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一日ひと狩り冒険者  作者: kuro
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冒険十日目 黒晶石

 冒険者になって十日目。私は早速ギルドへと(おもむ)いた。


 ギルドの中には、昨日と同じくカスミちゃんと受付さんがいた。


「お、おはようございます、フィーさん」


「フィーさん、カスミさん、おはようございます」


 二人に挨拶され、私も、おはようございます、と返す。


「本日の依頼はこのようになっております」


 受付さんに(うなが)され、私とカスミちゃんは壁の掲示板を見る。

 相変わらず薬草採取やスライム退治などばかりで、至って平和である。

 いいことなんだけど、冒険者としては(ふところ)がさみしい。


「お二人とも、よければこちらの依頼を受けてみますか?」


 私が困っているのを察したのか、受付さんが一枚の依頼書を差し出した。

 内容としては、あるものを町外れのおじいさんに届けてほしいとのことだ。


「先日、ゴーレムから回収した核を覚えていますよね? この町の中では手掛かりが見つからなかったので、ある方を頼ろうと思ったのですが、直接核を運ぶとなると、信頼できる方が必要なので」


 ほうほう。それで私たちに。


「えっと、フィーさんはともかく、私はいいんでしょうか?」


 カスミちゃんは自信なさげだ。いやー、平気だと思うけど。


「他に任せるよりは、お二人の方が適任でしょう。無闇に口外もしないでしょうし」


 そりゃね。ここで「私は口が軽いです」なんて言おうものならおふざけでも怒られる。実行する気もないけど。

 元々私たちが取ってきたものだし、正体が判明するならちょうどいいと思う。私は引き受けますよ。


「フィーさんが行くならもちろんついていきます!」


「はい、ではお願いしますね」


 受付さんはそう言うと、何やら高価そうな生地の布袋を手渡してくる。


「念のため魔力阻害の袋に入れてあります。人目に付かないよう、無事に届けてください」


 おお。けっこう本格的なお仕事だな。

 分かりました、気を付けます。


「頑張りましょうね、フィーさん」


 うむ、目立たないように行こう。


▼▼▼▼▼▼▼▼


 さて、ギルドを出て指定の場所を目指していく。


「だ、大丈夫でしょうか。誰かに見られたりしていないでしょうか」


 カスミちゃんはいきなり警戒度マックスのようである。そんなことしてると神経がもたないぞ。

 外れの方とはいえ、向かうのは同じ町の中だ。あんまり気負い過ぎることもない。


「す、すみません」


 平謝りするカスミちゃん。この子はだいたいこんな感じだな。

 よし、話題を変えよう。

 えーと、ゴーレム関連の話だし、そういえば昨日言っていた、勉強用の本は見つかった?


「あ、はい。ここに持ってきています」


 カスミちゃんは荷袋の中から一冊の本を取り出す。


「えっと、ゴーレムの専門本ではなくて初心者の魔法使い用の教本なんですけど、これでも大丈夫でしょうか……?」


 ほほう。むしろそれはありがたい。

 私、魔法で困っていることって一杯あるし。


「そうなんですか? そんな風に思えないですけど」


 複数の魔法を使うとかが出来ないんだよね。補助かけながら攻撃とか、そういうやつ。あと回復も今のところ無理かな?


「え……そんなことがあるんですか?」


 あるのよ、これが。もしかして珍しいの?


「えっと、普通にできませんか? 補助魔法って、一度かけたらしばらく勝手に維持されるものだから」


 んん? そうなの?

 え、じゃあ何で私の方は無茶苦茶な制御を要求されるんだ?


「さ、さあ……本にはそういう症状は載っていませんでしたし」


 ……謎だ。

 まあ分からんことは置いておこう。

 とりあえずこれで書いてある通りにやれば、私もゴーレム作れるようになるかねえ。

 材料はどうしよう。丸太か土でも拾ってくるか。


「土なら掘るだけですから材料費が減りますね。丸太は乾いた物の方が固くて丈夫だから、買う方がいいかもしれません」


 なるほど。じゃあ、最初は土で試してみるか。


▼▼▼▼▼▼▼▼


 話しながら歩いているうちに、一軒の小屋へと辿り着いた。ここが目的の場所だ。

 人目に付かないように、などと言われてはいたけど、到着するまでの間にチンピラに襲われるとか刺客が来るとかそんな出来事は全くなかった。平和だ。


 というわけで早速乗り込む。まずは扉へノックし、呼びかける。

 すいませーん。


「開いとるよー」


 中から声が返ってきた。若い人の声ではない。

 入ってもいいようなので、お邪魔します、と断りつつ扉を開け、小屋へ入る。カスミちゃんがその後に続く。


 上がり込んだ部屋は、居間のような一室だった。

 あまり整頓はされず、物の散らかり具合に雑多な生活感がにじみ出ている。

 奥の方の椅子に、一人の老人が腰掛けていた。どこか穏やかそうな顔つきだ。ドワーフのヴェインさんとはまた違い、白く長いヒゲをたっぷり蓄えている。


「二人とも、よう来たのう。わしゃ、占い師のヨミじゃ」


 あ、どーも初めまして、ヨミさん。私は――


「おぬしはフィー、そちらはカスミじゃろう。分かっとる分かっとる」


「えっ!?」


 おおっ? まだ名乗ってないのに当てられたぞ。何だ、このじーさん。


「じーさんは余計じゃ。今朝がた占ってお主たちのことが見えただけじゃ」


 なんと。さすが占い師。


「そろそろ来ると思って茶も用意してある。ま、そんな長居は必要ないじゃろうが、お上がんなさい」


 そう言ってヨミさんはテーブルの方を差し示し、席へ着くよう促す。

 便利な能力だな。とにかく失礼します。


「お、お邪魔します」


▼▼▼▼▼▼▼▼


「ふむ……」


 色々見透かされた私たちは、何はともあれヨミさんへ核を手渡した。

 実物を手にするとやはり占いの精度が違うそうだ。それでもどこまで詳しく分かるかは不明だが。


「この核は黒晶石と呼ばれるものじゃな。瘴気を溜め込む石、簡単に言えばよくない魔力で出来た代物じゃ」


 わーお。いきなりきな臭い情報ですね。


「そうじゃな。どう考えても、誰かが意図的に流したんじゃろ」


「で、でも町の中には手掛かりがなかったと言われましたけど……」


「なら、よその町から仕入れた中に(まぎ)れたんじゃろう。そこから調べてみればいいんじゃないかのう」


 よその町かあ。そうなってくると、私たちにはどうしようもないような。商人とか町同士の話になるし。


「おや、どうかな。そうとも限らんぞ」


 ん? どういう意味ですか?


「秘密じゃ。それより、ついでじゃ。お主、悩みがあるじゃろ。少し観てやろうか?」


 え、マジ? いいんですか?


「一回銀貨一枚じゃ」


 金取るのか。しかも微妙に高い。


「冗談じゃ。今回は初回ということでサービスしとこう」


 タダより高い物はないって聞くんですけど。まあ、いいや。やってくれるんなら助かります。


「うむ、どれどれ……」


 ヨミさんは私の顔をじっと見る。しばらく考えるようにヒゲをいじっていたが、やがて口を開いた。


「お主、あれじゃ。魔法のやり方が間違っておる」


 ん、え。いきなりすごいことぶっ込まれた。間違ってる?


「なまじ制御し切れるせいで、補助魔法まで攻撃魔法と同じ感覚で操っておる。そのせいで、本来維持される魔法の効果が短時間で消滅しとるんじゃ」


 なんですと。じゃあ、あの何かやたら難しく感じた魔法の使い方って、もしかして。


「お主が自分から難しくしとるだけじゃな。一度、普通の魔法のやり方を教えてもらいなさい。なんとなく出来る、というだけではいかんぞ」


 うわあー。なんてこったい。

 スライムとかサハギン相手にうまいことやってたつもりの私は、ただの間抜けだったのか。


「才能があるゆえの問題じゃな。普通はそうはならん。ま、贅沢な勉強をしたとするのがよかろう。さて、カスミ。お主の方じゃが」


「え、あ、はい」


 お、カスミちゃんの方は何が見えたんです?


「……きちんと決断に踏み切れるのなら、お主の問題はそう遠からず解決するじゃろう。それまではフィーと共に冒険していくとよい」


 ん? 問題?


「……はい、分かりました。ありがとうございます」


 え、何? どういうこと?


「個人の問題じゃから、今は深く聞かぬことじゃ」


 ええー。そう言われると余計気になる。


「あ、あの……フィーさん、すみません。その私、フィーさんにまだ話さなきゃいけないことがあるんです。でも……この話は、私まだ……」


 カスミちゃんは言いにくそうにうつむいている。

 私は空気を読む。まあそんな深刻そうにしてるんじゃあ、私から根掘り葉掘り聞くのは野暮ってものだろう。


「すみません。フィーさんには、いつか必ず話すとお約束します」


 うむ、話せるようになったらで構わないからね。

 ……しかし、受付さんの言っていたカスミちゃんの問題って、まだあったんだな。

 受付さんが大丈夫だと思って紹介したわけだから、変な問題ではないんだろうけど。


▼▼▼▼▼▼▼▼


 ギルドに戻った私たちは、詳細を報告した。

 すぐさまこの情報をもとに調査し始めるという。


「お二人とも、お疲れさまでした。今回の報酬です」


 受付さんから銀貨二枚の報酬が渡される。二人で割っても銀貨一枚。

 単に核を手渡しに行っただけなのに、ずいぶん気前がいいなあ。ありがたいけど。


「今日もありがとうございました」


 またカスミちゃんが頭を下げてくる。

 この子のこれは、完全に癖なんだろうなあと思う。微笑ましいので、無理にやめろという気にもならない。


 じゃあ、また明日。


「はい! また明日!」


 元気よく見送るカスミちゃんに手を振って私は宿へ向かう道を歩く。


▼▼▼▼▼▼▼▼


 宿に戻った私は、いつも通り夕食を頼んだ。

 報酬は多くもらえたが、ゴーレム素材のことを考えて普通に注文した。でもデザートは二つにした。昨日出来なかったからね。


 一日が終わる。

 部屋に戻った私は、明日も頑張ろうと思いながら、ベッドで眠りについた。

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