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第七話 どうやらここはゲーム風異世界らしい

 スライムは目の前まで来ると、ぽよぽよと上下運動を始めた。

 その様子に、桜花は柔からな笑みを浮かべる。

 励ましてしてくれているのだろう、と思ったのだ。


 しかし、スライムの意図は別にあった。


――――――――――――――――――――


【上位契約の申請】

 スライムは眷属化を求めています。

 血を分け与えますか?


 はい いいえ


 ※眷属化とは※

 利害関係の一致、主人の境遇に共感した

 魔物から申し込まれる、

 主従の枠組みを超えた契約です。


 血を分け与えることで、

 契約が結ばれ、

 主への忠誠心が高まると同時に、

 血の質に応じた上位種族に進化します。


――――――――――――――――――――


「眷属化、ときたか」


 スライムが表示したウィンドウには、スライムからの再契約申請――というより、もっと深い仲になろう、という意思表示だった。

 レジェンドファンタジー内での設定だが、眷属化とは、どれだけ遠隔地にいてもお互いが討伐したモンスターの経験値共有が出来るという便利な機能。

 他にも血を分けた魔物は進化して強くなったり、時には『人化』スキルを入手出来る。


 資金繰りに四苦八苦している今は、一人でも多くの仲間が欲しいし、なによりスライムと会話出来るかもしれない、という期待が全てのデメリットを消し去ってくれた。


 それに、あえて合理的に考えるなら。

 ここでスライムに恩を売っておけば、さらに協力的になってくれるはずだ。

 『元の世界に帰還する』という目的も達成しやすくなる。

 迷う理由はなにもなかった。


「分かった、お前の意志に従うよ」

「!」


 ウィンドウの『はい』を押すと、身体が勝手に動き出した。

 スライムを抱き寄せた桜花は、抜き身にした刀身に、親指を軽く滑らせる。

 わずかな切り傷からぽたぽた、と垂れる鮮血は、膝下のスライムを金色に光らせた。

 目が眩むような光に耐えられず、思わず目をつむる。


 ――――その時。


 ズキン!

「痛ッ――」

 いきなり発生した頭痛と共に、一つの記憶がフラッシュバックした。


『――という異世界で夫の霧六を探せ。見つけ出せば、元の器に戻そう』

「そうだ、思い出した……」


 転移前に神社の祭神、『桜花』から言いつけられた命だ。

 俺は刀を抜いた罰と称して、彼女の神通力で生み出された半身――この女の子の身体に魂を移し替えられ、異世界に送り込まれたんだった。


「まあ、神様からの使命を思い出しただけで、何かが変わるわけじゃないんだけど」

「君にも使命があるのか!?」

「――は?」


 突然、膝下から中性的な声がする。

 見下ろすと、スライムが喋りだした。


「やあ、我が主の桜花! 俺の本名は藤木戸友作ふじきどゆうさく! 君と同じく、元は男子高校生だった者だ!」

「……ああ、ユウサクって名前なんだね。よろしく」

「よろしく頼む!」


 フジキドユウサク。

 名前に聞き覚えがあった。

 たしか、クラスメイト。行動力の化身だったと認識している。

 俺の交友関係は広くないので、知っているのはそれくらいだ。


「そして突然だが君の遺伝子が欲しい!」

「ほんとにいきなりなんなんだよ!」

「うわあっ」

 思わず膝下の彼を投げ捨ててしまった。

 ユウサクはめげずに戻ってきて、桜花にすがりつく。


「寄るな! 変態! 気持ち悪い!」

「待ってくれ! 俺の話を聞いてくれ! 事情があるんだ!」

「事情って――」


 そこでふと思い至る。

 たしか、軟体生物系の従魔に人の形を取らせる『擬態(人化)』スキルを入手させるには、人間の遺伝子が必要なんだっけか。


「もしかして、擬態スキルの取得条件か?」

「話が早くて助かる! 君の血液だけじゃ足りないんだ! 爪楊枝の先くらいにわずかでいいから、皮膚組織を譲ってくれ!」

「いいけど……お前も女になるぞ?」


 ただ制限があり、与えた遺伝子によって擬態後の性別が決まる。

 女の遺伝子なら女に、男なら男に。

 本当に俺の遺伝子で良いのか、と聞くと、ユウサクはそれでもと叫んだ。


「スライムのままよりはマシだ! 俺は性別うんぬんよりもまず人権が欲しい!」

「いや、でもさ――」

「それにだ! 今後は君に仕えるんだから、男よりも女の子になった方が良いと思う! 男女二人旅より、女体化した同志二人旅の方が君も気が楽だろう!?」

「……」


 それはたしかにそうかもしれない。

 どうせなら、同じ境遇の相方がいる方がいい。


「分かった。――後悔するなよ?」

「元より覚悟の上だ!」


 桜花は刀で軽く指の皮を切り取り、ユウサクと名乗るスライムに与える。

 その皮膚を取り込んだユウサクはみるみる体積を増やし、あっという間に俺と似た姿の黒髪美少女へと変貌した。


「うおおおお! 人に戻れたぞおおおおお――――!」


 違う点があるとすれば、彼――いや、彼女か。

 彼女の瞳は青く、額から肌色の二本角が生えている、というところが違う。

 服装は、俺と同じ黒セーラーだ。胸もそれなりにデカいし、顔も健康的な体つきもいい。

 ……困った、ユウサクを見てたら性的に興奮する。選択を間違えたか?


「いや、こっちのほうがマシか」


 目の保養になるもんな。

 たゆんたゆんと揺れ動く壮大な双子山に、桜花は雑多な思考を些末なこととして捨てた。


「そうだ、ありがとう! 我が主こと桜花! これで次の目的に移れる!」

「どういたしまして――え、目的?」

「ん? ああ、そう言えば伝えられていなかったな! 俺……いや、私には! 人間化を急いだ理由がある!」

「私って、順応早くないか?」

「元の性にこだわったところで心がズレて壊れるだけだ! なら最初から受け入れた方が早い!」

「な、なるほど?」


 その理論でいくと、俺も早いうちに女性化を受け入れた方がいいのだろうか?

 いや、これはあとに回そう。


「それで、次の目的はなんだ?」

「追放されたクラスメイトの回収だ! 私ことユウサクは、この国――リアスティール公国が行った勇者召喚の儀式によって、他のクラスメイトと共にこの世界に召喚された」

「……待て。この国で何があった? 詳しく教えてくれないか」

「長くなるが、分かった! 実は――」


 ユウサクは、桜花に今までの経緯を話し出す。

 要約すると、ユウサクはクラス転移に巻き込まれてこの世界に来たらしい。

 その会話の中で、この異世界はVRMMORPG『アルカドラド戦記』と同じ世界なのだと、桜花は知る。

 更に、ユウサクがスライム化していたのは、一部のクラスメイトが無能認定され、追放・処刑される寸前に救出し、逃亡を手助けした際にかけられた呪いが原因だったようだ。



「――なるほど。他のクラスメイトはどこに? 何人居る?」

「追放されたのは複数人いるが、救出が必要なのは二人だ。一人は宿に預けたが、もう一人とははぐれてしまった。私は二人を探し出して、国外に逃げた友人グループに預けなければならないんだ」

「急を要するか?」

「そう思っているが、この世界は治安が良くない。夜だとなおさらだろう。だから、行動を起こすにしても明日の明け方からだと考えている」

「……意外と常識的に考えてるんだな」

「クラスメイトからはやれ熱血系や体育会系だと言われるが、こう見えて学力は全国クラスだ」

「おお、やるなユウサク!」

「ふ、もっと褒めてもらっていい」


 ユウサクの魔力が高い理由が分かった気がした。

 あと単純に美少女なので、ドヤ顔が可愛い。

 彼こと彼女も同じだったようで、俺の尊敬の眼差しに頬を赤らめていた。


 ま、なんにせよ、今日は動かなくてもいいようだ。

 桜花はストレートに切り出す。


「じゃあさっさと寝るか?」

「いや、一緒に風呂に入らないか」

「な、なんでだよ」

「……実は姉妹百合に興味があるんだ」

「ひぃ――」


 桜花は、あまりにも真剣な表情のユウサクに貞操の危機を感じ、部屋から飛び出した。

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