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第五話 騒動





「よく来てくださった。『勇者様』方。私はこの国の王であるボルペルト・フォン・エパルリームであ「お久しぶりですね。ボル。」

「「「「「!!!!!!??????」」」」」



 母親(朱里)、いきなりの大暴投である。作戦とはなんだったのであろうか。そんな突然のことに姉弟だけでなく、周りにいる貴族たちも王様も戸惑いを隠せない。その場で何事もなかったかのようにしているのは朱里だけであった。そこにさらに追撃が加わる。



「おや?聞こえていないのですか?ボル。私とあなたの仲ではありませんか。」



 その問いかけに王様の顔が少し曇った。何か出てきそうで出てこないような表情を浮かべている。少しの間無言の時間があった。王様は誰であるか思い出そうとし、貴族たちは何をすればいいのか分からず黙り込み、姉弟は状況の変化についていけずに目が泳いでいた。

 しばらくすると王様の表情が変わった。思い出せたことを喜んだかと思うと次第に顔が青ざめていった。王様は何か言おうとしているが、口をパクパクさせるだけで言葉にならないようである。



「思い出したのですか?ボル。大きくなりましたね。」

「近衛兵!!殺せ!コイツを殺せ!」

「「「「!!!???」」」」



 口パクパクからようやく戻ってきた王様の口から出てきた言葉は「殺せ」であった。尋常ではない王の動転ぶりに若い貴族程驚き狼狽え、歳を召した貴族程青ざめて震えている。姉弟もまた母をただ不安そうに見つめるだけである。



「どうした!早く殺せ!」

「どうしたのですか?そんなに慌てて。再会を喜びましょうよ。」

「黙れ!貴様と交わす言葉などない!『裏切りの勇者』!『双炎の紅き死神』!『人類への叛逆者』!!」

「そうさせたのはあなたたちなのですけどね。」



 朱里の言葉には明らかに怒りが見えた。それに伴って赤黒いモヤが一瞬チラついた。王がさらに何か言おうとするがそれを遮るように朱里が話し続けた。



「まあ、いいです。今少しでも謝ったりしていたらこの未来は訪れなかったかもしれないのに。残念です。ボル。」

「何を訳の分からないことを言っている。我が国を、父を、私を裏切っておいて、何を謝ることがあるというのだ。」

「そうですか。…弓美乃(ゆみの)優真(ゆうま)。そろそろ作戦に戻ります。私の近くに来てください。」

「作戦?何を言って」

「行くよ、優真(ゆうま)。」

「う、うん。」



 姉弟は母の近くに寄った。朱里はそれを確認すると早速行動に移した。身体から赤黒いモヤが溢れ出て朱里の身体を覆った。見ようによっては鎧のようにも見える。モヤを纏い終わると突然叫んだ。



「あなたー!助けてーー!」

「「「「!!!!????」」」」



 その瞬間である。ゴゴゴゴゴという地鳴りと共に()()()()()()()()()()()()。近くにいた貴族たちは慌ててそこから離れた。パキパキと氷が割れるような音が空間から聞こえる。ある程度ヒビが入ると、パリーンとガラスが割れるように空間に黒い穴が空いた。黒い穴が空くと同時に、部屋がミシミシと悲鳴をあげ、部屋全体にとてつもないプレッシャーがかかった。貴族たちはその圧に負け、次々にへたりこんでいく。王や姉弟も例外でない。ただ一人朱里だけが何事もないように立っていた。

 黒い穴からは、漆黒の鱗を持つ紅い目をしたドラゴンの頭がヌッと出てきた。頭だけであっても天井につきそうな圧倒的な大きさである。その姿を見るや部屋は大騒ぎになった。蜂の巣を突いたような騒ぎになった部屋に低い声が響く。ドラゴンの言葉であった。



「待っていたぞ。アカリよ。ようやく声をかけてくれたな。再会喜ばしくおもう。

「昔みたいに話してくれていいのに。」

「な!それは別に今言わなくてもいいだろう。んん。人間の王よ。感謝するぞ。貴様のおかげで我は妻と再会できたのだからな。」

「」



 朱里ただ一人を除いて王も貴族も誰一人として言葉を発することができない。それもそのはずである。人の言葉を話すことができるドラゴンはそう多くはないからだ。若いドラゴンであっても人の言葉は分かる。分かるが、人の言葉を話すことは難しく、意思をそのままぶつけてくるテレパシーのような形での会話になることが大半である。一見すると会話に見えない会話をしてくることが基本である。

 だが、長い年月を生きたいわゆる古龍(エンシェントドラゴン)クラスからは人の言葉を言葉として話すことができるようになる。今までのようにテレパシーのような会話もすることができるが、ドラゴンの姿のまま人の言葉を話すことができる存在へと変わっていくのだ。そのため、人の言葉を話すドラゴンはそれだけ高位とされる。だがそのような高位のドラゴンが国の中枢に現れることなどは今日この日に至るまであったことはなかった。

 もちろんそのような高位のドラゴンと親しげに会話をする者など聞いたことも無かった。それだけではない。今このドラゴンはなんと言ったか。妻と言わなかったか?プライドが高いことがデフォルトであるドラゴンと番になる人間なぞ前代未聞であった。それに対する驚きも王たちを襲っていた。



「反応がないのはつまらんな。そろそろ行くか?」

「そうしましょうか。あー、私の家族の紹介は後でもいいですか?」

「家族?おお、そこの二人か。もちろん良いぞ。こんなチンケな城なんぞより我の城の方がマシよ。ほら。こっちに近付くといい。ん?なんだ?近づかんのか?」

「その姿のままだと怖いんですよ。早く人型になってください。」

「え、でもアカリはこの姿の我に

()()()!」

「う、うむ。分かった。」



 そのようなやり取りを経て、ドラゴンの頭が黒い穴の中に戻っていった。だが王も貴族もへたりこんだまま立つことができない。まだ圧倒的なプレッシャーが消えたわけではなく、むしろさらに強まっているようにすら感じる。それほどの時間もかからずにふと黒い穴のサイズが約3メートル程の大きさまで小さくなった。穴からガチャガチャという金属が擦れる音が聞こえてくる。音はだんだん大きくなっている。そうして穴から出てきたのは2メートル近い巨漢の黒甲冑の騎士であった。甲冑はよく見ると先程のドラゴンと同じ漆黒の鱗でできているようだった。黒騎士はまっすぐに朱里たちのもとに歩みを進めていく。そして朱里の前で立ち止まり(ひざまず)いた。それを見た朱里は驚いた様子だった。その瞳で黒騎士をしばし見つめ、少し呆れたような表情を浮かべた。次の瞬間には朱里の手に黒い長剣が握られていた。魔力を練って作り出したのである。そしてその剣を騎士の左肩に添えた。

 その光景を目撃した王や貴族は混乱の極みを迎えた。その光景は、この世界に根付いている『騎士の誓い』そのものだったからである。『騎士の誓い』、それはただ一人の主君を命に変えても護り、支え続けるという最上級の誓いであった。命に変えてもとはいったが、誓いをした者がすぐに死んでしまっては主君のキズとなる。そのため、『騎士の誓い』は国でもトップクラスの強者にのみ許された行為であった。

 では、今目の前で起こっていることはどういうことであろうか。人の言葉を介するドラゴン(と思われる者)が、転移者である(裏切った)勇者に『騎士の誓い』を行ったのである。つまり、勇者を殺そうとすればドラゴンがその命に変えても護ろうとするのである。王国の指導者たちにとって悪夢でしか無かった。

 だが悪夢はそれで終わらなかった。今度はいつのまにか剣を消した朱里が黒騎士の前に跪いたのである。しかもいつのまにか鎧を身に纏っている。それを見た黒騎士は急いで立ち上がり、朱里が用いたモノと同じような長剣を作り出し朱里の左肩に添えた。これが意味することは、朱里と黒騎士(ドラゴン)がその命をとしてお互いを護り続けるという悪夢以外の何物でもないことであった。

 だが母と黒騎士のしている行為の意味が分からない姉弟は次第に混乱も収まりなんとか立ち直ることができたようである。二人は立ち上がることができた。それを認識したのか朱里も立ち上がり鎧を消し去った。そして黒騎士に向かって頷いた。






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