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閑話:異世界に居た彼の話:第三話

あの時はもう異世界の女に関わることはないだろう……そう思っていた。

実際にあれから俺と異世界の女は、あの日以来会っていなかった。

まぁ……俺自身が外に出ないからな、なくて当たり前だ。


そうしてまたいつもと同じように研究室へ向かい、いつもと同じように引きこもる毎日。

そんな中でも彼女の噂は良く耳にしていた。

彼女はどうやらこの世界に住むことに納得したようで、今は礼儀やマナー練習をしているのだとか。

弱音も吐くこともなく、前向きな姿勢を見せる彼女の姿に、周りからは好印象のようだ。

どこかの御令嬢のように、うるさく文句ばかり口にする女じゃなくてよかったな、とほっとする自分がいた。


普段の俺なら、女の話なんて気にしたことはなかったのだが……。

なぜかあの異世界の女の噂を気にしている自分自身に戸惑いを覚える。

あんな出会い方だったからだろうか……。

その答えはいくら考えてもわからなかった。


そうしてまた風の噂で、彼女が自分の世界へ戻る方法を探しているだと知った。

まだあきらめていなかったのか……そんな言葉が自然と漏れる。

頭の中で異世界の女の姿が浮かんでくる中、彼女の事をふとした時に考えている自分に、頭が痛くなる。

どうして彼女の話だけは、こんなにもはっきりと耳に届くのか。

魔術の話や、政の話なら気になるのもわかるんだけどな……。

まぁ……時間がたてばなくなるだろう、そう思っていた。

しかし時が過ぎれば過ぎるほど、彼女の事を考える時間が多くなる自分がいたんだ。


そんなある日、俺のところに騎士がやってきた。


「異世界の姫様があなたにお会いしたいとおっしゃっておりますが……どうなさいますか?」


その言葉になぜか胸の奥が熱くなる。

彼女が俺に会いたい……なんなんだ、この気持ちは。

俺はこみ上げるわけのわからない想いを振り払うと、ぶっきらぼうに返事を返した。


「……かまわない。だが今は忙しい会えるのはこの研究が終わってからだ」


騎士は俺の言葉に深く礼を取ると、静かに研究室から去っていった。


彼女にもう一度会える、そう思うとまた胸の奥から何とも言えない気持ちが湧き上がってくる。

新しい魔術を発見した時のワクワクとした気持ちと、似ているような気もするが何か違う。

俺も彼女に会いたいのだろうか……?

いやそんなはずはない、俺は女が大嫌いだからな……。


モヤモヤとした気持ちを抱えたままに、また研究を進めていく毎日に戻る。

そんな中、また彼女の噂が耳に届いた。

彼女はどうやら魔術に興味を持ったようで、学園の教師を彼女の為に呼び寄せ、魔術の勉強を行っているのだとか。

彼女は魔術を使えるほどに魔力を持っているようだが……異世界にも魔術は存在するのだろうか。

最初に出会った時には、そんな風には見えなかったがな。


そうして俺の研究がひと段落し、彼女と会う日がやってきた。

彼女が到着したとの報告を聞き、なぜかドキドキする自分に戸惑う。

早く会いたい、いや会いたくない。

矛盾した想い抱きながらに研究室へ戻ると、そこには魔術士がよく着る、長いローブを彼女は纏っていた。

最初に出会った時の印象とは違い、どこか落ち着いた雰囲気は大人っぽく映る。

真っすぐな漆黒の瞳が揺らぐ姿に、熱いもどかしい想いが込みあげた。

俺はやっぱり彼女に会いたかったのか……?

彼女の前にして初めて気が付いたその思いに戸惑う中、気が付けば俺は深く息を吐き出していた。


「……さっさと要件を言え。俺は忙しいんだ」


ポロリとこぼれ落ちた言葉に、自分自身がわからなくなる。

違う!こんな事を言いたいわけじゃない、そう思ってももう遅い。

彼女は俺の言葉に怯えた様子で肩を跳ねさせる中、頬を引きつらせながらに無理矢理に笑みを作っていた。


「ごめんなさい!あの……お時間を頂き感謝します。先にお礼を言わせて下さい。池から現れた私を助けて頂いて、ありがとうございました」


「はぁ?俺は何もしてない。あんたが勝手に現れただけだ」

(いや、俺はあの場に居ただけだ。あんたが無事で本当によかった)


「あっ、いや……そうなんですけど、わざわざ王様のところへ連れて行って頂けて助かりました!」


「あれは義務だ。あんたの為じゃない」

(あれはこの国では決まっている事なんだ。それよりも怪我はなかったか?この城での暮らしはどうだ?)


彼女の話すと言葉に対して、なぜかぶっきらぼうな返答を返してしまう自分がいた。

思っている言葉と全く別の言葉を話すコントロールの聞かない口に、訳が分からなくなってくる。

あぁ、俺はなんで、どうなっているんだ……。


気まずい沈黙が流れる中、日ごろ人と接しない俺にはどうすることも出来なかった。

だが彼女はそんな俺の失礼な態度に怒った様子なく、沈黙を破ると、ゆっくりと話し始める。

そこから魔術の話になり……気が付けば外はどっぷりと日が暮れ、眩い月が辺りを照らしていた。

こんなに人と夢中になって話をしたのはいつぶりだろうか。

そんな事を思いながらに、彼女がメイドに連れられながら研究室から消えゆく姿を、俺はじっと眺めていた。


それから俺の生活に彼女が加わった。

彼女は魔術の研究したいと、俺から学びたいと塔へ毎日やってくる。

いつもの俺なら断固として断っていたところだが……彼女と一緒にいるのは嫌ではない。

不愛想な俺の態度にも、冷たい言葉にも笑顔で返してくれたのは彼女だけだ。

素直に話をしたいのに、なぜか彼女を前にすると素直になれない。

唯一素直になれるのは、魔術の話をしているときだけだった。

異世界には魔術というものはないようで、彼女の発想は独特だった。

そんな彼女の話す言葉や発、想はとても新鮮で……一緒に過ごす日々は素直に楽しいと思える自分がいた。


一緒にいてわかったことだが、彼女は俺の知っている女とは違い、化粧もあまりせず、香水もつけない。

豪華な物にも興味がなく、質素な生活を好んだ。

それに普通の令嬢とは違い、魔術に対して興味津々だった。

魔術ついてこんなに会話ができる人が今までいただろうか。


そんな日々が続く中、あっという間に一年の月が流れていた。

そろそろ俺の誕生祭だ。

俺は父上に頼んで彼女をパートナーとして連れていくと申し出た。

今までかたくなにパートナーを選ばなかった俺の言葉に驚いていたようだが、父は嬉しそうな笑みを浮かべると、心よく了承してくれた。


そしてあの生誕祭の日、彼女が別の男と楽しそうに笑っている姿を見て、嫌だと彼女に触るなと強い想いがこみ上げた。

そんな事を思う自分が初めは理解できなかったが……俺は苛立ちながらに、すぐに彼女を男から引き離した。

俺の背に隠れる彼女の姿に、独占欲染みたどす黒い感情が渦巻いていく。


彼女の揺れる瞳、他の男が映るのは許せない。


彼女を誰にも渡したくない……それが王族でもだ。


彼女は俺のパートナーなのだから。


そんな事を女に対して思ったのは初めてだった。


彼女は俺のものだ。


そこで俺は彼女の事を好きなのだと、はっきりと自覚したんだ。



挿絵(By みてみん)

次回より、本編へと戻ります。

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