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プロローグ

掲載中の他作品で行き詰まったため、息抜きとして書きました。

不定期更新になりますが、気長にお付き合いいただけたら嬉しいです(・∀・)




「オレたち、付き合おっか?」


明るい調子でそう言われたのは、それが恋の告白によるものではないから。


言われた言葉に数度瞬き、『なぜそんなことを言われるのだろうか?』と、言われた彼女───瑠菜(るな)はぼんやりと考える。

……が、いくら考えてもその言葉の意図は分からない。


「彼氏持ちの女のコはそうそう合コンに誘われたりはしない。彼女持ちの男も然り。……ってことはだよ? オレとキミが付き合っていることにしておけば、この先オレもキミも嫌~な合コンに参加せずに済む。今日みたいに強引に迫られてお酒を飲まされるような目に遭うこともなくなるよ?」

「……あっ」

「ね?」

「う、ん……」

「ってわけでどお? オレなら最強の虫除けになれると思うんだけど?」


ニッコリと笑顔で言われた言葉が、まるで『そうしなよ』って言っているようにも聞こえる。

そこに甘い響きなど皆無だというのに、なぜか頷いてしまいたくなるような不思議な力を感じてしまう。


巧みな罠……というには少し違う。

けれど彼───大和(やまと)が口にしたその言葉は、瑠菜にとってはとても魅力的で、そして、とても抗いがたいものがあった。


「存分に利用していいよ、オレっていう存在を。それだけで、良からぬことを考える輩から十分にキミを守ってあげられる」

「でも……それじゃ、鷹乃瀬(たかのせ)くんが……」

「もちろんオレだってキミのこと最大限に利用させてもらうよ? 『オレのカノジョです!』ってね? だから、罪悪感なんて覚える必要なんか全然ないんだ。互いが互いに利用し合えばいい。自分の身も心も守るために……ね?」


確かに大和の言う通りなのだろう。

瑠菜に彼氏がいれば、今回のように合コンに誘われず、そして強引に迫られたりお酒を勧められたりすることもなくなる。

大和は大和で、彼女がいればそれを理由に合コン参加を断る口実になるのだ。


謂わばこれは、一種の取引にも似た契約だ。

互いが互いの保身を図るための、そして、互いの利害が一致したがゆえに為された提案だとも言える。


「キミさえよければオレはそうしたい。どうかな?」

「本当に、いいの……?」

「もちろん。それに……」

「それに?」

宇佐美(うさみ)さんって、ちょっと危なっかしくて放っておけないっていうか……。なんつぅの? 乗りかかった船……じゃないけど。なんか……守ってあげなきゃって、変な使命感生まれちゃったみたい」


そう言ってヘラっと笑った大和のその表情は、見慣れた人気者の彼の素顔の一つ。

多くの友人と接する時に見せる人好きのする笑みを向けられたことで、大和の言葉が本心から出たものだと信じられるような気がした。


「鷹乃瀬くん……」

「だから、オレのことが嫌じゃないなら。お願いします。宇佐美さん、オレと付き合ってください」


スッと右手を差し出され、頭を下げるその姿勢は体育会系もビックリな綺麗な直角90度。

学内一の人気者にここまでされて何も感じない瑠菜ではない。

気が付けば、戸惑いながらも差し出されたその手を両手で恐る恐る取っていた自分がいた。


「あ、の……こんな私でよければ、その……どうぞ、よろしくお願いします……」

「ホント!?」

「は、はい……」

「やった! サンキュ! それじゃあ、これからよろしくね、うさみん!」

「う、うさみん……?」

「そ! うさみん! 宇佐美さんって呼ぶより、こっちのがずっとカレカノっぽいっしょ?」


またもあの人好きのするヘラっとした笑みを向けられて、瑠菜は何も言えないまま、ただただ大和の顔を見つめることしかできなかった。


恋の告白じゃないのに。

ちっともドキドキするシチュエーションなんかじゃないのに。

なぜこの人という存在は、自分の心をこうも強く惹きつけるのだろう。




予想もしていなかった『偽りの恋人関係の始まり』の切っ掛けとなったこの告白が、二人のこれからの日常生活を大きく変えていくこととなる……─────






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