サラリーマンは勝利したい!
男は外に出ると7人の敵がいるという。
7人というのはものの例えで、つまり大勢の敵がいる、という意味だけど、俺が敵と見据えるのは目下、眼前に座すこの男だけだ。
今日こそ勝利を我が手に!
「というわけで、先輩! 今度の金曜、半日有給お願いします!」
「何が、というわけだ。起きながら寝ぼけんなよ? この忙しい時期に、休みの許可なんて下りるわけないだろ」
くそっ、このヤロ! 俺が腰折って頭まで下げてるっつーのに!
ちょっと先輩で直属の上司だからって!
「でも先輩、ここ最近、土・日も休み無し続きです。あんまり無体なことやってると、そろそろ労働基準××署が黙ってないんじゃないですか?」
「おま、労働基準××署なんて伝説信じてるの? 一個人が泣きついたところで、業務範囲外ノータッチです、ってケースが殆どだ。それに俺らの仕事は奴らの管理下に属さない」
「…………」
「いや、無理だって。いま12月だろ? 休めるとか思う方がおかしいよ。しかも子どもの発表会なんて理由でさ」
「何言ってるんですか、先輩。我が子の晴れ舞台も見れないで、何のための人生ですか」
「発表会なら来年見たらいいだろ」
「来年! 来年はもう幼稚園卒園してます! 今だけなんです。去年も一昨年も休めず、今年が最後の機会なんです!」
「そんなの知らねーよ」
「半日の休みすら不可だって言うなら、この会社辞めます!」
「あ、そ。でも会社辞めて仕事失って困るのはお前自身なんじゃないの」
「それはそうですけど、でもそっちも困りませんか?」
「当然、社会人として引き継いでから辞めろよ」
「勿論引き継ぎますけど……。俺の担当業務、毎日生まれる新生児の新規登録、”サンタなんかいない”と言い始めた子の卒業処理。日々膨大な量の個人情報を、厳重な管理下で回してるんです。そのためのシステムだって構築しました! ”社員多しと言えど、任せられる人材は限られてるねぇ” そう社長から言われた内容です。これ結構大変ですよ? それをクリスマス直前の今、引き継ぐ意味、わかりますよね?」
「……お前……」
「先輩~~。半日、半日だけですから。それで俺という戦力を失わずに済むんです。お願いします、認めてください」
……勝てた! 初めて。
ああっ、うちの子、センターだ! 休めて本当に良かった。明日からの先輩が一層怖いけど、いまはこの感動に浸ろう。
幼稚園で舞台動画撮りながら、むせび泣くサラリーマンパパを見たら、皆、応援してあげて欲しい。
お読みいただき有難うございます。
……皆いろんな場所で戦い頑張ってるよねぇぇ(T□T)というお話。
小説ではせめて気持ち良く勝ってみました。現実でこれが言えたらなぁ。
会話形式で1000文字書くの、はじめてです。投下するの、すごいドキドキする。評価・ご感想お待ちしています(*゜д゜*;)
なお特定の団体に似た名称が出ていますが、ファンタジー界の全く架空の存在です。
他にも「なろうラジオ大賞2」参加しています。作者マイページはコチラ↓
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