死神、運命の町へ
ここは、とある小さな町を見守るように建つ給水塔の頂上。
それはさも面倒そうに、次の標的であるこの長閑な町を見下ろす。
長閑とはいえ、夜になるとコンビニエンスストアや点在する住宅の数々が煌々と明かり、ここに多くの命が息づいている事実を確かに知らせる。
金のふわふわした猫っ毛、黒づくめのいでたち。美しいがどこか軽薄な印象を与える顔立ちをしたその男は、世間一般で言うところの『死神』と呼ばれる存在だった。
「もー、いつになったら終わるわけぇ、この『任務』ぅ……」
自らの名前なんてとうに忘れるほど生きたその男――便宜上、ここからは『死神』と呼ばせてもらおう――は不満げにひとりごち、手にした小型の鎌、その柄についた水晶の中で揺れる血色の液体を睥睨した。これが満ちるまで、帰らないよう厳命されているのだ。
はじまりは数ヶ月前。
死神よりも相当に格上である神、いわゆるこの世の『創造神』から、死神は世界に増えすぎたヒトの魂の『間引き』を任された。
(は? そんなの知らないし。これだから、万年発情期さんたちはさぁ〜!)
死神は気ままで、なかなかに不遜な男ではあったが、さすがに『創造神』からの命に逆らえるはずもなく。口の端をひくひくさせながらも請けおったのであった。
「もおお、面倒面倒面倒ぉ〜。あのオネエ、老けてくんないかなぁ……」
何億年経っても見目麗しい『創造神』へ若干の呪いめいた言葉を吐きだしてから、死神はからだにまとったファーを模す『羽衣』を使い、ふわり、と闇夜を舞った。