異世界へ行った彼女の話:第十二話
姿勢を正しながらに壇上を眺める中、主催の人だろう挨拶が終わると、最初に出会った王様が壇上へと現れた。
へぇっ!?王様……!?
その姿に、エルヴィンの地位は高いのだろうと改めて実感する。
誕生日パーティーにわざわざ王族が来るなんて相当だと思うの……。
私は目を大きく見開きながらに壇上を見上げてみると、その隣には王妃様が静かに笑みを浮かべていた。
壇上から響く挨拶に耳を傾けながら壁の傍に立ち尽くす中、私の両手にはオリヴィアが持たせてくれた袋が目に映る。
そういえばプレゼントいつ渡そう……。
あんな豪華な物ばかりもらっている中で、私のプレゼントは……。
ううぅ、比べるとどう見てもしょぼいよねぇ……。
いやでも、しょうがない!
お金もないし……でも自慢ではないが、オリジナルで考えたんだよ。
この世界にはなくて……私の世界でみる事が出来るあの美しい風景を見せたいなと思ったんだよね……。
まぁそりゃね、宝石や綺麗な花と比べれば落ちるけど……。
う~む、喜んでくれるかな……。
そんな事を考えていると、王様の話が終わったのだろうか……会場内がまた騒がしくなっていく。
ふと顔を上げ辺りを見渡してみると、エルヴィンはいまだ群衆に囲まれていた。
ぐぅっ、まだ近づけない、どうしようかな。
とりあえずもう少し待ってみよう……。
会場のひときわ目立つ一角に、群がるその集団を茫然と眺めると、突然にメイドが私の前に現れる。
驚き肩を跳ねさせる中、メイドは人懐っこい笑みを浮かべながらに、こちらへワイングラスを差し出すと、私は反射的にそのグラスを受け取っていた。
ありがとうございますと苦笑いを浮かべる中、グラスの中にはピンク色のロゼのような色合いをした液体が注がれている。
そっと鼻を近づけてみると、香りからアルコールは入っていないようで、美味しそうな甘い果実の香りに思わず頬が緩んでいく。
興味津々で口をつけグラスを傾けてみると、甘酸っぱいさわやかな味わいが口の中に広がっていった。
美味しい、何だろうこれ。
戻ったらさっそくオリヴィアに聞いてみよう。
そんな事を考えながらにジュースを味わっていると、騒がしい会場の内でふと聞きなれた懐かしい声が耳に届いた。
反応するようにハッと顔を向けると、そこにはブロンドヘヤーの男性が、執事に何か話しかけている。
後ろ姿で顔は見えないが、私はそっとワイングラスを近くに見えるテーブルへ置くと、彼の元へ引き寄せられるように近づいていった。
今のは……聞き間違いかな……?
彼の声をもう一度聞こうと耳を傾けてみるが……周りの雑音にかき消されている為か……なかなか聞き取れない。
もう少し近くに……と足を進めてみると、ようやく彼の声がはっきりと耳に届いた。
「後は頼んだ、ありがとう」
その男性は執事にお礼を言うと、会場の奥へと去っていく。
今の……間違いない、彼の声だ。
いや……でも髪の色が全然違う。
男性のブロンドの髪に一瞬動きが止まると、彼は人ごみに紛れながら私から遠のくように進んでいった。
いや、でも……彼の声を、私が聞き間違えるはずがない。
「待って!」
そう慌てて声を上げてみるも、私の声は周りの音にかき消され、その男性には届かなかった。
私は彼の姿を追うように会場の中央へ進む中、ヒールに何度も足がもつれそうになる。
あぁもう、これだからヒールは……っっ!
はぁ……元の世界でもっとヒールを履いていればよかったなぁ……。
歩きづらさに苛立つ中、私は人ごみをかき分けながらに、彼の背から目を離さぬように進んでいく。
あぁもう、人が多い!
見失わないよう必死に手を伸ばした瞬間、突然に私の前に人が群がってきた。
「ごきげんよう、異世界のお姫様。一度お話してみたいと思っておりましたの」
「初めまして、君が異世界のお姫様だね。いや~なんとお美しい」
「ご機嫌麗しゅうございます、あら~目を見張るほどの綺麗な黒髪ですわねぇ」
「異世界の姫様、私は侯爵家の者です。宜しければお時間を頂けませんか?」
立ちはだかるように集まる貴族達に戸惑う中、一瞬目を離したすきに男性の姿が人ごみに紛れ込んでいく。
あぁ……うそ、見失った……っっ。
でも向こうへ行ったことは間違いない、すぐに追いかけないと!
私はぎこちない笑みを浮かべると、急いでる感じを出しながらに、彼らを避けようと体を動かした。
しかし彼らに退く気配なく、私はそこで足止めされてると、貴族たちの勢いに身動きが次第に取れなくなっていった。
勢いそのままに話す彼らに戸惑う中、愛想笑いを浮かべると、私はジリジリと後退っていく。
あぁもう、無視して進みたいんだけど……さすがにそれはマナー違反になるよね。
どうしよう……退いてほしいのに……。
貴族たちは私の苦笑いに気が付かないのか……終始話続けている。
将又気が付いているが……強引に攻めてきているのか……。
私は心の中で深いため息をつくと、焦る気持ちを抑え込むように、無理矢理に笑みを浮かべて見せた。
貴族たちはそんなに私と話がしたいのか……勢いに任せたまま皆が同時に話しかけるため、何を言っているのかさっぱり分からない。
そんな中、彼らの勢いに会場の中心からジリジリと押し戻されてしまうと、私は大きく肩を落としたのだった。




