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四話 母との対話

 ふにっ


 柔らかい何かが手に当たる。


 ふにふに


 ──気持ちいい。


 手に触れるそれは気持ち良い弾力をしていて、思わず頬を擦り寄せてしまう。


 ふにふにもちもち


 その感触があまりにも心地よくて、顔を埋めてしまった。


「プギャーッ!」


 突然、断末魔のような叫び声が響き、ぼんやりしていた意識が一瞬で覚醒した。


 飛び起きて目を開けると、目の前には暗闇が広がっている。いや、これは暗闇ではない。誰かに抱きしめられているようだ。頭部を抱え込まれ、その身体から伝わる温もりを全身で感じる。

 ルイーズはその腕にそっと触れ、顔を上げた。


「お母様、おはようございます。こんなに抱き締められては、潰れてしまいますわ」


 軽口を叩きながら、腕の中から顔を上げると、そこには、社交界で「海の女神の美貌を持つ」と讃えられてきた女性が、疲れ切った姿で座っていた。ルイーズはその姿を見て、思わずぎょっと目を見開く。


「お母様、どうしてそんなに…その、お疲れに…?」


 当たり障りのない言葉をかけてみると、コーデリアは菫色の瞳を大きく見開き、安堵したように微笑みながら口を開いた。


「そう…何も覚えていないのね」


 コーデリアは眉尻を下げる。その言葉にルイーズは首を傾げた。


「いえ、大丈夫よ。貴女は丸三日も眠っていたのよ」


 その衝撃的な告白に、ルイーズの瞳が驚きで大きく見開かれる。


「え、三日も?」


 その後に続く言葉は、突如として現れた人物たちによって遮られた。扉が壊れんばかりの勢いで開き、四人の男性がなだれ込んできたからだ。


「ルイーズの目が覚めたって本当か!!」

「……よかった」

「俺の天使。とても心配したよっ」

「ピッピコがいなければどうなることかと思ったよ」


 部屋に飛び込んできたのは、マルセル、ラファエル、マティアス、グエナエルの四人だった。騒々しくも、みんなの顔に安堵の表情が浮かんでいる。


 ──ん?


「グエナエル兄様、今なんと??」

「ピッピコがいなければどうなることかと思ったよ?」


 ルイーズは思わず首を傾げて問いかけると、グエナエルも反応して、ルイーズに釣られたように首を傾げながら答えた。彼の顔には若干の戸惑いが浮かんでいる。


「……ピッピコって言った?」


 小声で呟いたつもりだったが、近くにいたコーデリアにはその言葉がハッキリと聞こえていたようだ。


「ずっとそこにいるでしょう?ルイーズのピッピコじゃないの?」


 コーデリアは枕元を指差して言う。ルイーズはその指差す先に顔を向けた。


「ぴぃぃ」


 そこには、小さな呻き声を上げながら潰れたようなピッピコが横たわっていた。


 ピッピコとは、姿形に微妙に違いがあるものの、基本的に丸くて、ストレンジの力を持つ人外生物だ。

 ピッピコは人を襲うことはなく、珍獣の部類に入るものの、害を及ぼさないため、ペットとして多くの人々に愛されている。だが、このピッピコはただのペットではなかった。

 力は弱いが、ストレンジを持っているため、重宝されており、そのために高価で、貴族階級の者しか手に入れることができない。


 購入以外でピッピコを手に入れるには、野生のピッピコを捕まえる必要がある。そして、ピッピコにはさまざまな種類があり、ほとんどが球体に近い姿をしている。外見に個体差が出るほど、ストレンジの力が強いとされている。


 ──このピッピコには見覚えがある。


 白く丸い球体に、背中には羽根が生えており、頭には十字架のような形の物がついている。それは、前世でゲームのイベント報酬として、上位三名のみに配布されたピッピコと同じ姿をしていた。ルイーズはその姿を見て、当時を思い出す。


 イベントで三位以内に入るため、寝る間も惜しんでイベントを熟して手に入れたあの伝説級のピッピコ。治癒のストレンジを司るそのピッピコは、誰もが欲しがる存在だった。


 そして、そのピッピコには名前を付けることができた。あの時のルイーズは、このピッピコを手に入れるために、心血を注いだのだ。


 ──確か、設定した名前はライ。


 あの断末魔のような叫び声の主がライであったことに、ルイーズは確信した。どうやら眠っている間に寝惚けて、頭で押し潰してしまったらしい。まったくもって、悪いことをした……。


「さあ、貴方たちは勉強と仕事がまだおありでしょう?ルイーズのことはわたくしに任せて頂戴」


 タイミングを見計らって、コーデリアがマルセルと息子たちに向き直り、部屋から出るように促す。


「し、しかしもう少しくらい──」

「あ、な、た?」


 威厳に満ち、隙のない雰囲気を纏うことで知られるマルセルは、今や眉尻を下げ、情けない表情で言い募ろうとしている。だが、笑顔という名の圧力でマルセルを黙らせるコーデリアの存在は、間違いなくカプレ家最強だ。


「それに、そろそろ登城しなくてはいけないのではなくて? 三日もお休みしているんですから」


 コーデリアは嘆息を漏らしながら言った。

 ルイーズは思わず目を丸くした。いくら娘を溺愛しているとはいえ、三日間も官吏の職を放り出すとはどうなのか。

 これでもこの父、王の側近にして徴税長官の重責を担っているはずである。


「母上、俺はルイーズが寂しがるといけないので、側で看病致します。母上も少しはお休みになられた方がよろしいですよ」


 マティアスが誇らしげに胸を張って進言する。


「あらあら、嫌だわ。わたくしは看病のお願いじゃなくて、部屋に戻れと言ったつもりだったのだけれど。それに、間違っても貴方にだけはお願いしないわ」


 コーデリアは片手を頬に当て、小首を傾げる。困ったように眉を下げるその目は、聞き分けのない子供を見る母のまなざし。

 疲れていてもなお、その美貌は衰えず、どこか儚げですらある。しかし、その口から放たれる言葉には棘があった。


「これ以上長居してはルイーズもゆっくり出来ないでしょうから、私たちはこれで失礼致します」


 頃合いを見計らったグエナエルが、場を収めるように口を開いた。長男としての落ち着いた対応に、母は内心感心する。


「ええ、後のことはよろしく頼むわね、グエナエル」

「お任せ下さい。ルイーズ、また落ち着いた頃に見舞いに来るよ」

「はい、グエナエル兄様。ありがとうございます」

「父上もマティアスも戻りますよ」

「あともう少しだけ──」

「俺がついていないとルイーズが寂しがるかもしれない」

「貴方たちがいる方がルイーズの体に障ります」


 コーデリアがピシャリと告げると、ようやくグエナエルの仲裁の効果が現れた。母も漸く満足そうに微笑む。

 ルイーズの側から離れたがらないマルセルとマティアスを、グエナエルは首根っこを掴んで引きずり、三男のラファエルも連れて部屋を後にする。


 ──お兄様、貴方本当にまだ十五歳ですか?


 その大人びた立ち振る舞いに、ルイーズは思わずそう思わずにはいられなかった。

 嵐のようなひとときが過ぎ去った静けさの中、扉が閉じる音を背に、椅子を引く小さな音が響く。ルイーズはそちらに顔を向けた。


「嵐が去ったところで、ルイーズ。起きたばかりで悪いのだけれど、お母様と少しお話できるかしら?」

「はい、大丈夫ですわ」


 ピッピコのライを抱き上げ、膝に乗せてそっと撫でる。ふわふわの感触が心を落ち着けてくれる気がした。ルイーズは息を整え、居住まいを正してコーデリアと向き合う。


「何処まで覚えているか、聞かせてもらえるかしら」


 穏やかな声音の奥にあるのは、確かな問いだった。マルセルの執務室で話した内容に関する確認だと、ルイーズは即座に察する。


「お父様と話した内容は、覚えている?」


 遠慮がちに切り込まれたその言葉に、ルイーズはびくりと肩を震わせた。


 ──ああ、やっぱりこの話……。


 それは、今のルイーズにとって一番大切で、一番胸を締めつける話題だった。

 七歳の心には重すぎる現実。それでも、目を背けるわけにはいかない。

 記憶を取り戻したことで知ってしまった「未来」が、ルイーズの小さな心を容赦なく揺さぶる。


「やっぱり、今はやめておいた方がよさそうね。辛いこと思い出させてしまってごめんなさいね」


 コーデリアは見かねたようにそっとルイーズの手を握り、もう一方の手で優しく頭を撫でた。

 その優しさに、ルイーズは慌てて首を横に振った。


「大丈夫ですわ、お母様」


 前世の記憶を持つ彼女だからこそ、今ここで口を閉ざすわけにはいかなかった。逃げずに向き合うために──未来を変えるために。


「第一王子であらせられるスタニスラス殿下が、重病を患われて療養のため王宮を離れられたというお話でしょう?」

「ええ……」


 コーデリアは歯切れ悪く頷いた。


「その療養に伴い、わたくしが殿下の婚約者候補から外され、第三王子の婚約者に、という陛下からのお達しなのですよね」


 その言葉に、コーデリアの柳眉が微かに歪む。真剣な眼差しでルイーズを見つめ返す。

 ルイーズが心を痛めているのは分かっていた。第一王子に恋心を抱いていたことを、コーデリアは知っていたのだ。

 ルイーズは幼いながらも、第一王子の隣に立つことを目指して努力を重ねてきた。学び、礼儀を身につけ、遊び盛りの年頃でありながら己を律して過ごしてきた。

 すべては、殿下の隣に立つ日を夢見ていたから──。


 だが、一月前。スタニスラスの生母である王妃エヴリーヌが流行病で命を落とした直後、彼もまた重病に倒れた。世間では母親と同じ病と噂されているが、ルイーズは真実を知っていた。


「ルイーズ、わたくしはあなたの好きなようにすれば良いと思っているわ」


 静かな語調で、けれど芯の通った声だった。

 コーデリアはルイーズの小さな手を優しく擦りながら、続ける。


「ルイーズ、わたくしは貴女の好きなようにすればいいと思っているわ。ルイーズが決めた気持ちならば、わたくしも力を貸すから言ってみなさい」


 それは、母としての最大の理解であり、信頼の証だった。もしルイーズが「第一王子の婚約者でいたい」と望むならば、マルセルに口添えし、再びその座に立てるよう動くつもりなのだろう。


 前世を思い出したことで精神年齢は大人になったルイーズ。だが、この七年間を過ごしてきたルイーズの心は、小さな少女の純粋な想いは、決して偽りではなかった。ルイーズとして生きてきた心が叫んでいる。第一王子の婚約者候補でいたいと──。


 ──スタン様と過ごした、あの日々が大好きだった。


 三日間の眠りの中で、ルイーズは夢を見た。スタニスラスと過ごした日々。交わした言葉、手の温もり、ふと見せた笑顔。恋に似た感情は、確かに胸の中に育っていた。


 たとえそれが「ゲームの設定」だったとしても。たとえ、運命に逆らう形となろうとも。


 ──守りたい。あの人との思い出も、これからも。


「お母様、一つ質問がございますの。スタニスラス様は……いつ、王宮を出立に?」


 問いかける声は震えていたが、目はまっすぐに母を見つめていた。


「内密の出立となったから大々的な見送りはなかったけれど、二週間前には発たれていたと思うわ」

「……!」


 世界がぐらりと揺れた気がした。


 ──遅かった……。


 スタニスラスを守るための道が、一つ閉ざされてしまった。

 二週間──それは、知っている未来の「ある事件」に手を打つには、あまりにも遅すぎた。そして、ルイーズにとって苦難が待ち受けることを意味していた。

 ルイーズの鼓動が早鐘のように鳴る。顔には出さぬよう必死に平静を保つが、膝の上のライが彼女の不安を察したように身じろぎした。

 コーデリアは気づいていないようだったが、ルイーズの中には今、焦りと覚悟が混ざり合った嵐が吹き荒れていた。


「お母様、わたくし、決めましたわ。陛下とお父様のお申し出、お受けいたします。ただし、一つだけ条件がありますの」

「条件?」

「ええ。条件は……第三王子の“婚約者”ではなく、“婚約者候補”として、でしたらそのお話をお受けいたします」


 コーデリアは思わず目を見開いた。想定外の返答だったのだろう。


「婚約者候補というなら、旦那様に話せばどうにかなるとは思うけれど……。でも、ルイーズ、本当にいいの?だって、貴女、あんなに──」

「いいんですの。心配してくださってありがとう、お母様。でも、わたくしは大丈夫ですわ」


 “スタン様を諦めたわけじゃないから”──その言葉は喉元まで出かかったが、すんでのところで飲み込んだ。


 恐らくコーデリアは、“スタニスラスが無事戻ってきた時に再び婚約者候補に戻れること”を条件にするのだろうと予想していたはずだ。だが、ルイーズはあっさりと第一王子の立場を手放すように見せかけて、その実、「候補」という曖昧な余白を選んだ。


 彼女の決断は、七歳とは思えぬほどの哀愁と覚悟を孕んでいた。その笑みは、どうかこれ以上は聞かないでほしい、と物語っていた。


「……分かったわ。この話は、わたくしから旦那様に話しておきましょう」

「ありがとうございます、お母様」


 コーデリアはルイーズの意思を尊重し、それ以上は詮索せず頷いた。

 場の空気がひと段落したところで、コーデリアはふいに表情をパッと明るくし、少女のような笑みを浮かべて顔を寄せてくる。

 ルイーズはその態度に驚き、思わず身を引いた。


「ところでルイーズちゃん、その子たち……どこで拾ってきたのかしら?」


 彼女が指差したのは、膝の上で丸くなっていたピッピコだった。白色のふわふわの小さな生き物は、いつの間にか目を覚まし、ルイーズの顔を見上げていた。


「分かりませんわ。目を覚ましたら傍にいて……って、“たち”?」


 首を傾げて聞き返したルイーズに、コーデリアは「うふっ」とでも言い出しそうな甘い笑顔を浮かべて、手のひらをクルッと返しながら背後を指差した。


 ルイーズが見遣ると、そこには──


「こ、これは……っ!?これもピッピコ、だというの!?」


 そこにいたのは、部屋の六割近くを占拠するほどの巨大な水色の物体だった。ぬるっとした質感、ころんとした目、フォルムは確かにピッピコと同じ──だが、サイズがおかしい。


「いや、違うわ。これはピッピコじゃありませんわ。きっとマティアス兄様が作った、大きな人形か何かです!ですからお母様っ、そのデッカイ物体に無邪気に抱きつかないでくださいませっ!!」

「だってずっと抱きついてみたくてウズウズしてたのよぉ」


 頬を染めて微笑むコーデリアは、まるで少女のようにはしゃぎながら巨大ピッピコにぎゅっと抱きついていた。


「もっちもちのぷよんぷよんよっっ!!」


 とのこと。

 その感想は、聞くだけで脳裏に触感が蘇りそうなほどリアルだった。

 そんな様子に、ルイーズは呆れたようにため息をついた。


「お母様……本当に、この子がわたくしのストレンジ暴走を止めてくれたんですの?」

「ええ。グエナエルたちの話では、確かにそうだったみたいよ」


 コーデリアは大真面目にそう言いながら、もう一度巨大ピッピコを愛おしそうに撫でた。

 倒れる直前、ルイーズは強い感情の揺れによって“ストレンジ暴走”を引き起こした。

 その暴走によって発生した膨大な量の水──それをすべて吸収して、巨大化したのがこの水色のピッピコだったという。


 一方、白色のピッピコのライは、彼女の回復を手伝ってくれていたという。

 それにしても、なぜ彼らは突然現れたのか。そして、どこから来たのか。


 ルイーズには見覚えがあった。だが、それは前世のゲーム内での話だ。彼女が“ルイーズ”として生きてきたこの人生の中で、ピッピコをペットとして迎えた記憶も、野生から捕まえた記憶もない。


「お母様、もう一度お聞きします。本当にこの子たちは、お母様やお父様が連れてきたピッピコではないのですよね?」


 ルイーズの問いに、コーデリアは小さく肩をすくめて微笑んだ。


「あら、こんなに強いストレンジ持ちのピッピコなんて、どこの店を探してもいないと思うわ。王族への献上レベルなのよ」


 二匹のピッピコは、その外見からしてすでに特別だった。

 元々ピッピコは、飼い主がストレンジを供給することで能力を発揮する。しかしこの二匹は、何の支援もなく、大人一人分に相当するストレンジを自然に保持していた。

 ここダルシアク国で、これほどの力を持つピッピコが発見された例は、今のところ一つもない。


 ルイーズは膝の上にいた白いピッピコ、ライをそっと抱き上げ、目線を合わせるように持ち上げた。


「まさか……」


 ──まさか、前世で自分がゲームの中で手に入れたあの伝説級ピッピコが、今この世界で自分のペットになっている……?


 思い返せば前世では、働いた給料のほとんどを「ストレンジ♤ワールド」に注ぎ込み、イベント報酬として配布された伝説級のピッピコをすべて揃えていた。


 ──でも……どうして今になって?どこから来たの?


 疑問は尽きなかった。


「ピィッピ」


 答えの見えない問いに小さく嘆息を漏らし、ルイーズはライを膝の上に戻そうとした、そのときだった。


「ピイッコォォォ!」


 ライが急に跳ね上がる。驚いたルイーズは咄嗟に手を伸ばしたが、届かない。


「えっ、ライっ……!」


 その瞬間、ライの身体からまばゆい金色の光が弾け飛んだ。視界が光に包まれ、ルイーズは思わず目を細める。

 やがて光が収まり、目を開けると、目の前にはまるで四角く区切られた”窓”のような空間が浮かんでいた。

 その中に広がっていたのは、見渡す限りの草原だった。


「あら?白い子はどうしたの?」


 コーデリアが不思議そうに訊ねた。どうやら、彼女にはその空間が見えていないようだった。


 ──わたくしにしか視えてない?


 ルイーズは戸惑いながらも“窓”の中を覗き込んだ。草原の上には、跳ねるように動くライの姿。どうやら無事らしい。

 だが、視線を奥へと移したとき、ルイーズの動きが止まった。


「ピイィ」

「ピッコォ」


 草原の奥に、ピッピコの集団がいた。しかも二十匹は下らない。

 どれもこれも、ストレンジを自然に発している様子が見て取れ、ライや水色のピッピコと同じ、あるいはそれ以上の個体もいる。

 そして何より、その姿形に見覚えがあった。


 ──この子たち、全部前世のわたくしが育てたピッピコ!?


 思わず震えが走った。

 各イベントで配布された報酬ピッピコたち。手塩にかけて育てた、可愛くて頼もしい“ペット”。

 それらが、異口同音に「ピィッ」と可愛らしく鳴き、丸い瞳でルイーズを見つめ、跳ねながら嬉しそうに駆け寄ってくる。


「ピッピコが突然現れた犯人は、わたくし自身だったのね……」


 ルイーズは頭を押さえて、軽く呻いた。完全に思考が追いついていない。

 気づけば、ピッピコたちがわらわらと集まってきて、空間の内側からルイーズに向かって愛おしそうに鳴いていた。


 ──だけど、なぜ前世で育てたピッピコがいるの?


 分からない。だけど確かなのは、この子たちはルイーズを「飼い主」だと認識しており、そしてどこか、懐かしい絆を感じているということだった。

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