表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駆ける刑事前線  作者: 内村
駆ける刑事前線
6/15

6話「男の過去と走りの極致」

香取さんの過去が明らかになります。

あと私は巨乳よりも貧乳や微乳、美乳の方が好きです。

1



 目を開けると、香取の目の前には、椅子に縛って座らせられ、両手をガムテープで縛られ、口もガムテープで塞がれている彩香の姿があった、

「彩香…?!」

「残念だったねー君も」

 一人の男が、怯えて震え大泣きしている彩香の後頭部にS&WM629の銃身をペチペチと当てている。

「こんなに可愛いのにこんな男の恋人になっちゃってさー。今頃もっといい男と楽しく過ごしていただろうに…」

「おい、何する気だ?!!」

「何って、君潜入捜査官なんでしょ?」

「__?!!」

「散々俺達の計画を掻き乱しやがって。これはお前が受けるハズだった罰だ」そう言って男はM629の激鉄を起こして銃口を彼女の頭に当てた。

「お、おい待て!!!!その子は関係ない!!!!」

「関係なくは無いよ。さ、恨むなら君の彼氏を恨んでねー」

「っ~~!!!っ~~~!!!」


「やめろオオオオオォォォォ!!!!!!」


「あああああああああああ!!!!!」

 香取は起き上がって壁を殴り頭突き窓に駆け寄って叩き割った。近隣の人の苦情が聞えてきて、香取は深呼吸をした。

「…もう…もうやめてくれ…!!これ以上…思い出させないでくれ…!!」

 香取はガラスの散らばった自室で倒れ、顔を両手で押さえて大泣きし始めた。



2



 ある日の夕方。香取と小美川と好雄、そして俊介と他警ら課の数名は交通課のオフィスに呼ばれて集まっていた。交通課のオフィスにはすでに立川刑事課長、正孝係長、そして”高沢”交通課長が居た。

「何ですか、私達刑事課や警ら課が交通課の協力要請に応じるなんて…」

「仕方ないだろう。これは都内の交通課だけじゃ人手が足りないの」

 そして高沢交通課長が前に出た。

「手短に済ませよう。

近頃、高速道路での暴走車両が一気に増えてきた。その原因は、関西からやって来た”ユース・ウィー”という珍走団が進行してきたことが原因だった」

「珍走団って何?」「公道で走り屋気取って住民に迷惑かけてるバカ野郎達のことだよ」「うわぁ…」

「彼らにコースレコードを塗り替えられたくない都内の組織が彼らと対立している。このままでは大惨事が起こる可能性が非常に高い。だが都内の交通課の者達だけでは手に負えないほどの運転技術を手にしている。白バイ隊員も数が足りない。そこで君達に応援を要請した。引き受けてくれるかね?」

 香取や小美川達は「はい」と返事をした。


 夜。香取と小美川はL33ティアナで、好雄はV37スカイラインで、俊介はノートe-POWERニスモの白黒パトカーで高速道路のサービスエリアで待機していた。

《連中の車両と思わしき物を見つけたら順次報告する。以上》

「了解」

 香取は無線機を置いて、息を吐いた。心なしか彼の隈が濃くなっている気がする。

「…ねぇ香取君」

「あ?」

「そろそろ、教えてくれない?昔のこと…」

「……。」

「…やっぱりいいや。話したくな__」

「巡査部長になってしばらくして、俺は任務を任された。“葛城信彦”って男の懐に潜入しろってな」

「__!!」

「任務は順調だった。だがある日、三人の親子を殺せと命じられた。葛城に恩を返す立場のクセに仇で返したって理由でな。俺は槍を持たされて、奴に冷たい目で見られながらそいつらを殺ろうとした。だがすぐには殺せなかった…

それが原因なのか、奴らは俺を怪しんで、徹底的に身辺調査をし始めた。

そして潜入捜査官であることがバレ、身辺調査も進んでいて、そして……高校の時から付き合っていた彩香って女の子を見せしめに殺された。俺を殺すよりも、その方が俺に心のダメージを与えやすかったからな。俺は怒り狂って、奴を殺そうとした。だが全く身動きがとれず、殺せなかった。直後に仲間が助けに来て、奴は逃げ出した。

それから毎日寝ると悪夢を見るようになった。あの時殺した親子が、俺に助けてって懇願して攻め寄ってくる夢や、助けてあげられなかったことを悲しんで殺しに来る彩香…そして彩香が殺される瞬間…寝て見ないことは一切ない…」

「…ごめんなさい、嫌なことを…」

「いいさ。どうせいつかは語ろうと思ってた。それに、言って解決するワケじゃないんだろうしさ」

「……。」

 すると、

《コチラ西新100号、暴走車両を発見。車種はS2000》という俊介の声が聞こえてきた。

「了解。

ほら、気を取り直していくぞ」

「…うん」

 香取はティアナを発車させ、その後ろを好雄のスカイラインがついてきた。


 S2000を追っているのは俊介が運転しているノートだ。見た目は普通のe-POWER仕様のノートだが、特別にニスモのフルチューンが備えられている。ノートはすぐにS2000に追いつき、合流したティアナをS2000の前に行かせてS2000をゆっくりと路肩に止めさせた。S2000のデカく黒いウィングにはユース・ウィーのステッカーが貼られている。好雄のスカイラインは三台を通り過ぎて別のところに向かった。

 俊介はノートを降りてS2000の運転席に駆けよった。窓が開けられ、中から赤いラインの入った黒いライダースーツを着ている髪の長い女性が顔を出した。かなりの美人で、スタイルも超良い。胸もデカい。

「な~にぃ~?」

「スピード違反です。免許証を出して」

 すると無線機に通信が入った。

《コチラ西新105、競い合っているスカイラインGT-RとRX-7を追跡中!!》《芝浦450号、五台以上のバイクが暴走中。至急応援求む。場所は__》

「おうおう、賑やかになってきたねぇ」



3



 俊介や好雄達は逮捕した者達を署に引き連れて取調室に叩き込んだ。

 俊介にとっては初の取調べだ。

「緊張しますね…取調べって…」

「初めてだからそう思うんだ。とっとと行け」

 自分の言葉にそう冷たく返された俊介は特に気にすることなくライダースーツの女性を座らせた取調室に入った。女性は足を組みながら髪を撫でている。取調室の入り口には、彼の初の取調べを見ようと彼と仲の良い者達と、彼女の抜群なスタイルにそそられて来た男達が見物していた。

「っさて、調書取りますよ__」

「ねぇその前にさぁ~…エアコン点けない?扇風機でも良いからさぁ~…暑くて…」

 そう言って女性はライダースーツのチャックを下ろし始めた。

「ッ__!!?」

 チャックをへその辺りまで下げた。スーツの下にはインナー類を着ておらず、大きな胸がはっきりと見える。俊介の童貞心が揺す振られた。

「っ~~…!で、では扇風機を…」

「ごめんね~」

 俊介は扇風機を取ってこようと取調室を出たとたん、香取にファイルで頭を叩かれた。

「何してんだお前」

「色仕掛けに引っ掛かってんじゃないわよ!」と小美川は軽く俊介の頬をつねった。

「す、すいません…」

 俊介は近くにあった扇風機のコンセントを抜きそれと本体を取調室に置きコンセントを挿してスイッチを入れた。心地よい風が二人に当たる。

「あぁ~気持ちいわ~」

「そうですか、では。

名前は?」

「”佐崎諒子”」

「年齢は?」

「十九歳」

「え__」

「ほんとよ?」

「そ、そうですか…住所は?」

「八王子市越野○○-○」

「ご職業は?」

「八王子で仲間と一緒に板金工よ」

「なぜ高速でスピード違反を?」

「え~と…」

 彼女は前のめりになって考え始め、彼女の胸の谷間が俊介やそそられて来た男達を誘惑する。

「っ~~!!!」

「あのときはね~…つい足に力が入っちゃって、いつの間にかねぇ~」

「そ、そうですか…」

 香取と小美川は俊介やそそられて来た男達を濁った冷ややかな目で見た。

「…男って皆ああいうのが好きなの?」

「俺は色気を散らす女は嫌いだ」

 好雄は黙っている。

(……僕も好みじゃないなぁ)

 すると、正孝が皆に歩み寄って来た。

「ちょっとした朗報があるよ」

「何ですか?」

「あの女性、どうやらユース・ウィーの”リーダー”らしい」

「え__?!!」

「リーダーがあんな若造にアッサリ…」

「どこからそんな情報が?」

「好雄君が捕まえた仲間が吐いた。彼女を当分留置場に入れておいて」

「はい」

 正孝は課長達に向かって歩き出した。

 香取はノックをして取調室に入った。

「どうしたんですか?」

「その女がユースのリーダーだそうだ」

「__?!!!」

「その人の言ってることは本当よ」

「…え、じゃぁどうすれば…」

「俺が留置場に連れて行く。佐崎さん、弁護士呼びますか?」そう言って香取は諒子の腕を掴んで無理矢理彼女を立たせた。

「乱暴しないでよ!」

「うっせぇ。どうすんだ?」

「…ねぇ、ちょっとトイレに__」

「ダメだ。どうすんだ?」

「…別に弁護士は呼ばないわ。そんな金ないし」

「んじゃ、とっとと来い」

 香取は彼女を引っ張って留置場に向かった。諒子は股を押さえている俊介に手を振って笑顔を見せた。

「可愛くて楽しかったわ。ありがとっ」

「は、はぁ…可愛い?」

 好雄は俊介の背中をポンポンと叩いた。

「ち、ちょっと!せめてチャックくらい上げさせてよ__きゃっ!!」

 四階にある留置場に入り、香取は彼女を一室に押し倒し、一室の鍵を閉めた。

「…ごゆっくり。

んじゃ、監視頼むわ」と香取は近くに居た監視員の一人に声をかけた。眼鏡を掛けた堅物風な男で手には木刀を持っている。彼は諒子が入れられた一室の近くにある椅子に座った。

「ねぇ、監視つけるんだったらさっきの子にしてよ!」

「何でもかんでも思い通りにいくと思うなよ?」

 香取は留置場を出て行った。

「む~~っ…」

 香取は正孝のもとに戻った。

「んで、リーダーって吐いた奴は?」

「交通課の取調室に居るよ」

「じゃぁ後はそっちに任せるかぁ…」

「あとは敵対している暴走族の検挙も」

「あ~~そういやそうだった…相手のリーダーが逮捕されたら調子に乗ってより一層暴れ回るか…」


 その後、諒子の仲間や敵対している族の者達は全く現れなかった。実際には居たのだろうが、普通の服装に扮して安全運転をする者ばかりだったのだろう。

「もうリーダーの逮捕が連中に知れ渡ったのか…」

「かもね…」

 小美川は香取と共に署に戻り、二人とも帰る支度をした。好雄は既に帰っていて正孝が宿直で残っている。

「お疲れ様でーす」「うーす」

「おつかれー。結局現れなかった?」

「えぇ。リーダーが逮捕されて皆警戒してるかもです」

「ひょっとしたら連中、この署に忍び込んであの女を助ける準備をしてるのかもよ」

「まっさかぁ~…

それじゃ、お先に失礼しまーす」「まーす」

「うん、さようなら」

 二人はオフィスを出て行った。

 地下駐車場に行くと、ホイールが派手で目立つアリストが停めてあった。

「…内の署で今まであんな派手な車乗ってる奴居たか?」

「乗り換えたばっかりなんじゃない?じゃ、さよなら」

「…さよなら」

 香取は小美川と別れ、アリストに疑心を抱きながらノートに乗って発車させた。



4



 翌日の朝。地下駐車場に香取はノートを停めて署に入ろうとした。

 すると、あのアリストがやって来て、前から駐車された。二人の若々しい男が降りた。二人ともヤンチャながら真面目っぽくも感じる容姿だ。彼らは香取に挨拶をしてから署に入っていった。

 香取は刑事課のオフィスに行った。正孝がデスクの上で寝ていて他の皆は出来る限り静かに行動している。香取も静かな行動を心がけ、鞄を自分のデスクに置き、タバコを咥えてライターの火を点けた。

 すると、先ほどの男の一人が制服に着替えて留置場に向かっていた。

「…?」

 香取は火の点いていないタバコを咥えながら彼の後を追った。

だが階段で見失った。

「…早とちりかな__」


 そのとたん、上の階で何かが落ちた音がした。固い物というよりも、人の様な__。

 香取は階段を駆け上がりながらM3913を取り出し、取調室の前まで来て、取調室に歩み寄り、ゆっくり静かに扉を開けた。

 そこには、気絶して伸びた監視員達と、諒子が入れられている一室を鍵で開けようとしている制服を着たあの男が居た。監視員を気絶させて鍵を奪い取ったのだろう。その行いからして、彼の正体は、諒子の仲間__。

 男は香取に気づきS&WM36を取り出して香取に発砲した。香取は「やべッ」と声を上げて急いで扉を閉めた。一発だけ弾が廊下に出て、香取の咥えているタバコの先端を掠った。他の弾は扉に直撃し、当たった部分の廊下側が少し飛び出た。

 香取は扉の前に立ってM3913を構え、ドアノブを緩めた。そのとたん中に居た二人は扉を一斉に蹴り飛ばした。扉は香取を弾き飛ばし壁に激突させた。諒子は「ごめんなさいね~」と言ってプークスクスと笑ってから男と共に階段を降りていった。香取は立ち上がって二人の後を追い始めた。

 下の階を走っていると彼女は俊介を見つけた。

「あれ?!!留置場に居たんじゃ?!!」

「おはよっ」と彼女は俊介に両手で投げキッスをして彼の前を通り、しばらくすると香取も通り過ぎた。

「へ?え?__グエッ!?」

 すると、交通課のオフィスから制服を着ていたもう一人の男と昨日諒子がリーダーだと吐いた男が俊介にタックルして飛び出てきて、香取を追い抜き彼女らと合流した。

「くそォッ!!」

 彼女らは地下駐車場に行き四人はアリストに乗り込んですぐに発車させて壁から火花を散らしながらバックターンをして発進し、香取を轢いて出口に向かった。スピードが遅く受け身をとったおかげで香取はビクともせず、すぐ近くに停車したY33グロリアの黒い覆面パトカーを借りてアリストの後を追った。

 アリストは突っ込んできた車に足をとられてすぐにグロリアに追いつかれた。

 アリストはグロリアに体当たりをしてきた。アリストのサイドミラーが片方外れ、後ろから来ていた他のパトカーに当たった。

 二台は前を走っている車を避けたがアリストはその車に体当たりをし、ぶつけられた車は驚いて思わずグロリアの方に向かって来た。グロリアは車を受け止めて体制を立て直させた。車はハザードを点けて路肩に停車し、グロリアは落としたペースを戻してアリストに追いつこうとした。

だがグロリアの前に彼女らの仲間と思わしきシボレーブレイザーが現れ、ブレーキを掛けてグロリアの横に着き、体当たりをしてきた。アリストの時よりも大きく弾かれ、対向車線に他のパトカーとぶつかって共に入ってしまいガードレールに衝突し、通りがかりの車達が突っ込んできた。グロリアやパトカー達は大破してグロリアは電話BOXに直撃して止まった。

 ブレイザーは他のパトカーを潰していきながらアリストと共に走り去って行った。



5



 諒子のS2000と、好雄が捕まえた仲間のS14シルビアは取り返されず押収されたままになっている。

「車を取り返しにまた連中が現れるかもしれない。警備を強めよう」と立川課長は皆に命じた。

 香取と小美川はL33ティアナに乗り夜の高速道路へと向かった。

「またあの人達現れるのかしら」

「さぁな。今は走る可能性があるところを走るだけだ」

 すると、小美川のスマホから電話が掛かってきた。相手は好雄だ。

「もしもし?」

《二人とも、今どこに居る?》

「高速に向かってるけど…」

《タレコミがあって…明日の夜、ユース・ウィーと“ウェイプレイボーイ”っていう族が群馬県にある廃工場でレースをするそうだ》

「うぇ…ウェーイ…って?」

「んじゃ、そこに行くか。住所は?」


 翌朝。群馬県のとあるホテルのツインルームに泊まり、朝食を二人で終えてコイン洗車場に行きティアナの洗車と点検をした。

「この車でどうすんの?」

「佐崎諒子やウェーイなんたらの組織を俺以外が苦労せずに逮捕できるための策を考えてる…やっぱFFの上にCVTは“レース”には不向きだよなぁ~…パトカーだし勝手にいじくるのもダメだろうし…」

「え?!!レースするの?!!」

「負けたら連行され、仲間達の助けも呼ばない。そう約束させてからする。二・三回走らせることになるだろうから、丈夫で早い奴が良い」

「…勝てる自信あるの?」

「一応な。十六の頃からサーキットで走ってたからな」

「え…十六って…」

「サーキットなら無免許でも法律上は走ってもいいんだよ。

懐かしいなぁ。ほぼ毎日コネでコースを貸切ってGTS-tを…

……そうか!」

 香取はスマホを取り出して誰かに電話を掛けた。

「もしもし、俺だ。久しぶりだな……あぁ、ちょっと急ぎの用があってな。夜までに来てほしい」


 昼二時。ホテルの駐車場に一台の車を積んだキャリアカーと青いGT-Rがやって来た。

「フフフッ…」と香取は微笑んでいる。

 キャリアカーにはピカピカの紺のR32スカイラインGTS-tが載せられている。キャリアカーは停まり運転手が降りて香取にスキップをしながら寄って来て、彼とハイタッチをした。GT-Rからも男か降りてきて香取に歩み寄った。

「久しぶり!」

「おう。早かったな」

「そりゃ当然!毎日コイツを点検してるからな!すぐに全力を出せるぞコイツは!」

「にしても“孝明”、神奈川で刑事やってるんだろ?何で来た?」

「皆が暴走族の取り締まりをしてる中俺は休暇なんでね。だからといって暇だから、“相棒”の言う通り署に顔を出そうかと思ってたんだけどな…久しぶりにお前の顔を拝めて光栄だよ。ただ、随分と体調悪そうだなお前…」

「ま…色々ワケあってな…」

「あの…この人達誰ですか?」置き去りにされていた小美川が言った。

「おぉ、身長が少し縮んで髪を束ねた“優衣“みてぇな女が居るぞ…」

「アイツは東京での同僚の小美川ってヤツだ」

「東京?」

「詳しいことは後でゆっくり話す。

さて、この車を持ってきた奴は“真田義嗣”っつってな、高校卒業後どっかの自動車大学に入学したメカニックの卵だ。

この神奈川の刑事は“須藤孝明”。高校出てすぐに俺と一緒に警察学校に入って横浜の中央警察署に配属された」

「…アナタと同じ理由で送られたの?」

「いや、普通に配属された。

皆福岡育ちで、昔はこの三人でD1出場を夢見てたんだ」

「俺はまだ諦めてないぞ!お前らが何で刑事になったかは知らんが、俺は…俺はァァッ!!」

「あぁわかったわかった、とりあえず落ち着け…

さて義嗣、“あれ”積んだか?」

「もちよ!今車を降ろすぞ!」

 キャリアカーからGTSが降ろされた。GTSのボンネットとリアウィングはカーボンで、車高が低く、ホイールはSSRプロフェッサーMS1を履いている。中身は駆動方式以外ニスモのBNR32の物で、耐えられるようにボディを強化してある。エンジンをかけると、野太い排気音が噴出した。

「…これなら勝てる」

 そう言いながら香取は“あれ”のタンクを擦った。



6



 夜八時三十分。渋川市の山に隠れていたような廃工場にチューニングカーが揃っていた。スポーツカーだけでなくコンパクトカーや軽自動車、トラックもデコレーションされて停まっている。工場内では格下達のレースを行っていた。チェイサーとあのアリストが工場内を駆け巡っていて、やがてチェイサーがスピンしてギャラリー達の車にぶつかって大破した。

 諒子はグレーのFC3Sで来ていた。ライダースーツではなく背中に十字架の刺繍が施されているレザージャケットを着ていて、下には白いTシャツを着ている。胸が大きいせいかへそが見える程シャツが上がっている。

「諒子」と一人の男が歩み寄って来た。長めの茶色い髪をしていてサングラスを掛けている。

「何?」

「変な客が来てる」

 彼が指差す方向には、香取達とGTS、GT-R、ティアナがいた。

「__!!」

 香取は彼女に歩み寄った。

「逮捕しに来た…ってワケじゃなさそうね、あの車じゃ…」

「まぁ、半分合ってる」

「半分?」

「レースをしよう。俺が勝ったら、アンタは連行、他の連中はアンタを助けないようにし、レースや暴走行為は今後サーキットだけで走ってもらう」

「負けたら?」

「俺のGTSをやるし、見逃してやる」

「いらないわよ、あんな時代遅れのセダンなんか。私のS2000を返しなさい」

「その車も時代遅れだと思うが…」

「なんとでも言いなさい。これは私のじゃなくてこの男の車だから。

だいたい、私は他の奴とやる予定があるの」

「俺もそいつと勝負する。公平だと思わねぇか?」

「…わかったわ。

“準”、予定の変更を伝えて」

 そういうとFCの持ち主である準はどこかへ走って行った。


 例の敵対チームにも行った。準がそのチームのリーダーと話しており、リーダーが香取に気づいた。名前は“池崎ルーク”といって、スキンヘッドのチャラい男で、車はエボⅧだ。

「アァン?!!テメェとオルェがレースゥ?!!ナメてんのかワルェ!!!」

「(聞き取りずれぇ…)そうだ。諒子とせず、俺とな。お前が負けたらお前は連行、他の連中はアンタを助けないようにし、レースや暴走行為は今後サーキットだけで走ってもらう」

「いいじゃねぇかオルァァッ!!!ヤッタルォゥゼ!!!あんな一世紀前のオンボロぶっ潰したルァァァッ!!!」



7



 最初の相手は池崎だ。エボⅧはGTSと共に低く野太い轟音を出してセンターラインに着いた。彼は窓越しで香取に中指を立てた。二台とも空ぶかしをしていると、二台の間に旗を持った肌の露出が多い女が立った。

「二人とも準備はいい?」

 OKという合図の如く二台は盛大に噴かした。

「レディッ、セットッ、ゴォォォッ!!!」

 この言葉が言い終わって旗が振って降ろされたとたん二台は激しいスキール音と共に後輪タイヤから白煙を撒き散らして急発進した。

 工場内に入り機械を避けながら進んでいるとカーブを示すパイロンが見えた。最初のコーナーだ。加速に有利な4WDが先手を取りフットブレーキをかけて曲がって行った。GTSは軽くサイドブレーキを引いてリアを滑らせながら曲がって行った。

 錆び付いたフォークリフトが大量に置かれている場所に出るとまたパイロンが並べられていた。配置を見るにヘアピンカーブだ。二台ともサイドを思いっきり引いて曲がり、コーナーに入ると半分戻してペダルを踏み込み猛加速した。曲がった先には短い直線と緩い上り坂のコーナーで、二台とも滑りながら登って行った。

 体勢を立て直すと、前には積まれたダンボールが置かれており、通路は一本だけだ。二台は並走していて、このままブレーキを踏んでもGTSがダンボールに突っ込む。ダンボールの先には何があるのかわからない。GTSはシフドダウンしてダンボールの山を突き破り、すぐさま通路側に入り込んだ。潰れたダンボールから埃や砂が舞ってGTSを汚していく。ダンボールの先にはカートの山と固定されている壊れた機械があった。速度を落とさず曲がらなかったら衝突していただろう。

 二台はまた上り坂のコーナーに着いて二台とも白煙を通路に充満させた。

 コーナーを出ると、数百メートルある直線の通路に入った。キャリアカーやカートが横行するための通路だ。そこでまた並走し、GTSはエボⅧを抜いた。まだ例の物は使っていない。

「くそっ!!!オルェの車は4駆だぞ?!!あんな8.90年のポンコツFRに加速で負けるゥ?!!リケェできねぇんだヨォッ!!!」

 エボⅧはより一層加速しGTSを抜き返して距離を広めた。

「シャァアッ!!!」

だが、GTSは急に意図的に減速した。

「前を見てから考えようぜそういうのは…」

 直線通路を出た先には半ばキツめの下りのコーナーがあった。

「しまったァ…ッ!!」

 池崎はブレーキを思いっきり踏みこんでハンドルを切った。どんどん膨らんでいき、低速でコーナーに侵入したGTSにインから抜かれてしまった。

「っソォ?!!」

 GTSはエボⅧを置いていく様に一気に突き放した。下り坂のおかげで加速力が増している。

「なっ…なァァァァァァァッ?!!」

 エボⅧはまた猛加速してGTSに追いついた。

「フヘッ…ッヘヘヘヘヘぇ…!!!このまま負けて恥さらしになるくれぇなら、ダブルクラッシュに見せかけ、あの隈野郎を殉職させてやラアアァァァッ!!!」

 エボⅧはGTSの真横に着き、体当たりをしようと思いっきり曲がった。

が、GTSは一気に加速して曲がり、エボⅧはGTSに当てられず壁に激突した。消火栓とブレーカーにフロントが直撃してつっかえ、エボⅧの後輪が浮きその勢いでリアフェンダーとリアバンパーが壁に当たり外れた。エボⅧはエンジンルームから煙を上げ始めて停車した。


 池崎は軽症で済み、エボⅧは義嗣のキャリアカーに載せられた。負けたと自覚した池崎はすっかり萎え、会ったときの勢いや覇気が全く感じられない。彼は黙って両手を香取達に差し出した。

「いさぎいいじゃねぇか…小美川、手錠掛けてやれ」

「はいはい…」

 小美川は池崎に手錠を掛け、ティアナの後部座席に乗せた。義嗣は彼に声をかけた。

「安心しろ。出所したらすぐにあのエボに乗れるようにしとくから」

「あぁ…よろしく頼む…」



8



 GTSの横に、諒子の運転するFC3Sが着いた。ピンの付いたカーボンボンネットの他に雨宮のエアロを装着し、ホイールも雨宮、中身も雨宮フルチューンだ。

 GTSに積まれているR32GT-Rの直列6気筒4バルブDOHCエンジンとFCの13B-T型ロータリーエンジンの激しい音が辺りに響き渡り、ギャラリー達を沸かせた。

 エボⅧの時とは別の女が二台の間に立った。金髪のギャルっぽい女だ。

「さぁ諒子!!負けて刑務所に行く覚悟は出来た?」

「余計なこと言うな」

「おまわりさん!!諒子を逮捕できずにクビにされる覚悟は出来た?」

「うっせぇ」

 二台は怒りの意を表す様に大いに噴かした。

「レディ、セッツ、ゴォォッ!!!」

 旗が振り落とされ、二台はスタートラインから飛び出した。先行を取ったのはGTSだ。

「嫌な予感するな…」

「フフフ…ッ」

 ルートはエボⅧのときと同じ。二台は工場内に入りまずは二台ともサイドを軽く引いて滑りながら曲がって行った。GTSのリアバンパーにFCのフロントバンパー時々擦れ合う。それほど二台の間隔が狭いまま体勢を立て直し、あのフォークリフトが置かれているエリアに来た。FCがGTSのリアフェンダーに着く。

(雨宮フルチューンのFCとほぼ互角…ただのGTSじゃないわね。エンジン音も、GT-Rだった…

ま、私には大して関係ないけど。はぁ~、私のS2000だったらとっくに前やミラーから消えてるのに…)

 そして二台は次のヘアピンに差し掛かって、ドリフトをし登っていく。

(う~ん、長いは無用だからね~…)

 すると、FCはアウトに入り込み、コーナーを出たとたんGTSと並走し始めた。

(おい?!!こっから先はカーブだぞ?!!)

 GTSは曲がりやすく、FCとぶつからないために減速したが、FCは更に加速してグリップを駆使してGTSの前に出た。

「ッ…!」

 そして三階。ダンボールは撤去されており、GTSは自然とFCの後ろに着き細い通路を駆け抜けた。

(この先にあるやけに長い直線で反撃だ…出番だぞ…)

 FCとの距離が広がる中次のコーナーを滑り終え、

香取は例の物、“ニトロ”の栓を緩め、ステアリングにある赤いボタンを押した。一気に加速したGTSはFCの横に着き追い抜いた。

「その加速…ッ?!だったら!」

 諒子はインパネにあるスティック状のボタンを上げてその真下にある青いボタンを押し猛加速した。

 二台ともマフラーから青い炎を噴きながら下りのコーナーに向かい、目一杯ブレーキを踏んでコーナーに攻め込んだ。

 ゴールまで一.五キロ。先ほどエボⅧが来れなかった連続ヘアピンを完走し、一キロの直線に出た。ここからまた二台はニトロを発射させた。


 すると、GTSのエンジンルームから異音がし、やがて煙を上げた。

「__!!」

 FCからも煙が上がる。

「ウソ…っ?!!」

「耐えろぉ…!!!」

 二人は車体の下から何かが漏れていてもお構いなしにアクセルペダルを踏み込み、ゴールに近づいてく。

GTSのボディが軋み、やがてボンネットのピンが外れた。

ゴールまで数十メートル。

「「届けぇええええええ!!!!」」

 そして二台はほぼ同時にゴールラインを突破した。先に越えたのは、

GTSだった。



「姉御…」「姉様…!」「諒子…」

 彼女の仲間達が彼女が連行されていく姿を見送っていた。

「すぐ戻ってくるわよ。それまで、皆サーキットで腕を磨いてなさいよ♪」とウィンクを向けた。

「「「あ…諒子様ーー!!!」」」

 諒子はティアナに乗り、小美川はエンジンをかけた。

 一方で香取は義嗣と孝明と話している。

「え?!!GTSを潰す?!!」

「もう直せなかったらの話しだ。走れるなら直しといてくれや」

「…おう」

「じゃあな」

 すると、孝明のスマホに電話が掛かってきた。

「もしもし?…”條輔”か…あぁ、今群馬で例の暴走族の逮捕を見守ってた…あぁ、無事解決だ。さっさと帰れよ。じゃぁ明日会おう。じゃあな…おう」

 孝明はスマホを仕舞って香取に向き直った。

「じゃ、仕事が仕事だ。お互い気をつけよう」

「お前も、その隈どうにかしたらどうだ?」

「…したくてもできないんだ」

「…ワケありか。すまん。ま、悩み事があったらいつでも言え。力になる」

「…ありがとう」

「じゃあな」

「あぁ」

 義嗣はGTSやエボⅧ、FC、チェイサーを積んだキャリアカーに乗り、孝明はGT-Rに乗り込んだ。香取はティアナの助手席に乗りシートベルトを締めた。

「んじゃ、帰りますか」

「えぇ」

 小美川はティアナを発進させ、東京方面に向かった。



9



 西新宿署に帰ってきた。交通課に二人を任せてしばらく経つと、池崎の本名が分かった。本名は“池沼翔太”だったらしい。諒子は嘘偽りなかったようだ。

 香取と小美川は刑事課のオフィスに入り、報告書を書き始めた。

 書き始めてしばらくすると、何故か顔の赤くなった小美川が口を開いた。

「…一人だと、眠れないんだよね?」

「あぁ…それがどうした?」

「……一緒に寝てあげようか?」

「……はぁ?」

「い、いやらしい意味じゃなくてね…っ!その…相棒の悩みを解決するのも、相棒としても役目だし、仮にも私はアナタの監視と指導を頼まれているんだもの!」

「…いい。どうせ報告書や始末書の山を整理しないといけねぇから寝てらんねぇ」

「そ…そうだったねぇ~…」

「気持ちだけ受け取っておくよ」

 小美川は報告書を書き終えて課長のデスクに置いて帰る支度をした。

「じゃ、がんばってね…」

「あぁ…」

 小美川はオフィスを出て、地下駐車場に向かった。香取は一人、オフィスに残った。

半ば潜入捜査みたいなものだった上に運転得意だから香取さん大活躍でしたね~。

孝明さんの活躍はコチラでご覧になれます。黒歴史かもしれませんが。→https://www.pixiv.net/series.php?id=762052

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ