第一話 プロローグ 1
「どうも、こんにちは。突然ですが、貴方は死にました。そして、別の世界に行ってもらいます」
「は?」
突然の宣告を告げられた青年は全く知らない場所に立っていた。辺り一面は見渡す限り全て白塗りで、どこまでも広がっているようだった。青年が学制服姿であることから、何かしらの学校の生徒ではあったようだ。青年は、自分が何者なのか、どうして自分がこんなところにいるのかわからなかった。
青年の目前には、見事な金髪のロングヘアーをして、真っ白なローブを身にまとっている美しい女性が立っていた。背丈はだいたい高校生くらいであろうか。その女性の青色の瞳は、宝石のように光り輝いていた。
そこで告げられた宣告に青年は全く動けなくなった。
「あー。やっぱこうなるよね。うん。アイツがおかしかっただけだよね。うん」
青年に声をかけた女性は、何かボソボソと話していたが青年には聞こえていないようであった。
「改めて告げますね。貴方は死にました。そして別の世界に行ってもらいます。おーい。聞いてますかー」
「いや、ちょっと待ってくださいよ。本当に僕死んだんですか?」
「うん。ホントホント」
「いやなんか軽い!」
青年は女性につっこんだ。この女性はかなり自由であるようだ。
「じゃあ話す?死因とか」
「いえ、まずここがどこか教えて下さい」
「まあ、いいけど。突然だけどさ、君は異世界に転生したり転移したりするライトノベル?だっけ?そういう本とか読むのかな?」
「本当に突然ですね。まあ人並みには読みますけども」
「なら話は早いね。まあ、記憶見たし知ってるけど。簡単に言うとここは『転生・転移の間』、そして君に行ってもらうのは、『ファンタジーな剣と魔法の世界』だよ」
「貴女本当に自由ですね!って、え?記憶見た?神様ってことですか?」
青年は今更ながらに今目の前にいる女性が普通の人間でないことに気づいたようであった。
「うん、そだよー。はっはっは、崇めたまえー。私こそが神であるぞー」
いきなり両手を振り上げて神であると言った女性に、どことなくヤバいやつだなと思った青年であった。
「あ。今考えてることもわかってるから。そこんところよろしくね」
「ひっ」
どことなくほんわかとしていた空気が一瞬で凍ったような気がした。
「じゃあ話を戻そうか。それとも時間を戻す?」
「え。時間を戻せるんですか?」
「いや無理だけど。権能違うし」
「なら言わないでくださいよ!」
この女神実に自由である。そしてまた空気が緩んだ。
「じゃあ改めて話を戻すね。君は向こうの世界で死んで、別の世界に行くことになりました」
「まあ、定番といえば定番ですね。それで僕は、どうして死んだんですか」
「じゃあ言うけども。君はねー、事故死だね、事故死」
「事故…死」
「そだよー。あんまり言って廃人になってもらっても困るから詳しくは言わないけど。聞きたい?」
「廃人って。そんなひどかったんですか?僕の死に様。いえ詳しく説明してほしいってわけじゃないですけど。簡単にならまあお願いします」
「ちっ。ゴホン。まあ、そうですよね。いいですとも、簡単に説明するとしましょう」
「舌打ちしたよこの女神」
「まあいいですけど。では、少し離れていてください」
すると女神は不意に左手を真横に突き出した。そして手を広げ、その指先が光ったかと思うと、その先に黄金色の光を放つ、直径1メートル程の魔法陣のようなものが現れた。女神がそこから本のようなものを取り出すとともに、光は消えた。その本には天秤を持った天使のような羽を持つ人と蔓植物のような紋章が描かれていた。
「その本に僕の死因が書いてあるんですか?」
「いや、違うよ。これはただの演出。君の記憶を見てるだけ」
「貴女本っ当に自由ですね!」
この女神やりたい放題である。
「まあいいでしょう。えーっとですねー。貴方はですねー、乗っていた車が正面衝突起こしまして、谷底に落ちたみたいですね。そしてそのあとたまたま土砂崩れが起こって最終的に土砂に潰されて死んだみたいですねー」
「自分の最期ながら悲惨すぎません?でも僕何もってほど覚えていないんですけど」
「まあ、それはここが『転生・転移の間』だからですね」
「あっ、そういうことですか。前の世界の記憶は覚えていないと。けれども知識だけは残ったまま。こんな感じですか?」
「いや、少し違うねー。あくまでも記憶に残らないのは『転生・転移の間』での記憶だけだよ。ここは元の世界と別の世界の橋渡し的な場所だからね。向こうの世界に着いたら思い出すと思うよ」
「あー。そうなんですね」
「じゃあ、そろそろ準備しようか」
そういうと女神は形だけでも持っていた本を閉じ表紙を撫でた。すると本がシャボン玉のような光の泡となって消えていった。青年はその光景にしばし呆然としているようだった。女神は青年を手招きして呼び、伴って歩き出した。どうやらここから移動するようである。
「いきなりですね。まあ多少は慣れましたけども。で結局僕が転生する世界ってどんななんです?」
「うんにゃ?違う、違う。君がするのは転移だよ」
「え?でも僕死んだんですよね」
「まあ、そうなんだけどねー。こっちにも色々と都合ってものがあってさ。君にしてもらうのは転移なんだよ」
「まあ、どちらにしろ僕に拒否権はなさそうですしね」
すると女神は立ち止まり、青年の方を向いて微笑んだ。しかし、その目は全くと言うほど笑っていなかった。青年は咄嗟に目を逸らした。また空気が凍ったかのようであった。
青年が諦めたかのように小さく肩をすくめたのを確認した女神は、再びスタスタと歩き始めた。青年は一度小さくため息をして、女神の後を追いかけた。
「今どこに転移するか言っても忘れちゃうから、言わなくてもいいかな?」
「露骨に話逸らしましたね。別にいいですけど。でもちょっとは聞きたいです。どっちにしろ行くんだし」
「君が転移する可能性があるのはねー。神聖国か帝国辺りだと思うよー。まあ『勇者』として呼ばれるってことだけは確定だね」
「ああ、召喚、的なものですか。異世界物では定番ですよね」
「そうそー、そして君以外にも数人召喚されるんだよね」
「......ちなみに誰なのか教えてもらえます?それ」
「これは言ってもいいかな?まあ覚えてないし、いっか。君と一緒に死んだ人、つまりは、君の家族だよ。正確にいえば貴方の母親と姉ですねー」
「........................は?」
青年は固まって動けなくなってしまった。当然である。何も覚えていないとはいえ、家族の訃報は青年にとってそれだけ衝撃的であった。
「また固まりましたか。まあいいです。そろそろ向こうの世界に送りますよ」
そう青年に告げ、女神はスタスタと歩き始めた。