第四話 作戦会議
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母親から告げられた情報のあまりの多さに二人は固まってしまったようであった。しばらくの間無言の空間が続いたが、みかねた朱里がさらに言葉を紡いだ。
「とりあえず、この国に留まることは余り望ましくないってこと。分かった?」
母親からの問いかけに先に我に戻った弓美乃が答えた。その直後に優真も我を取り戻した。
「まあ。…何となくね。いくつかツッコミたいところもあったけど…。余り時間もないんでしょ?早く戻らないと怪しまれない?」
「そうでもないわよ。あ、でも別の意味で時間がないかも。」
「ん?どういうこと?母さん?」
「この部屋にいるのはさっきいろいろと結界をはったから特段問題はないんだけど…」
「ないんだけど、何?」
「昔母さんがこの世界に来たことがあるって話はしたでしょ。母さんが元の世界に帰る時なんの前触れもなく突然でね。お世話になった人とかにお別れとかもできなかったの。」
「うん。」
「だから、その時に仲が良かった人とかお世話になった恩人たちがね、私がこの世界に再びやってきたことを感じ取ってこの城に来ちゃうかもしれないの。」
「それのどこが問題になるの?」
「それは…まあ。あの人たちこの世界でも指折りの実力者ぞろいだから…。下手したら、ううん、もしかしなくても大きな争いになるかもしれないの。」
「一体何したのよ母さん。」
「それは後でもいいでしょう。とりあえず今後のことを話しましょ。」
◇◇◇作戦会議中◇◇◇
◇◇◇◇終了!◇◇◇◇
「つまり、今すぐにこの城から抜け出したいのは山々なんだけども機会がないから無理やり作ろうってことでいいんだね?母さん。」
「そういうこと。どうせほっといてもあの人たちは来るだろうし。助けてもらった方がいいと思うの。」
「それで王様に謁見する時に魔力(?)を放出してサインを出すって。そんなのでわかるの?」
「多分大丈夫よ。騒ぎにはなると思うけどね。慌てて判断を間違えないようにね。」
「待って、もう一回確認させて。」
「ええ、いいわよ。」
つまり、作戦はこうである。
①転移の間に戻り、王様に謁見する。
②時を見計らって母親が魔力(?)を放出する。
③恩人が助けに来る(だろう)。
④恩人に助けてもらって脱出成功!
異常である。いや、以上である。
「…………成功するの?」
「大丈夫よ。多分。」
「多分って…」
「そろそろ戻ろうと思うけど大丈夫かしら。」
「もうどうとでもなればいいと思う。」
「同意。」
「じゃあ戻りましょう。全員で床を蹴る…ああ、でもその前に結界解除しときましょう。」
「ああ、結局その結界ってなんだったの?」
「大したものではないし教えても大丈夫かな。結界の外側から見える景色を違和感ないものに変更するだけよ。」
「え、普通に凄くない?」
「全然よ、こんなの。お世話になった人たちなら一人で街一つは余裕で覆えるもの。」
「「は!?」」
「本物の規格外ってものよ。あの人たちは。…さて、もういいかしら。」
「「う、うん。」」
「では戻りましょう。来た時と同じで行きましょう。」
「いいよ。」
「いいわよ。」
「では。せーので。」
コンッ コンッ コンッ
床を鳴らした次の瞬間には、魔法陣は再び強い光を放ち、三人の姿は消えていた。
◇◇◇◇◇
「「やっぱりまぶしい!」」
「ただ今戻りました。」
強い光を魔法陣が放った次の瞬間には三人は再び石畳の部屋に戻ってきた。移動する前と特段変わったところはないようであった。戻ってきたことを認識したのであろう。老紳士が語りかけてきた。
「お戻りになられたのですな、『勇者様』方。もう休憩はよろしいので?」
「ええ、ありがとうございます。とても綺麗なところに通していただいて、おかげさまでしっかりと休むことができました。」
「それは何よりでございます。『勇者様』方は、この国にとってなくてはならないものでありますからなぁ。」
「爺や。少々くどいのではなくて?」
「失礼いたしました。王女殿下。」
「これ。謝る相手が違うのではなくて?」
「本当に申し訳ありませんでした。『勇者様』方。」
「いえいえ。気にしてませんから大丈夫ですよ。」
「お気遣いありがとうございます。」
「それで…」
「はい。どうされましたか?何か問題でも?」
「いえいえ。王様に謁見したいのです。立派な部屋で休ませていただいたお礼がしたいので。」
「わかりました。謁見の間にご案内いたします。申し訳ないのですが、謁見の間に直接転移することはできなくてですな。少々御足労願いたいのですが。」
「ええ、構いませんよ。」
「ではこちらに。王女殿下。よろしいですか。」
「ええ、構いません。」
「ではこちらからどうぞ。」
三人は老紳士に連れられて部屋を後にした。母親を先頭にして、その後ろに姉弟が横並びになる構図である。その周りを甲冑を身に纏った兵士たちが護衛していく。しばらく歩いたのちに、一行は蔓植物のレリーフが豪華に彫られた扉の前で立ち止まった。
「ここから先が謁見の間でございます。」
「案内ありがとうございます。」
「準備はよろしいでしょうか。」
「ええ、大丈夫です。問題ありません。ね。」
「ええ。」
「うん。」
「大丈夫です。お願いします。」
「では、扉を開けます。私はこの先に入ることが許されておりませんので先にお進みください。」
「ええ。分かりました。」
了承を得た老紳士が扉に手を翳したかと思うと、ズズズズズと重厚な音を立てて扉が開いた。三人は扉が完全に開ききるとゆっくりとその歩みを進めた。
一行の姿が謁見の間に現われると、豪華な衣服を身にまとった貴族と思われる大勢の人に拍手で迎え入れられた。「『勇者様』ー!」と言った声や「『勇者様』万歳!」といった言葉が時折聞こえてくる。磨かれた大理石の床材に赤い絨毯が真っ直ぐに敷かれて部屋の奥の方まで伸びている。部屋の奥の方は何段か高くなっていてそこには杖のようなものを持って立派な玉座に座っている小太りの男性が見えた。目元や髪の色が王女殿下と似ている。状況的に考えてもこの男が国王で間違いなさそうである。
三人はそのまま歩き続け、段の少し前にある空間で立ち止まった。三人が立ち止まっても拍手はまだやまない。
王様らしき人が片手をゆっくりと挙げた。すると、声も拍手もぴたっとやんだ。静かになった空間で王様が話し始めた。
「よく来てくださった。『勇者様』方。私はこの国の王であるボルペルト・フォン・エパルリームであ「お久しぶりですね。ボル。」
「「「「「!!!!!!??????」」」」」