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☆閑話:異世界に居た彼の話:第五話

どこへ行こうか、どうすれば彼女が楽しんでくれるのか……。

彼女の笑う姿を想像する中、俺が出した結論は……魔道具店に連れていくことだった。

魔道具店へ誘うなんて……普通の令嬢ならきっと喜ばないだろう。

でも彼女なら……洋服や宝石を見るよりもこの方が良いと思ったんだ。


そう決めた翌日、俺はいつものローブ姿ではなく、外出用の服に着替えていた。

ソワソワと研究室で彼女の到着を待つ中、どうやって誘おうか……そんな事ばかり考えていた。

今まで俺からすると考えられない……研究以外の事にこれほど頭を悩ませたのは初めてかもしれない。

落ち着かない中、ウロウロと部屋を入ったり来たりしていると、ノックの音と共に、静かに扉が開いた。


まだ心の準備が出来ていない……ッッ。

いつもと変わらぬ彼女の姿に、俺は咄嗟に身を隠そうとするが……その前に彼女は驚いた様子でこちらをじっと見つめていた。


「おはよう、……その恰好どうしたの?」


「開口一番なんだ……俺がローブではなく、普通の恰好をしていたらおかしいのか?」


「ちっ、違うよ!えーと、珍しいなと思っただけで……」


やってしまった……。

怒りたいわけじゃない……クソッ……。

咄嗟に出た言葉に俺は頭を抱える中、チラリッと視線を向けると、彼女は気まずげに苦笑いを浮かべていた。

そんな顔をさせたいわけじゃない。

あぁ……どうして俺は……。

シーンと静まり返る中、俺は落ち着かせるため、大きく息を吸い込みながらに顔を上げると、彼女はあからさまに肩をビクッと跳ねさせた。

うぅ……怯えさせたわけじゃない。

ちゃんと伝えないと……。


「怒ってない……そう怯えるな。そのだな……今日は街へ出かけようと思ってるんだが……あんたも一緒に……くっ、来るか?」


「えっ、あっ、うん!迷惑じゃなければぜひ!」


彼女は先ほどの笑みとは違う……嬉しそうに笑うと、その姿に胸の中がジワリと温かくなっていく。

愛らしいその姿に、彼女の手を取ろうとした瞬間、メイドであるオリヴィアが現れると、俺の手を遮った。


「まぁ!!殿方とのお出かけ……!!それでしたら目一杯着飾らないといけませんわ!エルヴィン様、少々お時間を頂いても宜しいでしょうか?」


あまりの勢いにおぅ……と頷いて見せると、オリヴィアは彼女を連れて部屋を出て行く。

その姿を茫然と眺めていると、隣には執事が頭を押さえながらに静かに佇んでいた。


「……エルヴィン様、私の話を聞いておられなかったのですか?女性は出かけるといってすぐに出かける事は出来ません。色々と準備に時間がかかるのですよ。だからお誘いする前に、オリヴィアへお伝えくださいとお話したはずですが……。はぁ……今回はしょうがないですが、次回からは必ず先にオリヴィアへ話を通して下さいね」


全く聞いていなかった……。

よく考えてみれば……母も出かける支度は時間がかかっていた。

女性を誘うのは難しいな……。

執事の呆れた様子に俺は頭を垂れると、気を付けると深く深く頷いた。


そうして街へ出かけて、魔道具店へ連れていくと、彼女はとても楽しそうだった。

ここのオーナーは俺の事を昔から知っている。

父の知り合いで、魔術の腕はこの街一番といっていいだろう。

それに独創的な発想で、毎度新作の魔術には驚かされていた。

だから彼女を連れてきたんだ。

まぁ……冷やかされるのも覚悟していたが……どうしてあんな返しになってしまうんだろうか。

もっとスマートに事を運びたいのに、彼女を前にすると、冷静ではいられない。

正直魔術は見てもらいたいが……あの食えない爺さんに近づけたくはなかった。

きっと何かしでかすとは思っていたが……まさか、人間を猫にする魔術を作っていたとは驚きだ。


彼女の猫姿……正直とてもかわいかった。

もし飼えるなら、すぐに屋敷へ持ち帰っているだろう。

いや……あぁ、もう何言ってんだ。

とりあえず彼女が顔を真っ赤に恥ずかしそうにする姿が……、直視することが出来ないほどに可愛かったんだ。


その後二人で店を出て、食事へと向かった。

彼女と並んで歩くのはなぜか恥ずかしくて、俺は少し彼女より前を歩いていた。

すると行きかう男たちの視線が彼女に集まっている事に気が付いた。

配達だろうか荷物を下げて走っていた男性や、恋人と一緒に来た男性、小さい子供が立ち止まりこちらを見ていた。

視線の先には彼女がいた。

艶やかな仕草に、彼女の表情に、周りに男たちはみな彼女釘付けだった。

異国だとわかる黒い髪が物珍しいのもあるが、彼女の容姿は人を引き付ける。

その様子に俺は苛立ちを感じると、彼女手を引きよせ男の目から彼女を隠した。

そんな俺に気が付いていないのか……彼女は終始パッと目を輝かせながらに周りを見渡していたけどな。


食事を終え、初めて他人と居て楽しいと思える自分が居た。

彼女が笑ってくれるだけ、嬉しいと感じる。

あっという間に一日が過ぎて……連れてきてよかった、そう純粋に思ったんだ。

もっともっと彼女の事を知りたい。


店を出て彼女の姿を探すと、そこには複数の男たちに絡まれる彼女の姿がった。

俺は必死に駆け寄っていったが……あっさり返り討ちにあった。

彼女はそんな俺を心配し、守ろうとしてくれた。

だがそれは……惨めで俺は彼女を見ることが出来なかった。



**************

 ☆お知らせ☆

**************

玉子様(Twitterアカウント @tamagokikaku)にチビキャラを描いて頂きました!

けれど……どこへ掲載しようか悩み中ですので、もうしばらくお待ちください(;´Д`)


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