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一日ひと狩り冒険者  作者: kuro
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冒険八日目 カスミ=イチジョウ

 冒険者になって八日目。私は早速ギルドへと(おもむ)いた。


 いつも通り受付さんが血走った目でこちらを――

 え、いやまて。今何かおかしかったぞ。血走った?


「……おはようございます、フィーさん。ふふふふふ」


 笑顔を向ける受付さんの顔には大きな(くま)が出来ている。

 血走ったと思った眼はただの充血で、全身から疲労がにじみ出ている。

 別にモンスター化したとかそういうことではないらしい。


 一体どうしたんですか。何があったんですか。


「ちょっと張り切って仕事をこなし過ぎまして……」


 徹夜したんですか? 大丈夫ですか?


「ふふふ、お気になさらずに……それよりご要望のお仲間、見つかりましたよ」


 えっ、マジですか。昨日の時点だと「今日明日は無理」って言ってませんでした?


「頑張ればなんとかなるものです。とりあえずひとり、タイミングよく見つかりました」


 おお、ありがとうございます。


「ただ……問題がないわけではないです」


 問題ですか? 何やら不穏な。


「あ、もちろん合わなければ断って構いませんからね。私が徹夜したとかそういう他の事情は一切考慮しなくて大丈夫です。ばしっとフィーリングで決めちゃってください」


 いいんですかね。尽力してもらったのに。

 あと受付さん、テンションのせいかちょっとフランクになってません?


「いえいえいえ、そんなことは。ま、とにかく顔合わせということで、こちらへどうぞ」


 受付さんはそう言ってギルド内の応接室を手で差し示した。

 何はともあれ会ってみないことには始まらない。

 私は言われた通り、新たな仲間の待つ部屋へと入っていった。


▼▼▼▼▼▼▼▼


 さて受付さんと共に部屋へ入ると、そこには背の低い、可愛らしい女の子が待ち受けていた。

 女の子は、短く切りそろえた栗毛の髪を揺らしながら私の方を向いた。緊張しているのか、もじもじと両手をいじっている。


「はい。ではお互い自己紹介からどうぞ」


 受付さんの一声で、女の子の緊張がさらに高まったのが見て取れる。

 こっちから言った方がよさそうだな。


 ども、初めまして。フィーと申します。


「……は、はひゅっ……は()()めまして! カ()()ミ=イチジョウと申しま()()!」


 噛んでる。超噛んでる。

 緊張するのは分かるけど、大丈夫かこの子。

 ていうか、今の名前は噛んでるのかそうでないのか、どっちだ。


「カスミ=イチジョウさんは、アサグロの町からこちらのマシロへ移ってきた冒険者です」


 さらりと受付さんがフォローするように告げる。さすが仕事の出来る女。

 うむ、カスミちゃんね。

 ん? 待った。他の町から?


「ええ、ですから冒険者としてはフィーさんより先輩ですね」


 へー。……って当たり前か。既に冒険者になっている人は、八日の私より先輩に決まっている。


「カスミさん。こちら、一週間ほど前に冒険者となったばかりの新人のフィーさんです。先達として、出来る限り力になってあげてください」


「ふえっ!? わ、私がですか!?」


 よろしくお願いします、先輩。


「せ、先輩……私なんかが……ふ、ふ()()()()かものですがよろしくお願いしま()()


 カスミちゃんは真っ赤になりながら腰より低く頭を下げる。

 うーん。本当に大丈夫か。

 そもそも落ち着いて話が出来る子っていう要望を満たしてない気がするけど。


「あ、問題は他にあるので、気を付けてください。とりあえず態度の方は、話し慣れれば落ち着くと思いますよ」


 え、何その物凄く不安になる忠告は。


「じゃ、後は若いお二人だけで……私はさすがにベッドへダイブしてきますんで」


 あ、はい、お疲れさまです。


 見合いの(しゅうとめ)みたいなことを言いつつ受付さんは出て行ってしまった。

 後に取り残されるカスミちゃんと私。


「え、えーと、えーと」


 話題でも探しているのか、カスミちゃんが必死な呟きを(こぼ)している。

 彼女が慌てているのを見ているせいか、私の方は存外冷静だ。

 打ち解けるための会話も大事だが、私たちは冒険者。何はともあれ依頼を受けてこよう。


 というわけで行こう、カスミちゃん。


「あ……は、はいっ」


▼▼▼▼▼▼▼▼


 さて、わたしとカスミちゃんは平原へとやってきた。

 お手軽依頼と言ったらやっぱりあれよ、あれ。スライム退治。これならまず危険はない。


 それで私の方は魔法使いなんだけど、カスミちゃんの職業は?


「わ、私は治癒士です。その、回復に(かたよ)った魔法使いというか」


 あ、そうなんだ。

 一応これ、お互い魔法のことを知っているから、いざとなったら相談できるのかな。


「その、フィーさんはいくつ魔法を扱えるんですか?」


 私? 私は下位の魔法をひと通り使えるけど。


「すごいです……! 私は簡単な治療と補助しか出来なくて……」


 まあ治癒士ならそういうものじゃない?

 私はむしろありがたいけど。


「ありがたい、ですか?」


 だって回復魔法使えないし。カスミちゃんが出来るなら安心していいなーって。


「……うっ」


 私が言った途端、カスミちゃんは何故か泣き始めた。


 うおおおい。どうしたのっ。何か気に(さわ)った?


「い、いえ、すみません。……私、前の町でパーティーのお役に立てなかったので。なのに、そんな風に言われるなんて嬉しくて」


 そうなの? 回復とか補助が出来るなら重宝されそうなものだけど。


「いえ。大怪我を一瞬で回復する様な、強力な治癒士ではありませんし。それに他の皆さん、お強いので私は見てるだけがほとんどで……その内、報酬泥棒と言われ始めて……」


 おおう……そりゃ確かにつらい。

 それで居心地悪くなったからマシロに来たと。


「はい……すみません」


 いや、謝る必要なんてないから。

 話しづらいことなのにわざわざ言ってもらって、こっちが申し訳ない。


「い、いえそんな」


 何にせよ、私は一緒に協力して冒険してくれるなら、歓迎するよ。


「……! は、はいっ。こちらこそよろしくお願いします!」


 うん。じゃあまずはスライム退治を一緒にやっていこう。


「はいっ、よろしくお願いします!」


 カスミちゃんは礼儀正しく頭を下げて私の後についてくる。


 問題って要するにこういうことだったのかな?

 よく分からないうちに解決したみたいだけど、まあよかったよかった。

 カスミちゃん、いい子っぽいし、これなら一緒に組んで大丈夫な気がする。


▼▼▼▼▼▼▼▼


 仕事を終えてギルドへ戻ってきた私たちは、男の受付さんへ魔石を提出する。


「確かに。では報酬です」


 今回は銅貨三百……を二人で分けて百五十である。

 改めて考えると、この辺の仕事って安いんだなあ。ソロならともかく、確かに冒険者は根付きにくそうだ。


「今日はありがとうございました」


 またカスミちゃんが頭を下げてくる。

 私は、気にしなくていいから、と告げる。

 明日になったら正式に組むことをいつもの受付さんに伝えよう。


 あ、そういえばカスミちゃんはどこに住んでるの?


「私はこの町にいる親戚の元へ居候しています」


 そうなのか。私は宿に帰るから、ここで言ったんお別れだね。

 じゃあ、また明日。


「はい! また明日!」


 元気よく見送るカスミちゃんに手を振って私は宿へ向かう道を歩き――ふと、何か忘れているような気がして立ち止まる。


 ……? あっ。

 ヴェインさんとこで靴を受け取るの忘れてた。


▼▼▼▼▼▼▼▼


 だいぶ遅くなってから受け取りに行ったが、ヴェインさんは全く気にしていなかった。

 受け取った靴は、外見こそただの革靴だったが、軽くて歩きやすく、おまけに疲れにくい物だという。

 とりあえず早目に履き慣れないといけない。明日からはこれを使っていこう。

 今から履いてもいいんだけど、新品の靴ってなんとなく次の日の朝から試したくなる。ならない?


▼▼▼▼▼▼▼▼


 宿に戻った私は、いつも通り夕食を頼んだ。

 報酬は多くなかったから、贅沢(ぜいたく)はやめておいた。でもデザートの誘惑には負けた。


 一日が終わる。

 部屋に戻った私は、明日も頑張ろうと思いながら、ベッドで眠りについた。

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