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西側は山脈、東側は海に囲まれた、自然豊かな国、シェルランツェ王国。
その名の通り、王による統治で栄える国だ。
現国王はナキト・リリス・アーバント。
初代シェルランツェ国王の子孫であるアーバント家の直系血族に生まれ、26歳ながら統率力のある王として多くの国民から支持されている。
その理由は、王に即位してからの戦績が良いことに由来するだろう。
西側の山脈を超えた先には、今もなお戦争中の敵国ロシュレ連邦共和国が位置する。
ロシュレとの大々的な戦争が始まったのは、今から約2年前。
戦争を仕掛けたのはシェルランツェ王国側、ーーつまりナキトだ。
父親である先々代国王のアルファイド・アーバントは殺戮を嫌う人で、他国との戦争を避け、自国の領土を奪取され続けていた。
そのため国民はこの王のことを『臆病者』と呼び、彼の悪い噂は国内に広がっていった。
その噂を統制するほどの力さえも、アルファイドは持っていなかった。
そんな父親の姿を見ていたナキトは即位後すぐに、弱体化の一歩を辿る国軍を管理下に置き、体制を立て直したのだ。
崩壊寸前だった国軍を三つの大部隊に分け、それをさらに小隊に編成し、国防の要を築き上げた。
王国が管理・保有する土地の警備を主とする、“国内警備部隊”。
王族の護衛や城内外の守護を主とする、“王都護衛部隊”。
他国との戦争や国の防衛を主とする、“機動部隊”。
さらに、それぞれの大隊のなかでも名を与えられた優秀な部隊が存在する。
警備隊のなかでも、国における機密情報を扱う建物、もしくは重要地点の警護を行う部隊を“針“。
王都警護部隊のなかでも、王直属の護衛部隊を“翼”。
機動部隊のなかでも、数々の死地を乗り越えた特殊機動部隊を“牙”。
それぞれに部隊長、各小隊長の席を置き、軍の状況が逐一報告されるようになったことで、国軍自体の強さは確かなものとなった。
即位してから、僅か2年。
ナキトは自らが軍の指揮に立ち、5年前まで自国の領土だった土地を見事奪還した。
この戦いは、長い間、他国から虐げられてきたシェルランツェ王国の怒りを具現化したかのようなものであり、国民の記憶に深く刻まれるものとなった。
戦争は、敗戦国だけでなく勝利国にも悲しみは必ずある。
勝利国にも、兵士の死や一生消えない怪我は存在するからだ。
だが、この戦いによって悲しむ人間が、この国には一人もいなかった。
なぜなら、この戦争に参加したシェルランツェ王国の生きた兵士は、誰一人亡くなることはなかったのだから。