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はにとらっ!(一般版)  作者: けてる
プロローグ
1/7

ハッピーエンドの締まらないオチ

ノクタ民ですが、試しに一般版を上げてみました。

 荒涼とした、広大な砂漠のど真ん中だ。

 真昼の砂漠だというのに、空は真夜中よりなお暗い。星一つ瞬かない、塗り潰したような黒。

 眼下の砂丘にはクレーターのような穴が開き、そこから不快な虹色に輝く触手が、蟻地獄のように這い出している。


「おおーっ、すげー! この世の終わりみたいな光景だなっ!」


 それを、はしゃいで見物するバカがひとり。

 異世界転移で勇者なんぞやっている青年、ユーリは、いかにもラスボス戦な光景に大興奮だった。


「余が保証する。貴様は頭がおかしい。あれは正真正銘、本物の邪神だぞ」

「同意だわ。ユーリ、貴方イカレてるわよ。いい? これは本物の、この世界の終わり。止められるのは、私たち4人だけ。状況、理解してる?」


 両隣に立つ、威厳のある男と、白銀の髪の美女が、揃って呆れたように言う。

『4人目』は彼らの足下から声を上げた。


「わしも、ユーリの真似は出来んわい……これは、この世の終わりじゃ……」


 唸るような、地響きのような声。

 ユーリ達が立っているのは、全長100メートルはある巨大なドラゴンの、頭の上である。

 そしてそのドラゴンも、黙示録の光景を前にして、声を震わせているのだった。


「まー、ラスボス戦だからねえ。世界のひとつも救わなきゃ、エンディングには不足だろうさ」


 コキコキ首を鳴らし、指を伸ばしてストレッチ。

 ユーリには、これも一つの『イベント』なのだ。念願の異世界転移を果たして、矢継ぎ早にこなして来たイベントの総決算。

 操られていた表ボスを撃破し、味方にして、いざ真のラスボス、邪神との対決である。お膳立てが全て揃った、最終イベント。興奮しない訳がない。


「よっしゃ、準備完了! いっちょやってやろうぜ、ロックンロール!」

「ろ、ろっくんろーる? 何よそれ?」


 バシッと拳をぶつけ、やる気満々のユーリに、銀髪の美女が目を白黒させる。

 万事適当なユーリは、そういやFPSでは海兵隊がロックンロール!って叫ぶけど、理由はよく分かんないな、面倒だし誤魔化そうと考え。


「俺が元いた世界のかけ声だよ。戦闘前に叫んで、やる気を出すんだ。

さ、突撃突撃っ!」

「あああ、この阿呆め! ええい、余も魔王だ、腹を括るわ!」

「戦いが終わったら覚えてなさいよ、この馬鹿!」

「……嗚呼、こんなのでいいんじゃろうか……」




「ぶはーっ! すげえ、生きてる、奇跡!」


 真昼の太陽が戻ってきた砂漠の中で、いち早く起き上がったのは、異世界の勇者だった。

 砂の中から勢いよく飛び出すと、ぺっぺっと砂を吐き出し、ボロボロの顔には満面の笑み。


「お、覚えてなさいよ、この馬鹿……死ぬかと思ったわ……」

「余も……生きているのが不思議でならぬ……」

「わし、生きてるかどうか、かなりギリギリなんじゃけど……」


 残り3人も、ボロボロになりながら、憎まれ口を叩く余裕はある。

 何だかんだ、皆、笑っていた。

 

「勝ったわね」

「勝ったな」

「ああ、勝った」


 砂漠の太陽に照りつけられながら、ニヤリと笑う。


「あーあ、しかしこれでお終いかー」

「あら、そう言えばユーリは元の世界に戻るんだっけ? 貴方言ってたわよね、最後の敵を倒したら、光と共に元の世界に戻るのが、セオリーだって」

「余にはよく分からんが、それがお約束だ、などと言っていたな」


 ユーリはこくりと頷く。

 彼にしてみれば、今まで殆ど、ゲームみたいな「お約束」通りに進行してきた。となれば、最後は切ないお別れで締めるものだろう、と。


「貴方、頭おかしいけど英雄だからね。ちゃんと私が、後生まで語り継いであげるわよ」

「貴様はどうかしているが、最大の功労者だ。余が銅像を建ててやろう」

「お主は頭のネジが外れておるがの、竜族の恩人。きちんと後生に伝えてやるぞい」

「あれ、なんか俺の評価おかしくね?」


 最後まで締まらない面子だ。

 4人で冒険したのは、たった半年間ほどのこと。ユーリにとっては、馬鹿騒ぎをした半年間だった。

 まるで夏休みの終わりのような、少しの寂しさが残るが、ネットもコンビニもない世界で、この先やっていける自信も無い。

 さて、そろそろキラキラエフェクトが入って、感動のお別れシーン、と確信していたユーリであるが。


 一時間が経ち。

 二時間が経ち。

 なぜだか、何も、起こらない。


「ちょっとユーリ。いくら私でも、砂漠にずっといるのは、堪えるわよ」

「余も魔王故な、ずっと青空の下にいるのは、その、ちょっと」

「儂はポカポカして気持ちいいから、いいのじゃが……邪神討伐の報告とか、しなくて良いのか?」


 ユーリは腕を組んで考えた。

 ここまでお約束通りに進んできた展開が、どうも、最後の最後で変わっている。これは、つまり。


「うわ、どうしよ! これ現地に残るパターンじゃん!」


邪神との決戦を前に鼻歌を歌っていた男が、情けなく頭を抱えて蹲る。

それだけではない。


「やばい、俺いなくなるフラグ立てまくってたのに……どんな顔して戻れば……

いや、そうだよ、明日からどうやって生活すればいいんだ……勇者じゃなくなったら、俺、無職じゃん。バイトもしたこと無いのに、無職じゃんか……」


 うんうん唸るユーリに、3人はきょとんとして。

 命を預けた戦友らしく、肩を叩き、ねぎらいの言葉をかけてやる。ドラゴンですら、爪先で器用に肩を突いていた。


「あら、初めて貴方の思い通りに行かなかったのね。でも、そんなこともあるわよ」

「貴様の予想が外れることも、あるのだな。まあ、仕方あるまいさ」

「ユーリよ、長く生きておれば、そんなこともある。しかし、こんな時は何というのだったかの。ほれ、お主が教えてくれた、異世界の言葉があったじゃろ?

そう、あれは、確か……」


「「「ざまぁ!!!」」」


 3人の声が一つになり、大きな大きな笑い声が、砂漠のど真ん中に下品に響く。

 この先長く、本当に長く語り継がれることになる、世界救済の物語。その締まらない舞台裏であった。


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