第三章
少女は駆けた。ただひたすらに。悲しい目をした少年の許へと。
揺れる梢、囀る鳥、全てが彼女を受け入れた。
彼女こそが、神々に愛された娘。神々が託した唯一の希望。
千羅の為に生まれし光―・・・。
歩いていたはずの足は、いつの間にか駆けていた。
嫌な予感が少女の胸をよぎる。
「何だろう・・・この感じ。すごく嫌な感じが・・・」
考え事をしていると、ついつい周りが見えなくなるもので。
―ガッ
雑草や背の高い木が好き勝手に生えている、太陽の遮断された暗い雑木林の中で、少女は何かに躓いた。
「きゃっ!!」
予期せぬ事態に、少女は体制を崩しそのまま倒れこむ。
まあ、俗に言う「躓いてコケた」状態。
「いったた・・・」
一体何に躓いたのか。かなり大きくてぐにゃっとしたものだったような・・・。
気になって少女は足元を見る。そして目をこれでもかというくらい見開き、顔は真っ青になった。
「え・・・?ひ、人っ!!?」
どうしよう、と少女は慌てふためく。
少女の足元に転がっていたのは、傷だらけの一人のフレア。うつ伏せに横たわっているので顔は見えない。しかし髪型や服装で男の子だろうと予想はついた。
少女はそのフレアをまじまじと見る。サラサラの美しい銀髪。真っ白な狐の耳に尻尾。
「もしかして・・・“白狐”の千羅・・・?」
ピクリ、と真っ白な耳が動く。
刹那、そのフレアは「う・・・」とくぐもった声を漏らした。
―人の気配・・・?―
千羅は目覚めたばかりにも関わらず俊敏な動作でバッと起き上がる。
「誰だ!!」
いきなり千羅が起き上がったので少女は驚いて目を丸くする。
千羅が起こした風が少女の深紅の髪を僅かに揺らした。
千羅はまじまじと少女の顔を見る。
―漆黒の瞳に、炎髪・・・。見たことない。誰だコイツ。追っ手か・・・?―
―銀色の瞳・・・すごく綺麗。吸い込まれそう―
吸い寄せられるかの如く、二人は見詰め合った。
かくして、二人は出会った。運命を廻す、少年と少女。
風が、変わった―。
今回は短いです。
本当はもっと長くなる予定だったのですが、ここで切らないと何だかきりが悪くなりそうでしたので、予定を変更して短くしましたっ!