救世の勇者、王女様に手を出す
ファンタジー世界の夜は早い。
庶民は日が沈んだら眠る、という生活だ。現代っ子のユーリが適応するのは難しい世界である。
幸い、王宮ともなれば魔石を使ったライトが据えられていた。ネットもゲームもないが、本は山ほどあるので、それを読み漁るのがユーリの夜更かし方法である。
だが、その夜には来客があった。
静まり返った夜の宮殿に、コツコツとドアのノック音
「ユーリ様ー、ちょっといい?」
「ルナリア? まあ、いいけど」
見知った声だ。何だかんだで、気安い相手。お転婆なお姫様に付き合わされ、二人でカードゲームやら双六やらで遊ぶこともある。
今夜もそんな感じかな、とドアを開けて、ユーリはその場で固まった。
「……そ、それ、何だよ」
「えへっ、ユーリ様、こういうのが好きなんでしょ?」
それは、フリルとレースで飾られた、優雅で派手なメイド服。
短めのスカートを摘まんで、くるりと一回転し、「どう?」と笑う姿は、アイドルのようだ。
「あ、ああ……」
ユーリはルナリアから目が離せないでいた。
言ってしまえば、エセメイド。メイド喫茶とかにいそうな、コスプレ姿である。
しかしエセとは言え、フリフリの改造メイド服を着こなす姿は、文句無く美少女。
胸元が開いた、あざといメイド服が、似合ってしまう。
そして胸の谷間に目が行ってしまうのだ。
男の悲しい性だった。
「ね、入っていい?」
「お、おう」
もうユーリは、「ああ」とか「おお」とかしか言えない状態になっている。そうしてまんまと部屋に潜り込んだルナリアは、こっそり部屋に鍵を掛けた。これでよし。
「前言ってたよね? メイドさんが好きなんだよなー、って」
「あれ、覚えてたのかよ……」
他愛のない世間話、悪ふざけも込めた話だった。
それを逐一覚えられて、衣裳まで用意されたら、もう穴にでも入りたい気分になる。
「ユーリ様の言ったことなら、大体覚えてるわ。それで、どう? ユーリ様だけのメイドさんだよ? ムラムラしちゃったり、しない?」
ごくり、と思わず喉が鳴る。
吸い込まれそうに大きく、宝石のような青い瞳。元の世界なら、どんなアイドルグループでもセンターになれただろう、驚くほど綺麗な顔立ち。
キラキラ輝くアッシュブロンドの髪には、フリフリのカチューシャが乗っかっている。
もちろん彼女は、メイドではない。やんごとなき王族の血筋を引いた、正真正銘のお姫様だ。それが、勇者の好みを聞き出して、わざやざメイド服を仕立てさせ、押し掛けてける。
どう見てもハニートラップだった。
勇者とパイプを作ると言うか、パイプを結合させる気満々なのである。
そこまでするか、とユーリは軽く引くのだが、下半身はその逆で。いいじゃん据え膳頂いちゃおうぜ、と節操なく持ち上がってしまう。
「ね、難しいことは考えないで。一緒に気持ちいいこと、しましょ?」
いつの間にか、息のかかるほど近くまで来ていたルナリアが。
後ろに手を組み、ぐいっとバストを強調するようにして、妖艶に微笑んでいる。綺麗な形をした唇。それが、ゆっくり、どんどん近付いて。
「んむっ……!? むー、むーっ」
唇を、乙女の艶やかなそれが塞いでいる。
至近距離だ。
柔らかい。いい匂いがする。
アイドルも目じゃない、2次元から飛び出して来たような綺麗な顔。
ぷるんと揺れる、豊かなバスト。
わざとらしく胸板に押し付けられたそれは、ブラによって抑えられているとは思えない自由さで、むにゅむにゅと形を変える。
ユーリはもう、許容量オーバーで、目を白黒させることしか出来なかった。ルナリアの睨んだ通り、童貞だったのみならず、これがファーストキスだったのだ。
ふたりの唇が離れた時、ようやくユーリは理性を取り戻した。
「る、ルナリア。俺は、その、もし元の世界に帰れるなら、今でも帰りたいって思ってるんだよ」
「んっ……それならそれでいいわ。ねえユーリ様、それならこの世界のことは一夜の夢みたいなものじゃない。
だったら少しくらいのアバンチュールは、楽しんでもいいでしょ? ね?」
再びのキス。
今度は舌も入ってくる、濃厚なもの。
互いの舌を絡み合わせ、唾液を交換しながら、ユーリは少しの違和感を覚えた。
ルナリアから仄かに香る、ワインのような匂い。
「おまえ、酒、飲んできたのか?」
「うん……ナルクっていう特別なお酒。女の子がね、旦那様と結ばれる夜に飲むの。その、初めての時、痛くなくなるんだって」
頬を赤く染めるのは、羞恥かそれとも興奮か。
深いキスを終え、二人はしばらく向き合って、互いに見つめ合っていた。
やがてルナリアが、その微笑みを深めて、メイド服の胸元をはだける。ぽろりとまろび出る、ぷるんとしたおっぱい。
白くて、丸くて、大きくて。完璧な形をしたお胸様。
「る、ルナリアっ!」
「きゃんっ♡」
あからさまなハニートラップに、勇者ユーリは、あっけなく落っこちてしまった。
「……あれ、朝か」
気だるい目覚め。
既に陽は高く昇り、真昼の明るい寝室で、ユーリは目を開いた。胸板にしなだれかかる、柔らかくて温かな、美少女の重みを感じつつ。
「……んふぅ……」
気持ち良さそうに眠るルナリアの、美しい髪を撫でながら、しばらくそうしていて……
「はっ!!!」
一晩遅れの賢者タイムが、ようやくやって来た。
慌ててシーツをめくれば、当たり前のように破瓜の赤い染みが残っている。
というか、全裸の美少女と寝ている時点でお察しだ。
部屋を見渡せば、あちらこちらに脱ぎ捨てられた、二人分の服。とっても事後な朝の景色であった。
「ルナリア、ルナリアっ! そろそろ起きないと、メイドが来るって!」
「ん……あら、お早うユーリ様。ごめんなさい、昨日はあんなに激しいんだもの……もう少しだけ、寝させて……」
「あ、はい……」
ユーリはそっとルナリアを寝かしつけると、ベッドサイドに腰掛けた。よりによって、王女様に手を出したぞ!という、やっちまった感が広がる。
とはいえ、今しなければいけないことはただ一つ。
証拠隠滅であった。
この、「昨夜はお楽しみでしたね」な部屋を、一刻も早く掃除しなければ!
邪神を討伐したときすら、ここまでの危機感は無かった。
ユーリは急ぎ服を身に付けると、ヨレヨレの状態で部屋を出ようとする。さりげなくメイドさんに声を掛け、着替えとタオルを用意してもらう。酒盛りでワインを零したと言えば、シーツの染みだってワンチャン……!
「お早う御座います勇者様。昨夜はよくお休みでしたね」
ドアを開いた先には、折り目正しい黒髪のメイドさんがお待ちであった。詰んだ。
「大変申し訳ありませんでした」
「え、え!? 勇者様!?」
それは流れるような土下座であった。
10代の少女といけない行為。それも王族。あまつさえ、事後を従業員に見せつけるセクハラ案件。
フカフカの絨毯に額を擦り付けても、大して誠意は伝わるまいが、やれるだけはやってみせる!
「あ、頭を上げて下さい勇者様っ! こ、困りますっ!」




