救世の勇者、メイドさんにも手を出す
メイドさんの名前はクレア。ユーリの専属メイドである。
年は20代前半だろうか、黒髪を結い上げて、隙一つ無いクラシカルなメイド服に身を包み、丁寧な仕事をする。
どこか薄幸そうな美人で、万事控えめな彼女は、ユーリにとって安心感のある相手だった。別の世界からやって来た彼を、事あるごとに心配してくれるのも、助かっている。
「大丈夫です、お部屋は私どもで掃除しておきますので。姫様のお召し物も、用意が御座います。
勇者様も、浴場の準備が出来ておりますから、ゆっくりおくつろぎ下さいませ」
「う、うん……そ、その、本当に、すんません……」
尚も頭を下げ続けるユーリを、ふわりと、温かなものが包み込む。
彼女に抱きしめられているのだと、気付くのには少し時間が必要だった。
「勇者様……異なる世界からやって来られて、帰る術もなく、さぞ心細いのでしょうね。でも、これだけは信じて下さい。
たとえ誰が敵になっても、私、クレアは、勇者様に、勇者様だけにお仕えするメイドです」
「クレアさん……」
あれ、こんなシリアスなシーンだっけ?
ユーリは内心首を傾げたが、押し付けられるおっぱいの柔らかさに屈してしまった。大人の女性のバストは、ルナリアの瑞々しいおっぱいとは別の、豊潤な良さがあるのだ。
ユーリがさっぱりしようと、浴場に向かった後。
姫君の部屋の掃除に、お付きのメイドを駆り出すと、クレアはひとりため息を吐いた。
「勇者様……なんて、お可哀想に……」
打算半分、好意半分のルナリアと違い、クレアは全身全霊でユーリのことを心配している。100%の善意は、加減というものを知らない。
「私が、慰めて差し上げなくては」
古今、弱った男に身を任せ、慰めるのは女の務め。
露出の少ないメイド服を着た彼女だが、その胸やお尻に、ユーリの視線がチラチラ向くのには気付いている。
ユーリが知ったら穴に入りたい気分だろうが、男のチラ見は女のガン見。もっとも忠誠が突き抜けた彼女は、光栄だとしか思っていない。
使命感に浸りながら部屋を片付けるクレアに、ルナリアが冷静な声を掛けた。
「ねえクレア。ユーリ様のことで、少し相談があるのだけれど」
「ルナリア様……?」
後にユーリを雁字搦めにする、ハニートラップ包囲網。
その始まりである。
「ふいー……風呂はいいなー……」
王宮の大浴場。王族を始め、限られた地位の者だけが使える場所を、今はユーリが独占していた。
時間は真っ昼間だが、気分は朝風呂。
石鹸で全身を清め、湯船に浸かれば、心配事が溶け去りそうだ。
こうしてリラックスしていると、脳裏に思い浮かぶのは昨夜のこと。夢のような一夜の、官能的な情景だ。
えっちなビデオなら情景で終わりだが、絡みつくルナリアの指、耳元をくすぐる甘い吐息、その生々しい肌触りを、全身が覚えている。忘れられるわけがない。
そうして思い出すたび、煩悩はむくむく大きくなって、その度に冷水を浴びに行く有様である。
「うう、中学生かよ、もう」
童貞を卒業したら、大人の男にレベルアップすると思い込んでいたが、むしろ逆だ。瞼を閉じれば、思い浮かぶのは女の子のことばかり。
と、そんな風に煩悶していたときだった。
「勇者様……お背中を、流しに参りました」
クレアが、バスタオルを巻いただけの姿で入り込んで来たのは。
「く、くくくっ、クレアっ!?」
ユーリは大慌てで股間を隠した。パニックになって口をパクパクさせる彼のもとへ、クレアがしずしずと歩み寄ってくる。
控えめだった筈のメイドさんは、今、かつてない距離感の縮め方で、ユーリに迫っているのだった。
「おとなり、失礼致します……」
肩がぴとりと触れあう近さ。
前を隠そうと必死なユーリだが、それでもチラチラ横を見てしまうのは、男の性というもの。
艶やかな黒髪を結い上げたクレアは、それはもう、息を吞むほど色っぽい。
白いうなじを見ると、反射的に顔を埋めたくなってしまうが、それを鋼の自制心で堪えていた。お湯に浸かったタオルは透け初めて、たわわなバストとピンクの乳首がうっすら見える。
美しく整った顔は赤く染まり、思い詰めたような表情。クレアもまた、ユーリの方をチラチラ見ていたが、やがて意を決して。
「ユーリ、様……」
「うはっ!?」
嫋やかな手が、ユーリの首に優しく巻き付けられる。
そうして耳元に囁かれる、蕩けそうに甘い言葉。
「ここでなら、痕跡は残りません。私のような端女をお抱きになったことも、何も……
だから、何も考えず、憤りをぶつけて下さいませ。お情けを頂いたことは、私が、私だけの秘密に致しますから」
「クレア……」
ユーリは我慢出来ず、クレアのしなやかな身体を抱き寄せて、キスをした。
生々しい行為の音が、浴場に響き出すのに、それほど時間はかからなかった。
「ルナリア様、宜しかったのですか? クレアは本気ですよ。きっと今頃、勇者様と……」
ベッドから起き出して、優雅に紅茶を楽しむルナリアへ、お付きのメイドが心配そうに声を掛ける。
それを王女は、何でも無さそうにあしらった。
「いいのよ。ユーリ様を囲うのだもの、女の数は多いに越したことはないわ。
いっそ子沢山なら、もっといいわね。寂しさを感じる暇もない、大家族にしましょう。きっとそのことで、心がいっぱいになるわ。
ーー元の世界を忘れるくらい、ね」
その時、ルナリアの唇が形作った笑みの、なんとも言えない底知れなさ。
打算だけではない。好意だけでもない。獲物を罠に掛ける、狩猟者の笑みだった。




