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一日ひと狩り冒険者  作者: kuro
21/28

冒険二十一日目 目が覚めたからそこにいる

 気が付くと真っ白な空間にいた。


「時間切れだ」


 何もいない空間から、声が響く。


 ……え、待って。時間切れって。

 終わり? 私、死ぬの? 死んでしまったの?


「そうだ」


 ……が~ん。そんな、まだ冒険が途中で、カスミちゃんやシノブくんが無事なのか気になるし、マサカゲくんをぶん殴り足りないし、デザートも山ほど食べてないのに。


「私怨と欲望が混じりすぎではないか? まあ、冗談なわけだが」


 ……あん? 何だって?


「だから冗談だ。まだ完全に止まってはいない」


 よっしゃ、顔出せ。殴る。


「悪いが(つつし)んで辞退申し上げよう。それに忠告を無視したのはお前だ。実際、期限は相当削られている。残っているお前の稼働時間はせいぜい三日だ」


 うげえ、短いな。

 いや、でも魔法使ったのはしょうがないじゃない。マサカゲくんが黒晶石の剣でシノブくんを攻撃してきたし、他に対抗手段がなかったんだから。


「マサカゲが直接お前に何かしたわけでもあるまい? 無視しろ」


 そんなことできたら苦労するかっ。

 大体、黒晶石を放っておくのはいいの?


「それを言い始めたなら、お前とて排斥(はいせき)の対象だろう。自分は黒晶石の力で動いていてもいいのに、マサカゲを認めない理由はなんだ?」


 いや、それはその。


「気に食わない物を消す、自分にとって都合のいい結果だけ選び取りたい。そのために自身を使い潰すのも、何もしないのも好きにすればいい。何度も言うが、俺は止めはせん。決めるのはお前だ」


 声は滔々(とうとう)と語る。


 うぐぐ。厳しいこと言いやがって。


「想像ほど楽な道のりなど、現実にありはしない。目的を達成したいのなら自ら取捨し、選択しろ」


 へーへー、分かってますよ。

 ところで、黒晶石を私が使って延命するのが無しなのは何で?


「瘴気に(むしば)まれたいならそうしろ。お前が現状、奇跡的に正常と見なされるのは、お前の黒晶石がもはや瘴気を蓄積する機能すら失っているからだ」


 なるほど。微妙に引っかかる言い回しだけど、教えてくれてどうもありがとう。


「では行け。この会話は目が覚めたら忘れてしまうから、しっかりと覚えておくように。悔いのないように()せ」


▼▼▼▼▼▼▼▼


 目を覚ますと、私はベッドの上にいた。


「気が付いたようじゃの」


 声をかけられ視線を向けると、そこには占い師のヨミさんがいた。

 何でここに? というか、マサカゲくんと戦った後、どうなったんだ? カスミちゃんとシノブくんは? ギルドやマシロ、アサグロはどうなったの?


「順番に説明するから落ち着きなさい」


 次々疑問がわいてくる私へ、ヨミさんが穏やかに告げた。

 私は慌てる自分を抑えつけて、ヨミさんの説明を待った。


 ヨミさんはこのギルドの一室で私の看病をしていたらしい。少し前までカスミちゃんが看てくれていたが、心配のし過ぎでろくに休んでいないため、交代を申し出たのだと言う。


「そろそろお主の目が覚める頃だと思ったしの。カスミには悪いが、疲れている所に説明を任せるわけにもいくまい」


 色々気を使ってくれたのか。さすが年の功というか、察知の仕方が占い師というか。

 そういやシノブくんは無事?


「なんとかの。怪我だけならお主より悪いから、もうしばらくはベッドの上じゃが」


 うーん、そうか。早く治るといいけど。

 モンスターやマサカゲくんや、町の方はどうなったの?


「モンスターはひとまず倒し終わったが、魔石に混じって黒晶石が出てきての。それと合わせてマサカゲの言動や、連日のアサグロの対応から、さすがに調査を強行するということで決定した」


 おお、ついに。でもマシロの人たちは大丈夫かな?


「アサグロの方も全面的に黒晶石へ関わっているわけではないようでの。新進気鋭の冒険者であるマサカゲと、彼と親交のある町の役人や商人、この辺りが流出や実験に(たずさ)わっていたらしい。なので事態を把握した冒険者や町人たちは協力をしてくれているようじゃな」


 なるほど。じゃあ、味方が増えたのか。


「うむ。もっとも、まだマサカゲたちは捕まっておらんようでな。その点が心配じゃが……まあ近い内に収まるじゃろう」


 ヨミさんがそう言うなら信憑性高そうだね。


「……ところでフィー。お主は、大丈夫か?」


 うん? 大丈夫、怪我は治してもらってるし、またすぐ冒険には出られる――


「フィー。わしはお主を最初に占った時、詳しいことはともかく、時間の無さだけは把握(はあく)しておる。隠さなくてもよい」


 ……あー、そうなんだ。

 いやー、はっはっはっ、さすがヨミさん。けっこうびっくりするよね。ねー。


「難儀な問題を抱えているようじゃな。本来、あまりこういうことに口出しすべきではないが、何が起きているのか、聞かせてもらえんか?」


 んー、いいけど。私もあんまりしっかり覚えているわけじゃないから、分からないことがあったらごめん。


「うむ、構わんよ」


▼▼▼▼▼▼▼▼


 私は自分で覚えている限りのことをヨミさんへ話した。

 ヨミさんは難しい顔をして(うな)っていた。


「よりにもよって、延命手段が黒晶石か……。お主が見つけてきた分がマシロにあるとはいえ、これを使うのはちょいと骨だぞ」


 まあ、そうだよね。黒晶石をそんな簡単に使うのも、勝手に持ち出すのももちろん悪いし。

 でも使ったら使ったで瘴気でアウトになるしなあ。


「八方ふさがりじゃの」


 そうねー。仕方ないっちゃ仕方ないけど。


「軽いのう。お主、死ぬのは怖くないのか?」


 どうだろう。あんまり考えないようにしているだけかな。

 数百年前に生み出されて、それが偶然再稼働したって言うならなかなかの奇跡だし、今冒険が出来ているだけでも、かなり恵まれているんじゃないかな、多分。


「達観しとるの」


 それに、そもそも人間じゃないなら、わざわざ延命しなくてもいいんじゃない?

 黒晶石使って周りに迷惑かけるようになってまで生き延びるくらいなら、私の冒険はここまででいいんだと思う。


「……わしからはそれに関しては何とも言えん。だがフィーよ」


 何?


「お主の周りの人間が、必ずしもその意見に同調するとは限らん。もうあまり時間がないとしても、いや時間がないからこそ、聞いてみるのも手ではないか?」


 聞いても、別に何も変わらないと思うけど。


「それでも、じゃ。それに、聞いて回っているうちに、何かよい解決法が思い浮かぶかもしれん」


 ……まあ、そうだね。何もしないよりはした方がいいかもしれない。

 ちなみにヨミさんはどう思っているの?


「そりゃもちろん、聞くまでもなかろう。孫みたいな見た目の子に、先に逝かれるのはかなわん。そんな運命にはご退場願いたいのう」


 年だと私の方がおばあちゃんなんだけどな。

 でも、ありがとう。


▼▼▼▼▼▼▼▼


 その後は、受付さんやヴェインさん、マシロの冒険者たちが見舞ってくれた。

 受付さんは「ゆっくり休んでいてください。ちょっとあの町に話をつけてきますから」と底冷えのする笑顔で話し、ヴェインさんは「嬢ちゃんの装備は今修繕してっからな。明日には使えるようにしてやる」と頼もしく告げてくれた。

 冒険者の人たちは、助けられたことに対して礼を短く述べていった。


 最後にカスミちゃんが訪ねてきた。


「目が()()めて、本当によかったで()()……ぐすっ」


 開口一番、カスミちゃんは感情を(あら)わにして言った。

 はらはらと泣き尽くす彼女の顔を見ると、何とも申し訳ない気持ちになる。


 いやあ、心配かけてごめんね。


「いえ……私の方こそ何も出来なくて」


 そんなことないから。看病してくれたって聞いたし、シノブくんだってカスミちゃんが助けたんだし。もっと胸張っていいと思うよ。


「ありがとうございま()()っ。あ、アキハラくんもさっきフィーさんにお礼を言っておいてくれって。……あと、足手まといになったことを謝っておいてほしいと」


 律儀(りちぎ)だなあ。別に足手まといにはなってないと思うんだけど。倒れたのは私も同じだし。

 カスミちゃんがいなかったらやばかったねえ。


「二人とも助かってよかったです。……でも」


 カスミちゃんが言いよどむ。

 多分、マサカゲくんのことを気にしているんだろう。

 今のところ見かけてはいないけど、ミカゲちゃんも含め、彼らはどうなるのだろう。


「……きっと黒晶石のせいですよね。だから、あれを手放せばスズナリくんも、アキハラくんみたいに仲良く出来ますよね?」


 カスミちゃんは本気でそう信じるように、私へ尋ねた。

 優しい子だと思う。甘い子だとも思う。黒晶石のことを差し引いても、自分をひどい目に遭わせた人間を相手に、今でもまだこう言えるなんて、私には到底真似できそうにない。

 きっと、無理だと突っぱねた方が正しいのだろう。


 だから私は、そうだね、と返した。


「そうですよね。ギルドの人にも、ちょっと相談してみます。なるべく穏便にすませられないかどうか」


 そう言ってカスミちゃんは立ち上がった。


 カスミちゃんも疲れているだろうから、無理しないようにね。


「はい。それじゃおやすみなさい、フィーさん」


 おやすみなさい。また明日。


▼▼▼▼▼▼▼▼


 カスミちゃんには聞けなかった。

 他の人にも聞きそびれた。

 ヨミさんは分かっているから気楽に話せたが、意外とそれ以外の人間には口にできないものだ。


 なにより、カスミちゃんならきっと返ってくる答えが決まっている。優しい子だから。

 これ以上、余計な悩みを彼女に背負わせたくない。


 まあ、あれよあれ。人間はいつかは死ぬんだから。

 今さらそれを騒ぎ立てる必要なんて、どこにもないのだ。


 一日が終わる。

 ベッドに潜った私は、明日も頑張ろうと思いながら、眠りについた。

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