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序章

挿絵(By みてみん)


ブクブク。。。ブクブク。。。


大きな波に飲み込まれ、目の前が水に染まっていく。


強い力で体が打ち付けられ……泳ぐ気力なんておきないほどの大きな波。


冷たさに、痛みに、恐怖に、孤独感に……心が支配されていくと、私の体は自然と震えていた。


そうして水中にいくつもの気泡が立ち込める中、あっという間に目の前が真っ白に染まっていく。


怖い……私はここで死ぬのかな……。


彼にやっと会えたのに……。


もっと……もっと一緒にいたかった……。


ずっと一緒に居るって……。


一人にしないと約束したのに……。


声にならない声は泡となって消えていくと、私の体は波に流されていく。


悲しみにくれる私の傍に、彼の姿はどこにもなかった。


そのままグルグルと渦巻く波に飲み込まれると、ゆっくりと暗い海の底へ落ちていく。


揺れが収まり徐に瞳を持ち上げてみると、そこは何も見えない深い深い暗闇だった。


かなり深いところまできてしまったのだろう……、私はもうきっと助からない。


意識が次第に薄れてくると、私は抗うことなくそっと瞳を閉じる。


すると先ほどまで感じていた、冷たさや恐怖感……もう何も感じなくなっていた。


彼はどこにいるんだろう。


あぁ……私はどうなってもいいから……。


もし神様がいるのなら、どうか彼を助けて下さい。


お願いします……。


そう強く願うと、虚ろう意識の中、小気味よい鈴の音が鳴り響いた。


リンリンッ、リンリンッ。


幻聴だろうか……鳴り響く鈴の音に耳を澄ましていると、愛しい彼の優しい声が聞こえた気がした。


無の中、私は必死に耳を澄ませてみると、幻聴と思われたその声がはっきりと耳に届いた。


(だめだよ、君は生きるんだ)


生きる……あなたも生きているの?


そう言葉を紡ごうとするが、私の声は音にならない。


(大丈夫……怖がらないで、ゆっくり、ゆっくり目を開けてみて……)


その優しい声に瞼を持ち上げてみると、先ほどまで暗闇だった世界に、うっすらと光が差し込んだ。


何……どうして光が……?


(ほら……よく見て……光の先に岩のトンネルが見えるだろう……)


朦朧とする意識の中、その声を頼りに、必死で目を凝らしてみると……そこには薄っすらと岩のトンネルが浮かび上がった。


あれが……岩のトンネル……?


見えたその洞窟に、私は最後の力を振り絞ると、手足をバタバタ激しく動かす。


波に飲み込まれそうになる中、何とか手を伸ばすと、指先が岩に触れた。


(そのまま光の差す方向へ、泳いでいくんだ……)


言われたとおりにトンネルを潜ってみると、光が先ほどよりも強くなった。


(僕は君に幸せになってもらいたいんだ)


幸せ……?


私の幸せはあなたと共に過ごす未来。


笑いあって、喧嘩して、また仲直りして……そんな他愛ない未来こそ私が望むもの。


私は彼の声に答えるように、必死に泳いでいくと、光の中へ向かっていく。


息が苦しい……でも私は……彼との……幸せを……。


そうして何とか光のもとへ到達すると、私は力尽きるように、そのまま意識を失った。


****************


泡だけが残る水中には……薄っすらと人影が浮かびあがる。


それは本当に薄っすらと……暗闇に紛れ込んでいた。


人影は彼女が消えた光の先を見据えると、水に溶け込んだ腕を真っすぐに伸ばす。


しかしその手は空をつかむと、その姿が水に溶けるように、薄れていった。


その刹那……。


「幸せにできなかった僕を……君は許してくれるだろうか……」


トンネルの中に、そう音が反響すると、穏やかな波が流れ、辺りはまた真っ暗で静寂な海底へと包まれていった。

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