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漫画とかアニメによくいる「仲間として冒険してきた奴が実は敵だった」ポジションの敵なんだけど、そもそも主人公たちの輪の中に入ることができないんだが...。

作者: 黒豆100%パン


私は、今から主人公のパーティに入ろうと思っている



もちろん主人公たちと冒険がしたいわけじゃない。私はこのファンタジー世界の敵キャラなのだ。今は人間の姿をしているが、実は人間ではなく魔物だ。近づくためのカモフラージュ、というやつか。

漫画とかによくあるだろう?「仲間として一緒に冒険してたやつが実は敵で裏切る」というような展開を。要はあんな感じのやつだ。



「『主人公たちの輪に入れ』と言われてもなあ...まあ楽しみは最後だ」



何故勇者の一行に加わることになったのかというと、魔王に主人公の輪の中に入り偵察しろと言われたが、むしろそっちより信頼を勝ち取り「実は敵なんだ」と告白する時の主人公たちの絶望した顔を想像するだけで楽しみで仕方がない。



「でさー、そのときさー」



お、早速来た。まずは話しかけるところから始まる。



「あ...え...」



何と言おうと考えて言葉が詰まってしまう。主人公たちはそんな私を見ることもなく行ってしまった。

正直、会話をするのも苦手だ。昨日何度も何度も鏡の前で練習したというのに。



「くそ、どうやって話しかけたらいいんだ!!」



練習がたりないのか、トイレに駆け込み鏡を見る。え?ファンタジーなのにトイレや鏡があるのはおかしいって?細かいことはいいんだよ。その鏡には人間の姿の自分が写っていた。



「我ながらこの人間の姿に化けるのは上手いと思う。おっと、今は話かける練習をしないと...君が噂のルーキーかい?」



とりあえずそう言ってみる。鏡の自分には言える。だがいざ主人公と対峙し話そうとするとうまくいかない。



「よし!もう一回チャレンジだ」



そう呟くと元いた場所に戻る。ちょうど隣の席に主人公が座っている。しめしめ今がチャンスだ!!



「あ...えっと...」



また言葉に詰まってしまう。一旦前を向き言葉を頭の中で組み立てる。「君が噂のルーキーかい?」...よし、バッチリだ。



「あっ」


後ろを向こうとした時主人公の手がぶつかり体が前に押された。それによりコップに入っていた飲み物が溢れてしまった。



「あーすみません!うちのバカが!!」



ヒロインがとっさにそういいながら主人公の頭を小突いた。小突かれて頭にはたんこぶができる。ヒロインは主人公の頭を掴むと無理矢理頭を下げさせ、なんども侘びる。



「ほら!あんたも謝るの!!!大丈夫でした???」



「あ...まあ...はい」



「でもあれはお前が...!」



「なにか言った?」



主人公の小さく言ったその言葉にも反応し怖い顔を見せた。主人公はそれに恐怖の表情を見せ小さく「ひっ、なんでも」とだけ言った。



「本当に大丈夫でした??」



「ええ...?」


蚊の鳴くような声で答える。やはり対人は苦手だ。



「主人公さんはいつもヒロインさんと仲がいいですね!!」



隣にいた緑の服の女性が笑顔でそう微笑む。この人も主人公のメンバーなんだろう。それに対して主人公はしかめっ面になる



「そんなわけないだろ!!」



「何よ!!いつもあんたの面倒見るの大変なんだから!!」



主人公とヒロインが痴話喧嘩のようなことを始める。私はどうしようかと思いながら「まあ...まあ...」となだめるが声が小さく2人には聞こえなかった。



「あ...ええと...」



主人公たちは何とか会話を続けようとした私を無視していってしまった。

私は「またダメか」...と呟きコップからこぼれた飲み物を見ていた。







「で、どうだ?」



「...それがまだ接触すら...」



通信機で魔王に申し訳なさそうにそう伝えると、少し苛立ったような声が聞こえてくる。



「何をやってるんだ」



「申し訳ありません!!すぐ偵察しますので!!」



そういい通信機器を切る。そしてはぁーっと息を吐き上を見た。



「と、言ってもなあ」



それができたら苦労はしない。ブツブツと独り言を言う。向こうではその奇妙な光景に何人かがこちらを見ている。

このままではダメだ。なんとかして主人公達の輪に入らないと。でもどうやったら入れるのか...。



「あれ?さっきの!」



落ち込んでいると主人公が向こうから話しかけてきた。



「すみません!またこのバカが」



「何だよ!俺のせいかよ!」



「あ...えっと...」



やはり主人公たちを目の前にするとろれつが回らなくなり、何を言っていいかわからなくなる。

またダメか...そう思ったその時だった。



「魔王様の名の下に消えてもらう」



突然現れた魔族の同僚。この主人公を狙っているのだ。おそらく人に化けてはいるが魔力で私が人ではないことはすぐにわかるだろう。仲間になろうとしたタイミングでなんで現れるんだ。



どうするか。同僚に攻撃をすれば裏切ったと思われるかもしれない。だが、このままではまた失敗に終わってしまう...。


「くそっ!こんな時に!!」



「いまは逃げよう!!」



「はあっ!!」



私はチャンスだと思いとっさに魔法弾を放った。それは床に当たり大きく爆発した。着弾したところには大きか煙が立ち込める。



「よし!今の内だ!!」



私は逃げる主人公たちについていった。そしてしばらく走り、森に出た。追ってはきてないようだ。



「お前すごいな!!うちに入らないか?」



「え..まあ」



とっさの判断でやっと主人公の輪の中に入れたのだ。今は人と話すのが苦手な私でも輪の中の入れたという喜ばしい事実を噛み締めようではないか。

なんか大事な任務を任された気がするが輪に入ることに集中していて忘れてしまった。えーっとなんだっけ?


「このまま仲良くなれたらそれでいいや」



もうそんなことはどうでもよかった。輪に入れただけでなんかもうなんでもよくなってきた。




自分の城で、その一部始終を見ていた魔王は



「はー、あいつクビにしようかな?」



と呆れたようにそれだけを呟いた。




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