冒険二十二日目前編 一緒の強さ
冒険者になって二十二日目。
今日はどうしたものかと私が考えていると、カスミちゃんが慌てた様子で部屋へ飛び込んできた。
「フィーさん! た、大変です!」
どしたの、カスミちゃん。何かあったの?
「アキハラくんの部屋にこれが……!」
カスミちゃんは私に一通の手紙を差し出した。
書き置き? シノブくんが? 一体どうしたんだ。
私は内容に目を通す。
すると、シノブくんがアサグロへ向かった、もっと正確に言うなら、マサカゲくんを倒しにひとりで出かけていったことが書かれていた。
『クラスメイトだから止めなくちゃいけない。それと、悪いけど昨夜のフィーの話を聞いた。これ以上無理をさせるわけにはいかないから、僕が行って決着をつけてくる』
ずいぶんと格好いいことを書いてくれている。
しかし、そうか。聞かれてたのか。
「フィーさん、早く追いかけましょうっ。アキハラくん、まだ怪我が治りきっていないんです。ひとりじゃ無理ですよっ」
確かに。マサカゲくんは手加減とかしてくれそうにないし、危ないね。
とはいえ、居場所が分かってないから、どう追いかけよう。
「そうですね……。アサグロについてから、向こうの受付さんたちに聞いてみますか?」
うーん、どうかな。向こうでマサカゲくんを見つけてたら、さっさと捕まえているだろうし。
……あ、そうだ。
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私たちは、シノブくんの後を追うため、アサグロまでやってきた。
マシロよりも一回り大きい町の光景が目に焼き付く。
「まったく、年より使いが荒いのう」
ヨミさんが、疲れた様子でぼやいた。
手がかりがないなら占いに頼ろうと私は思い付いた。
そして、修繕してもらった装備をヴェインさんから受け取った足で、私とカスミちゃんはヨミさんを強引に連れ出したのだ。
にしても、意外と体力ないのね。
「そりゃ、冒険者とは違ってあっちこっち出かけとるわけじゃないからのう」
あんまり外に出ないと不健康だよ。いい機会だったじゃない。
「いきなり引っ張り出したくせに、勝手なことを言いよる」
「無理を言って、すみません……」
「まあ、構わん構わん。どれ、町の中ならそろそろ多少は視えるじゃろ」
ヨミさんはそう言うと、シノブくんが残した手紙を持って、占いを始める。
「……む? どうやら町の中にはおらんようじゃが」
え、本当? まさかここに来て空振り?
「そう慌てるでない。おおざっぱじゃが、向かった方角は分かるぞ」
ヨミさんが指で差し示す。
えーと、あっちにあるのって確か。
「古城の方です」
あそこか。しかし何でまた。黒晶石はもうないし。
「元から隠れ家として使う予定だったんじゃないのかの?」
そうかな? それだったら、そもそも古城の調査なんて依頼、マシロはもちろんアサグロにも来なかったと思うけど。
「……ふむ。ひょっとして、黒晶石の企みに勘付いた者が、誰かに知らせるために依頼を出したのかもしれんな」
本当かどうかわからないけど、もしそうなら回りくどいことするね。
「表立って知らせづらかったのかもしれん。なんにせよ推測に過ぎんがの。とにかく今は、シノブの元へ向かう方が先決じゃろう」
そだね。ありがとう、ヨミさん。
「うむ。……フィー」
ん? 何?
「……いや、何でもない。二人とも、気を付けての。わしゃ、アサグロでしばらく休んでから帰るわい」
「はいっ。あの、ヨミさん、ありがとうございました!」
私とカスミちゃんはヨミさんに手を振って別れる。
多分、ヨミさんが言おうとしたのは、私がまだカスミちゃんへ事情を話していないことについてだろう。
伝えないよりは、伝えた方がいいのだと分かっている。
それでも、今日になってやっぱり伝えない方がいいんじゃないかと思ってしまっている。
我ながらころころ変わる心だな。情けない。
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古城に着くと、既にそこでは戦闘の音が響いていた。
爆発による衝撃と振動が、古城全体を揺さぶっている。
おいおい、シノブくん大丈夫だろうな。私たちが行く前に倒れたりするなよ。
逸る気持ちを抑えながら、私とカスミちゃんは古城の奥へと突き進む。
音を辿って城内の中庭へ出ると、そこでシノブくんとマサカゲくんが争っていた。
争う、と言ってもシノブくんは距離を取って走り回り、マサカゲくんがそこへ黒晶石の剣を振るい、一方的に攻撃を加えている。
「アキハラくん!」
カスミちゃんが大声で呼びかける。
気付いたシノブくんが、ひどく驚いた顔で叫び返す。
「ばっ――何でいるんだよ!」
シノブくんの足が止まる。当然のように爆発が彼へ襲い掛かる。
だけどそうはいかない。私は爆風へ向けて風魔法を、カスミちゃんはシノブくんに防壁を張る補助魔法をかけ、威力を削ぐ。
それでも衝撃は抑えきれず、シノブくんの体はこちらまで飛ばされてきた。
「……うぐぐ」
シノブくんは呻きながらも立ち上がる。私たちがカバーに入ったおかげで、ダメージは少なかったようだ。
よっ。無事みたいね。
「何で来たんだ!」
ああ、うん。やっぱそういう反応するだろうなー、とは思った。
「助けに来ました!」
当たり前のようにカスミちゃんも答える。
「だから何で――うわっ」
私はシノブくんが文句を挟む前に、クレイくんに持ち上げさせてその場から動かす。私自身はカスミちゃんを引っ張って逃げ回る。
爆発――ついさっきまで立っていた場所を、まったく躊躇なくマサカゲくんの攻撃が襲い掛かってきた。
「またお前かよ! 邪魔するなよ! 俺に気持ちよく戦わせろ!」
うーむ、この間と変わってないな、この子。
「フィー! お前は戦っちゃダメだ! 僕が倒すから――」
シノブくんが必死に訴えてくる。会ってそんなに経ってないはずなのに、そう言ってもらえるのはうれしくもある。
でも、格好つけを台無しにして悪いけど、こっちもマシロでのほほんと構えて、シノブくんひとりにだけ戦わせようなんて考えはないのよ。
というわけで、文句は後で聞きましょう。
「っ、死ぬなよ! 死んだら怒るからな!」
既に半分叱りつけるようなシノブくんの声が響く。
うん、そりゃ大変だ。怒られないようにしないと。
ある程度距離を離したところで、私とカスミちゃん、シノブくんとクレイくんがそれぞれ構える。
ひとりで相対するマサカゲくんは、凄まじく不機嫌そうな様子で口を開く。
「お前ら、頭悪いの? さっさと降参すればいいのに、何集まってきてんだよ。いくら来ても、俺はひとりでも最強なんだから、勝ち目なんてないんだよ」
マサカゲくんは強さにずいぶんこだわりがあるみたいね。
「当たり前じゃん。一番強かったら何したっていいんだから。強い奴が正義で、弱い奴はお荷物のクズ。人の足を引っ張って文句しか言えないゴミ。だから俺が正しくなるように俺はやってるのに、何でみんな邪魔すんだよ! おかしいだろ!」
邪魔っていうのは、アサグロから逃げなきゃいけなくなったことと、私と戦ったことか。
うーんとね。正しいのは正しいでいいんだろうけど。それだけで成り立つなら、周りの人がいなくなっちゃうから。
「だから邪魔だって言ってんじゃんかよ! いらないんだよ、お前らみたいなザコは!」
無茶苦茶言ってる。他の人間がいなかったら、君だって生まれてないんだけど。
「スズナリくん! その剣を手離してください! じゃないと大変なことになっちゃいますよ!」
「ああ、もうごちゃごちゃうるさいよ! いいからお前らは俺の経験値になればいいんだよ!」
カスミちゃんも懸命に訴えるが、やはり聞く耳は持ってくれない。
仕方ないけど、力ずくでどうにかするしかないだろう。
それに弱点は分かっているからね。
「はあ? 何が弱点だよ、そんなのあるわけねーだ、ろっ!」
言い終わりと同時にマサカゲくんが剣を振るう。
迫る爆発を、私は風魔法を逆噴射して、カスミちゃんと一緒に避ける。
空いた距離をマサカゲくんが詰め寄って追撃してくる。
こっちが魔法を使うから、間合いを取れないようにするつもりか。
私は前回と同じように閃光を放って足止めを試みる。
しかし、放った光はマサカゲくんの持つ剣の波動によって一挙にかき消される。
「ばぁ~か」
マサカゲくんがあざ笑う。前より黒晶石の影響が強くなっていたのか。
だけど私たちはただの囮だ。
マサカゲくんの背後にシノブくんとクレイくんが接近する。
「それも分かってんだよ!」
マサカゲくんがぐるりと急反転し、爆発を叩きつける。
凄まじい衝撃に、耐え切れず粉砕される。クレイくんだけが。
爆発に巻き込まれる直前、私はクレイくんに命令し、シノブくんを上空へ放り投げた。
中空から肉薄するシノブくん。マサカゲくんは真上からの奇襲に対応しようとする。
そこへカスミちゃんが浄化の光を投げかけた。
「うわっ!?」
黒晶石の勢いがわずかに鈍り、マサカゲくんの動きを怯ませる。本来は死者の鎮魂に使われる光魔法だが、ウィル・オー・ウィスプの結晶も手伝って、瘴気に対して大きく効果を発揮した。
そしてシノブくんの攻撃が差し迫る。重力と共に勢いよく突き出された槍は、マサカゲくんの剣を粉々に打ち砕いた。
「ああっ!? ふぐっ!?」
マサカゲくんは、ショックの声を上げると同時に、落っこちてきたシノブくんに巻き込まれ、地面に倒れた。
剣の残骸も散らばっていく。ほんのわずか、明滅するように黒い輝きを伴っていたが、すぐにそれも消え失せた。
「そんな、そんな……! 俺の剣がっ」
「……お前の負けだ、マサカゲ」
戦慄くマサカゲくんに、シノブくんが静かに告げる。
勝負はついた。
はあ~、やれやれ、疲れた。




