冒険二十三日目前編 私の意味
※作者注:執筆の時間が取れないので半端ですがいったん投稿しておきます。
1/14追記:改めて投稿完了しました。お待ちいただいた方にはご迷惑おかけしました。
気が付くと真っ白な空間にいた。
何だ、またここか。
おーい、いるー?
私は、誰もいないはずの虚空へ向けて呼びかけた。
「残る時間は少ない」
何もいない空間から、声が響く。
えっ、また私の寿命、縮んだの?
「そうだ」
そう。まあもう驚かないけど。
あとどれくらい動けるの?
「保って一日だ」
急だな、おい。
いや、どうせ三日しか残ってなかったんだから、大して変わらないけどさ。
「あれでよかったのか?」
ん? 何が?
「残りの時間では、もう一度冒険に出ることは難しい。であれば、あの戦いが最後にお前が成し遂げた冒険となる。あれでお前は、満足できたのか?」
いや、全然。
「何だ、それは。ならばどうして生きあがこうとしない? 黒晶石を用いれば、お前の体は確実に持ち直すのだぞ?」
だってあなたが使うなって言ったじゃない。
「推奨はしない、と言っただけだ。使いたければ使え。まだ冒険し足りないというならなおさら」
それはやめとく。
「何故だ?」
使う、って言ったらあなたが喜びそうだもの。だから絶対やらない。
「なんとまあ、薄情に見られたものだな」
そもそも情があるように思えないんだけど。
「心外だな。前にも言ったが、お前を動くようにしてやったのは俺だぞ」
そこのところもよく分からないんだけど。一体どうして私のことを動かしたわけ?
「混沌。革命。世界をかき回す。お前自身は忘れているが、その身はかつて外法士が作り上げた殺戮人形だ。どこかでひとつ踏み外して、世界に変革をもたらすようになれば、とは期待していた」
おいこら。やっぱろくでもない!
「転生者は転生者で便利だが、どうせ使うなら元々世界にある要素を使い回す方が都合はいい。リサイクル、いや、この場合はリユースか」
ものすごい殴りたい。
「壁でも相手にしていろ。それに、余計なことに時間を浪費している暇はあるまい? せいぜい残りの人生を有意義に過ごすがいい」
くそう、覚えてろ。本格的にここへ来たら、絶対一発ぶち込んでやる。
「気に留めておくとしよう。では、この会話は目が覚めたら忘れてしまうから、しっかりと覚えておけ」
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目を覚ますと、私はベッドの上にいた。
「フィーさん、大丈夫ですかっ!?」
カスミちゃんがすぐ近くで、私の体を支えてくる。
「起きて平気なのか?」
シノブくんも、カスミちゃんの隣から、気遣うように声をかけてくる。
問題ないよ、と告げるが、二人は心配そうな表情を崩さない。
えっと、とりあえずこの部屋は?
「アサグロのギルドだよ。急に倒れるから、運んでもらったんだ」
そっか。いやあ、驚かせてすまんね。
「まったくだ。…………」
シノブくんはどこか辛そうにしながら、顔を逸らした。
何だろう、と疑問に思うよりも先に、カスミちゃんが私の手を握って尋ねてきた。
「……どうして黙っていたんですか」
え? 何が? どうかしたの?
「アキハラくんとヨミさんから、聞きました。フィーさんの体のこと」
あ、あー……なるほど。そうか。バレちゃったのか。
「どうして話してくれなかったんですか!?」
カスミちゃんが、滅多に上げないような大声で怒鳴った。
その目には涙がにじんでいる。
いやその、どうにも話せなくて。
「私には話す必要がなかったってことですか!? 私、フィーさんには伝えなくていい相手だと思われていたんですか!? そんなの、ひどすぎます……!」
カスミちゃんは叫びながら、ぽろぽろと涙をこぼす。怒る以上に、悲しんでいるのが見て取れる。
いやいやいや。違うって。そんないじめみたいなこと考えてないから。
単に話しそびれてただけで……その、ごめんなさい。
「ぐすっ、本当、ですか? 私が、フィーさんに信用されてなかったからとかじゃ、ないですよね?」
信用しないなんて、そんなことはあり得ないから。大丈夫だって。
「……はい、分かりました」
「だから言ったじゃないか。話す機会がなかっただけだって」
シノブくんがフォローを入れるようにカスミちゃんへ言い聞かせる。
カスミちゃんはまだ落ち着かない表情ではあったが、涙を拭いながらうなずいた。
助け船ありがとう。でもねシノブくん。もうちょっと早く言ってもらいたかった。
「無茶言わないでくれ。仕方ないとはいえ、結局お前が話さなかったのが悪い」
まあ、そうだけどさ。
ええと、言いづらいんだけど、ついでだから伝えておこう。後だとまた言いそびれそうだし。
「……どうしたんですか?」
不安そうに見返すカスミちゃんとシノブくんに、私は更に残酷な話を告げる。残りの寿命について。
「あ、あと一日って……」
「そ、そんな、そんなのって……ひどすぎます!」
うん、まあ私もそう思う。
けど、元が数百年前から動いてたってことを考えれば、十分長生きしてはいるわけだし。もうすぐ終わるとしても、これはこれでいいんじゃないかな。
「っ、何で、そんなに落ち着いていられるんですかっ……!」
カスミちゃんの目に、再度涙がたまっていく。
「……何とかできないのか? 黒晶石で出来ているんだったら、それを使えば」
シノブくんが尋ねるが、私は首を振った。
持ち直すのは確かだけど、それをする気はないよ。
「どうしてだよ」
多分、使ったら今の私じゃいられなくなるから。
私は昔のことを忘れているけれど、あれを使ったら思い出す。
そうなったら、今度は代わりにみんなのことを忘れるんだと思う。
「……じゃあ、助からないっていうのか? どうしても?」
そうだねー。ヨミさんも先がないのは保証してたし。
まあ、あれよ。結果がよかったかは分からないけれど、マシロとアサグロでの黒晶石の事件をひとつ解決できたわけだし。冒険の形としては綺麗に終わったってことで、いいんじゃないかな。
「そんなの、全然よくありませんよ!」
あ、あれ。そう?
「……僕も、いいとはまったく思わない。まだ時間はあるんだよな? なら、アサグロにいる今のうちに、何か解決法がないか調べてみる」
シノブくんはそう告げると、部屋を出て行く。
「……私も、皆さんに聞いて回ってみます。少しでも生き延びる手がかりがあるかもしれませんから」
決意した顔でカスミちゃんも立ち上がり、部屋を出て行ってしまう。
……どうしよう。
個人的には、もう別にいい、と思っているのだが、さりとて二人を止める明確な理由があるわけでもなく。なんとも言い表し難い感情に囚われながら、私は一人、部屋で佇んでいた。
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私がベッドで退屈に唸っていると、色んな人間が部屋に訪ねてきてくれた。
まずはアサグロの受付さん。今回の件について貢献してくれたことへ、労いの言葉と報酬をいただいた。
アサグロのギルド長は『個別に見舞うことは出来ないが同じく感謝の言葉を』と受付さんから伝言してもらった。
続いてマシロの受付さんがやってきた。
アサグロとの折衝役として出向してきたらしく、ベッドにいる私の姿を見た途端、大層心配してくれた。
この人にも隠すわけにはいかないと、私の体の事情を伝えると、とても複雑な表情を見せた後、こう言った。
「フィーさん。私は、避けられる事態があるのなら、死力を尽くして回避するべきだと考えています。しかし同時に、どうしても逃れ得ぬものが存在することも知っています。人の死です」
深くため息を吐き、そしていつもの笑顔を浮かべて、受付さんは告げた。
「フィーさん。私はあなたと出会うことが出来て、あなたの冒険の一助を担うことが出来て、本当によかったと思います。あなたがマシロを助けてくれたことを、一緒にお茶したことを、他愛ない話をしたことを、生涯忘れません」
そう告げて、受付さんは私と握手を交わした。
最後にヨミさんがやってきた。
何故かずいぶんとくたびれた様子である。
というか、マシロに戻ったんじゃなかったの?
「色々野暮用が増えてのう。まったく苦労させられたわい。さすがにもういい加減、家へ帰ることにするよ」
ふーん。何があったんだか。
「聞かんでいい。今さらお主が気を揉むようなことも増やしたくないしの」
やっぱり何かありはしたのね。けっこう大事そうなのかな。私にはもうどうしようもないから、聞かないけどさ。
ヨミさんもけっこう進んで苦労を背負いたがるタイプだよね。シノブくんみたく。
「わしゃ、そんな風に見られていたんかい。あいにく、今回はこれっきりじゃ。しばらくは引きこもるよ」
それがヨミさんの平穏な生活の最後なのでした。
「やめんかい。……まったく湿っぽいお別れは出来そうにないのう」
別にいーのよ、それで。
ありがとね、おじいちゃん。
「……ほっ、急に可愛い子ぶってもだまされんぞ」
口ではそう言いながら、穏やかに微笑んでヨミさんは出て行った。




