冒険九日目 ゴーレム退治
冒険者になって九日目。私は早速ギルドへと赴いた。
ギルドの中では、カスミちゃんが待っていた。
「お、おはようございます、フィーさん」
昨日と同じく、かしこまった感じでカスミちゃんがぺこりと頭を下げた。私もおはようと返す。
カウンターの方にはいつも通り受付さんがいた。彼女へも挨拶をする。
「おはようございます、フィーさん、カスミさん」
先日の徹夜振りはもう無く、受付さんは笑顔で対応してくれた。
そのまま受付さんはわたしとカスミちゃんを交互に見てきた。
「まだ正式な報告は聞いていませんでしたが、どうですか? お二人はうまくやっていけそうですか?」
私はカスミちゃんといったん顔を見合わせ、多分大丈夫です、と告げた。
「わ、私もフィーさんとならうまくやっていける気がします……!」
私ののほほんとした答えとは対照的に、カスミちゃんは真剣な表情で言った。
そんな懸命になるほど何かしたっけ、私? 肯定されてるから別にいいんだけど。
「分かりました。とりあえず問題はなかったようで安心しました。それではこれからのお二人の活躍に期待しつつ、依頼をご案内しますね」
ご案内。ということは、今日は指定の依頼がある感じですか。
「ふふふ、察しがいいですね。本日の依頼ですが、ぜひこちらを引き受けていただきたく」
受付さんが差し出した依頼書を受け取る。
内容としては、ゴーレムを退治して欲しいというものだった。
「ゴーレムって、操霊術士が作る人形のことですよね?」
カスミちゃんが受付さんへ尋ねる。
ゴーレムは分かるけど、操霊術士?
「魔法使いの一種ですね。物体に魔力を込めて、人形として使役する人たちのことです」
受付さんが丁寧に答えてくれる。
「ゴーレムは簡単な命令を聞くので、荷下ろしなどの労働力に使われたりもしています。それが今回は暴走して脱走したらしくてですね」
暴走。もうそれだけでダメな響きだなあ。
「どうもゴーレムの素体に粗悪品をつかまされたそうで、それで命令を聞かずに逃げられたという話です。幸い、町の外に行ってしまったのでマシロ内での被害はありませんが、見つけて倒して欲しいと」
なるほど。でも退治ってことは、壊しちゃっていいんですか?
「はい、それは問題ありません。一応、放っておけばそのうち魔力が切れて止まるんですけど、通りがかった人が襲われないとも限りませんし」
「もしそうなったら大変ですね……」
そうだねえ。じゃあ、その依頼引き受けます。
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」
「頑張りましょうね、フィーさんっ」
カスミちゃん気合入っているなあ。
まあ、お互い無理せず頑張ろう。
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さて、町の外の平原へとやってきた。
今のところ、ゴーレムの姿はおらず、いつものスライムたちしか見かけていない。
この辺にいるのは確かなんだろうけど、どうやって探したものかな。
「えっと、足跡を追ってみるのはどうでしょう。ゴーレムは大抵、泥や樹木、鉄などで作るそうですから、足跡は分かりやすいはずですよ」
おお、助言ありがとう。にしても、カスミちゃんよく知っているね。
「い、いえ。本で読んだだけで……自分じゃ使えないですし」
そうなの? それでも助かるけど。勉強家なのね。
「ち、違うんです。その、自分に使える魔法が他にないか探してて、たまたま覚えてただけで……」
おうふ。何かいたたまれないことを聞いてしまった。
えーと、話を切り替えよう。
そういや、私は魔法使いだから、ひょっとしたらゴーレムを作れるのかな?
「どうでしょう。操霊術は専門的な能力だそうですから……でもひょっとしたら出来るかもしれません」
材料そろえて試してみようかな。作れたら色々役に立ちそうだし。
「そうですね。帰ったら私もゴーレムのことが載った本を探しておきます」
助かるよー。いやあ、カスミちゃんがいてくれてよかった。
「い、いえ、そんなことはないですよ」
慌てて否定するものの、カスミちゃんは嬉しそうだった。
そんなこんなで足跡を探してうろついていると、平原にあちこち土のかけらが落ちているのを発見する。
この辺りの地面の物とはちょっと違い、粘土のような質感の土くれだった。
ひょっとしてゴーレムのものだろうか?
二人そろってきょろきょろすると、カスミちゃんの方が声を上げた。
「あ、いました!」
言われて振り向けば、草にまぎれるようにしてゴーレムが寝そべっている。
何だ? お休み中なのか?
まあ、チャンスだしここはさっさと仕留めてやろう。
私はゴーレムへ向けてウィンドカッターの魔法を唱える。
風の刃は寝たままのゴーレムの首をスパーンと切り飛ばした。
近くの地面にぼとりと頭部が落っこちた。
「ひゃっ!?」
……おお。何かあんまりにも見事に切れたな。カスミちゃんも思わず小さく悲鳴を上げている。
ちょっぴり残酷だが、まあ仕方ない。これで依頼は終わり――
「! フィーさん!」
カスミちゃんが驚いた声を上げる。
ゴーレムは頭のないまま動いて立ち上がった。
ひえっ。人形とはいえ、その姿はさすがに怖い。
同時に私は、相手が生き物でないから、首が飛んだところで意味が無いことに気が付いた。
ゴーレムはこちらへ突っ込んでくる。目も耳も鼻もどうやって私たちを認識しているのかは分からないが、多分そういう感覚機能があるんだろう。
とにかく私は魔法で応戦する。突進してくる相手の体をウィンドブラストで叩き返した。
「す、すごいです、フィーさん!」
カスミちゃんが尊敬の眼差しを向けてくる。
えーと、悪いけど今はそれより、何かゴーレムの弱点とかない?
「あ、はい。材料によりますけど、あれはクレイゴーレムですから水が効きます!」
うむ、ありがとう。
私はすぐさまゴーレムへ向けてクリエイトウォーターの魔法を使う。
ゴーレムの全身に滝のような勢いで水がぶつけられる。
全身水浸しになったゴーレムは、形を保てずに崩れてしまった。
今度こそ倒せたようだ。
「やりましたね! ……でも何だか少し可哀想な気がします」
カスミちゃんがぽつりと呟く。
確かにゴーレムが悪いわけではないからなあ。
本当に悪いのは、粗悪な素材を持ってきたどこかの誰かだ。そんなことされたら、ゴーレム作ってくれる人が困るじゃない。
……おや。ゴーレムの中から妙な石が出てきた。
魔石とはまた違う、真っ黒な石である。
「あ、それはゴーレムに命令を利かせるための核ですね。……でもこんな色だったかな?」
ふむ? 何かありそうな雰囲気だな。
せっかくだから持ち帰っておこう。退治した証拠になるし。
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冒険者ギルドに戻ってきた私たちは、すぐさま受付さんの元へ向かった。
「無事にこなせたみたいですね。魔石があれば提出してください」
今回は魔石を手に入れていない。
代わりにゴーレムから手に入った、あの黒い核を手渡した。
「おや、これは?」
「あの、倒したゴーレムから出てきたんです。多分核だと思うんですけど、どうも色が違うみたいで」
カスミちゃんの説明に、私も横で同意して頷いてみせる。
受付さんはしばらく、うーん、と唸っていたが、すぐにいつもの笑顔に戻って告げた。
「分かりました。これはひとまずお預かりします。あとで誰かに調べてもらいましょう。それでは報酬です」
今回は銀貨一枚を二人で割って銅貨五百枚ずつ。それと核の回収に追加で銅貨百枚ずつもらった。
「あの、フィーさん、お疲れさまでした」
うん、カスミちゃんもお疲れさま。
「い、いえ。今日も私、見ているだけだったので、フィーさんに任せっきりで。どうもすみませんでした」
気にしなくて大丈夫だって。今日はアドバイスもらって助かったし。
どうもありがとう。また明日。
「はい! また明日!」
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宿に戻った私は、いつも通り夕食を頼んだ。
財布の軽さはあんまり変わっていないが、節約はせず普通に注文する。どうせならメインを減らしてデザートを増やせばよかったかも。
一日が終わる。
部屋に戻った私は、明日も頑張ろうと思いながら、ベッドで眠りについた。




