ツバメのスゥの物語
昔、とある国に大きな森がありました。春には色とりどりの花が咲き乱れ、夏には青々とした緑の葉や草が茂り、秋にはたくさんの木の実が転がり、冬には真っ白な雪が地面も木々も覆いつくす、いつの季節も美しい森です。
その森に、春から秋のあいだだけ暮らしている、ツバメの一族がおりました。彼らは寒い場所では凍え死んでしまうので、暖かい季節だけ森に住み、冬には南の国へ移動するのです。
そんなツバメの一族には、スゥという名の一羽のツバメの男の子がいました。
スゥは引っ込み思案な性格でしたが優しい心を持っていて、家族や友だちといったツバメの仲間たちからとても好かれていました。
今年の春も森にやってきたツバメたちは、森に住む動物たちと楽しくお喋りしながら日々を過ごし、あっという間に夏を迎えました。
スゥは夏が一番好きです。いつもは少し気弱な性格でも、太陽のギラギラとした光を浴びると、ちょっぴり強くなったような気がするからです。
ツバメの仲間たちや森の動物と一緒に過ごすよりもひとりでいることほうが好きなスゥは、夏の森の中を自由気ままに誰にも邪魔されず飛び回るのが日々の楽しみでした。
その日も彼は、のんびりと歌いながら、緑の葉と葉の間を飛んでいました。
彼の歌声はツバメたちの中でも一番で、のびやかなメロディーが森の中に響き渡ります。偶然近くを通りかかった虫や、青々と生えている草花や木々が、その歌に聴き入ってうっとりしたり、葉を揺らしたりしました。
スゥがお気に入りの大きな木の枝にとまり、歌うのをやめてふと下を見ると、今まで出会ったことのない不思議な存在と目が合いました。
それは、人の姿をしているけれど、人よりもとてもとても小さな、可愛らしい女の子でした。
土の上に座り、草の陰からこちらを見上げるつぶらな瞳に、スゥは胸がどきどきして、思わず木の幹の後ろに隠れてしまいました。
なんて可愛い女の子だろう。お話しして、友だちになれないかな。
そう思いましたが、声をかける勇気がなくて、スゥは小さくハミングしながら、ツバメの仲間たちのもとへ戻っていきました。
その後ろ姿を女の子は草の陰からそっと見送っていました。
小さな可愛い女の子のうわさは、瞬く間に森中に広まりました。
「最近、森にひとりでやって来たんだ」
「勇気のあるやつが話しかけてみたらしいけど、人のおやゆびくらいの背丈だから、おやゆび姫って呼ばれてるんだって」
「変な子だね。人にしては小さすぎるし、私たちのどの動物とも似ていないし」
野うさぎたちがこそこそとうわさするのを、スゥは木の葉の後ろからそっと眺めていました。
みんな、おやゆび姫のことが気になってはいましたが、見慣れない姿の彼女と仲良くなる勇気がなくて、おやゆび姫に近寄る者はほとんどいません。それは、スゥも同じです。いつもひとりぼっちのおやゆび姫とお話ししてみたいと思いながら、それができずに、おやゆび姫の頭の上を飛びながら、彼女にも聞こえるように歌を歌うのが精いっぱいでした。
やがて、森は秋になり、ツバメたちは冬に備えて南の国へ飛び立つときがやってきました。次にこの森を再び訪れるのは春です。
森に住む動物たちが、長い旅になるツバメたちにお別れを言うために集まりましたが、その中におやゆび姫の姿はありません。あいかわらずひとりぼっちなのです。
動物たちに見送られて、仲間と一緒に翼を広げながら、スゥはおやゆび姫のことを考えていました。
これから森は冬になり、真っ白な雪に覆われるでしょう。あの小さな体で、おやゆび姫は厳しい寒さに耐えられるでしょうか。花の蜜や木の実といった、食べ物もなくなってしまいます。森のに一年中住んでいる動物の中の、優しい誰かが助けてくれると良いのだけれど……。
しかし、考え事をしながら飛んでいたスゥは、周りの様子を注意深く見ていませんでした。前方から猛スピードで飛んでくる大きなカラスにまったく気づいていなかったのです。
「どけーい、どけどけーい!」
「あっ」
カラスのがらがらした声を聞いてやっとあたりを見回したときにはもう遅く、スゥはカラスとぶつかってしまいました。
「なんなんだよ邪魔なヤツ! ちゃんと前見て飛べよな~!」
カラスに怒鳴られるのを聞きながら、スゥはバランスを崩して空から落ちていきました。
慌てて翼を動かそうとしても上手くいかず、あっという間に空が遠くなり下へ下へと地面が近くなっていきます。スゥは目を回して気を失ってしまいました。
次に目を覚ましたとき、スゥは暗くて寒い場所にいました。
思いまぶたを上げて辺りをよく見ると、そこは土で覆われた広い通路でした。どうしてこんな場所にいるのか、よくわかりません。
ケガもしてしまったようで、痛くて羽を動かすこともできず、その場に倒れこんでじっとしているしかありません。そうしているとやがて、通路をモグラの男が歩いてきました。
「どうして私が掘った地下通路にこんな鳥がいるんだ。死んでいるのかね、まったく迷惑なことだよ」
モグラはそう言うと、スゥを乱暴に蹴って通路の脇に転がしました。
スゥはまた、気を失うように眠りにつきました。
そして再び目を覚ますと、あいかわらず寒い通路に横たわっていたスゥの体には、柔らかい毛布がかけられていました。
うっすらと目を開いた先にはどういうわけか、森で何度も見かけたあのおやゆび姫が心配そうにスゥを見つめています。
「あなたは夏のあいだ、森で素敵な歌を歌ってくれていた鳥さんでしょう? こんなに弱ってしまってどうしちゃったの? お願いだから元気になって。今度は何か食べ物を持ってくるから……」
あたたかい毛布をかけてくれたのは彼女だとスゥは一瞬で理解しました。けれどお礼を言うためにくちばしを動かす元気すらありません。
目を閉じて再び眠りにつきかけたスゥのまぶたに、おやゆび姫はそっと優しく口づけました。
それからおやゆび姫は何度も通路を訪れ、スゥの世話をしてくれました。何日か経つとスゥも話せるほどに元気になりました。
あとはケガをした羽が治ればいつでも森に帰ることができます。けれど、おやゆび姫によると、外はまだ冬でした。
「とても寒くて吹雪がひどいの。春になるまではここにいたほうがいいわ」
冬のあいだ、スゥは通路で静かに休んで過ごしました。ときどき通りかかるモグラはスゥがじっとしていると、まったく見向きもせずに通り過ぎていきます。きっとスゥのことになど興味がなく、元気になったことも気が付いていないのでしょう。
冬になってから森を離れて通路の向こう側のネズミの家に住んでいるおやゆび姫は、何度もスゥのもとを訪れて世話をしてくれました。それからお互いのいろいろな話をしました。森ではいつもひとりぼっちだった彼女は、仲良くなるとお喋りでよく笑う可愛い女の子でした。
スゥは、今こんなに狭い通路で唯一の話し相手であり友達なのが、森ではどうしても話しかける勇気が出なかったあのおやゆび姫だということがとても不思議で夢を見ているようでした。
やがて春が来て、スゥの翼もすっかり治りました。もう元気になって空を飛ぶこともできます。きっと仲間たちも、南の国から森に帰って来る頃でしょう。スゥも森へ帰ることにしました。
出発の日、地上に出てスゥを見送りに来てくれたおやゆび姫は、どこか寂しそうでした。スゥも彼女とお別れすることをつらく感じました。なので、勇気を出して彼女に言いました。
「一緒に森へ行きませんか。僕の背中に乗れば連れて行ってあげられるよ」
それを聞いたおやゆび姫は、少しだけ笑顔になりましたが、すぐにまた悲しそうな表情になり、首を横に振りました。
「一緒に暮らしているネズミのおばあさんをひとりにして行けないわ。誘ってくれてありがとう。元気でね」
スゥはおやゆび姫に見守られながら、森に向かって飛び立ちました。冬のあいだ、一緒にいてくれたお礼にと歌を歌いながら。
しばらくぶりに戻ると、森は柔らかな緑の風と春の花の香りでスゥを迎えてくれました。そして、ツバメの仲間たちは涙を流してスゥとの再会を喜んでくれました。
「一緒に出発したはずなのに、いなくなってしまったからとても心配したんだよ、スゥ」
「生きていてよかった。次の冬は必ずみんなで南に渡ろうね」
スゥは森に帰ってこられて良かったと心の底から思いました。そうして仲間とともに華やかな春を過ごし、大好きな夏を過ごし、秋がやってきました。
森の仲間と一緒にいるときも一人で静かにいるときもスゥの心は穏やかで、充実した毎日でしたが、どうしても心から離れないものがありました。おやゆび姫の、別れ際の寂しそうな顔です。それから、優しい彼女の声も。
森の中の誰も、もう昨年の短いあいだだけいたおやゆび姫のことなんて忘れてしまったのか名前を口にすることはありませんでした。けれどスゥは、みんなと同じように忘れたふりをしながらも、本当に忘れたことはありませんでした。
もう一度、おやゆび姫に会いたい。会ってお喋りがしたい。
冬のあいだ一緒に過ごすうちに、スゥはおやゆび姫のことをどうしようもなく好きになっていました。
南の国へ出発する日が近づく中、スゥはぼんやりとおやゆび姫のことを考える時間が増えていました。ある日、その様子を見かねた仲間のツバメが言いました。
「スゥ、何か悩みがあるのかい? 心残りがあるのなら、飛び立つ前に解決しておかないと後悔するよ。また春になるまで戻ってこられないんだからね」
スゥは黙ったままでした。けれどその言葉は、スゥの胸に残りました。
出発の前日の夜、スゥは眠ることなく木の枝の上で考え事をしていました。やがて夜明けが近づき空がほんのりと明るみ始める頃、決心がついたスゥは枝から飛び立ちました。おやゆび姫に会いにいくために。
少しのあいだ飛び続けて太陽が輝き始めた頃、スゥはおやゆび姫が住むネズミの家にたどり着きました。驚いたことに、まだ眠っていると思っていたおやゆび姫は、綺麗な純白のドレスを身に着けて、土の上に立ち空を見上げていました。
思いがけず現れたスゥの姿に、おやゆび姫はびっくりしていました。そして、これからモグラの男と結婚すること。これからはずっと地下暮らしになるから最後に地上に出て太陽にお別れしに来ていたことを告げました。
おやゆび姫は美しい花嫁姿をしていましたが、あまり嬉しそうには見えませんでした。それから、彼女の夫になるモグラが、瀕死のスゥを助けてくれなかったどころか邪魔者扱いしたことを考えると、良い結婚話とはとても思えませんでした。
スゥはしばし迷った末、おやゆび姫と春に別れたときに問いかけた言葉を、再び口にしました。勇気を出して。
「僕と一緒に行きませんか」
「一緒に……?」
「もうじき冬が来るから僕はまた南へ行く。君も僕の背中に乗せて連れて行ってあげられる。向こうの土地は一年中暖かくて過ごしやすい。君はここにいるよりも幸せに暮らせるはずだよ、きっと」
一緒に南の国へ行きたい。それだけのことをどう伝えればよいのかわからないスゥの、精いっぱい考えた言葉です。スゥは不安でした。また、断られるかもしれない。前みたいに。そうしたら、ひとりぼっちで戻ろう。そして何事もなかったように仲間と合流して、それから、それから……。
「一緒に行くわ」
スゥがおやゆび姫の顔を見ると、彼女の大きな瞳が涙をこぼしてスゥを見つめていました。
「わかった、じゃあ、行こう。一緒に」
スゥは柔らかい羽でおやゆび姫の涙をぬぐいながら、心が幸せで満たされてゆくのを感じました。
おやゆび姫を乗せたスゥは、森に戻ると仲間のツバメたちと共に南へ飛び立ちました。今度は途中ではぐれてしまうこともありません。おやゆび姫と一緒の旅はなんだかいつもとは違ってより一層楽しい気がします。
ツバメたちは森を越え、海を越え、雪山も越えてゆきました。そのあいだ、おやゆび姫はスゥの暖かい羽毛にくるまっていたので寒くても平気でした。
ようやくたどり着いた南の国は、鮮やかな色の花々や新鮮な果物に囲まれた美しい場所でした。おやゆび姫は見たことのない植物やあたたかい風の香りに目を見張ります。
「素敵なところね!」
大好きな場所をおやゆび姫も気に入ってくれたようで、スゥは嬉しくなりました。
スゥはツバメたちの巣が並ぶ建物の近くの花畑に飛んでいき、大きな白色の花の中に彼女をそっと降ろしました。
けれどそこにはすでに先客がいました。頭に金の冠を乗せ、背中に羽がついた一人の青年が、花の中に座っていたのです。
最初、スゥもおやゆび姫も誰かがいるとは思っていなかったので驚きましたが、彼は花の妖精たちの中でも彼らをまとめる花の王子でした。
「綺麗な人ね」
おやゆび姫はスゥにそうささやきました。スゥはすぐに、おやゆび姫が王子に一目ぼれしたのだと気がつきました。
王子も最初は突然現れたおやゆび姫と、体が大きなツバメのスゥに驚いていましたが、すぐに可愛らしいおやゆび姫を好きになりました。二人が結婚して結ばれるまで、時間はかかりませんでした。
おやゆび姫は、花の妖精のおきさきとなり、花畑の住人たちからたくさんのお祝いをもらいました。その中でも素敵だったのは、美しい羽のプレゼントです。これで、王子やほかの妖精たちのように、自由に花と花のあいだを飛び回れます。
スゥはお祝いに、得意な歌を披露しました。それが自分にできる一番素敵なプレゼントだと思ったのです。けれど本当は胸がチクチクと痛みます。でもスゥは自分の気持ちを隠して歌いました。彼女はスゥのそばにいるよりも花の王子のとなりで笑っているほうがぴったりで、とても幸せそうなのです。
これでよかったんだ。おやゆび姫はモグラとは比べものにならないくらい素敵な王子様と出会うことができたのだから。
おやゆび姫と王子の幸せそうな姿を見ているのがつらくなったスゥは、街へ一羽で飛んでゆきました。実はその街の小さな建物の軒下にも巣を持っていたのです。しばらくスゥは街で暮らすことにしました。
スゥが住む巣のすぐそばの部屋には童話作家が住んでいました。スゥと作家は仲良くなり、スゥは自分の生い立ちやおやゆび姫のことを歌うように話しました。すると作家はおやゆび姫の話を面白がって物語にしてくれました。
「スゥ、君の気持ちはよくわかるよ。僕も上手くいかなかった恋の経験があるからね。だから今でもこうして独り身さ」
「僕と一緒だ」
「ああ、一緒だな。だけどお互い、こうして仲良く話す相手がいるんだから寂しくないだろう?」
「そうだね。あのときはつらかったけれど、ここに来なければあなたと仲良くなれなかったもの。今はあなたと良い友だちになれて幸せだよ」
スゥが微笑むと、作家は照れくさそうに笑ってペンを手に取りました。
「そう言ってもらえると嬉しいな……そうだな、これはおやゆび姫が幸せになるお話にしよう。君がつらい恋をして、今ここにいるという壮大な物語は僕たちだけの秘密だ」
「うん、それがいい。小さな女の子が王子様と結婚して幸せになる、明るいお話を書いてよ。ハッピーエンドな物語が一番だ」
それから、作家はほかにも自分の考えた話をスゥに聞かせてくれたりしました。そうして日々が過ぎるうちにスゥもすっかり成長し、小さく引っ込み思案な男の子から、大人の立派な羽を持つツバメになっていました。
ある日、スゥは南の国に戻るか迷っていました。スゥの家に立ち寄ってくれたツバメの友達が、南でスゥの家族や仲間が寂しがっていたと教えてくれたのです。気が付けばスゥは南の国にしばらく戻っていませんでした。
「一度帰っておいでよ」
作家はスゥに言いました。
「この街は冬になっても、前に君が春や夏に住んでいたっていう森に比べるとあたたかいし、寒くても僕が部屋の中に入れてあげれば君は南に渡らなくてもすむけどさ。たまには懐かしい顔を見るのもいいものだよ」
作家にすすめられて、スゥは南の国へ久しぶりに帰ることにしました。
「じゃあ行ってきます。おみやげ話を持って帰って来るからね」
「ああ、行っておいで。君の仲間たちがどんなだったか聞くのを楽しみにしながら、何か新しい物語でも書いて帰りを待ってるよ」
スゥは大きな翼を広げ、街の空へ繰り出しました。
南に向かっていくつかの街や村を越え、山を越え、一羽で飛び続けてもうすぐ南の国、というところ。スゥが小川の上を飛んでいると、水の中に何かが見えたような気がしました。
速度を落としてよく見てみると、それは人間の指くらいの大きさの男の子でした。男の子は川の水におぼれて流されていました。スゥは慌てて男の子が捕まって乗ることができるような大きさの木の葉を川に落とし、男の子を助けました。
「ありがとう、優しいツバメさん」
陸に上がった男の子は、礼儀正しくスゥにお礼を言いました。その背中には、まだ飛べないくらい小さな羽がついていました。スゥは一目見て、この愛らしい花の妖精の男の子はあのおやゆび姫の子どもだとわかりました。それくらい、姿や雰囲気がそっくりだったのです。
「いじわるな蝶々に飛べない羽を馬鹿にされて、頑張って飛んでみたら川に落ちちゃったんだ。どうしてうまく飛べないんだろう」
「大きくなればじきに飛べるようになるさ。君は花の妖精の王子さまだね?」
「うん。僕のお父さまが花の妖精の王さまで、お母さまがおきさきさまなんだよ」
「じゃあ君のお父さまは飛ぶのがすごく上手だから、きっと君も大丈夫。さあ背中にお乗り。お父さまとお母さまのところまで送っていってあげよう」
スゥは男の子を背中に乗せて、南の国の花畑へ飛びました。昔、こうしておやゆび姫を乗せて飛んだことを思い出しながら。
花畑に着いて花の妖精たちの姿が見えてくると、スゥは花の陰に男の子を降ろしました。
「ありがとう、ツバメさん。……お母さま! お父さま!」
男の子が駆けていく先に、懐かしいおやゆび姫の姿がありました。
「まあ、坊や。どこに行っていたの? お父さまと二人で探したのよ」
「川に流されて遠くまで行っちゃったの。でも優しいツバメさんが助けてここまで送ってくれたんだよ。ほら、あそこにいるツバメさんだよ……あれ?」
男の子が指さす先には、誰もいませんでした。
スゥはもう飛び立ち、仲間たちがいる巣のもとへ向かっていました。男の子を優しく抱きとめる花の妖精の王妃を見てスゥは、もうそこには自分の知っているおやゆび姫はいない、と思いました。立派な母親になり、偉大な王と可愛らしい子どもに囲まれている彼女を一目見ることができただけで胸がいっぱいです。
さあ、懐かしい巣と、懐かしいツバメの仲間たちの姿が見えてきました。
スゥがお得意の歌を歌ってみせると、その鳴き声に気づいたツバメたちが喜んで歌を返してくれます。スゥは彼らに向かって一直線に飛びながら、ここにも街にも帰る場所があるのはなんて幸せなことだろうと思いました。
それからふと、童話作家の大切な友人のことを考えました。
街に帰ったらおみやげ話に、僕の帰りを喜んでくれる素敵なツバメの仲間たちの近況とそうしてもうひとつ。幸福な花の妖精の王と王妃と小さな王子の様子も話して聞かせよう、と。