表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/45

異世界へ行った彼女の話:第二十一話

そうして身を隠すこと数十分、シュワシュワと音が響いたかと思うと、ゆらゆらと揺れていた尻尾が霧のようになくなっていく。

よかった……やっと戻った!

そっと頭上を確認するように触ってみると、ピコピコと動いていた耳は綺麗さっぱりと消えている。

はぁ……恥ずかしさで死ぬかと思った……。

まさかこんな魔術があるなんて想定外すぎる……。

本当に何でもありなのね……。


身を縮こませながらに改めてその魔術版を見返してみると、発動用の円は消え、陣が薄っすらと浮かび上がっていた。

それにしてもこれとっても複雑ね……。

何重にも属性が重ねられているわ。

描くだけでも数日かかりそう……。


人間が獣になれる魔道具か……。

さっきの尻尾も耳も本物だった。

引っ張ると痛みを感じたして……

もしかして……組み合わせ次第で獣以外にもなれるのかな……?

それなら……っっ。

私はそう思い立つと、魔道具をしっかりを胸に抱いたままに勢いよく立ち上がった。


「お爺さん、すみません!!!この魔道具は獣以外にも変身できるのですか?」


「おや、どうしたんじゃい突然。ふむ……そうじゃなぁ~、試してはいないが、他の生物にも成れるやもしれぬな。獣が一番身近で作りやすくてな~それ以外は作ったことはないのじゃ」


他の生物にもなれるかもしれない……。

これだ、これであの池の底へ行けるかも……っっ!

そう希望の光が差し込む中、次に別の問題がふりかかる。


それにはまず……この術式を解明しないと……。

しかし術式が複雑すぎて、こんなところで簡単にわかる代物ではないわ。

なら……持ち帰って……。

この魔道具が欲しい……でもお金がないわ。

私は胸の中で魔道具をギュッと握りしめると、じっと考え込んでいた。


エルヴィンに貸してもらう……?

ダメダメ、それはありえないわ。

それに6つも年下の子に……バカな事を考えちゃだめよ。

お金を稼ぐには……働くしかない。

でもお城では働かせてもらない。

なら……ここは……試しに……っっ。


「あの……お爺さん。私はお金を持っていなくて……でもこれが欲しいんです。だからここで働かせてくれませんか?魔術については多少の知識があります。もしくは何でもするので、どこか働ける場所を教えて頂けませんか?こんな不躾なお願いしてごめんなさい。でもどうかお願いします!」


そう深く何度も頭を下げると、お爺さんは面白いと言わんばかりに笑ってみせた。


「ほっほっほ、お嬢さんの気持ちはわかったんじゃが……坊ちゃんの同僚をこんな下町で働かせでもしたら、怒られるわい。コラコラ、こんなおいぼれに……頭を上げなさい、気にしなさんな。代金はほれ……」


お爺さんは私の後方を指さすと、そこにはエルヴィンが不機嫌な様子で腕を組み佇んでいた。


「あんたなぁ……何を言い出すのかと思えば……はぁ……。欲しい物があるなら俺に言え!!!」


エルヴィンは懐から袋を取り出すと、お爺さんに金貨を差し出そうと手を伸ばす。

その姿に私は慌てて彼の腕を掴むと、首を横へ振って見せた。


「ダメよ。買ってもらうわけにはいかないわ。これはあなたが稼いだ物だもの!それに……6つも下の子に買ってもらうなんて……ダメダメ自分が情けないわ……」


私は深く息を吐き出しながらに、開いた手をギュッと握りしめると、ジリジリと押し戻していく。


「歳は関係ないだろう。俺が出すって言ってるんだ、素直に受け取れ」


彼の強い口調に一瞬ひるむ中、私はペシペシと頬をたたくと、甘えていダメだと自分に言い聞かせた。


「やっぱりダメよ!買ってもらうわけにいかないわ!働いて何とかする、だから……」


そう言い返す私にエルヴィンは小さく舌打ちを見せると、エメラルドの瞳に私の姿が映り込んだ。


「チッ、なら……あんたがいつも仕事の補佐をしてくれる代金だ」


「えっ……!?補佐って……何もしてないないわ。私は傍で魔術について勉強させてもらってるだけよ」


「……なら俺がその魔道具を買う、それなら文句ないだろう」


「へぇっ!?もしかして……あなたもケモ耳に!?…………………………ッッ、似合うかもしれない……」


ケモ耳姿となったエルヴィンを想像してみると、わるくない。

むしろ日ごろクールな彼がケモ耳に尻尾……わしゃわしゃしたいな。

そんなくだらない事を思い描いていると、エルヴィンの怒った声が耳に届いた。


「違う!!!俺が買ってあんたにやるんだ!だからこの話は終わりだ!!」


エルヴィンはドンッとテーブルへ金貨を無造作に置くと、私の手を引っ張りながらに店の外へと連れ出していく。


「ほほっほ、痴話げんかもほどほどになぁ~」


そんな気の抜けた声が後方から響く中、私はエルヴィンの背へ顔を向けると、自然とため息がこぼれ落ちた。


挿絵(By みてみん)


****おまけ****

いやぁ~、珍しいもんをみせてもらったの~。

あまり感情を表に出さない坊ちゃんが……。

あれほど感情を露にした坊ちゃんを見たのは初めてじゃ。

あんな娘さんが坊ちゃんの傍におるなら、もう安心じゃな。


二人が去っていった入口へ視線を向けると、まだ見ぬ未来に自然と笑みがこぼれ落ちた。




************

 お知らせ

************

閑話3にて挿絵を追加致しました(*ノωノ)

照れるエルヴィン姿が可愛いので、ぜひ見て頂けれると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ