表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/45

異世界へ行った彼女の話:第十話

そうしてオリヴィアにされるがまま……気が付けば私はプリンセスドレスに着替えさせられていた。

一体いつサイズを測ったのだろうか……、ドレスのサイズが怖いくらいにピッタリ……。

鮮やかな赤いドレスがヒラリと広がる姿は、まるで物語に登場するお姫様ようだ。

……いやでも……お姫様って年じゃないですよね……。

それにしても……こんなドレスを着るはめになるとは、思わなかったなぁ……。

真っ赤なヒラヒラのドレスに苦笑いを浮かべる中、オリヴィアは私を覗き込むと、そっと頬に触れた。


「姫様のお肌は白くてスベスベで……うらやましいですわ~」


えっ、白い……?

そっか……この世界へ来てから、私は一度も外出をしていない。

日夜塔と城を行き来する毎日で、肌が焼けるはずがないもんね。

元居た世界では、海辺に住んでいたから……肌は褐色だったんだけどなぁ。

改めて自分の腕へ視線を向けてみると、日焼けの跡などどこにもない。

そんな自分の姿に、あの頃を思い出す様にそっと瞳を閉ると、ひんやりとしたオリヴィアの手が唇に触れた。

そういえば……彼とよく外出したっけなぁ。

街へ買い物に行って、自動ドアに仰天した姿は面白かったな。

毎日が楽しくて、いっぱい笑って……早く会いたいな。

彼の笑顔が瞼の裏によみがえる中、彼女の指先が唇をなぞるように一周すると、ゆっくりと体を離した。


すると突然にガガタッ、ガタッとの物音にそっと目を開けてみると……目の前に大きな鏡が用意されていた。

鏡に映った私の姿は、真っ赤なドレスに胸元が大きく開き、顔にはアイメイク、白粉、口元は薄いピンクの紅がのせられている。

長いドレスからのぞかせる靴は黒いピンヒールで、思わず脹脛に力がはいった。

元の世界ではキャミソールを着て外出することもあったが……この世界では少し肌寒い秋のような気候に、基本ローブ姿だ。

そんな中、久しぶりに肌を露出する自分の姿は……なんというか……とても恥ずかしい。


腕にはシンプルなシルバーのブレスレット、胸元にはエメラルドのネックレスが光っている。

いつも適当に縛っていた長い黒髪はアップにまとめられ、頭には大きなバラが飾り付けられていた。

すごい……別人みたい……。

しかし元が元……、どれだけ綺麗な服に化粧をまとってみても、顔が浮いている気がするなぁ……。


そんな自分の姿に気落ちする中、隣ではオリヴィアがとても満足そうな笑みを浮かべていた。


「姫様、とってもお美しいですわ!!!」


キラキラと目を輝かせながらに笑いかける彼女の姿に、自然と頬が引きつっていく。

えぇ……言いすぎじゃないかな……服は確かに綺麗だけれど……。

いつもとは違う……テンションの高いオリヴィアの様子に戸惑っていると、また部屋にトントントンとノックの音が響いた。

その音にオリヴィアは慌てた様子で向かうと、開けられた扉の前で何やらコソコソと話し始める。


あっ、そうだプレゼント。

オリヴィアを横目に、私はそそくさとベッドわきへ移動すると、用意していた魔術板をひっぱりだす。

明日プレゼントしようと思っていたけれど……パーティーに参加するなら、今日渡したほうがいいよね。

本当は何か残る物にしたかったのだけれど……あいにく私には、この世界で自由になるお金はない。

まぁ……頼めばもらえるのかもしれないが……、衣食住の面倒を見てもらっている手前、そんな図々しい事を言えるはずもなかった。

以前に一度オリヴィアへここで働かせてほしい!、とお願いしたこともあるのだけれど……絶対にダメですと一刀両断に切り捨てられたのは、記憶に新しい。


そんな事を考えながら魔術板を手に扉へ視線を向けていると、話が終わったのだろか……振り向いたオリヴィアが私の方へ走り寄ってくる。

そのまま私の手を取ると、彼女は生き生きとした表情を浮かべながらに、扉へと誘っていった


「あら、それは魔術板ですわね……。ベネット様への贈り物でしょうか?」


「えぇ、そうなの。プレゼントになるのかは怪しいけれど……彼には色々お世話になっているから……。本当はね、明日渡すつもりだったんだ」


「ふふっ、でしたらこちらの袋にお入れ下さい。魔術板はドレスには似合いませんわ」


オリヴィアはどこからか可愛らしいカバンを取り出すと、魔術板を入れ私の手にそっと添えた。


そうして扉の前へやってくると、そこには見覚えのある、いつも塔で見かけたローブ姿の男が佇んでいた。

しかし今日はローブではなく、燕尾服を着こなし、髪をオールバックにまとめている。

あまりの雰囲気の違いに、不躾にもまじまじと見つめていると、彼は優しい笑みを浮かべながらに美しい礼を見せた。


その姿に私も慌てて淑女の礼を見せると、彼は洗練された所作で道を開けるようにそっと後退していく。

開かれた通路に、ピンっと背筋を伸ばし、脚に力を入れながら廊下へ進み出ると、そこにはエルヴィンの姿があった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ