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☆閑話:異世界に居た彼の話:第一話

俺は人が嫌いだ。

権力にこびへつらう上辺だけの態度に、私利私欲のために他人を利用し、息を吐くように嘘をつく。

弱い物を蔑む視線や、他人の不幸を喜び、あざ笑うそんな人間ばかりを見てきた。


そんな中でも特に女は大嫌いだった。

派手な化粧を纏い、臭い香水を身につけ、男にすり寄る。

権力や地位を持った男、見目が良い男、上っ面だけを見て、体を差し出そうとする。

甲高い声で自分勝手な話をし、こちらの態度が悪いとすぐに怒り泣きわめく。

プライドが高く、自分を着飾ることにしか興味がない。

そうして俺は12歳で社交界に出るようになり、そんな女たちを目の当たりにしていると、女を見るだけで、嫌悪感を抱くようになった。


女には優しくしろ、とよく父上に言われていたが……底の浅い女相手に気を使うのも疲れ、俺はデビュー数か月後には、女に対して冷たい態度をとり、辛辣な言葉を投げつけるようになった。

しかしそんな態度をとっても、女たちは懲りずに俺へ近づいてくる。

城を歩けば甲高い声で叫び、煩わしいことこの上ない。

はぁ……全く女の考えることはさっぱりわからない。

わかりたくもないが……。


そうして俺が14歳になった頃から、婚約者をみつけろと両親が煩くなってきた。

まぁ……社交界デビューをしてからずっと言い続けられ……煩わしさに聞き流していた自分も悪いが……。

さすがにそろそろ、このままでいる事は限界のようだ。


通常であれば、デビューして一年以内に婚約者を作ることが、この世界では当たり前なこと。

だが人を遠ざけ続け、女を嫌っている俺には婚約者を作るなんて、出来るはずもない。

ましてや女と二人っきりで会わなければいけないと考えると、ゾッとする。


どうするべきか……このまま婚約者を作らなくて良い方法はないものか……。

そんな事に頭を悩ませながらに、珍しく部屋で引きこもっていたあの日。


カリカリ、カリカリカリッ。


俺は今年最年少で王宮の魔術師としての職に就き、魔術の研究に明け暮れる毎日。

普通であれば学園に通わなければいけない年だが……人との関りを持ちたくない俺は王宮に就職する事で、学園を免除してもらっていた。


基本研究の為、城の塔へ引きこもっている事が多いのだが……これだけ書類がたまってしまえばさすがにまずい。

だから俺はひたすらに目の前に積まれている書類を片付けていた。


書類に目を走らせる中、ふと微かに何かチカッと光った。

横目に見えたその光にペンを止め、窓のほうへ目を向けてみると、庭にある小さな池へ視線を向ける。

なんだ……何か一瞬、池がひかったような。

池を観察するようにじっと見つめてみるが、何の変化もない。

気のせいかと思い書類に目を戻そうとしたその刹那……突然池の水が爆発したような水しぶきをあげると、辺り一面を濡らしていった。


ドカーンッ、ヴァサッ、ヴァサアアアッッ。


「はぁ、……ッッ、はぁ……、はぁ、はぁ、はぁ……ッッ」


突然の事に動揺する中、庭の外に人の息遣いが耳に届く。

誰かいる……。

水しぶきの中微かに映る人影に、俺はすぐに剣を取ると、慎重に庭へと足を踏み出した。


「お前は何者だ」


俺は迷うことなく、座り込む女の細く白い首に剣先を向けた。

女はひどく驚いた様子を見せたかと思うと、体が小刻みに震えている。

水にぬれた髪からポタポタと水滴が落ち、スッと目を細めながらに女を眺めてみると、美しい漆黒の髪をひとつに束ね、吸い込まれそうな闇の瞳と視線が絡んだ。

その瞳に魅入られるように釘付けになると、目をそらすことが出来ない。


どれぐらいそうしていただろか……女に見惚れたのは生まれて初めての経験だ。

そんな自分に狼狽する中、まるで時間が止まったかのように、辺りはシーンと静まり返っている。

そんな中、ハッと我に返り慌ててその瞳から視線を逸らせると、女の露出された滑らかな肌が視界に映った。

胸と下半身の一部以外、白い滑らかな肌がむき出しになっている……なんて格好をしているんだ!!!


「何かしゃべれ。お前のその……はっ、破廉恥服装はなんだ!娼婦でも今時そんな恰好はしない!」


そう怒鳴るように声を荒げると、黒髪の美しい女は唖然としたままに、自分の体を確認するよう頭を垂れる。

そして確認が終わったのだろうか……彼女は徐に顔を上げると、不思議そうにその澄んだ目で俺へ視線を向けた。

そんな女の様子に俺はとっさに羽織っていたローブを掴みむと、女へ無造作に投げつける。


「あぁっ、くそっ、見れたものじゃない!今すぐこれを羽織れ」


すると女はローブを肩へ羽織ると、考え込むように口を閉ざした。

その様子に何も言わないのか!と強く言い放つと、勢いそのままに剣先を彼女に近づける。

切先は水が乾ききっていない白い彼女の首に軽く触れてしまうと、赤い血が静かに流れ落ちていった。


ちっ……やってしまった、泣くか……?

あぁ、くそっ、泣けばうるさくなるな……煩わしい。

これだから女は嫌いなんだ。

そう思うと、俺は嫌悪の表情を浮かべながらに視線を逸らせる。

すると美しい透き通るような声が耳に届いた。


「……っっ、あの……ローブ……ありがとうございます」


その声に慌てて顔を向けると、女は泣く様子もなく、真っすぐに俺を見つめていた。

なんなんだ、この女は……?

この状況下で礼言い放った女に驚く中、しかしよく考えてみると、この女危機感がなさすぎではないかと呆れ、俺は深いため息をついた。


よくわからない女だ……。

だがとりあえずこんなところで話していてもしょうがないだろう。

この女が一体何者なのかはわからないが、無断で王宮に侵入した。

さっさと捕まえて、騎士にでも預けよう。

そう考えると俺は剣を納めながらに、座り込む女の腕を強く掴みながらに、強引に立ち上がらせた。

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