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一日ひと狩り冒険者  作者: kuro
24/28

冒険二十三日目前編 私の意味

※作者注:執筆の時間が取れないので半端ですがいったん投稿しておきます。

1/14追記:改めて投稿完了しました。お待ちいただいた方にはご迷惑おかけしました。

 気が付くと真っ白な空間にいた。


 何だ、またここか。

 おーい、いるー?


 私は、誰もいないはずの虚空へ向けて呼びかけた。


「残る時間は少ない」


 何もいない空間から、声が響く。


 えっ、また私の寿命、縮んだの?


「そうだ」


 そう。まあもう驚かないけど。

 あとどれくらい動けるの?


()って一日だ」


 急だな、おい。

 いや、どうせ三日しか残ってなかったんだから、大して変わらないけどさ。


「あれでよかったのか?」


 ん? 何が?


「残りの時間では、もう一度冒険に出ることは難しい。であれば、あの戦いが最後にお前が成し遂げた冒険となる。あれでお前は、満足できたのか?」


 いや、全然。


「何だ、それは。ならばどうして生きあがこうとしない? 黒晶石を用いれば、お前の体は確実に持ち直すのだぞ?」


 だってあなたが使うなって言ったじゃない。


「推奨はしない、と言っただけだ。使いたければ使え。まだ冒険し足りないというならなおさら」


 それはやめとく。


「何故だ?」


 使う、って言ったらあなたが喜びそうだもの。だから絶対やらない。


「なんとまあ、薄情に見られたものだな」


 そもそも情があるように思えないんだけど。


「心外だな。前にも言ったが、お前を動くようにしてやったのは俺だぞ」


 そこのところもよく分からないんだけど。一体どうして私のことを動かしたわけ?


混沌(こんとん)。革命。世界をかき回す。お前自身は忘れているが、その身はかつて外法士(げほうし)が作り上げた殺戮(さつりく)人形だ。どこかでひとつ踏み外して、世界に変革をもたらすようになれば、とは期待していた」


 おいこら。やっぱろくでもない!


「転生者は転生者で便利だが、どうせ使うなら元々世界にある要素を使い回す方が都合はいい。リサイクル、いや、この場合はリユースか」


 ものすごい殴りたい。


「壁でも相手にしていろ。それに、余計なことに時間を浪費(ろうひ)している暇はあるまい? せいぜい残りの人生を有意義に過ごすがいい」


 くそう、覚えてろ。本格的にここへ来たら、絶対一発ぶち込んでやる。


「気に留めておくとしよう。では、この会話は目が覚めたら忘れてしまうから、しっかりと覚えておけ」


▼▼▼▼▼▼▼▼


 目を覚ますと、私はベッドの上にいた。


「フィーさん、大丈夫ですかっ!?」


 カスミちゃんがすぐ近くで、私の体を支えてくる。


「起きて平気なのか?」


 シノブくんも、カスミちゃんの隣から、気遣うように声をかけてくる。

 問題ないよ、と告げるが、二人は心配そうな表情を崩さない。


 えっと、とりあえずこの部屋は?


「アサグロのギルドだよ。急に倒れるから、運んでもらったんだ」


 そっか。いやあ、驚かせてすまんね。


「まったくだ。…………」


 シノブくんはどこか(つら)そうにしながら、顔を()らした。

 何だろう、と疑問に思うよりも先に、カスミちゃんが私の手を握って尋ねてきた。


「……どうして黙っていたんですか」


 え? 何が? どうかしたの?


「アキハラくんとヨミさんから、聞きました。フィーさんの体のこと」


 あ、あー……なるほど。そうか。バレちゃったのか。


「どうして話してくれなかったんですか!?」


 カスミちゃんが、滅多(めった)に上げないような大声で怒鳴(どな)った。

 その目には涙がにじんでいる。


 いやその、どうにも話せなくて。


「私には話す必要がなかったってことですか!? 私、フィーさんには伝えなくていい相手だと思われていたんですか!? そんなの、ひどすぎます……!」


 カスミちゃんは叫びながら、ぽろぽろと涙をこぼす。怒る以上に、悲しんでいるのが見て取れる。


 いやいやいや。違うって。そんないじめみたいなこと考えてないから。

 単に話しそびれてただけで……その、ごめんなさい。


「ぐすっ、本当、ですか? 私が、フィーさんに信用されてなかったからとかじゃ、ないですよね?」


 信用しないなんて、そんなことはあり得ないから。大丈夫だって。


「……はい、分かりました」


「だから言ったじゃないか。話す機会がなかっただけだって」


 シノブくんがフォローを入れるようにカスミちゃんへ言い聞かせる。

 カスミちゃんはまだ落ち着かない表情ではあったが、涙を(ぬぐ)いながらうなずいた。


 助け船ありがとう。でもねシノブくん。もうちょっと早く言ってもらいたかった。


「無茶言わないでくれ。仕方ないとはいえ、結局お前が話さなかったのが悪い」


 まあ、そうだけどさ。

 ええと、言いづらいんだけど、ついでだから伝えておこう。後だとまた言いそびれそうだし。


「……どうしたんですか?」


 不安そうに見返すカスミちゃんとシノブくんに、私は更に残酷な話を告げる。残りの寿命について。


「あ、あと一日って……」


「そ、そんな、そんなのって……ひどすぎます!」


 うん、まあ私もそう思う。

 けど、元が数百年前から動いてたってことを考えれば、十分長生きしてはいるわけだし。もうすぐ終わるとしても、これはこれでいいんじゃないかな。


「っ、何で、そんなに落ち着いていられるんですかっ……!」


 カスミちゃんの目に、再度涙がたまっていく。


「……何とかできないのか? 黒晶石で出来ているんだったら、それを使えば」


 シノブくんが尋ねるが、私は首を振った。


 持ち直すのは確かだけど、それをする気はないよ。


「どうしてだよ」


 多分、使ったら今の私じゃいられなくなるから。

 私は昔のことを忘れているけれど、あれを使ったら思い出す。

 そうなったら、今度は代わりにみんなのことを忘れるんだと思う。


「……じゃあ、助からないっていうのか? どうしても?」


 そうだねー。ヨミさんも先がないのは保証してたし。

 まあ、あれよ。結果がよかったかは分からないけれど、マシロとアサグロでの黒晶石の事件をひとつ解決できたわけだし。冒険の形としては綺麗に終わったってことで、いいんじゃないかな。


「そんなの、全然よくありませんよ!」


 あ、あれ。そう?


「……僕も、いいとはまったく思わない。まだ時間はあるんだよな? なら、アサグロにいる今のうちに、何か解決法がないか調べてみる」


 シノブくんはそう告げると、部屋を出て行く。


「……私も、皆さんに聞いて回ってみます。少しでも生き延びる手がかりがあるかもしれませんから」


 決意した顔でカスミちゃんも立ち上がり、部屋を出て行ってしまう。


 ……どうしよう。

 個人的には、もう別にいい、と思っているのだが、さりとて二人を止める明確な理由があるわけでもなく。なんとも言い表し難い感情に(とら)われながら、私は一人、部屋で(たたず)んでいた。


▼▼▼▼▼▼▼▼


 私がベッドで退屈に(うな)っていると、色んな人間が部屋に訪ねてきてくれた。

 まずはアサグロの受付さん。今回の件について貢献してくれたことへ、(ねぎら)いの言葉と報酬をいただいた。

 アサグロのギルド長は『個別に見舞うことは出来ないが同じく感謝の言葉を』と受付さんから伝言してもらった。


 続いてマシロの受付さんがやってきた。

 アサグロとの折衝(せっしょう)役として出向してきたらしく、ベッドにいる私の姿を見た途端、大層心配してくれた。

 この人にも隠すわけにはいかないと、私の体の事情を伝えると、とても複雑な表情を見せた後、こう言った。


「フィーさん。私は、避けられる事態があるのなら、死力を尽くして回避するべきだと考えています。しかし同時に、どうしても逃れ得ぬものが存在することも知っています。人の死です」


 深くため息を吐き、そしていつもの笑顔を浮かべて、受付さんは告げた。


「フィーさん。私はあなたと出会うことが出来て、あなたの冒険の一助を担うことが出来て、本当によかったと思います。あなたがマシロを助けてくれたことを、一緒にお茶したことを、他愛ない話をしたことを、生涯忘れません」


 そう告げて、受付さんは私と握手を交わした。


 最後にヨミさんがやってきた。

 何故かずいぶんとくたびれた様子である。

 というか、マシロに戻ったんじゃなかったの?


「色々野暮用が増えてのう。まったく苦労させられたわい。さすがにもういい加減、家へ帰ることにするよ」


 ふーん。何があったんだか。


「聞かんでいい。今さらお主が気を()むようなことも増やしたくないしの」


 やっぱり何かありはしたのね。けっこう大事(おおごと)そうなのかな。私にはもうどうしようもないから、聞かないけどさ。

 ヨミさんもけっこう進んで苦労を背負いたがるタイプだよね。シノブくんみたく。


「わしゃ、そんな風に見られていたんかい。あいにく、今回はこれっきりじゃ。しばらくは引きこもるよ」


 それがヨミさんの平穏な生活の最後なのでした。


「やめんかい。……まったく湿っぽいお別れは出来そうにないのう」


 別にいーのよ、それで。

 ありがとね、おじいちゃん。


「……ほっ、急に可愛い子ぶってもだまされんぞ」


 口ではそう言いながら、穏やかに微笑んでヨミさんは出て行った。

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