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◆閑話:異世界へ渡った彼と彼女の話:第五話

あまりにも突然の出来事に、恐怖で頭が真っ白になっていく。


この男は何を言ってるの?


私を一人に……?


恐怖に体がこわばる中、フードの隙間から男の顔が目に映ると、それは……あの日車を運転していた男だった。


嘘でしょう……。

私のせいでお父さんもお母さんも死んでしまったの……?

手足が冷たくなっていく中、恐怖とショックで体が動かない。


助けて、助けて、助けて……怖い……ッッ。


「そのまま大人しくしているんだ。さぁ行こう」


男は私の体を引きずると、傍にあった車の中へ押し込もうする。

嫌ッ、逃げないと……でもどうすれば……。

混乱する中、叫び声を上げようとするが……恐怖のあまり声が出ない。

もうだめだと絶望する中、体が車の中へ押し込まれていく刹那、突然強い力で車から引っ張りだされると、私は誰かの胸に抱き締められていた。


「触るな」


来るのが遅くなってごめんね。

そう耳元で優しい彼の声が聞こえた。

その声に私はポロポロと涙がこぼれ落ちると、震える手で必死に彼の胸にしがみつく。


「お前だ……お前が、お前が、現れてから全てがおかしくなったんだ。いつも一緒にいやがって!僕が彼女を慰めて、彼女は僕の物になるはずだったのに。お前の……お前のせいだ!!!」


男は胸元からキラリと光るナイフを取り出すと、こちらに向かって突進してくる。


「いや、やめて!!!」


私は彼を助けようと身をよじらせる中、彼は抱きしめる腕を強めると、大丈夫だよ、と耳元で囁いた。

嫌、嫌、もう誰も失いたくない!

一人にしないで!!!


私は必死で彼の腕から逃れようとする中、突然ドンッと大きな音が響いたかと思うと、男が後方へと吹き飛んでいく。

ドサッと壮大に尻もちをついた男は、何が起こったのかわからぬまま、恐怖の表情を浮かべると、一目散に逃げていった。

何が起こったのかわからぬままに唖然とする中、助かった事に私はギュッと抱きしめると、彼は震える私の背中を優しく撫でてくれる。

そんな優しい彼の大きな手に私は思いっきりに叫ぶと、大粒の涙が零れ落ちていった。


「あの男が……ッッ。私のせいで私のパパとママが死んでしまった。なんで……ッッ。……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。どうしてこんな私が生きているんだろう。何もできなかった。私が死ぬべきだったのに……。もう嫌……嫌なの……あああああああああああああ」


そう泣きわめく私を……彼は何も言わずに、ずっと抱き締めていてくれていた。


夜道に佇んだまま、どれぐらい泣いていたのだろうか……涙が枯れ、徐に顔をあげると、彼は愛しそうに私の瞼に優しいキスを落とす。

そんな彼の甘さに、私はそっと目を瞑ると、深い私口付けを交わした。


熱い唇が離れていく中、彼は優し気な笑みを浮かべると、私の髪を優しく撫でる。


「生きる意味なら……俺の為に生きてくれないかな。俺は君を愛している。……こんな時に言うのはずるいかな……」


私は首を横にふり、愛しい彼の頬に手を添えた。


「私も……好き。あなたが居たからここまで生きてこれたの。お父さんとお母さんの事はもうどうする事出来ない。でも……私は生きてる。なら私は……頑張らないと……。ねぇ……あなたはずっと一緒にいてくれる?私を一人にぼっちにしない?」


「もちろん、約束だ」


それから私と彼との関係は、同居人から恋人になった。

どうしてあの時彼が現れたのか……。

後から彼が教えてくれた話では、私のバイト先からの帰り道、いつも私を待っていてくれていたんだって。

夜の一人歩きは危険だから。

でも正直に話せば、私が嫌がると思って黙っていたんだって。

でもあの日、私がいつもの時間にその道を通らなかったから、慌てて別の道を探して私を助けてくれた。


優しく愛しい彼。

そんな私たちは同じ布団で眠るようになった。

朝目が覚めると私の頬にキスし、ずっと一緒にいてくれた。

私を一人にしないように。


恋人になって、毎日が幸せだったんだ。


ある日二人で夕陽を眺めていると、彼は私の肩を抱いたままにゆっくりと語り始めた。


「実はね、大半の記憶はもう思い出しているんだ。住んでいた場所も、家族も、何もかも。改めまして俺の名はグレン。……俺はこの世界へ来たくて、自分の意思でここへやってきたんだ」


彼の言葉に驚くと、慌てて見上げるように顔を上げた。

彼の赤い瞳が夕陽に照らされて、より強く輝いている。

思い出したんだ……なら彼は自分の場所へ戻ってしまうの……?


「最初の約束……思い出すまでだったよね。だけど俺はこの場所に居たい。許されるかな?」


そう話す彼の言葉に、私はほっと胸をなでおろすと、ギュッと彼にしがみついた。


「もちろんだよ。ずっと一緒にいようね。グレン、大好きだよ」


初めてその名を呼ぶと、彼は顔が赤いのを隠すように私の唇へキスをした。

照れたグレンもかわいい。


「俺も愛している。この先もずっと一緒にいよう」


それから……


春には一緒に桜を見て。

夏には浴衣を着て祭りへ出かけ花火を見上げた。

秋には紅葉を眺め。

冬には雪の中、手を繋いで歩いたんだ。


季節は巡り出会ってあれから、5年の月日がたっていた。


そんなある日、私は突然に意識を失った。


それぐらい眠っていたのだろうか……気が付き、ゆっくり目を開けると、私はベットの上にいた。


海の音が聞こえる。


虫の音が聞こえる。


まるで昔に戻ってしまったような静けさ。


私はゆっくり体を起こし、彼の姿を探すが見当たらない。


ふとテーブルの上に海風に吹かれなびいている一枚の紙を見つけた。


重い体を起こし、テーブルへと向かうと、そこには一枚のメモが置かれていた。


「ちょっとでかけてくるよ、かならずもどるから」


私はメモを握りしめ、いなくなってしまった彼を探しに外へと飛び出した。

しかしどこにも彼の姿はない。

日が暮れた始める中、トボトボと部屋に戻ると、私はその場で泣き崩れた。

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