冒険二十四日目後編 辿り着けた場所
最終話です
「だからさあ、こんな依頼じゃつまんねえって」
冒険者ギルドのカウンターに肘を乗せ、マサカゲくんは前と変わらぬ様子で詰め寄る。
「せっかくの復帰なんだから、もっと派手なのやらせてくれよ。俺の腕なら楽勝だってば」
ふんぞり返るマサカゲくんに対し、受付にいる私は大きく首を振った。
ダメダメ。実力があるのは知っているけど、マシロでやるんなら薬草摘みからね。
「ケチだなあ。知り合いなんだからそれくらいゆーずーしろよな」
文句言っていると依頼受けさせないよ。大体、知り合いって言ったってそんなに深い仲じゃないじゃない。
「えー、何言ってんだよ。宿命のライバルだろ。半年前、俺のダークブレードを壊したのを忘れたとは言わせないぞ」
直接壊したのシノブくんなんだけど。あと私はもう戦えないから、ライバルではありません。
「くそう、ずるいぞ。勝ち逃げだ、勝ち逃げ」
はいはい。いいから薬草集め、してきてね。君ならぱぱっとやれるでしょ。
「ふんだ。いいぜ、今までで一番多く摘んできてやる。待ってろよっ」
私が素っ気なく返すと、マサカゲくんはすねるようにギルドを飛び出していった。
やれやれ。気を付けてねー。
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黒晶石が砕けたことで私は死んだ――死ぬ、はずだった。
だけど助かった。
ベッドの周りでみんなが泣いている中、私は空気を読まず、ひょっこり起き上がったのだ。
当然、カスミちゃんはボロボロ泣いて、骨が折れるくらいの勢いで私に飛びついてきたし、シノブくんには「何で生き返ってるんだよ!」と泣きながら怒られる始末だった。
後から見舞いに来てくれた受付さんやヴェインさんは大層喜んでくれた。
ヨミさんも同じだったけど、何故助かったのかが占いでも判明せず、かなり困惑していた。
どうして私が生きていたのか、それは私にも分からないままだ。
そもそも自分が黒晶石で動いていたことさえ、どこから知った話だったのか。その辺りのことは、記憶からすっぽり抜け落ちている。
いずれにせよ私はこうして今も生きている。ただ、まるきり無事ともいかなかった。
改めて体の不調がないか調べた時に、自分の体から魔力が大きく失われていることが分かった。
念のため職業適性の検査をしてみると、およそ冒険者に向くような才能は一切なくなっていた。
まあ、つまり冒険者フィーはそこで廃業せざるを得なくなったのだ。
それから半年が過ぎ、私は冒険者に代わる新たな職業を見つけた。
冒険者ギルドの職員である。
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「フィーさんっ、ただいま戻りました!」
受付で書類整理をしていると、溌溂とした声を上げてカスミちゃんがやってきた。
おや、お帰りなさい。
どうしたの、今日は。確かアオギリの町まで行っていたんじゃなかったっけ?
「依頼が一区切りついたから、こっちに戻ろうってイチジョウが言い出したんだよ」
渋い顔をしながらシノブくんが後に続いてくる。
「別に三日くらい離れたからって、そんなホームシックになることないだろうに」
「何言っているんですか、アキハラくんっ。本当なら一日一回はフィーさんの顔を見ないといけないのに、それを三日も離れていたなんて……私の中のフィーさん分が全く足りていません!」
力説するカスミちゃんは、私の両手をぎゅっとつかんでくる。
私ゃ栄養素かなんかかい。
カスミちゃんはそのままじっと私の方を見つめ、動物にでも囲まれたようなぽやぽやした表情になって佇んでいる。どうやら癒されているらしい。
シノブくんがすぐ後ろで大きくため息を吐いていた。相変わらず苦労性ね。
「……まあ、それはもういいや。それより、ちょっと嫌な情報にぶち当たったんだ」
シノブくんの顔が真剣味を帯びる。
何があったの?
「ほら。例の、コトハと取引して黒晶石を渡した魔法使い。あいつがアオギリの近くで目撃されたって話でさ」
「放ってはおけないですけど、かなり強いという話ですから、追いかけるのにも準備が必要です。なので、相談に乗ってもらおうかと思いまして」
一応、真面目な理由で戻ってきてたのね。
うーん、とは言っても今の私からのアドバイスなんて役に立たないと思うけど。
「そんなことは」
「話は聞かせてもらったぜ!」
威勢のいい言葉と共に、マサカゲくんがギルドに飛び込んでくる。
その背には大量の薬草が束になって積み上がっている。
おかえり。早かったね。
「このくらい余裕だっての。それより、聞いたぞ。ミカゲのやつをはめた魔法使いが見つかったんだろ? だったら俺も連れてけ」
臆面もなくマサカゲくんは二人へ告げる。
案の定、二人は戸惑い、シノブくんが苦い表情で口を開く。
「マサカゲ、お前、自分のしたこと反省してないのか? どうせまた黒晶石を手に入れようとしているんだろ」
「そんなことしねーって。俺だってちゃんと迷惑かけたって思ってるんだから。今度やるのは、悪の魔法使い退治だ。きっちりお返しして、俺はヒーローになるんだよ」
ふふん、と鼻を鳴らしてマサカゲくんは主張する。
シノブくんがとても困った顔をして私を見てくる。
大丈夫だと思うよ。多分、本気で言っているんだろうし。
あの事件の後、大人たちにずいぶん怒られたから、反省してかなり改めたみたい。
「そうそう。お前たちだけじゃ無理なんだろ? だから俺が助けてやるよ」
「これで改めた……?」
まあ、本人は善意のつもりだから。
剣士として強いのは確かだし。
「ふ、複雑です……」
「安心しろよ。もうバカにしたりしねーよ。ひとりじゃできないことがたくさんあるって俺も分かったし」
「あ……」
意外なほど真摯な言葉に、カスミちゃんも少しほっとしたような表情を見せる。
「だからお前たちには、俺を手助けする権利をやる。喜べよ、特別だぞ」
「あ、あー……そういう、方向性なんですね……」
カスミちゃんが困ったような笑顔で感想を呟いた。
根っこのところはあんま変わらないものだからねえ。
「これでコトハもそろってたら完全に元のパーティーだったな……」
「そういや、コトハのやつは? あいつも俺と一緒で、もう謹慎終わったんじゃないの?」
あー……うん。でもミカゲちゃんはちょっと、冒険者の復帰はあまり考えてないみたいでね
「え、なんでさ」
「……そのぐらいあいつも反省したってことじゃないのか?」
いや、そのね。……ちょっと占い師を目指しているらしくて。
「占い師? ヨミさんみたく?」
うん、まー……その。ヨミさんに助けてもらったから、どうもその職業に憧れたりなんだりしたとかしないとか。
「どっちなんだよ」
「あの、フィーさん。もしかして、妙な話がそこにあったりは」
だ、大丈夫。大丈夫なはず。ヨミさん、おじいちゃんだし。少なくとも、そういうことにはならない、はず。
「……二人とも、何の話してるんだ?」
「さあ、知らね」
ええい、このニブニブ男子どもめっ。
……ま、いいや。どうせヨミさんにも話聞いた方がいいだろうし、そこで大体分かるでしょ。
「ふうん? 確かにその方が早いか」
「よーし、じゃあ早速行くぞ、お前ら!」
「何でもう指揮を取っているんだ……」
先に出て行く二人を見届けつつ、カスミちゃんがひどく辛そうな顔で私を振り返った。
「フィーさん……あのう……」
頑張れ、カスミちゃん。二人を支えるのは君だ。
「うう……分かりました。行ってきます」
私はぽんぽんと肩を叩いて元気づけ、遅れて出て行くカスミちゃんを見送った。
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世界は目まぐるしく回る。
私が冒険を終えても、新たな居場所を見つけても、お構いなしに。
また今日も一日が始まる。
ギルドへ赴き、先輩になった受付さんと挨拶を交わし、冒険を続けるカスミちゃんたちを助け、ヴェインさんやヨミさんに世話を焼かれ、その他訪れる様々な人と話をして。
そして一日がまた終わる。
デザートを平らげ、部屋に戻った私は、明日も頑張ろうと思いながら、ベッドで眠りについた。
「また明日」
終わり




