冒険二日目 スライム退治
冒険者になって二日目。私は早速ギルドへと赴いた。
「おはようございます、フィーさん。依頼をご覧になりますか?」
昨日と同じく女性の受付さんが笑顔で出迎えてくれた。
こちらも挨拶を返しながら、依頼書を見せてもらった。
「本日の依頼はこのようになっております」
内容は、スライムの退治だった。
スライムって、強いのか弱いのかよく分からないイメージだけど、本当のところはどうなんだろう。
「強いスライムもいますけど、そういうのはごく稀ですね。この辺りは剣士や格闘家でも倒せる程度のスライムばかりです」
そうなんだ。
「スライムは大半が熱に弱いですから、魔法使いにとっては相性のいいモンスターですよ」
まあ、スライムだもんね。溶けるよね。
「初のモンスター退治ですから十分に注意してください。特にMP切れには」
分かりました。行ってきます。
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というわけで町の外にやってきた。
昨日も見たけど、そんなに数はいない。とりあえず、手あたり次第にやっていこう。
私は遭遇した最初のスライムに向かってファイアーボールの魔法を放った。
火球は逸れることなく命中し、スライムを跡形もなく焼いた。
一緒に焼けた平原には石ころが残されている。
悲鳴とかは上げないんだな。当たり前か、口ないし。
続いて二匹目、三匹目を発見する。
私は再びファイアーボールの魔法を唱える。
しかし今度の火球は、二匹目には当たったが、三匹目には避けられてしまった。
さすがに小さな火球ひとつだとまとめて焼くのは難しいようだ。
三匹の奴が、ぴょこんぴょこんと飛び跳ねてこちらから逃げようとする。
私はもう一度魔法を唱える。ファイアーボールでもいいんだけど、ちょっと工夫してみることにした。
イメージを、火球ではなく熱風のように大きく広がるものへ変える。
そしてそのまま魔法を放つ。先ほどより範囲を増した炎がスライムの体を包み込んだ。
全身を焼かれたスライムはそれっきり動かなくなった。形は残っているが、どうやら倒したみたいだ。
こっちにも石ころが転がっている。やたら石のある草むらだな。
今の魔法はファイアーボールとは違って、焼ける範囲が広い代わりに少し威力が落ちている。
できれば残さず焼けた方が安心できるんだけど、これはこれで使い勝手がいい。
他にももっと範囲を絞って威力を上げたり、色々工夫できるかもしれない。
私はワクワクしながらスライム狩りを続けた。
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お昼になる頃、MPが少なくなってきたので、私はそろそろ切り上げることにした。
受付さんの忠告を聞いておいてよかった。でなかったら調子に乗って狩り続けていた。
私はギルドへと戻った。受付さんが「おかえりなさい」と出迎えてくれた。
「無事にこなせたみたいですね。それでは魔石を提出してください」
魔石……? 何のことだろう。
「あれっ? ……あ、ひょっとして説明し忘れてました!? やだ、私ったらもう」
受付さんが何やら慌てている。かと思ったら、いきなりこちらへ頭を下げてきた。
「すみません、私の説明不足で……魔石というのは倒したモンスターの落とす、宝石みたいな石のことです。これは様々なアイテムの素材になっていて、お金で取引されているんです」
そうなんだ。……そういえば思い返してみると、スライムのそばにやたらと石ころが転がっていた気がする。あれか。
あれ? これって依頼失敗になるの?
「いえ、今回はこちらの説明不足でしたので。とりあえず他の冒険者の方に回収を依頼して、その量を見て報酬をお支払いしますね」
そっか。よかった。
ところで、その冒険者への依頼って、誰がお金出すの? 私?
「これも私が負担しますよ。こちらのミスですからね」
それは何だか申し訳ない。あまり持ち合わせないから半分とはいかないけど、少しくらい出しますよ。
「いえいえいえ。ありがたいですけど、こういうのは出してもらうと後で経理がややこしくなっちゃんうんです。すみません、お気持ちだけいただきます」
そっか。それならしょうがない。
私がお金出して受付さんの仕事が増えちゃったら元も子もない。
受付さんはその後、他の冒険者へ依頼を出していた。
私の依頼にかかわることなので、受けてくれた人たちに、受付さんと一緒に頭を下げた。
説明し忘れとはいえ、受付さんには迷惑をかける形になってしまった。
今度お礼でもした方がいいかな? 個人的なおごりなら経理も絡まないから、大丈夫だろう。
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魔石回収を終えた冒険者の人たちが帰ってくる頃には日が暮れていた。
彼らに礼を言って、私は魔石を提出し、改めてスライム討伐の報酬を受け取った。銀貨二枚分だった。
「ずいぶんたくさん倒していたんですねえ」
受付さんはびっくりしていた。
私も銀貨を受け取るとは思っていなかったので、ちょっと驚いた。
宿に戻った私は、さすがに今日は奮発してもいいだろうと思って、ちょっと豪華な食事を頼んだ。もちろんデザートも付けた。
一日が終わる。
部屋に戻った私は、明日も頑張ろうと思いながら、ベッドで眠りについた。




