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二十話 王都巡り

 連休五日目。

 連休に入る前に交わした約束通り、ルイーズ、ソレンヌ、エド、ロマーヌ、エルヴィラの五人で王都を巡るため、王城へロマーヌとエルヴィラを迎えに行った。


 ──だけど、なぜ!?なぜ彼らまでいるのですか!?


 案内されたのは、ロマーヌとエルヴィラが待機しているという応接室。

 三人で扉を開けたその先には、予想だにしない顔ぶれが待ち構えていた。

 エルヴィラとロマーヌに加えて、なぜか男性陣も勢揃いしているではないか。


「事前に連絡できなくてごめんね。せっかくだから、僕たちも一緒に王都巡りに同行させてもらってもいいかな?」


 ドナシアンが眉尻を下げ、どこか申し訳なさそうにルイーズたちを見上げて懇願する。

 その言葉に、ルイーズは戸惑いながらも、


「もちろん、構いませんわ」


 と、微笑んで答えた。断る理由など、どこにもなかった。


 ──だけど!こんなことになるならもっとお洒落して来るんだった!!


 王都散策はお忍びということで、皆ラフな格好をしている。

 けれど、ジェルヴェールも来ると知っていたなら話は別だ。

 もっと可愛らしいワンピースや、髪型だってもう少し整えて……と、ルイーズは心の中で地団駄を踏む。


 そっと、視線をそらすようにジェルヴェールを盗み見る。

 いつもの護衛服や学園の制服姿も文句なしに格好良かったけれど、今日の私服姿はその比ではない。


 ラフなのに洗練された印象で、何より少し開いた胸元が、もう、罪深い。


 ──ああぁぁ……あの胸元に飛び込んでスリスリしたい……!!


 ルイーズは頭を抱えたくなる邪念を振り払い、何とか理性を保ちながら街へと繰り出した。


 しかし──。

 予想通りというか、いや、それ以上だった。

 大所帯に加え、誰もが目を引く美形揃いとあって、街を歩けば瞬く間に注目の的。

 道の両端には人々が群がり、まるで王族のパレードでも始まったかのような騒ぎになっていた。


「お姉様……」

「ええ、ソレンヌ……これはさすがに……」


 街案内どころではないと察した二人は、視線を交わし即座に判断を下す。

 取り急ぎ、ルイーズたちは顔なじみの喫茶店へと避難。運よく空いていた個室を借りて一息つく。


「このままでは注目を集めすぎて、自由に行動できませんわ」


 ソレンヌがため息まじりにそう告げると、一同は口々に「確かに」と頷いた。

 このままでは、行く先々の店にも迷惑がかかってしまう。


「そこで、二手に分かれて行動しませんか?」


 ルイーズの提案に、ドナシアンが真っ先に頷く。


「うん。僕はいいと思うよ」


 他の面々も賛成し、話はとんとん拍子に進んでいった。

 まずは、王都に詳しいルイーズとエドのペア、そしてソレンヌ、ドナシアン、護衛のレオポルドによる三人組に分かれることが決定した。

 そこで、留学生たちを誰が案内するか。その割り振りを行うことになった。


「私、ドナシアンと一緒に回りたい!」


 真っ先に手を挙げたのはロマーヌだった。ピシッと勢いよく挙げられたその手に、場の空気が一瞬、和らぐ。

 まさかの指名に一同は驚いたが、ロマーヌはすっかりドナシアンに懐いている様子で、特に女性陣からはどこか微笑ましい空気が広がった。

 同い年ということもあり、年上よりも同級生のほうが気を使わず話しやすいのだろう。

 ということで、ロマーヌは自然とソレンヌ・ドナシアン・レオポルド組に加わることに決定。

 さらに、ソレンヌと親しくなったエルヴィラも同じグループで案内することとなり、結果としてエルヴィラの婚約者であるヴィヴィアンも同行することとなった。


 ──残るは、ロラン、デジレ、ジェルヴェール、ピエール、セレスタン。

 この五人をどう割り振るか、という段になって。


「俺とピエールは、ルイーズ嬢とエド嬢に案内してもらうよ」


 そう言って手を挙げたのは、デジレだった。


「ルイーズ嬢と、独り者同士仲良くなれるチャンスだし」

「デジレ、口を慎め」


 すかさず、ロランの冷ややかな声が飛ぶ。

 だが当の本人は、叱責をどこ吹く風とばかりに涼しい顔で受け流していた。


 ──デジレ殿下は、また誤解を生むようなことを。


 だが、ルイーズにはわかった。

 まだ誰も割り振られていなかった自分とエドの方に、気を遣って来てくれたのだと。


 素直にそう言えばいいものを、この人は何か軽い発言でもしないと死ぬ病気なのだろうか。と、そんなことを思いながら、ルイーズは遠い目で宙を見つめた。


「他国の王子が二人もいたら緊張するだろうから、ロランはドナシアンたちの方な。あ、でも、人数調整で護衛の一人、こっちに頂戴」


 そう言って、デジレは「そうだ」と思い出したように手を叩いた。


「セレスタンがこっちに来て、エド嬢の婚約者でセレスタンと同学年のレオポルドもこっちに回ったらどうだ?それで、ロランとジェルヴェールがドナシアン達と行動すれば、人数のバランスもちょうどよくなるだろ」

「そうですね。それなら、レオポルドはルイーズ嬢とエド嬢の方について、皆さんを案内してくれる?僕はソレンヌ嬢もついてるから大丈夫だから」


 ドナシアンの言葉に、レオポルドは短く頷いた。


「承知いたしました」


 ジェルヴェールとは離れてしまったかと、ルイーズは内心がっくりと肩を落とす。しかし、人数調整のためなら仕方ない。

 それにしても、レオポルドとエドが揃ってしまったのは……少し、いや、だいぶ不安だ。

 けれど、年長者として、エドのストッパー役として、ここは気を引き締めて王都巡りに励むしかない。


「いや、セレスタンは私についてもらう。代わりにジェルヴェールをそちらに入れよう。彼はいつも私に付きっきりだからね。たまには、いろんな人と交流するのも良いだろう」


 ロランの提案に、場が一瞬静かになる。


 ──ジル様が、こちらに?


 思考が一瞬止まる。

 ルイーズが顔を上げた瞬間、ロランがちらりとこちらを見て、静かに微笑んだ。


 ──まさか……!


 これは完全に、ロランに目論まれたのだとすぐに察した。

 ルイーズの気持ちを知っていて、気遣ってくれたのだろう。

 その優しさが嬉しい反面、羞恥心のほうが先に来て、ルイーズは顔の熱が収まるまで俯くことしかできなかった。


 ──ありがとうございます、ロラン殿下。


 心の中では盛大に感謝を叫んでいた。


 こうして、ようやく組み分けが決定する。

 ルイーズ、エド、レオポルド、ジェルヴェール、デジレ、ピエールの六人組。

 そして、ソレンヌ、ドナシアン、ロラン、ロマーヌ、エルヴィラ、ヴィヴィアン、セレスタンの七人組。


 二手に分かれた一行は、それぞれ王都巡りへと繰り出すのだった。



─────────


 ルイーズ・エド・レオポルド組



「では、改めまして、よろしくお願いいたします。デジレ様はどこか見てみたいお店はございますか?」


 ルイーズが丁寧に尋ねると、デジレは一瞬思考を巡らせ肩をすくめて笑った。


「特にないかなぁ。ルイーズ嬢とエド嬢のオススメの場所か、行きたいところに連れてってよ」

「かしこまりましたわ。そうですわね……どこが良いかしら。エド、あなたはどう思う?」


 デジレに選択を丸投げされたものの、気を取り直して頭の中で候補地をいくつか思い浮かべるルイーズ。

 さすがにエドも今は留学生たちが一緒なのだし、いつものような調子では振る舞わないだろうと油断していた。

 結論からいうと、エドは留学生がいようといまいとエドだった。


「武器屋!!」


 ──ぶ・き・や!!??


 一瞬、耳を疑った。

 いやいや、聞き間違いよね?と自分に言い聞かせつつ、再び口を開こうとしたその時──


「それか、装備店!!」


 ──装・備・店!?!?


 だめだ、このままでは好き放題言い出しかねない。

 礼儀作法こそ完璧だが、エドの思考は基本的に戦闘方面に全振りされている。日常的な常識は、どこか遠い場所に置いてきてしまったようだ。

 ルイーズがどう軌道修正しようかと必死に頭を働かせていると、不意に笑い声が聞こえた。


「ぷっ……くくく」


 振り返ると、デジレが肩を震わせて笑っていた。


「いや、すまない。女性で武器屋や装備店に行きたいなんて言う子初めてで…くくっ。いいね。うん、行こうか。俺もダルシアク国の武具がどういうものか気になるし。ピエールとジェルヴェールもいいよね」


 そう問いかけると、二人は小さく頷いた。


 そしてもう一人、レオポルドもまた、普段の淡々とした態度からは想像もつかないほど、どこかそわそわしている。

 完全に「武器屋」「装備店」というワードに反応してしまったらしい。うずうずしているのが伝わってくる。


 ──この似たもの婚約者共が!!


 心の中で叫ぶのを必死にこらえながら、ルイーズはエド&レオポルド推薦の王都一番の武器・装備店に到着した。

 店に入るなり、エドとレオポルドの目がキラキラと輝く。ふたりは早速、店内の装備品に吸い寄せられるように散っていった。


 ──本当は、観光地でも回ってジル様と距離を縮めたかったのに……。


 淡く抱いていた願いは、入店と同時に跡形もなく砕け散った。

 けれど周囲を見渡せば、デジレやピエール、そしてジェルヴェールまでもが興味深げに商品を手に取っている。全員がそれなりに楽しんでいるようなので、ルイーズは小さくため息を吐いて諦めた。


 この店は、騎士団も御用達の有名な武器・装備専門店で、本格的な戦闘用の装備から、女性向けの可愛らしいデザインの小物まで幅広く取り扱っている。

 中には、日常生活でも使える便利機能付きのブレスレットや手袋なども並び、見ているだけでも飽きない。


 ──色んなストレンジ職人が作った商品が置いてあって見るだけでも楽しい。


 武器や装備そのものには興味が薄いルイーズでも、つい目移りしてしまうほどだった。そんな中、ひとつのブレスレットが目に留まり、ふと足を止める。


 それは石が連なったパワーストーンのブレスレット。効能は「幸運」と記されており、どうやら“幸運”のストレンジを持つ職人の作品らしい。


 けれどルイーズの視線を捉えたのは、効能ではなかった。

 ブレスレットに使われている石。透き通るような青と、菫色の石が交互に並んでいた。


 ──私と……ジル様の、瞳の色。


「ルイーズ嬢、何か気になるものでも見つけた?」


 声をかけられるまで、隣にデジレが来ていたことにも気づかなかった。


「デジレで──」


 驚いて名前を呼びかけると、唇にそっと人差し指が添えられた。


「しーっ。デジレ。“殿下”とか“王子”とか言ったらバレちゃうでしょ?お忍びで来てるんだからさ。それに、以前話したろ? “殿下呼びは禁止”って」


 顔を近づけ、小声で囁くデジレ。その声に、ふと周囲を見渡せば、買い物中の女性たちの熱い視線が彼に注がれているのに気づく。これは確かに「王子様」とバレては面倒だ。

 ルイーズは静かに頷き、了承の意を示した。

 するとデジレは、満足げににっこりと笑うが、その直後。


「──あいてててて!」


 情けない声とともに、デジレの姿がすっと視界から消えた。


「デジレ様、淑女に無闇に触れたり、必要以上に距離を詰めるのは控えた方がよろしいかと」

「私も、ジェルヴェールの意見に賛成ですね」


 ルイーズとデジレの間に滑り込んできたのはジェルヴェールだった。彼はデジレの人差し指をしっかりと掴み、淡々とした口調で進言した。

 その背後にはピエールが立っており、深く頷いて同意を示している。


「いやいや、ちょっとスキンシップしただけじゃないか!? お前たちは少し私に対する態度が厳しすぎないか!?」

「「デジレ様自ら、“友人として接してくれ”と仰いましたので」」


 二人はぴたりと息を合わせて答える。

 デジレは不満げに顔をしかめるが、自分で言い出した手前、反論の余地はない。ぶつぶつ文句を言いながらも、素直に引き下がった。


「でもさぁ、仲良くなるくらいはいいだろ?」

「……無理強いをしないこと。そして、親密になりすぎないよう、一定の距離感は保ってくださいね」


 ピエールが半眼で睨むと、デジレは「はいはい」と手をひらひらさせてやり過ごした。


 ──確かに、彼らの関係って主従だったはずよね……?


 なんだか完全に上下が逆転しているような気がしなくもないが、深く考えるのはやめた。

 その後、どこかへ消えていたエドとレオポルドが戻ってくると、手にはそれぞれ新調した武器が握られていた。

 満足げにニコニコしている二人に、なんとも言えない空気が流れる。


 一行はそのまま武器屋を後にした。


 ルイーズはふと、先程のブレスレットを思い出し、もう一度買おうかと振り返る。だが、店内に戻ってみると、ブレスレットはすでに誰かに購入されたのか、なくなっていた。

 少しがっかりしながらも、ルイーズは一行と共に、待ち合わせまでの時間を使って別の場所を見て回ることにした。



──────


 ソレンヌ・ドナシアン組


 ルイーズたちと別行動を取ったソレンヌ・ドナシアン組は、王都の観光スポットとして名高い大きな公園に足を運んでいた。

 王都の中で唯一、広大な自然に囲まれたこの公園には、子供たちが遊べる遊具広場のほか、ゆったりとした湖があり、街の喧騒を忘れさせてくれる癒しの場所として知られている。


 湖の周囲にはベンチがいくつか設置されており、緩やかに整備された遊歩道の脇には、手作りのお菓子や飲み物を売る屋台も点在している。恋人たちのデートスポットとしても人気の高い、王都の中でも指折りの憩いの場だ。


 元々この公園を提案したのはソレンヌだった。目的は、他国からやってきたばかりの新しい友人たち、特にエルヴィラを喜ばせること。

 エルヴィラはダルシアク国に婚約者と共に留学していたこともあり、婚約者と親交を深めるには、静かで美しい場所が相応しいと考えたのだ。

 さらに、公園の湖にはアヒル型ボートや手漕ぎボートもあり、ロマーヌが楽しめると目論んでの選択でもあった。


「ドナシアン! あれに乗ろう!!」


 案の定、ロマーヌはアヒルボートを見つけると目を輝かせて、ドナシアンの腕を掴みながら元気よく指を差した。


「ロマーヌ、落ち着いて。皆の意見も聞かないと」


 はしゃぐ彼女をドナシアンが微笑ましくも諭す。


「楽しそうですわね。わたくしも乗ってみたいですわ」


 エルヴィラも目を輝かせて手を合わせると、その隣にいたヴィヴィアンが穏やかに頷いた。


「僕はエルヴィラが乗りたいなら、それで構わないよ」

「わたくしも、素敵な思い出になりそうで良いと思いますわ」


 ソレンヌもまた、皆の楽しそうな表情に微笑みを浮かべながら同意を示す。


「私たちも構わないよ。セレスタンも良いだろう?」


 ロランが隣の少年に問いかけると、セレスタンは少し背筋を伸ばして元気よく答えた。


「はい!頑張ってボートを漕がせていただきます!」


 全員の意見が一致し、さっそくボートに乗ることが決まった。

 組み分けは、ロマーヌ&ドナシアン、エルヴィラ&ヴィヴィアン、そしてソレンヌ&ロラン&セレスタンの三組。

 ロマーヌとエルヴィラたちはアヒル型のボートへ向かい、ソレンヌたちは人数の関係から普通の手漕ぎボートに乗ることとなった。


「お手をどうぞ、ソレンヌ嬢」

「あ、ありがとうございます。ロラン様」


 ボートには、まずセレスタン、次にロランが乗り込み、最後にソレンヌが乗り込んだ。

 その際、すでに乗り込んでいたロランがすっと手を差し伸べてエスコートする。その所作はどこまでも優雅で、軽装にもかかわらず王子としての気品が滲み出ていた。

 偶然その様子を目にした近くの淑女たちが、羨ましげな視線を向けるのも無理はなかった。


「この公園はとても綺麗だな」


 ボートがゆっくりと湖の上を進みながら、ロランが感嘆の声を漏らす。


「そう言っていただけると、ダルシアクの一国民としてとても嬉しいですわ」


 太陽の光を反射してきらきらと輝く湖面。あちこちから楽しげな笑い声が響き、緑に囲まれたこの空間は、王都にいることを忘れさせてくれるほど穏やかだった。


 ソレンヌは微笑みながらそう答えたが、ロランは彼女の瞳にかすかな違和感を見て取った。

 ソレンヌは表面上は楽しそうに振る舞っている。しかし、時折ロマーヌとエルヴィラの方へ視線を送っては、何かを思い巡らせているようだった。


 ──まるで、あの二人に自分を重ねて見ているような……そんな感じだ。


 ソレンヌにとっての相手は、やはりレナルド王子なのだろうかと、ロランはふと考える。

 ほんの一瞬見せた哀愁を帯びたその横顔に、ロランの胸が僅かに締め付けられた。


 楽しい時間はあっという間に過ぎ、貸出時間が迫ったためボートは船着場へ戻る。

 セレスタンが先に降りてロープを引き、ボートをしっかりと固定した。続いてロランが船着場に足を下ろすと、再びソレンヌへと手を差し出す。


「ソレンヌ嬢、ボートが揺れるから、ゆっくり上がるんだ」

「は、はい」


 降りる時のほうが、ボートの不安定さはより際立つ。小さな波に揺られて、船着場との距離が寄ったり離れたりするのが、妙に心をざわつかせた。

 ソレンヌは慎重に立ち上がり、足元に気を配りながらボートの端に歩み寄る。


「ソレンヌ嬢、そんなに端に寄ってはいけませんっ!!」


 セレスタンの鋭い声が響いた、その瞬間──


「危ないっ!」


 ソレンヌの身体がぐらりと大きく傾いた。バランスを崩したボートが派手な音を立てて大きく揺れる。

 そのまま落ちそうになった彼女の身体を、ロランが素早く抱きとめた。

 湖に落ちる寸前、彼の腕の中でソレンヌは強くしがみつく。心臓がバクバクと音を立て、血の気が引いていくのが自分でも分かった。


「も、申し訳……ございません……っ」


 まだ震える声で、ソレンヌは謝罪の言葉を絞り出した。ロランの腕の中にいる状態のまま、ソレンヌは引き上げられ、船着場に足を着けた。


「怪我はないかい?」


 ロランは、彼女がようやく足を着いたのを確認すると、心配そうに顔を覗き込んだ。


「はい、ロラン様のおかげで。本当にありがとうございました」

「そうか……それなら、良かった」


 安堵の息を漏らすロラン。その顔を見て、ソレンヌの胸がじんわりと温かくなった。彼の優しさが染み込むように伝わってくる。

 自然と、ふわりと笑みが零れる。

 その笑顔を見て、ロランの胸がどくんと高鳴った。驚いたように、彼は視線を逸らす。


 その後、ソレンヌたちはドナシアンたちと合流し、もう一組のルイーズたちとも合流するために、待ち合わせ場所へと向かった。

 こうして、それぞれの想いが静かに交錯した王都巡りは、夕暮れと共に幕を下ろす。

 王城に戻る頃には、全員が心地よい疲労に包まれていた。

 翌朝、女性陣はペルシエ領へと旅立つ予定があり、エルヴィラとロマーヌを迎えに行くことを約束して、この日は一旦解散となった。

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