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Grimm Dreamers Online ~ネバーランドの知能達~  作者: 中安 風真
間章 第1回GDO生放送
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黒歴史更新

お読みいただききありがとうございます

9月14日。俺たちは誰1人欠けることなく開拓地の中央に集まっていた。


「あの、天使様。これから何が始まるんですか?」


ラートリアが尋ねてくる。それに俺は少し考えて返した。


「そうだなぁ、神様からの予告、みたいな?これから何が起きますよーというか」

「神託が下るのですか!?」

「そんな大袈裟なものではないんだけどな……」


この世界が娯楽要素を含んでいるというのは非常に説明が難しい。

俺たちにとっては娯楽でも、NPC達はこの世界を真剣に生きているのだ。

でも開拓地に暮らす以上、説明は避けては通れないか……


「俺らが世界を復興させるために派遣されたって話はしたじゃん?」

「はい」

「でもただ仕事をさせるだけっていうのは効率悪いじゃん?」

「そう、ですね?」

「そうなんよ、大事なのはモチベの管理だから。というわけで神様は開拓に娯楽と競争の要素を付け足しましたとさ。今からのもその一環」

「なるほど………………深いですね」

「どこが?」


ラートリアがどこに深遠さを感じたのかは不明だが、それを尋ねる前に、空中にディスプレイが出現した。

なお、この生放送はWetubeなどのサイトでも同時に放送されているのだが、俺たちは皆でまとまって見ようということで、GDO内から鑑賞することになった。

まあ、あれ(・・)にもログインしてお待ちくださいとあったし。


『開始までしばらくお待ちください』という文字と共にBGMが再生される──あれ、これは──


「あ、これ『マルクトの大河』です!」

「やっぱりそうだよな。ここで使ってくるのか」

「これが、神々の演奏──」


感動しているラートリアは置いておいて、俺は思考の海に沈む。

これは他の開拓地でも、Wetubeでも同じものが流れているのだろうか。仮にそうだとすると、もしかしてユニーククエストについての説明がある?


俺がクリアしたからか?それとも……


「──い。おーい」

「ん、ミンストレル?」

「やっと気付いた。聞こえたけど、これが『マルクトの大河』なの?」

「そういや演奏したことなかったな。これがそうだよ」

「ふーん。音楽も完全新曲、でもこの曲調は聞いたことないなぁ……もしかして四天王グループの自作?」

「……あり得る。もしくは玄武の学生さんとか?音楽科があるのって確か玄武だよな?」

「そーだねー。改めてすごいグループのVRMMOやってんだなーって思った」


確かにと、琥珀の言葉に内心で同意する。四天王グループ監修のVRMMOというだけあって、世界的にも注目が集まっていると聞く。どっかの国では早くプレイさせろと大学生を中心にデモが起きたんだっけ?


「……大学、か……」


交通事故に遭っていなければ、今頃は大学生だっただろう。柄にもなく感傷的なことを考えていると、上空の画面が切り替わった。

……そう言えば、今日は兎たちも空気を読んでポップしてこないな。ありがたい、これで集中して見れる。


『レディース!ェアーンド!ジェントルメェン!皆画面に齧り付いてるかい?これより記念すべき第1回、Grimm Dreamers Online生放送を始めるよぉ!』


初っ端からテンション高く登場したのは、燃え盛る赤い鳥のマスコットだった。

背景はキャラクリで使った、あの宇宙みたいな空間である。


『僕は朱雀!勘のいい人は中身に察しが付いてるだろうけど秘密だぞ~。僕に中身なんてないからね!』


富岳院さんだ。俺は確信したが、まあ確かに関係ないことなので口にはしなかった。


『僕の仲間を紹介しよう!まずは紅一点の──年齢的に紅一点を言い張るのキツくない?白虎!』

『……朱雀、後で覚えておきなさい。どうも皆様、白虎です、よろしくお願いします』


一瞬凄まじい表情を浮かべたのはモフ度の高そうな白い虎のマスコット。恐らく竜宮院さんだろう。


『その筋肉は伊達じゃない!でもその姿じゃよく見えないよね?玄武!』

『玄武だ。皆鍛えているか?』


後ろ足で立ち上がってボディビルのポーズを決める、尻尾が蛇の亀のマスコット。多分金剛院さんだ。


『無口!無口すぎて話が進められない侍!青龍!』

『……青龍だ』


目を閉じている角が2本生えた青い蛇のマスコット。桃源院さんかな。


『以上の4名で盛り上げていくよー!』


メンツ濃いというか半分以上人選ミスでは?と思っていると──


『と、言いたい所なんだけど、1回目からなんと、ゲストを呼んでいます!御三方、いらっしゃーい!』


朱雀がそう言うと、俺の体が発光し始める。


「え、天使様!?」

「サプラーイズ!ってな。そんじゃ!」


サプライズと言っても、知らないのはラートリア達NPCぐらいなのだが。次の瞬間には視界は切り替わり、俺は宇宙空間に漂っていた。


「やあやあようこそ!よく来てくれたね!早速自己紹介行ってみよう!」


さっきまで画面の向こう側にいた朱雀が俺の目の前に現れる。

朱雀の翼が指す方向には、青い星が浮かんでいた。あれがカメラの役割をしてるのか。


横を流れる文字は、コメントか。『シャベッター』とも連動してるんだな。


そう言えば御三方って言ってたっけ?横を見れば、俺と同じように宙に浮いている人物が2人──うん、1名すごい人がいるな。

と、ちょうどその2人と目が合う。無言で誰から行くかという駆け引きが一瞬巡り、「では私から」と1人が言う。


オーソドックスな黒髪黒目で高身長イケメンのアバターだ。特徴が少ないから恐らく彩人族の純血。

……ん?この声、まさか──


「第1開拓地所属。プレイヤーネームを『ハズバンド』という。察する人もいるだろうが、そういうことだ。今はこうしてGDOをプレイさせてもらっている」


ぎゃああああああああ、我妻選手だ!?『ハズバンド』というのは我妻選手がVRゲーをする時にいつも付けているPNであるし、何より声が本人そっくりだ!


あれ、ここで俺普通に話したら身バレする!?声も身長も性別も違うからセーフか──待て待て、楽観はよくない、我妻選手はチートを疑われるくらい勘が鋭いからバレかねない!?


ふと朱雀が視界に映る──ニヤリと笑ったなてめええええええええええ!図ったなああああああああああ!?


こ、これは、覚悟を決めるしかないのか!?

内心で嫌な汗がダラダラ流れているのを知ってか知らずか、次の人へ順番が移る。


「はぁいみんな、初めましてねぇ?第44開拓地所属、プレイヤーネーム『コスモス』よぉ、よろしくねぇ」


2人目は、桃色の髪を揺らす胸がはち切れんばかりの、オネエだった。どんなキャラクリすればそうなるのかと聞きたいぐらいの筋骨隆々っぷりのコスモスは最後にウィンクと共に投げキッスを──うん、コメントが悲鳴を上げている。


……さて、自然視線は俺に集まってくる。

というか、明らかに3人の中で俺は異様だろう。頭上には黒い輪があり、背には黒い翼があるのだ。

そもそも服装だって違う。俺は奴隷衣装だからな。


ええい覚悟を決めろニノマエハジメ、これはロールプレイだ、必要に迫られた演技だ、断じてネカマプレイではない……!


「──第98開拓地所属。プレイヤーネーム、『ドットレス』、です。ドレスって呼ばれます。よろしくお願いします」


ペコリと頭を下げる。

昔女装させられた時に、ジャガイモに指導されたロリっぽく見せる演技だ!言葉は短め声は気持ち小さめで喋る。辿々しいと良し。言葉は伸ばし気味で、言い間違えとか言葉噛みがあれば尚良しとかほざいていたが、そこまでの余裕はない!


チラリとコメントを見ると──目で追えない速度だ。端々に『ロリ』という言葉が見える。誰がロリか!不可抗力だ!


恥ずかしさに体が縮こまる。今頃ラートリアとかはポカンとしてるんだろうなと思うと死ねる!無心だ無心──

なお、この仕草によってコメントがさらに加熱していたりするが、俺は気が付かなかった。


後ろからガバリと抱きしめられたから。


「わっ」

「いやああああああんもうなぁにこの娘ッ、可愛いわああああああ!」


すごい力で抱きしめられる。体格差で俺は為すすべがなくジタバタするしかできない。

別に俺は、オネエに忌避感はない。ゲームのオネエは大概いい人だから、そのイメージもあるだろう。それでも苦しいものは苦しい。

何度も腕をタップしているが、放してくれる気配がない。


「まあまあコスモス氏。ドレス氏も苦しんでいる。気持ちは分かるがそろそろ放してあげたらどうだい?嫌われてしまうよ?」

「んまぁ!こんな可愛い堕天使ちゃんに嫌われたら私死んでしまうわ!ごめんなさいね?」

「ん。大丈夫」


奇遇だな、俺も死にそうだよ、心が、とは言えず。


「ところでドレス氏」

「ん?」

「付かぬことを尋ねるが、他のゲームの経験は?その名前に見覚えがあってね」


ギクリとする。確かに俺は他のVRゲーでもこのPNを使っている。幸い『みんなのVスポ体育館』では本名を使っているため我妻選手は確信していないが……


「……ある」

「そうかそうか。ネームだけは見かけたことがあったが、まさか正体はこんな可憐な少女だったとはね」

「あらハズバンド、浮気?二重でそれはダメよぉ」

「安心したまえ、私は妻一筋だよ」


セーフ!耐えた。正直に言うのが正解だったか。


「うんうん、早速交流ができて喜ばしいですねぇ。ではそろそろ席にお願いします」


朱雀がそう言うと、小さなUFOのような白い円盤が3枚現れた。あれが椅子のようだ。


というわけで、俺は席に──ではなく、コスモスの膝の上に座った。隣の席空いてるのに……がっちりとしたシートベルトだ。俺の目は死んだ。

あ、おい朱雀、椅子を片付けるんじゃねえ。座るかもしれないだろうが。


「さてさて、ゲストの自己紹介に気付いた方もいらっしゃることでしょう。というわけで最初はこちら!」


朱雀がそう言うと、カメラの前に大きくウィンドウが出現する。

それとは別に通常サイズが俺たちの目の前に現れた。


「こちら、先日行われた防衛戦の結果でございます。ハズバンドさんにはウェーブランキング1位として、コスモスさんとドットレスさんには特別賞受賞者として来ていただきました」


朱雀は周囲を飛び回り、説明を続ける。


「ランキング公表時、いくつかお問い合わせを頂きましたね。特別賞とは何だと。これについては急遽追加したことを謝罪させていただきます」


朱雀が空中でペコリと頭を下げる。他の白虎、青龍、玄武も頭を下げる。

マスコットな見た目で騙されそうになるけど、中身は天下の四天王グループの長だからね?頭下げてるのなんてニュースでも見たことないんだが。


「ですが我々はどうしてもこの2組に特別賞を与えたかったのです。第1開拓地の防衛風景も合わせて見ていきましょう!」


あー、なるほど。メールに防衛戦風景の公開についてあったっけ?


最初は第44開拓地だ。ここは特別賞以外にランキングが載っていなかったが、さて──

***用語解説***

【Wetube】

オンライン動画共有サービスの1つ。時間泥棒その1。「つべ」とも。


琥珀「そう言えば、一はどういうの見てるの?」

一「俺?専ら何か作ってるかゲームしてるかだから動画はあんまり見ないんだよなぁ。琥珀は?」

琥珀「私は結構Wetuber見てるよ。20人くらい?」

一「え、多いな。20人って見るの大変じゃないか?」

琥珀「んー?いや、そうでもないけど。同時に何人か見たりとかもするし」

一「ふーん……そういうの天人とか嵌まりそうだけど」

琥珀「あー、いや意外とそうじゃないんだよね。天人曰く何かが違うみたいよ。それでも数人見てたはずだけど」

一「あいつ、こだわり強いな」

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