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◆閑話:異世界へ渡った彼と彼女の話:第六話

グレン視点となります。

最近、彼女の様子がおかしい。


顔色が悪く、よく貧血をおこすようになった。


彼女は笑顔で何でもない、と答えるが5年も一緒にいれば嘘だとわかる。


何か重い病気なのだろうか。


強引に病院へ連れていったが、どこにも異常はなかった。


しかし彼女の体調が日に日に悪化していった。


なぜだろう、悪い予感する。


そんなある日、彼女が倒れた。


彼女が倒れるその刹那、強い魔力は感じた。


あれは一体なんだったんだ。


俺はすぐに彼女をベットへ運び込むと、冷たくなった唇へキスをおとす。


「俺が君を必ず助けるから……」


この世界は魔力に適していないと、鯰は言っていた。

なのにどうして彼女から魔力を感じたんだ?

彼女の体に何か起きている事は間違いない。

魔力が関係しているのならば、あの鯰に……。


俺は寝ている彼女から離れメモを書き残すと、そのまま海へと飛び込んだ。

岩の洞窟へと向かうため、無理矢理に魔術を展開してみせる。

だがやはり、この世界は魔術には適していないのか……すぐに発動はしない。

けれど慎重にゆっくりと陣を描きのありったけの魔力を練り込んでいくと、強引に発動させた。

バッサーン

そうして大きな水しぶき共に、俺の体は海の底へと沈んでいった。


薄暗い海の中、俺は必死に前へ進む。

波が俺の行く手を阻むように襲いかかってきたが、その波を叩き潰し、前へ前へと突き進んでいった。

そうして見覚えのある光が見えてきた。

俺が異世界に渡った時に見た光だ。

光と水を全身浴び、押し戻されそうな波の中を意識を手放さないように耐え続ける。

やがて波が消え、視界が広がると、そこには見覚えのある洞窟が現れた。


暗い水の底で、ひっそりとたたずむ岩は最初にみた時と変わっていない。

まるで時間がとまっているような静けさだった。

異界の番人はどこだ……そう辺りを見渡してみるが姿はない。


「異界の番人よ どこにいる!!!」


そう叫ぶと、俺の声が洞窟内を反響していった。


「誰か儂を呼んだかぁ?」


どこからか声が聞こえたかと思うと、突然目の前に鯰が現れた。

あの頃よりも大分成長した鯰は、俺の顔を確認した後、驚いた様子で目を見開いた。


「坊主は……あの時の……。どうしてそこまで成長している?」


「どういう意味だ……?」


俺は鯰の言葉に目を見開くと、ゆらゆらと揺れる尾を掴み、金色の眼を強く見据えた。

鯰は焦ったような顔をし、僕の手から必死に逃れようとするが、それを許さず強く鯰を締め付ける。

すると鯰は観念したのか……大人しくなったかと思うとゆっくりと語りだした。


「はぁ……仕方がない……実はな……」


お前の国と地球では時間の流れが違うんだ。

お前のいた世界での1年は地球の半月。

単純に計算して……3年地球でお前さんが生きると、72年の生命力が必要だと言うことだ。

お前の寿命がいくつまでかは知らないが……3年もすれば普通生命力がつき死ぬはずなんだがな……。


「だから驚いた……お前さんが一体どれぐらい生きていられたんだ?異界の番をしている俺が世界の流れを間違うはずがない。おまえがそんなに生きていられるはずがないんだ」


そう鯰は静かに俺の目をじっと見据える中、金色の瞳が強く輝いた。


「まぁいい、ところでお前さんは何しに戻ってきたんだ?」


「そうだ……ッッ、地球で出会った女性が、突然魔力を帯びて倒れたんだ。言っていただろう、あの世界は魔力に適していないと。だけど感じたんだ。それに病気ではないようだが明らかに彼女の顔色が悪い……。日に日にやせ細っていく。だから感じたあの魔力に、何か原因があるだろうと考え。あなたに会いに来たんだ」


「魔力だと……。まさかそれは……ふむ……。こやつが地球の者の生命力を吸収したのか……?それで彼女が……。それならすべて納得がいく。それによく見れば……お前から感じる生命力に何かお主の物ではない異物が混じりこんでいるな」


僕が生命力を?

何を言ってるんだ?

鯰は納得した様子で頷くと、ボソッと小さな声で呟いた。


「あぁ、だからお前はそんなにも生きていられたのか」


衝撃的な言葉を理解すると、目の前が真っ暗に染まっていく。

まさか……まさか……そんな……ッッ。

倒れる直前、彼女の周りに渦巻いていた魔力は俺の物?

俺が彼女の生きる力を吸収していたなんて……そんな、ありえない。


「すまぬ。これはまったくの想定外だな……」


鯰は困ったように水中をウロウロし始めたかと思うと、ブツブツと何かを呟き始める。


「あの世界では魔術は使えないはずだったんだが、こいつは魔術を使ってここにきた。一体全体何が起こっているんだ。はぁ……困った、困った。こんなはずじゃなかったんだが……。こやつを生命力を見る限り……約2年ほどか……。という事は……24年分の生命力をあちらの人間から奪ったことになる」


生命力を吸収していた、との言葉が頭の中で反芻する中、俺はその場に崩れ落ちた。


「しかし生命力なんて物は、簡単に吸収できないはずなんだがな……。うーむ、可能性としては……お前のその魔力がお主の命を守ろうと、生命力を吸収し続けていたのだろうか……。だがそれには相性があるはずだ。誰構わず生命力など貴重な物を奪う事は出来ない。信頼はともかく、そういった相手と出会う確率は限りなく0に近いだろう。だが……こやつを見る限り、広い世界の中、唯一出会った女性がそうだったんだと考えるしか……。娘がいくつなのかはわからぬが、24年分も奪われておるのなら、そろそろ死んでしまうだろうな」


その言葉に、鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。


嘘だ、嘘だ、嘘だ……。

俺が彼女の生命力、彼女の生きるはずの人生を俺が奪った……?

とんでもない事実に絶望する中、視界が暗闇に染まり、何も聞こえなくなっていく。


そんな……嘘だといってくれ。

彼女と共に居たいと……俺が傍に居たから彼女が死ぬ。

何なんだそれだ。

どうすればいい。

君の人生を奪ってしまった俺はどうすれば……。


考えても答えは見つからない。

俺の生命力はずっと昔に消えているのだ。

鯰の言う通り返す事など出来ない。

彼女の笑みが頭を過ると、どうしようもない痛みと苦しさに襲われていった。

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