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セレスティアに正式な移動内示が出てから、3日後の朝。
王都近郊の物件の中でも比較的安く借りた自室で、セレスティアは紅茶を飲みながらとある書類を読んでいた。
「…全く、どいつもこいつも仕事が適当すぎる。隊のことを知ろうともせずに、よくもまぁ戦隊長なんて名乗れたものだな」
そこに記されていたのは牙隊についた隊長が書くように指示されている、隊員それぞれの情報だ。
とりあえず過去2年分の資料をもらってきた。その間に牙隊の隊長に就いた者は5人。
つまり、5人の上官から見た、それぞれの隊員の情報が得られるとセレスティアは思っていたのだが。
「まともに書いた奴が一人もいないなんて」
まず、牙隊は100人ほどの中隊と聞いていたのだが、この資料ではそれぞれが50人すらも存在していない。
一番多い人数でも48人分しか存在しないのだ。
他の隊では当然にあるはずの顔写真も、誰一人として撮っていない。
極め付けは、それぞれの資料に書かれている“隊員の素行・性格”の部分が、同じ人間を評価しているというのに驚くほど合っていないということ。
例えばツヅラというこの隊員。
前の隊長の書類では『凶暴』とかかれ、その前の隊長は『人懐っこい』、さらにその前は『冷静沈着』と記されていた。
主観が変われば見方も変わるというのもわかっているが、さすがにこれは変わりすぎだろう。
しっかりと調査せずに、適当に書いていたのがバレバレだ。
「…仕方ない、か」
こうなれば百聞は一見に如かず。
自分の目で見極めなければならない。
セレスティアは広げていた書類を全て閉じ、出勤の支度をして家を出た。
警備部隊の本部にあったセレスティアの荷物は、昨日のうちに全て機動部隊の本部へと移したため、今日は直接そちらへむかうことになっている。
着任して初日の今日は、やれ挨拶回りだ、署名だなどと、やらなければいけないことが山積みだ。
それを考えるといくらか足取りが重くなり、本部へ行きたくなくなる。
ふと、道の端にひっそりと置いてあった花束が目に入った。
目に毒となるほど、美しい赤を咲かせる花
“彼岸花”。
この国では、死人の弔いに捧げる花として有名だ。
おそらく、この道で誰かが馬にでも轢かれて亡くなったのだろう。
「ここはまだ、地獄の入り口…か」
ボソリと独り言のような呟きは、朝市で賑わう街中へと消えていった。