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異世界へ行った彼女の話:第二話

思ったよりも少年の強い力に戸惑う中、裸足のままに青々しい草を踏みしめると、柔らかい土に足をとられた。

バランスを崩したままに倒れこむと、彼の腕に支えられる。


「ごっ、ごめんなさい」


慌てて体を離し顔を上げると、目の前には美しいエメラルドの瞳が映りこんだ。

座っていたのでわからなかったが……どうやら私と彼は同じぐらいの身長のようだ。

だがあどけなさが残る表情は、きっと十代前半ぐらいだろう……。

彼の瞳の奥には、私を警戒しているのだろうか……、底冷えするような冷たさに揺れている。

そんな瞳に少しばかり畏怖する中、私はギュッとローブを握りしめると、エメラルドの瞳を真っすぐに見つめ返した。


「あの……すみません。ここはどこでしょうか?海で遊んでいたら、高波に攫われてしまったようで……流れ着いたみたいなんです。私……早く戻らなきゃ……っっ」


そう一気に話すと、最後に見た()の顔がチラついた。

いつもとは違うどこか寂し気で……それでも優しく微笑んでいた()の姿。

不安が胸にこみあげる中、問いかけた少年は何も答えない。

静寂が流れる中、彼は何か考え込む素振りを見せると、静かに視線を下していった。


そんな彼の様子を横目に、辺りに目を向けてみると、どうもおかしいなことに気が付く。

海でおぼれたはずなのに……見渡す限りどこにも海がない。

あれ……?

広々とした部屋に……あるのは小さな池だけ……。

ふとそよ風が肌を抜けていくと、濡れた体が小さく震えた。

さむっ……えーと現状から推測するに私は……池から這い上がってきたってこと?


徐に池の中を覗き込んでみると、水の中には見たこともない色鮮やかで、金魚と鯉を合わせたような魚が泳いでいる。

そっとその水を救い上げてみると、驚いた様子で魚たちが池の底へと逃げていった。

ペロッ、しょっぱくない。

う~ん、どういうことだろう……海から池に……いやいや……。

軽く首を横に振り、よくわからない現状に頭を悩ませていると、突然に肩をつかまれた。

その手にビクッと肩を跳ねさせながらに振り替えると、真剣な表情を浮かべたエメラルドの瞳と視線が絡む。


「王宮へ向かうすぐに支度をしろ」


そう冷たく言い放つと、彼は私を部屋へと招き入れた。

突然のことにオロオロする中、私は彼の手を振り払うこともできずソファーへ座らせたかと思うと、彼は私を置いたままに、部屋の扉を開け放つ。

すると扉の向こう側から、バタバタと騒がしい音が耳に届くと、メイドのような女性が何人も入室してきた。

そうしてあれよあれよというまに私はその女性たちに囲まれると、そのままどこかへ連れられていく。

えっ!?何っ、何が起こっているの!?


突然のことに戸惑う中、彼女たちにもみくちゃにされながら、されるがままになっていると、気が付いた時

には、パーティーに着ていくようなフォーマルなAラインのドレスに着替えさせられていた。

そのまま扉の外へ送り出されると、先ほどの少年が私の前に現れる。


彼は私の姿をじっと見つめたかと思うと、口を開くことなく静かに私の手をとった。

何が何だか……状況についていけない私は、彼の手を振り払うこともできず、引っ張られるような形で広々とした廊下を進んでいく。

おどおどしながらにキョロキョロ見渡していると、映画のセットのような豪華な造りに目を見張る。

中世ヨーロッパに登場するお城の風景に唖然とする中、彼は迷うことなく足を進めていった。


そうして廊下を進んでいく中、突き当りには全面に金がちりばめられた派手な扉が目に映る。

少年はその扉の前で立ち止まると、徐にこちらへ振り返った。


「入ったら頭を下げ礼をしろ、許可が下りるまでは顔を上げるな。いいな」


少年が少し掠れた声でそう話すや否や、ゆっくりと目の前の扉がひとりでに開いていった。


扉の向こう側には、左右にずらりと騎士が並び、中央にはレッドカーペットが敷かれている。

それはまるで物語などに出てくる玉座の間のようだ。

恐る恐るにその先へ目を向けてみると、王冠を被った年配の男性と年齢不詳の美しい女性が座っている姿が目に映った。

あまりに現実離れしたその光景に口が半開きになる中、少年は私の手を優しくひいていくと、ゆっくりと頭を下げる。

その姿に私も慌てて頭を下げると、彼の動きに合わせた。


何とも言えない重々しい雰囲気が漂う中、私は小さく息を吸い込むと、チラリと目線を上げる。

するとどっしりと腰かけていた年配の男性が優し気に微笑んだ。


「ようこそ異世界の乙女よ」


異世界の乙女……?

聞きなれない言葉に疑問符が浮かぶ中、私は頭を下げながらに狼狽していた。


「楽にしてよい。我はこの国の王。突然の事で混乱するだろうが……我々の国では、代々王族に伝わっている伝承がある。其方が来たあの池から、この世界の住人ではない異なる世界からやってくると。そしてその者を丁寧にもてなせと受け継がれておる。まさか我の代で現れるとは、思わなかったがな」


異なる世界……?

その言葉に徐に顔を上げてみると、王は真剣な表情を浮かべながらに私をじっと見つめていた。


「そしてもう一つ、其方はもう元の世界へ戻ることはできない。其方の生活は王の我が保証しよう。わが城へ住まうようすぐに手配をする。必要なものがあれば何でも申せ」


「えっ住むって……戻れない……冗談でしょう……?」


無意識のままにそう呟くと、王様は困った表情を浮かべながらに深く頷いて見せる。

いやっ、待って待って、どういう事?

えっ、えっ……ここは別の世界で……私の生きていた世界とは違う……?


「ちょっと待ってください、異世界って……ここは本当に日本ではないの?ならここはどこ?ここで生活するってなんで……もとに戻れない……そんなはず……なんで……」


非現実的な現状に狼狽する中、頭の整理が追い付かない。

しかしここが異世界というのなら、私の国では見たことないこの映画のような風景にも説明が付く。

もしそれが本当なら……日本へ戻らなきゃ……だってそんなの困る!

でも待って……私がここへ流れ着いたということはもしかしたら彼も……?

ハッと我に返ると、私は勢いよく顔を上げ、真っすぐに王様へと視線を向けた。


「あの、すみません!……ここが別の世界だというのであれば……。私以外の異世界人があの池からきておりませんか。プラチナの髪に、瞳が赤い男性なのですが……私はその人と一緒に海へ来て、そして波にのみこまれてしまったんです」


「う~む、あの池からきた異世界人はそなたが初めてだ。残念だが、他はおらぬ」


他にいない……?

なら彼は……?

死……いや、そんなはずない!

だって海の中で、彼の声が聞こえたもの。

きっと彼は生きている、そう……日本で待っているのよ。

そう強く自分に言い聞かせると、私は痛む胸を必死に抑え込んでいた。

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