほどか?


「俺にはないことだが、京子にとっては、よくあることの一つじゃないのか?」


「いつもなら、断って終わっていたけど、今回はそれで終わらなかった」


「終わらなかった?」


 なんだか、雲行きが怪しい話になってきた。


「その男性が、振られた腹いせに、私の評判を落とそうと嘘のことを言いふらしたのよ」


「なにそれ、最低な男」


 普段由衣から聞かない。ワードが飛んできて、心臓がキュッと引き締まる。


 由衣、怖いって、振り向いて顔を見る勇気がない。


 恐らく、今まで見たことないぐらい怖い顔をしていると思う。


「京子は、その後どうしたんだ?」


「もちろん、やられっぱなしに、はなるつもりはなかったわ」


 京子の眼差しが鋭くなった。


「京子ちゃん何したの?」


「昼休み、クラスのみんながいる前で、その男を論破してやったわ」


「論破……」


 開いた口が塞がらなかった。


 恐らく、京子は、その男性に余程怒っていたのだろう。


「その論破は、どんな風にして終わったんだ?」


「最初は、相手の男性も言い返してきたけど、全部倍にして言い返したわ」


 その場に俺がいなくて良かったと思う。


 昼休みに、男性を論破する女性の現場を見たら、俺は気まずすぎて教室に入れなかった気がする。


「その後は、どうなったの?」


 由衣の方を見ると、少し顔が青ざめていた。京子が怒っているとこを想像して、ぞっとしたのだろう。


「クラスのみんなから、避けられるようになったわ。ただでさえ、嘘の情報で距離をとられていたから、なおさらね。私のことを恐怖の対象として見ることになったの」


 京子は、少し落ち込んだ様子で言った。


「京子ちゃんは、そんな怖い人じゃないよ!」


 由衣は、京子の元に行き手を重ねる。


「ありがとう。だけど、一度落ちた評判は戻すのは難しいわ」


 京子の言っていることもわかる。一度失った、評判を戻すのは難しい。


 だけど、このまま京子がクラスで孤立するのも見ていられるはずがない。


「無理に自分を曲げて、クラスのみんなに、信頼されようとまではしなくて良いと思う」


「どういうこと?」


 由衣は、俺の方を見て首を傾げる。


 おそらく由衣は、京子がクラスのみんなと、仲良くできる方法を考えていたのだろう。


 クラスのみんなと仲良くできる由衣ならではの発想だ。


「クラスで一人だけでもいいから、京子のことを怖くないって、思える人を作ればいいんだ」


 俺と京子みたいな誰にでも、愛想を振りまくことができない人間には、由衣みたいな方法は難しい。


 みんなと仲良くするよりは、わかってくれる人と仲良くするのが一番の解決策だ。


「そういう人を見つけるのは、難しいと思うわ」


 京子は、俺の方を見て言った。


「いるじゃないか」


「誰?」


「今ポスター作りをしているペアの人」


「木葉ちゃんだ!」


 由衣は、俺が言っていることがわかったみたいだ。


「木葉さんは、私が怖くて逃げたのよ?」


「俺の予想だが、木葉さんは断り切れないタイプの人間だ。京子が、もう一度頼んで放課後、図書室で作業してくれるようにお願いしてみな。間違いなく来る」


 京子は、俺の話を聞いて、しばらく沈黙する。


「わかったわ。もう一度、頼んでみることにする」


「頼むのは休み明けの月曜!? その日、私達も隣にいていい!?」


 由衣は、前のめりになって聞く。


「え、えぇ。月曜にするつもりだけど」


「空太くん。月曜日、絶対に放課後図書室行こうね!」


「もちろん。俺もそう言おうとしたとこだ」


 京子と木葉さんを二人だけにしたら、この前みたいになりかねない。


 それなら、俺達もその中に入って、木葉さんも俺達の輪に入れてしまえばいい。そうすれば、途中で逃げ出すような行動は、少なくともとらないはずだ。


「だが、自然に振舞えよ。俺達は普段通りに会話をするんだ。そして、その会話に木葉さんも混ぜる。こうすることで、木葉さんの中にある京子に対する偏見を無くしていく」


 木葉さんが、京子に対する印象が良くなれば、少なくても京子はクラスで一人になることはなくなる。


 言うのは、簡単だが上手く行くかはわからない。


 人同士の付き合いだ。計画通りに行くとは、思わない方が良いだろう。


「みんな、ありがと」


 京子は、透き通った声でお礼を言った。



最後まで読んでくれてありがとう

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