夜会に集う令嬢たちの、いけない企み(下)
「ふぁっ、勇者さまぁ……」
「……あああ、やっちゃったこれ……」
広く豪華なベッドに広がる、とっても事後な空間。
勇者の血筋目当てのお嬢様を、誘われるがままに何度も抱いて、この有様。一度火が付くと、中々賢者タイムにならないのがユーリである。悟ったときにはもう遅い。
「……よし。これは、まあ、不幸な行き違い。まずはタオルと、水桶を持ってこよう。うん」
淑女としては人に見せられない姿のヴェラを眺め、行為の後始末に思い至る。なけなしの良心である。
そうしてドアを開き、廊下を出ようとすると。
「「きゃあっ!!」」
「ぬあっ!?」
まるでドアの前で聞き耳を立てていたように、室内に崩れ落ちてくる、ふたりの少女。どちらも、顔を真っ赤にしてるし、まあ、そう言うことだろう。
「え、えっと、これは、その」
気まずい。なまじ、誰それの領地を救ったとか、家族の命の恩人だとか、おだてられた後の、この始末。
わ、私たち、パジャマパーティーしてたんです! そしたら、その、苦しそうなお声がしたから、つい……」
「そしたら……その、鍵穴から、何をなさっているのか、見えてしまって」
ユーリは大きく息を吸い込み、はぁぁ、とため息を吐いた。呆れられたと思ったのか、ふたりの肩がビクリと震える。
「ふたりとも、夜会で会ったな。名前はなんていうの?」
「わ、私、イレーネって言います」
「エミリーです、救世の勇者様……」
イレーネは、赤く艶やかな髪が眩しい、明るくて活発そうな少女。
黒くてウェーブがかった髪を伸ばし、花輪で飾った、大人しそうな女の子だった。
好対照なふたりだが、だからこそ気が合うのかも知れない。
さて、ふたりの名前を再確認たユーリは、改めて彼女たちに向き合うと……
「そ、それじゃ今日のことは、お互い内緒ってことで……」
実に卑屈な隠蔽工作に打って出た。
するとふたりは、互いに顔を見合わせて、不思議そうな顔をする。
やがて、赤髪のイレーネが意を決したように口を開いた。
「え、でも勇者様。この夜会って、勇者様の、お夜伽の相手を決めるために開かれたんじゃないんですか?」
「……へ?」
勇者、超初耳。
「え、えっと……わたしは、その、勇者様のお情けを頂けるなんて、大それた考えは持っていません……でも、ヴェラ様が、勇者様は花の蕾が好きかも知れないし、って」
大人しいエミリーが、おどおどと言葉を繋ぐ。なお、年齢はエミリーが14歳、イレーネが16歳だ。元の世界なら確実に事案である。
「は、はは、そうなんだ……へー、へー……」
「だ、大丈夫ですよ勇者様っ! ルナリア殿下にも、話が通ってるって聞いてますからっ!」
「ぐふっ」
あの王女様、こうなることを見越して……!?
ユーリは戦慄した。『もし帰るつもりなら、この世界のことは、一夜の夢みたいなものでしょ?』とか言って、既成事実を作った挙げ句、こうして確実に外堀を埋めてくる手腕。ただ者では無い。
……まあ、自分で墓穴を掘って、そこに埋まったのはユーリなのだが。
何気にダメージ入った勇者だが、単純な奴である。気を落ち着けて、改めてふたりを見つめ直すと……それはまあ、やっぱりというか、美少女であるので、ついつい目移りしてしまう。
パジャマパーティーというだけあって、寝間着姿なのだが、それがとても、薄い。ランジェリーのように、薄い。具体的には、下が透けて見えちゃうくらいには。
どうも、寝るとき下着は着けないらしい。ボディラインもはっきり浮き出ていて、ユーリはついつい視線が……
「え、えっち」
イレーネが両手で胸を隠す。エミリーは、飛び上がって後ろを向いてしまった。
「ご、ごめん、すごく綺麗な身体だからさ」
「〜〜っ!」
イレーネが顔を真っ赤にして俯いてしまう。ド直球のセクハラである。気まずさにポリポリ頬をかくユーリだが、続いてやって来た言葉に、目を丸くした。
「……じゃ、じゃあ勇者様は。私のことも、抱きたいって思うんですか」
「……ごくり」
救世の勇者ユーリ。NOと言えない日本人。
あれから。
ひとまずヴェラの身体を濡れタオルで拭ってやり、別室に寝かせると。
ナルクの栓を抜き、3人で飲んで、ベッドの上でパジャマパーティー。おしゃべりは思いのほか盛り上がり、その勢いのまま、ぱくり。
「私、勇者様にヴァージン、捧げちゃったんですね」
「ああ。嫌だった?」
「ううん……その、恥ずかしいけど。嬉しい、です」
はにかみながら、嬉しそうに微笑むイレーネ。大きくて明るい瞳には、うっすら涙が滲んでいる。
「勇者様……わたし、大人になっちゃいました」
「そ、そうだね……」
「わたしも、嬉しいですっ。勇者様に、初めて、捧げられました……♡」
抱き付いてくるエミリーは、全体的に作りが小さい体つきで、とても華奢。
14歳と聞いているが、下手すると13歳くらいに見える。アウト!という声が、勇者の頭に響き渡った。
やってしまった。
再びの賢者タイム。ヴェラ、イレーネ、エミリーと立て続けに手を出して、美味しく頂いてしまったユーリは、いよいよ隠蔽工作について真剣に考え始めていた。まず、シーツに盛大にワインを零す。これは確定。次にヴェラを起こして、事情を説明。協力して貰う。それから……
考えながらドアを開ける。
パジャマ姿のお嬢様方と目が合う。
「「「勇者様っ、わたしたちもお夜伽したいですっ!!」」」
「ちょ、おまっ」
一気に飛び込んでくる美少女達の、柔らかな肢体。全身から匂い立つ甘い香り。ちゅ、ちゅっと雨あられと降ってくるキス。
ぷっつん。ユーリの理性の糸は、あっさり切れた。揉みくちゃになりながら、ベッドの上に後戻り。脱いだパジャマがポンポン飛び交い、ベッドはギシギシ、甘い時間に逆戻り。
「まあ、勇者様ったら、本当に元気なんだから」
いつの間にか復活していたヴェラが、遠巻きに眺めてにんまり笑う。
グズグズのパーティーは夜明けまで続いた。
「んあ……あれ?」
明くる朝……ではなく、真っ昼間。目覚めたユーリは、ふにふにと手に当たる、柔らかな感触に怪訝な顔をする。
いや、手だけではない。足も腹も胸も、というか全身が、柔らかくて、あったかい。これはまさか……
「はっ!」
跳ね起きる。すると、きゃっと可愛らしい声があちこちから上がった。
そう。ユーリは、全身を裸の美少女に絡みつかれ、今の今までグースカ眠りこけていたのだ。
豪奢な寝室は、それはもうメチャクチャな有様で。床には優雅なドレスが脱ぎ散らかされているし、そこら中に下着が散乱しているし、シーツには赤い染みが複数残っていた。
夜明けまで続いたご乱交の、宴の後。
夜会に集められた、やんごとなきご令嬢の初めてを、下は14歳から上は17歳まで、もれなく頂いてしまった結果である。
「いやいやいや」
頭をブンブン振って、抱え込んでしまう。まずはこの状況をどうするかだ。最初っからセクキャバみたいな接待だったし、ナルクを飲んで誘ってきたのはあちらの方。そう考えれば、問題ない。問題ない、筈だが……調子に乗ってコトに及んだ事実は消えない。
これはもう、「当たり」が出ないことを祈るしかなかった。
(この際、俺の中に潜む邪神の残滓が暴れ出した……という設定はどうだろうか。そう、邪神の邪淫ってことでひとつ……)
現実逃避して逃げ口上を考えていると、頬に軽くチュッとキスをされる。
視界の隅に映る、黄金色の輝く髪の毛。この状況を作り出した張本人、公爵令嬢のヴェラであった。
「お早う御座います、ユーリ様。お目覚めは……とても良さそうですわね」
「あっ、ちょっ」
「我慢はおからだに毒ですわ、さあ、気持ち良くなりましょう……?」
王宮に帰るには、もうしばらう時間がかかりそうだった。