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一日ひと狩り冒険者  作者: kuro
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冒険五日目 訓練&スライム退治

 冒険者になって五日目。私は早速ギルドへと(おもむ)いた。


「おはようございます、フィーさん。依頼をご覧になりますか?」


 昨日と同じく受付さんが笑顔で出迎えてくれた。こちらも挨拶を返す。

 受付さんが壁の掲示板を手で差し示した。


「本日の依頼はこのようになっております」


 私は掲示板を見る。

 昨日の下水道の壁修理の護衛依頼がもう出ている。

 これ、どうしようかな。自分に責任の一端があると思うと引き受けておきたい。

 でも二日続けて下水道というのも気が滅入る。できれば今日は外に行きたい。

 それに、少し今の職業についてやっておきたいことがあるんだよね。


 というわけで、引き受ける依頼を受付さんへと伝える。


「はい、えー……スライム退治ですか?」


 はい、それでお願いします。


「問題はないですけど、あなたの実力ならもっと報酬のいい依頼もありますよ?」


 いいです、いいです。ちょっと試したいことがあるので、簡単なものがいいんです。


「訓練か何かですか? 分かりました、ではこれで受諾しておきますね」


▼▼▼▼▼▼▼▼


 さて、やってきました平原。

 いつも通りスライムたちがぽよぽよ跳ねている。

 初日も思ったけど、この子たち何か害があるように見えないな。

 意外とペットとかに出来たりする?


 思い付いてしまったので、試しに近づいてみる。

 うねうねと動くゼリーみたいな軟体に、私はそっと触れてみる。

 おお、すべすべだ。これが玉のお肌か。モンスターのくせにうらやましい。

 少しくらい私に分けてくれイッタ!?

 痛い! 何だ今の!? 手が痛い! 噛みついたの!? それとも酸か何か!?


 私は驚いて、いったんスライムから離れた。

 手を見ると、火傷したように真っ赤になっていて、じくじくと痛む。

 うぬぬ。害がなさそうに見えてもやっぱりモンスターか。

 薬草塗っておこう。


 つい好奇心に負けてしまったが、仕切り直して。

 訓練だよ訓練。

 先日の下水道の件で、今の自分には複数の魔法を同時に扱えないってのが分かったから、逆に現状で何が出来るか色々試そうと思ったのだ。


 というわけでスライムちゃんよお。お前たちは私の訓練のための実験材料だ。

 くっくっくっ、覚悟しろい。これはさっきいきなり攻撃された恨みなどはこもっていない、決して。


▼▼▼▼▼▼▼▼


 魔法を調節しながらスライムを狩ること数十分が経過。

 MPにはまだまだ余裕があるけれど、小休止して今までの立ち回りを振り返る。


 結論として、私はどうも二つ以上の魔法を操るのに向いていない。

 全くできないってわけじゃないのだが、ひどく難しい。

 例えるなら、右半身だけ全力でバック走しながら、左半身は前へ向かってダンスを踊るみたいな、無茶苦茶な操作を要求される。


 一応、立ち止まって思い切り集中するなら何とかなる。

 だけどやりたいのは、辺りを照らす光を維持したまま攻撃魔法も使うという行動だから、はっきり言って意味がない。

 それに攻撃魔法は動く相手を狙うわけだから、更に集中が必要となる。

 多分、本格的な実戦でそんなことしたら頭がパンクする。


 何ともネガティブな結果になってしまった。

 でも収穫がなかったわけじゃない。


 複数の魔法を扱うのは苦手だが、その反面、単独の魔法を扱うのには苦労しない。

 大半の魔法使いは、扱える個々の魔法に得意不得意が少なからず生じるものだそうだ。

 火は得意だけど氷は苦手、風は扱えるけど他はからきし、みたいな。

 私はそういったことが特にない。光を使える一方で、闇とか呪いとかだって不自由なく発動できる。

 おまけにそれらの魔法の範囲や威力を自在に制御できる。


 何だろうね、一点突破というのかな、こういうの。

 とりあえず、これが私の今の特徴というわけだ。


 ただやっぱり問題はある。

 何しろ上位の魔法は基本的に、複数の魔法を組み合わせて発動するものだ。

 このままだと、私はいくら鍛えても上位魔法を使えるようにはならない。

 別に困らないんじゃないかって?

 モンスターを攻撃する分にはそうかもしれないけど、補助魔法も併用できないからね。不便ではある。

 それに、やっぱり上位の魔法を撃てる方がロマンがある。


 職業適性では魔法使いが飛び抜けている、と言われたから、何か方法はあるはずだと思うんだけどな。


▼▼▼▼▼▼▼▼


 じっと考えを巡らせていると、聞き覚えのある鳴き声が私の耳に届いた。


「ギョーーーーーーッ!」


 ん? え、この声は。

 振り向くと、そこには目を血走らせた一匹のサハギンが立っていた。


「ギョギョギョギョッ! フィシャー! シャー!」


 サハギンは川の方を手(ヒレ?)で示しながら(わめ)く。続けて私の方にも手を突き付ける。


「ギョ、ギョギョギョ! ギョッ!」


 ……ああ、うん。言葉は全然分からないけど、意味はとても伝わる。

 川底に冷凍され、仲間から置き去りにされたことに、物凄く腹を立てているのだろう。

 ていうかコイツ、自力で脱出したのか。すごいな。


「ギョーーーーーーッ!」


 甲高い鳴き声を上げ、サハギンが襲い掛かってくる。

 間髪入れずに私は、もう一度アイスボルトで氷漬けにする。


「ギョッ!? ……ギョ~、ギョォッ!」


 なんとサハギンは全身の血流を漲らせ、一気に肉体を膨張して氷を弾き飛ばした!

 どうなってんだコイツ。ひとりだけ別次元に到達しているぞ。


「ギョッフォ~……!」


 暑苦しそうな息を吐きながらサハギンはぎらりと私を(にら)む。

 まるで「お前の技は私には通じん!」とでも言いたげだ。

 うん、そうか。じゃあ焼こう。


「ギョーーーーーーッ!?」


 私が火を放つと、せっかくの膨張した肉体もなすすべなく焼き焦げた。

 しょせんはサハギンか。

 倒した証に魔石が転がる。別にいつもより大きいとか色が違うとかそういうことはない。

 氷じゃHPが削り切れなかっただけか。なんて(むな)しい。


▼▼▼▼▼▼▼▼


 色々悩んでみたものの、やはり今はどうしようもない。簡単に解決案が出てくるはずもなかった。


 まあ、冒険を始めてからまだ五日目だ。行き詰ったと感じるには早すぎる。

 そのうちなんとかなるだろう、と楽観的に考えながら、私はギルドへ戻った。


▼▼▼▼▼▼▼▼


 冒険者ギルドに戻ってきた私は、すぐさま受付さんの元へ向かった。


「無事にこなせたみたいですね。それでは魔石を提出してください」


 私は言われた通り魔石を手渡した。


「はい、確かに。では報酬です」


 銅貨二百枚。今回は乱獲はしなかったから少なめだ。


「どうですか? 何かつかめました?」


 んー。ぼちぼちです。


「そうですか。困ったら、いつでも相談してくださいね。出来る限り力になりますから」


 ありがとうございます。


▼▼▼▼▼▼▼▼


 宿に戻った私は、いつも通り夕食を頼んだ。

 報酬は多くなかったから、贅沢はやめておいた。でもデザートは(ゆず)らない。


 一日が終わる。

 部屋に戻った私は、明日も頑張ろうと思いながら、ベッドで眠りについた。

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