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最後の更新からずいぶんと空いてしまいました(^^ゞ

気づかぬうちにブクマ&評価をいただいていたようで、とても嬉しく思います!


続きができたのでしれ~っと投下しておきますね!

個人的に「コイビト(仮)」がお気に入りです(。´pq`)






『キミさえよければオレはそうしたい』

『どうかな?』



そう言って出された提案に頷いたはいいものの。

やはり瑠菜の中で『申し訳ない』という気持ちは完全には拭えなかった。

だからか、頷いた後に徐々に後悔の気持ちが湧き上がり、何度となく募った心配が隠せなくなって、ついにはこう問いかけてしまった。


「本当に、いいの……?」


自分が後悔しているように、大和もこんな提案をしたことを後悔しているのではないか。

そんな後ろ向きな気持ちになってしまったのだ。


けれど、そんな瑠菜の心配を杞憂だと言うように大和は笑って即答した。


「もちろん。それに……」


……と、瑠菜の心中を察して、更に心配を打ち消そうと言葉を重ねてくれたのだ。


「それに?」

「宇佐美さんって、ちょっと危なっかしくて放っておけないっていうか……。なんつぅの? 乗りかかった船……じゃないけど。なんか……守ってあげなきゃって、変な使命感生まれちゃったみたい」


そう言って再び大和は笑った。

見慣れた人気者の彼の素顔のうちの一つでもある、あのヘラっと笑った人好きのする表情だ。

多くの友人と接する時に見せている人好きのする笑みを向けられたことで、瑠菜は大和の言葉が本心から出たものだと改めて信じられる気がした。

今度こそは、心配をしなくてもいいのだと、そう思えるようになった。


「鷹乃瀬くん……」

「だから、オレのことが嫌じゃないなら。お願いします。宇佐美さん、オレと付き合ってください」


スッと右手を差し出され、頭を下げるその姿勢は体育会系もビックリな綺麗な直角90度。

学内一の人気者にここまでされて何も感じない瑠菜ではない。

寧ろ、大和自身が瑠菜に『嫌だと思われているかもしれない』と思っている事自体が驚きだ。

そうでなければ『オレのことが嫌じゃないなら』なんて言葉が出るはずはない。


気が付けば瑠菜は、戸惑いながらも差し出された大和のその手を両手で恐る恐る取っていた。

それは大和が発した『嫌じゃないなら』の言葉を否定するためだ。

もちろんそれ以外にも、感謝の気持ちや、迷惑を掛けるかもしれないけれどごめんなさい、という気持ちを始めとした様々な感情が込められている。


けれど。

今この場では、手を取るという行動だけではきっと伝わらない。

きちんと言葉にしなければ、分かってほしいと思うことも分かってもらえない。


大和が言葉にしてくれたように、自分もきちんと言葉にして伝えなければ。

そんな気持ちで、拙いながらも瑠菜は言葉を紡いだ。


「あ、の……こんな私でよければ、その……どうぞ、よろしくお願いします……」

「ホント!?」

「は、はい……」

「やった! サンキュ! それじゃあ、これからよろしくね、うさみん!」

「う、うさみん……?」

「そ! うさみん! 宇佐美さんって呼ぶより、こっちのがずっとカレカノっぽいっしょ?」

「鷹乃瀬くんがそう言うのなら……」


実際に世間一般で彼氏彼女と呼ばれる関係の男女がそういった愛称で呼び合っているのかは瑠菜には分からないが、大和が笑顔でそう言うのならそれに間違いはないのだろう。

危ないところを助けてもらったというその事実だけで、瑠菜にとっての大和という人物はこの短時間の間に十分に信頼できる相手となっていた。

だから何の疑いもなく瑠菜は大和の言葉に頷き、大和からの『うさみん』呼びを受け入れた。


そんな瑠菜とは反対に、大和はあまりにも簡単に頷いた瑠菜を見て苦笑した。

実際に頷かせるようにしたのは他でもない大和自身ではあるが、正直なところ『もうちょっと警戒してもよくないか……』というのが本音だった。

瑠菜のそういった部分が大和には危ういと思えてならないのだが、瑠菜にそうさせたのは紛れもない自分自身だ。

ある意味自分の責任でもあるため、その危うい部分を含めて自分がしっかりと瑠菜を守っていかなければならない。

それが、この提案をした大和の義務でもある、と今度は謎の正義感が湧いてくる。


予想外なところで瑠菜は大和に色々な気持ちを抱かせる。

まるで振り回されているような気分にもなるが、それはそれで、どこか新鮮でもあって『悪くない』と思える自分がいる。

どうもこの短時間で、大和は瑠菜という人物に相当絆されたようだ。


「よし! じゃあ……そろそろ帰ろっか? 寒いしね!」

「う、うん……」

「もっかい手ぇ繋ぐ?」

「えっ?」

「手ぇ繋いだら温かいし。ちょっとずつでもオレに慣れてほしいから。……ダメ?」

「……ううん。ダメじゃ、ない」

「そ? よかった」


瑠菜の返事を聞くと同時に、大和はそっと瑠菜の手を取り包み込むように優しく握ると、そのまま自分の手ごとコートのポケットへと突っ込んだ。


「!?」


軽く引っ張られる形で前のめりになった瑠菜は、驚く間もなく大和の左半身に凭れるようにぶつかった。

軽く鼻をぶつけてしまい、空いた方の手で反射的に触れる。


「……ごめんなさい」


『ぶつかってしまって……』と続くはずだった言葉は大和の笑顔に遮られた。


「……や。今のはオレが悪い。いきなりすぎたよね、ゴメン」


苦笑しながらそう言われ、瑠菜はふるふると首を振った。

決して大和が悪いなどとは欠片も思っていないから。


「ううん。鷹乃瀬くんは悪くない。私が鈍くさいのがいけないの。だから、鷹乃瀬くんが謝るのは違うと思う」

「それを言うならオレも同じこと返すよ? うさみんは悪くない。いきなり引っ張ったオレが悪い」

「そんなことない」

「い~や、そんなことある」

「ないから」

「あるの!」

「…………」

「…………」


互いに譲り合わず、どちらも折れる気配はない。

同時にそう悟った二人は、一瞬の間見つめ合ったままの状態で沈黙した。

……が、次の瞬間にはどちらからともなく笑い出した。


「あははははっ! これじゃ埒が明かないね」

「ふふっ。本当に」

「もうどっちも悪いってことにして終わりにしない? これ以上続けても無意味だよ」

「うん。そうする」


一頻り笑ってから不毛な問答を終了させ、改めて二人は歩き出した。


「送ってくよ。最寄りどこ?」

「緑川町」

「えっ、緑川町?」

「うん」

「マジで?」

「? ……うん」


最寄り駅を聞かれ、正直にそれに答えた瑠菜。

だが逆に答えたことで大和に驚かれてしまい、何か変なことを言っただろうかと不思議そうな顔で首を傾げる。

しかしどう考えても変なことは言っていない。

まさか駅名がおかしいとは言うまい。


「え、っと……鷹乃瀬くん?」

「……や、ゴメン。なんつ~偶然だと思って」

「?」

「オレの最寄りも緑川町」

「そうなの?」

「うん、そうなの。その割には一度も会ったことがないってある意味ものすごい奇跡じゃない?」

「……そう言われてみれば確かにそうかも。最寄り駅が同じなのに今まで一度も会ったことがないなんて本当に不思議」

「ね?」


笑いながら言われた大和の言葉に瑠菜も同意だとばかりに頷く。


「もしかして家も近所だったりしてね?」

「本当にそうだったら更にすごいかも」

「けどさすがにご近所さんなら一度も会わないなんてことはないっしょ?」


『どっちかがヒキコモリでもない限りはね~!』


……と、ケラケラ笑う大和。


「オレは家でじっとしてないタイプだからヒキコモリなんてまず有り得ないけどね」

「インドアじゃないんだ?」

「こう見えてバリバリのアウトドアよ、オレ? サークルもアウトドア中心だしね。なかなかに楽しいよ? 釣りとかグランピングとか」

「……わ、楽しそう! それじゃ野外でお料理もしたりするの?」

「するする、めっちゃするよ! でもやっぱ男連中ばっかが集まると豪快にバーベキュー! ってなることが多いかな? 今は冬場だから活動は縮小中だけどね。暖かくなってきたら本格的に活動再開してく予定。だからヒマな今の時期はバイトしまくってる」


親指と人差し指でお金を示す丸を作りながらドヤ顔を披露した大和を見て瑠菜は吹き出した。


「うさみん、笑ったね? お金は大事よ?」


わざとらしく膨れっ面を作って軽く瑠菜を睨むように見るも、ますます笑われるだけだった。


「ふふっ、そうだね。お金、大事だもんね? サークルの活動資金になるんだもんね」

「そ~ゆ~こと! あとは趣味の食べ歩き用の軍資金てところかな。オレ、食べもの関連にはめっちゃお金落とすからね?」

「そうなんだ?」

「うん、そうなの。食べることが好きだからね~」

「私も食べること大好き」

「趣味合うね?」

「うん」

「オレたち、きっとうまくやっていけると思う」

「?」

「コイビト(仮)」

「(仮)って」

「だって付き合うって言ってもフリだからね? ウソのカレカノだから(仮)で合ってるっしょ? でも他の人には(仮)であることは秘密~♪」


楽しそうに笑いながら、半歩ほど前を歩く大和が瑠菜の手を軽く引いた。


「周りに不自然見えないように仲良くする必要があるわけ、オレたち」

「うん」

「だから明日。打ち合わせしよう」

「打ち合わせ?」

「そ。どういう経緯で付き合うようになったか……とか、そういった辻褄合わせのためのね? 周りにちゃんと付き合ってるって認識させるためにも必要なことだよ? 大学内だけで仲良くしてればいいってわけでもないからね。休日とか学外ではどうするかも考えておかないと」

「そっか……互いの言うことに食い違いがあると怪しまれるもんね。分かった。明日、打ち合わせね?」

「うん」


道中は終始和やかで、今日初めて話したとは思えないくらいに会話は弾んだ。

それは電車に乗ってからも変わることはなく、話に夢中になっている間に目的地に到着した。


「おぉ~、あっという間!」


……と、声を弾ませる大和を見て、瑠菜は思わずクスッと小さな声を立てて笑ってしまった。


「笑ったね?」

「笑ったよ?」

「オレ、なんかおかしなこと言ったっけ?」

「ううん、何も?」

「だったらなんで笑うかなぁ?」

「う~ん……かわいかったから、かなぁ?」

「え~、何ソレ?」

「何だろうね?」


最寄り駅に着いた頃には、こんな風にふざけ合えるくらいには打ち解けた。

そこに不自然な空気は欠片もない。

どこからどう見ても自然体の二人だった。


「家は東口方面と西口方面どっち側?」

「西口のほう」

「あぁ、どうりで」

「?」

「最寄り同じなのに会ったことがない理由。オレ、東口なんだよね」


緑川町の駅を中心に、東側は単身用住宅が多く西側は家族向け物件が多い。

そのため一人暮らしである大和は駅改札は東口を利用している。

瑠菜のほうは実家通いで、西口を利用するため、時間をピッタリ合わせない限りかち合うことはほぼないに等しいのだ。


「西口ってことはうさみん実家通い?」

「うん。でも、お父さんの海外赴任にお母さんもついていっちゃったから、実家と言っても一人暮らししているようなものかな?」

「あ~……ちょい待ち、うさみん」

「?」

「その情報出すのはよくない」

「えっ?」

「若い女の子が、男に『一人暮らししてる』なんてことは言っちゃダメ! よからぬ事を考える輩に狙われるからね?」

「あ……っ!」


言われて思い出したのは飲みの席でのあの嫌な男のことだ。


「今のはオレだったからセーフだけど、他の人の前じゃ絶対に言っちゃダメ! 今度からそういうことを言うのはコイビト(仮)であるオレだけにして? できれば女トモダチ相手に言うのも避けてほしい。どういうカタチで他の人の耳に入るか分かったもんじゃないから」

「鷹乃瀬くん……」

「むちゃくちゃ理不尽なこと言ってるのは分かってるんだけど……うさみんが心配だからさ」

「……うん」


確かに言っていることは一方的な無理難題なのかもしれない。

けれど、心配してくれてのそれならばまた別だ。

嫌だと突っ撥ねる理由はどこにもない。

だから瑠菜は大和の言葉に素直に頷いた。


「気をつける……ね?」

「うん、そうして?」


分かってはくれたものの、大和から見れば瑠菜は相当に危なっかしい。

家まで送っていったほうがよさそうだと判断し、瑠菜にその旨を告げる。


「家の前まで送ってくよ。どっち?」

「近いから大丈夫。本当にすぐそこだし。駅から徒歩1分のあのマンション……」

「う~さ~み~ん~……?」

「えっ?」

「だからそういうの! 言っちゃダメって言ったばっかだよね! ついさっき!」

「……あっ!」

「軽々しく個人が特定できるような情報を出さない!」

「ははははいっ!」

「…………ん。よろしい!」


『はぁ~……』と溜息をつきながら大和は瑠菜の肩に手を置く。

……が、流れるように身体を引き寄せ、一瞬だけ軽くハグをしてから離れていった。


「もぉ~超がつくほど心配すぎる! 確かに自宅は目と鼻の先だろうけど、ホントに本ッッ当に気をつけてよ?」


大和の表情と言葉に、何度もコクコクと頷く瑠菜の顔はどこかバツが悪そうだ。

言われたそばから言いつけを破ってしまったのだから当然の反応かもしれないが。


「じゃあ、これ以上遅くならないうちに行って?」

「う、うん……。それじゃ、また……」


……と、瑠菜を帰しかけたところで大和ははたと気づく。


「うわっ、と! ちょい待ち、うさみん!」

「えっ?」

「連絡先! まだ交換してなかった! これじゃ明日のこと連絡できない。今更だけど連絡先教えてくんない?」


今度は大和のほうが焦った顔を見せ、少し離れた場所に立つ瑠菜へと向けてスマホを掲げた手をぶんぶんと大げさに振った。

そんな意外な姿を見せた大和にほんの一瞬呆気に取られるも、すぐさま瑠菜は頷いた。


「ふふっ。……はい」


思わず見惚れてしまうくらいにかわいらしい、苦笑混じりの顔で。











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