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駆ける刑事前線  作者: 内村
駆ける刑事前線
7/15

7話「偽のカードと母の愛」

1



「__ん、逃げましょう」

「あぁ」

 香取の意識が戻ると、二人の足音が遠くから聞えてきて、やがて聞えなくなった。

 香取は自分の周りの惨状に驚愕して身体が震えた。バールで抉られた頭の遺体、そのバールが刺さっている遺体、ガラス瓶が顔面に刺さり首筋に注射器が奥深くまで差し込まれている遺体、

そして、44マグナム弾によって頭部のほとんどが消失している彩香の遺体…。

 香取の身体は血に塗れていた。身体の痛みは感じない。自分は傷を負ってないのだ。

 じきに、福岡県警の警察達がやって来て、彼と同じ課の人達が入って来た。

「香取、無事か__ッ?!!何だこれは?!!」

 香取は恐る恐ると彼らに顔を向けた。常に見開いた濁った瞳の目をしていた。

「…この女は?」

 香取は答えなかった。答える勇気が出ないのだ。愛する彼女が無残な姿で殺されたことを認めたくなかったからだ。だが、床に落ちていた彼女の血まみれのペンダントを見て、彼女の死を確信してしまった。

「うっ…うああああぁぁぁぁ…っ!!!」彼はその場に跪き、大泣きした。彼女らの血が溜まっているその場に…。



2



 西新宿署の盗犯係は朝から頭を悩ませていた。隼人のデスクの上には大量のクレジットカードやチェーン店のクーポン券が散らばっている。

「こんなにいっぱい…どうした?」出勤したばかりの好雄が隼人に聞いた。その後ろには同じく出勤したばかりの香取も居る。

「これ全部偽物なんだよ…」

「全部が?!」

 二人はクレジットカードを手に取った。よく出来ている。厚さも固さも文字も何もかもが本物のクレジットカードと瓜二つだ。クーポン券も手に取ってみたが、よくわからない。期限は切れている。

「ゴミの収集場で発見されて送られてきた。指紋は使われた店の店員以外に中国人達の指紋が採取され身元が分かったが、それ以降の進展が無い…」

「んで、中国人は何て奴だ?」

 隼人は香取に三枚の書類を手渡した。一枚目に記載されている者は“李・浩宇”という男で、意外とハンサムだ。日本国籍を持っていて、妻も子も居るが、三人とも行方が分からなくなっている。他に二人書かれていたが、目立ったことは特に無い。

「じゃ、頑張れよ」と書類を返した。強行犯係が捜査することではない。

 好雄は欠伸をした。顔も眠そうだ。

「夜何してたんだ?」

「昇進試験が間近になってきたから、徹夜してたんだ…」

「身体には気をつけろよ」

「お前に言われたくない」

「くけけけ…っ」

 一方で、小美川は交通課の若い婦警達から縫い物を教わっており、苦戦していた。指には絆創膏が所々貼られていて、布にも所々血が付着している。

「何作ってるの?」

「え、あ…ちょっとね…」

 すると電話が鳴り、正孝が出た。

「もしもし、刑事課強行犯係。はい…了解しました。

ハナムラスポーツ淀橋店で金銭トラブルによる暴行、現在も続いている模様」

「うーい」

「は、はい!これ、このままにしておいて!」小美川は縫い物を置いて香取と好雄と共にオフィスを出て地下駐車場に向かった。



3



 三人が乗ったL33ティアナは例のスポーツショップの店先に着いた。店内に入ると、殴りあったであろう二人が床に倒れていた。若い男性店員と一般(?)人の男だ。

「…何があったんですか?」と好雄は近くに居た人に聞いた。

「この男性がクレームをつけてて、店員さん達が謝っても文句言うのを止めなかったから、この店員さん怒って…」

「何のクレームですか?」

「確か、クレジットカードがどうのって…」

「クレジットカード?」

 香取は男の財布をレジで見つけ、それを手に取って中を開いた。クレジットカードが数枚入っており、ラーメンチェーン店のクーポン券も入っていた。免許証も入っておりこの男の名前は“日村純”というそうだ。

「…怪しい。この男、連れて行こう」


 クレームをつけていた日村という男を西新宿署に連れて来て、取調室に叩き入れた。

「何すか?営業妨害の罪っすか?」

「それもあるが、最近クレジットカード関連の事件があってね。アンタの財布と中身をお借りします」

「ちょいちょいちょい!!警察がそんなことしていいと思ってんすか?」

「使いはしない」

 香取は日村の財布を持って盗犯係と鑑識課に向かった。

 小美川は署に戻ってからすぐに縫い物を再開して大分進んでいた。形からしてお守りのようだ。

「これも瓜二つだな…」隼人に日村のクレジットカードを見せて彼は偽物と確定しているクレジットカードと見比べた。何の参考にもならなかったようだ。

「偽のクレジットカードって、レジに通しても大丈夫なのか?」

「通せるほど良く出来てるんだよ。“複製のプロ”の仕業かもね」

「複製のプロねぇ~…」

 すると、鑑識課の古顔がやって来た。

「出たよ結果。彼本当は“睦・鼎滿”っていう韓国人だ」

「中国人じゃないのか…」

「どちらにせよ日本人に偽ってる時点で大問題だろ。不法滞在の可能性もある。洗いざらい全部吐いてもらう」

 香取は隼人から三人の中国人のリストを借りて取調室に戻り、日村の前の椅子に座った。

「睦・鼎滿が本名。合ってるか?」

 彼は黙り込んだ。当たりのようだ。

「…最近、偽のクレジットカードが大量に使われていて、その際にカードの使用者に渡ってしまった商品の行方がわからなくなっている。何か知らないか?」

「知らねぇ」

 香取は気づいた。この男は何かを隠している。目を泳がせ、妙な汗も少しかいている。

「…李・浩宇、郭・迪、倪・明凯という男達が絡んでいる。知らないか?」と書類を彼に渡した。彼は一通り目を通して書類を置いた。

「知らねぇな」

 香取は立ち上がり、彼の胸倉を掴んで立たせた。


「それでアームロックをかけたり殴る蹴るのコンボを決めて全ての行いを吐かせた、と」立川課長は呆れた顔でそう聞いた。

「はい。治療費と慰謝料要求してきて腹がたったので二度と強○できないように()()を去勢同前にしてやりました。

それよりも、やっぱりアイツは例の中国人達の仲間でした。一緒に密漁船に乗って潜って入国したそうです。三人の他にも十人のアジア人とアフリカ人も居るそうです」

「アフリカ人?」

「出稼ぎ先で知り合って仲間になったそうです。

それでですね…半分仲間で半分フリーの奴が居るそうなんですよ」

「半々で?」

「他の組織にも半分加担していて、その女の役割が『クレジットカードやクーポン券の偽装』だそうです」

「ふむ…その女の身元は?」

「中国の遵義県遵义市出身の“顾・晓燕”という三十歳前後の女性で、世田谷区の一軒家に閉じこもっているそうです」

「にしても随分たくさん吐いてくれたな」

「刑務所の方が安全だと気づいたんじゃないですか?」

「でもあっちの国だと日本で犯罪を犯した人って英雄扱いされるんじゃ…」



4



 数十分後。香取と小美川はクラウンマジェスタで晓燕の居場所に向かった。ボロボロの民家で、庭にはゴミの山があり、錆だらけの軽自動車が置かれている。マジェスタを庭の前に停めて降車した。

「虫が多そうで嫌ね…」

「じゃあ車で待ってるか?」

「いいえ…」

 二人は民家のドアの前に立ちインターホンを押した。

すると、

「合言葉は?」とちょっと可愛らしい声が内側から聞こえてきた。

「…ジングルベル、バット○ンは滑る」

 鍵を掛けられた音がした。

「…どうするのよ?」

「手帳見せるしかねぇだろ…」香取はもう一度インターホンを押した。

「つか、今の本当に三十代の女の声か?」

「芸能人を馬鹿にしてるようなこと言うな」

「馬鹿になんかしてないさ」

 また内側から同じ言葉が聞えてきた。

「警察です。中に入れていただけますか?」

 何も返ってこない。音もしない。

「…逃げたか?」

「裏に回ってみる」

「あぁ」

 小美川は民家の裏に回った。

 少し経つと、鍵が開けられ、ドアが開かれた。乱れた長い黒髪の女性と、小学校中学年くらいの短い髪の女の子が居た。二人とも顔がどこか似ている。

(さっきの声の主はこの子か…?)

「何の用ですか?」

「連行した韓国人が偽のクレジットカード等の生産をアナタが行っているとおっしゃっておりました。署でお話を」

「…わかったわ。ちょっと待ってて__」

「裏から逃げても同僚が居ますよ?」

「…“惠珊”、母さんの鞄と携帯持って来て」

「はーい」

 惠珊と呼ばれた少女は家の奥へと走って行った。

「お子さんだったんですか…」

「えぇ…」


 四人はマジェスタに乗り署に向かった。晓燕と惠珊が座っている後部のドアには鍵が掛けられている。

「韓国人の仲間は__」

「ソイツを仲間と思ったことはない。宿の備品やらを盗んだり災害に乗じて火事場泥棒をしこの国の物を自分達の物みたいに出したりする非常識な劣等民族なんか。おかげで私達中国人が同属扱いされてるもの」

(相当な嫌韓だな…)

「アナタ達も迷惑してるでしょ?日本人に成りすまされて海外で暴れられたり、大使館前で馬鹿を曝け出されて、領土を占領されて起源説を主張して__」

「あーはいはいわかってますから…私達も苦労してるんですから…」

 赤信号で停まり、青に変わるのを晓燕の暴言を聞き流しながら待っていると、ガソリンタンクの蓋の近くに一台のトリビュートが停車した。その光景は香取側のサイドミラーで十分見れる。

すると、トリビュートの窓が開かれてそこからトカレフが現れガソリンタンクに銃口を向けられた。

「__!!」

 香取はマジェスタを急発進させた。一発の弾丸がリアバンパーを掠った。マジェスタは勢い余って交差点に出てしまい、通りすがりの車を避けながらVターンをした。トリビュートはバックターンをして逃げ出し、マジェスタはその後を追い始めた。

「何っ?!!何っ?!!何~~っ?!!」

「ちょっと予定変更する」

 トリビュートは並走してきたマジェスタに体当たりをした。二台はバランスを崩したがすぐに立て直し、また体当たりをした。前から来る車を避けてもう一度体当たりをした。突然マジェスタは減速し、トリビュートの後ろに着き、煽るような運転をし始めた。トリビュートは一気に加速して信号前でターンした。マジェスタも停車し身構える。トリビュートはマジェスタに迫って来て、マジェスタはバック走行をし始めた。だがすぐに追いつき、トリビュートにフロントバンパーを何度もぶつけられた。徐々にマジェスタのフロントバンパーが外れそうになっていく。マジェスタは曲がり、トリビュートはそのまま真っ直ぐ行き迫って来ていた車にぶつかった。車は撥ね飛ばされて対向車線に入り、通りすがりの車を巻き込んで大破した。

 そのとたん、マジェスタにトカレフを撃ちこまれて急発進した。トリビュートの反撃が始まった。マジェスタのリアバンパーを突き、リアフェンダーにぶつかりマジェスタをスピンさせた。マジェスタはスピンしながら路駐の列に突っ込み大破した。晓燕は惠珊を庇うように抱いて守っていた。小美川と香取は頭を抑えている。すると、トリビュートは停車した。嫌な予感がした香取は三人に降りるように言い、四人は大急ぎで降車した。トリビュートの窓が全開になり手榴弾が数個マジェスタに向かって投げられた。マジェスタの下に転がりそして爆発した。路駐されていた車も巻き込まれ、数台が炎と黒煙に包まれた。トリビュートはどこかへ走り去って行き、香取は一人走って追おうとしたが、見失ってしまった。



5



「聞いてないわよ!!あんなことになるなんて!!」

「俺らだって予想外だっつーの!!だいたい、アンタを狙った犯行かもしれないだろ?!心当たり無いのかアンタは?!」

晓燕と香取は取調室でそういがみ合っている。惠珊は小美川と隼人と共にボードゲームで遊んでいた。好雄の試験勉強のためにできるだけ静かにやっている。

「とにかく、アンタら親子は当分ここで生活してもらう!!偽のクレジットカードの件もあるしな!!家の中を捜索させてもらうぞ!!」

「勝手にしなさい!!」

 香取は取調室を出て小美川と共にオフィスを出た。

「会話が薄らと聞えてたけど、あの言動からしてやってないってことじゃない?見られても構わない物しかないっていう__」

「いや、何か隠している。きっと俺が警察って言ってから出てくるまでの間に隠したから見つからないっつー自信があるのかもしれない」

「はぁ…」


 グロリアで顾親子の家に向かった。

すると、一台のアクセラとCR-Vが家の前に停まっていた。小美川は見つかりづらい場所にグロリアを停めた。

「あいつら…まさかさっきの?!」

 香取はM3913を取り出して降車し、見つからないように家の裏口に回った。塀を登って台所に繋がっている扉を静かに開けた。誰も居ないが、隣の部屋から物音がして、声も聞えてくる。中国語や韓国語が入り混じっている。後で訳してもらうためにスマホのボイスレコーダーアプリで録音を始めた。廊下に忍び込み、隣の部屋のドアを開けた。そこには、パソコンやプリンター等の家電製品や文房具を破壊し、ファイルや書類にライターで火を点けようとしていた男達が居た。香取は彼らにM3913を構えた。

「動くな!!」

 そう言ったとたん彼らの内の一人が叫んでライターを捨て、K7SMGを取り出し香取に向けて乱射した。香取は咄嗟に壁の陰に隠れ壁を盾にした。男達は窓から脱出して行った。ライターの火は幸い消えてから落ち引火はしなかった。ホッとした香取は玄関に向かって駆け出し、玄関のドアを蹴り破った。アクセラとCR-Vは発進したばかりで、グロリアは家の前で香取を待っていた。香取が助手席に乗ったとたんグロリアも発進した。

 アクセラとCR-Vはグリップを効かせながら曲がり、グロリアはドリフトをしながら曲がって二台の後を追う。アクセラの窓が開かれ、再びK7が乱射された。グロリアのフロントに被弾し、グロリアはCR-Vの後ろに着いた。アクセラはそのまま減速しK7の乱射を続けようとした、が、K7は弾詰まりを起こして車内で治しに入った。グロリアはその隙を突いて体当たりをした。路駐されていた車にアクセラが掠ってサイドミラーが両車折れて転がった。アクセラはグロリアを押し戻し、CR-Vのリアバンパーに擦らせた。次第にアクセラはCR-Vを追い抜き、CR-Vから男達が出てきた。

「__?!」

「何をする気?!」

 彼らはアクセラに飛び移り、搭乗者が居なくなったCR-Vはバランスを崩してスピンし、グロリアの行く手を阻んだ。グロリアは避けることが出来ずCR-Vの横にぶつかり、CR-Vは横転してグロリアと共に停まった。そのとたん、となりから車がぶつかってきてグロリアは大破した。エンジンルームからオイルが漏れ、黒煙が上がった。



6



 署に戻り、署内で中国語と韓国語を訳せる署員を連れて来て、録音した音声を訳してもらった。

「『早く見つけろ、“蓝”様に処されてしまう』『わかっている』『俺にわかるように中国語で話せ』『何だって?』『警察だ、逃げろ』…以上です」

「ありがとうございます…」

 香取はコーヒーを飲んで惠珊の様子を眺めている晓燕に歩み寄った。

「“蓝”。知ってるか?」

「…えぇ。同業者で、私の双子の姉…」

「っ__!」

「ここを出て話をしましょう…」

 香取と小美川と晓燕はオフィスを出て、無人の会議室に入って腰を落ち着かせた。

「…昔から競争心がお互い強くて、私は常に姉の上に居ました。当然姉は気に入らず、人を雇って私を襲って来ました。私が加担している組織の人達は守ってくれると約束していましたが、その中の数人が姉にもっと高い金で雇われていて、多くの仲間が犠牲になりました…惠珊の身も危うく感じて、私達は家に篭って偽の金券を作りました。きっと姉も同じ物を作っていて、私がより細かいところまで再現していたせいか私の方が売れたから、邪魔だと感じていたんでしょうね…もう、姉妹やライバルの関係じゃない…」

「……。」

「生まれた頃から親に偽装の腕を姉妹共々教え込まれて、何度か逮捕されて…十年前、独りで上陸して、日本人の男性と結婚して、惠珊を産んだ…でも私がこんな仕事をしているせいで、惠珊を学校に行かせてあげられず、夫は姉の回し者に殺された…もう、こんな生活、あの子にさせたくない…

刑事さん、姉さん達を逮捕したら、惠珊をお願いします!」

「お願いしますって…?」

「姉さん達が逮捕されたら、私は足を洗って刑務所に行き、惠珊との縁を切ります!」

「ち、ちょっと待ってくださいよ!親子との縁はそう簡単には切れませんよ?!」

「わかってる!!でもせめて、あの子が私を忘れるほどの明るい人生を歩んでほしいんです!私のように、何十年も犯罪を犯してほしくないんです…!ようやくチャンスが来たんです!」

「…わかった。俺は無理だが信用できる奴が居る。お姉さんの逮捕無関係で送っておく」

「…ありがとう…!」

「さて…お姉さんの逮捕はどうしようか…」

「そのことなんですが…」

「?」



7



 翌日の昼。

「出来た!」

「おめでとうございます!」「よくできてるー!」

 小美川と若い婦警達がはしゃいでいると、香取が晓燕を連れて小美川の肩を軽く叩く。

「出るぞ。銃は持っていった方がいい」

「分かった!」

 支度を済ませて三人はクラウンでとある場所に向かった。

 一旦晓燕の家に寄り道してから数時間後の九時頃。郊外にある工事現場で偽のクレジットカード等の取引がある。交換するのは偽のクレジットカードで頂いた商品の換金したお金だ。すべてではなく半分を頂く。その方がお互い利益が出るからだ。

 現場にはクレジットカードに付いていた指紋の持ち主である三人の中国人達と例の十人の仲間が居るらしい。彼らは味方だ。

 取引の相手は蓝の直近の組織で、言いくるめるか捕まえて聞き出すかすれば蓝の居場所が分かるかもしれないとのことだ。

「クレジットカードは毎月番号を変えるの。今日は二十八日…」

「仲間に俺らが警察だってことはバラした方が楽か?」

「楽だけど、バラして逃げられたら元も子もないわ。彼も逮捕するんでしょ?」

「いや、二人しか居ないから取引相手優先にしようかと…」

「あらそう。ま、こっちで上手く話しておくわ」

 そして、郊外にあるビルの工事現場に着き、三人は降車し晓燕はトランクに入れていたブリーフケースを持ちながら、56式歩槍やトカレフを持っている李等のアジア人やアフリカ人達計十三人に歩み寄った。本人が言っていた通りうまく話をまとめてしばらくすると、白い高級セダン車と数台のSUV車が工事現場内に入って来て、男達が降車した。白いスーツを着たボスと思わしき小太りの男がケースを持っている一人の男を連れて晓燕達に歩み寄った。


 そのとたん、ドラム缶の山から一人の男がH&KXM8を持って現れ、皆に向けて乱射した。

「晓燕!!!あ゛ぁ゛ぁッ!!!」

 李は晓燕の盾に自らなって弾幕を浴びた。

「李?!!」

「くそッ!!!」

 香取は晓燕を抱いてクラウンと李達の車に隠れた。小美川もクラウンに隠れる。一瞬で味方の十三人と前に出ていた取引相手の人達が撃ち殺された。取引相手のボスと思わしき男の白いスーツが真っ赤に染まっている。彼の部下達が拳銃やライフルで応戦しているが、次々と敵が現れすぐに撃ち殺されていく。

 徐々にクラウンが蜂の巣になっていく。

「あいつら一体何だ?!!」

 晓燕は敵の言葉が中国語だとわかり耳を傾ける。

「っ…『裏切り者め』って…!!」

「裏切り者…そうか、蓝の直近の傘下の組織のくせにアンタの作ったカードを貰っていたからあっちのボスがキレたんだろ」

「何でわざわざそんなことを?!!」

「知らねぇよ!!一人でも生き残って吐いてもらう!!」

「香取はSUVに隠れている男に向かって晓燕を連れて走り出し、SUVに隠れた。

「こんな時になんだが、アンタらは何で晓燕からカードを貰っていた?蓝もカードを作っているんだろ?」

「そんなこと話してる場合か!!」

「OKわかった。じゃ後でな」と香取は彼の項にひっそりと押収品保管室から持ってきていたスタンガンを当てて気絶させた。

「小美川、こいつ頼む」

「わ、わかった!!」

 香取はスタンガンを仕舞い気絶した男のM92FSを手に取って敵側の方に向かって駆け出した。後ろから晓燕がついてくる。二人に向かって銃を撃ってくる者達にM3913とM92を同時に発砲した。倒れた一人からM92と95式自動歩槍を交換し次に進んだ。

 建設中のビルの二階に行き敵達を始末し三階に行った。すると、女の大声が聞えてきた。

「何て言ってる?」

「『敵はもう三人しか居ない。何を梃子摺っているんだ、早く殺せ』…この声、姉さんよ!!」

「あっちの方から自らやって来てくれたのか…うっし、捕まえっぞ!!」

「えぇ!!」

 晓燕はS&WM10を持って香取の後をついて行った。

 工事用具に身を潜めながら前進していくと、複数人の足音が聞えてきた。香取は工事用具の陰から出て彼らの足に向けて95式を発砲した。

「ま、待って!!」

 晓燕が香取を止め、彼らをよく見た。すると…

「姉さん…!」

 晓燕の姉、蓝に弾が足に当たって倒れていた。彼女の仲間も足を撃たれて倒れている。晓燕は蓝に駆け寄って彼女を抱き上げた。

「姉さん!!姉さん!!」

「晓燕…ッ!!」

「安心して!!今すぐ応急処置を__」

「終わったら私を置いて警察に逮捕させるんでしょ?」

「いいえ…私もついてる__」

「道連れにしようっての?」

「っ…!!」

 雲行きが怪しくなってきた。

「昔からアナタのことが嫌いだった、憎かった…いつも私よりも上に行って、先に結婚して…私はいつもアナタの下をさ迷い続け、クズな連中と毎晩過ごし、幸せな日々なんて来ない…

だからアンタが憎い!!!姉より優れた妹なんて、必要ない!!!」

 蓝は一瞬で懐から取り出したトカレフを晓燕の心臓部に当てて引き金を引いた。晓燕に風穴が開き、血を噴いて倒れた。

「がはぁ…っ!!!」

「晓燕!!?」

 香取は蓝を蹴り飛ばして晓燕を抱き上げた。

そのとたん、蓝の仲間が現れて皆に銃を乱射した。倒れている蓝と仲間にもお構いなしで発砲し、彼女らの身体が穴だらけになっていく。香取はお返しをするように95式を彼らに向けて片手で発砲した。ほとんどの弾が当たり、彼らは倒れた。

 香取は95式を捨て、晓燕を壁に座って寄りかからせた。出血が酷い。

「待ってろ、すぐに__」

「惠、惠珊…!!惠珊…!」彼女は口から大量の血を吐いている。

「おい、しっかりしろ!!おい!!」

「惠珊を…お願い……」

 彼女は息を引き取り、動くことはなかった。香取は彼女の隣に座り、背を撫でた。

「…惠珊を安心して待ってろ…」

 やがて、パトカーや救急車のサイレンが下から聞こえてきた。



8



 取引の相手の組織は蓝と晓燕が対立していると知っておきながら、裏で蓝の傘下から出て陰で晓燕と取引を昔からしていた。蓝が作った物よりも晓燕が作った物の方が良く出来ている上に比較的安かったからだ。

 証言した男は刑務所に送られ、惠珊は西新宿署でとある人物と会っていた。

「香取君、この人は…?」

 香取達の前には一人の男が立っていた。長いブロンドでカールした前髪をし、常に微笑んでいるような顔をしているグレーのスーツを着ている男だ。

「“新田竜助”…むかつくが、信用できる奴だ。福岡で俺が昔配属されていた署の刑事課の男だ。今は警部らしい」

「やれやれ、育てて欲しい子が居るっていうからどんな動物を飼えっていうのかと思ったら、この子がねぇ…」

 竜助は惠珊の頭を撫でてそう言った。

「嫌か?」

「別に。じゃ、この子を立派に育てておくよ、『ジャパニーズリッグスさん』」

「…とっとと行け」

「フンッ…さ、行こうか」

「うん。バイバイ」

 惠珊は香取達に手を振りながら竜助の後をついて行った。外で二人がリーフのレンタカーで空港に向かっていく様子を窓から見送った。



9



 夜。香取と小美川は残って事務作業をしていて、小美川は仕事を終えて帰り支度を済ませた。だがすぐには帰らず、もじもじとしながら香取に歩み寄った。

「あの…これ…」

「?」

 小美川はポケットから出した物を香取に渡した。緑色のお守りだ。

「お守り…?」

「よく寝れるようにって願いを込めて、ね…安眠向けのお守り売ってなくて、自作したの…私あんまり手芸得意じゃないから出来が悪いかもだし、効果は無いかもしれないけど…」

「…ま、一応持っておく。ありがとう…」

「…えぇ。じゃ、さよなら。おやすみなさい」

「あぁ…」

 小美川はオフィスを出て行き、香取は一人オフィスに残りお守りを眺めた。

(こういう物って、効果無いんだよなぁ…)

 そう思いながら、お守りをズボンのポケットに入れて仕事に戻った。

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