表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/45

異世界へ行った彼女の話:第十六話

金色に輝く光の先に懐かしいグレンの姿が浮かび上がると、月が微かに滲み、頬に水滴が流れて落ちていく。

頬を伝う雫がゆっくりと地面へ落ちていく中、私はそっと手を持ち上げた。

するとその手が触れる前に、彼の指先が私の頬へと触れる。

冷たい彼の指先は流れ落ちる雫を救い上げると、私は慌てて後退った。


「えっ、あっ、すみません……っっ、少し懐かしい気持ちになってしまいました……」


彼は心配そうな表情を見せると、私を覗き込むように視線を向ける。

そんな彼の様子に、私は必死に涙を止めようとするが……一度あふれ出した涙は簡単にはとまらない。

あぁもう……なんで……はっ、恥ずかしい……。

早く泣き止まないと……いきなり泣き出して、彼が困っているじゃない……。

私は自分の泣き顔を隠す様に顔を背ける中、彼は徐に手を引くと、なぜか立ちあがった。

そうして私の前へ跪くと、潤んだ視界に琥珀色の瞳がはっきりと映し出される。


「すまない、悲しい思いをさせてしまった……」


「ちっ、違います!!!ここへ来て初めて、自分の世界の話を出来て、とても嬉しかった。あぁ、もうなんでとまらないのかな……っっ。これは悲しいわけではなくて……ただ……」


私は震える唇を持ち上げ無理矢理に笑みを浮かべる中、大きな手が私の頬を包みこむ。

彼は優しく俯く顔を持ち上げると、親指で涙を拭きとっていった。


「おぃ、何をしているんだ!!!」


突然の声に顔を向けると、そこにはパーティーの主役であるエルヴィンの姿があった。

彼は走ってきたのだろうか……息を切らした様子でこちらへ駆け寄ってくると、私の腕を強く引き寄せる。

握られたその手に鈍い痛むを感じる中、頬に触れていた彼の手が離れると、私はそのまま胸の中へ倒れ込む。

するとエルヴィンは私を守るように、ギュッと強く抱きしめた。


「エルヴィン殿か……」


彼は徐に立ち上がると、エルヴィンへ真っすぐに顔を向ける。

その姿にエルヴィンは驚いた様子を見せると、慌てた様子で頭を下げた。


「っっ……失礼しました……ライト殿下。ですが彼女に一体何を?……どうして彼女が泣いておられるですか?」


えっ……ライト殿下!?

この人もしかして王族なの……やばぃ……っっ。

先ほどの不躾な質問に、失礼な自分の態度が頭をよぎると、クラリと視界が歪む。

うぅ……私は王族に対してなんて失態を……。

いや……でも今は……それよりも……!!!

私はエルヴィンの胸を強く押し返すと、慌てて顔を上げた。

目の前にエメラルドの瞳が映し出される中、その瞳を見つめ返すと口を開く。


「待って、違うの!これは……あっ、そう!!目にゴミが入ってしまって、それでね、涙が止まらなくて……えーと……その……だから……」


最初に勢いはどこへやら……冷たく揺れるエルヴィンの瞳に見据えられると、声が次第に小さくなっていく。

私はその視線に耐えきれなくなり、気まずげに彼から体を離すと、もう平気だよとの意味を込め、涙をぬぐいながらに、笑みを浮かべて見せてみせた。

すると私の姿にエルヴィンは不機嫌そうな様子を見せると、呆れた様子で大きく息を吐き出した。

っっ……ひぇっ、怒ってる……。


彼のただならぬ雰囲気に顔を引きつらせる中、ライトはエルヴィンの前に佇むと、深く頭を下げた。


「エルヴィン殿、大切な客人を悲しませてしまってすまない。全て私のせいだ。だが……泣かせるつもりはなかった……」


「ちょっ、頭を上げてください。違いますよ、私が勝手に……。それよりも本当にすみません。王族の方とは存じあげておらず、失礼な態度に言動に……あぁ、本当に申し訳ございません」


私は深く深く頭を下げると、彼から逃げるように後ずさった。

ダメダメ、これ以上失態を重ねるわけにはいかない……。

その姿に彼は私の腕をとると、肩を掴み項垂れる私の体を持ち上げる。


「私は確かに王族だが……そんなにかしこまらなくても良い。先ほどのように気軽に話してくれた方がありがたい。それよりもまたあなたとゆっくりと話をしたい。今度は僕があなたを迎えに行ってもいいだろうか?」


「えっ、あっ、恐れ多い事です……」


迎えにって……いやいやいや、困る困る……。

私は恐る恐るに視線を上げ、琥珀色の瞳を見つめ返す中、彼は優し気な笑みを浮かべてみせる。

その笑みに戸惑う中、私はどう対処すれば正解なのか……頭を抱えていると、彼は私たちに背を向け回廊の方へと去っていく。


ライトの姿が消えると、静かな庭園に、エルヴィンと私が取り残された。

エルヴィンに動く気配はなく、不機嫌な様子で胸の前で腕を組むと、私をじっと睨みつけている。

その姿に私は小さく肩を跳ねさせる中、気まずい沈黙が庭園に流れていった。

うぅ……これは……相当に機嫌が悪い……。

さっき彼が現れた様子を見る限り、パーティー会場からいなくなった私を探していたのだろうか……。

あぁ、ひと声かけてから外へ出るべきだったなぁ。

後悔の念に駆られる中、エルヴィンはまた深く息を吐き出すと、動けない私の元へゆっくりと近づいてきた。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ