5話「全校生徒を生還せよ」
好雄さんメイン回でございます。ただカーチェイスはありませんし短いし暗いです。
1
「殺れ」
香取は冷たい眼差しを向けてくる男にそう言われた。香取の手には模造ではない本物の槍、目の前には口を塞がれ怯えている一人の男とその妻と息子。
「さぁ、殺れ!!」
「う…うああああああああああああ!!!!」
「ああああああああああ!!!!」
自分のデスクから起き上がり、辺りを見回してから深呼吸をした。香取は宿直をしており、強行犯係どころか刑事課全員が居ない。各係に一人は残っているのだが、皆出払っている。
「…宿直は辛いなぁ…」
2
翌朝。
熊谷家の朝は少し早かった。
「“葵”!!朝だぞ!!」
「分かってるよぉー…」
好雄の妹である小学五年生の葵が私服姿で降りて来た。黒のプリントTシャツを着てパンストの上にホットパンツを履いている。
「またそんな色気出す服着て…小学生らしい格好をしろよ」
「警察なんて仕事してるからそんなに堅くなるんでしょ~。これぐらいまだ良い方だよ、ストッキング履いてるんだから」
「今日は授業参観だろ?他の保護者が見たらどう思う?」
「さぁ」
「…父さんと母さんも怒るよ?」
「別に。だって父さん達だけじゃなくてお姉ちゃんやお兄ちゃんも帰ってこないんでしょ?お姉ちゃんは彼氏と寝泊りしてるし、兄ちゃんはお友達の家で寝泊りしてるし」
「まぁね…
その代わり、僕が授業参観に行くからね」
「はぁっ?!お兄ちゃんが?!」
「父さんに頼まれたからね。仕事がいっぱいあるけど、家族の方を優先させてもらった」
「っもう…別に何も悪いことしたり、虐められたりしてないのに…」
「悪いことをしなくても、虐められてなくても、普段学校でどんなことをしてるのかは、家族なら誰だって思うんだよ」
「ふーん…」
「僕は午後に行くから。元気にやれよ」
「はーい…」
西新宿署。
「好雄が有給休暇?」
「珍しいよねー」
「小学生の妹さんの授業参観だってさ」
「こっちはまだ未解決の事件があるのに…」
「まぁまぁ、家族の絆の方が大事だよ。身近の存在なんだから。彼の分まで今日は頑張ろう」
「うーい」「はーい…」
好雄はティーダで葵を送った。新宿第三小学校という四階建ての古めの学校だ。
学校に着いて葵はすぐに降り、一人の女の子に駆け寄っていった。
「“鈴音”ちゃーんおはよー!!」
「葵ちゃん、おはよう!」
二人は楽しそうに会話をして校舎に入っていった。好雄は彼女のことを知っていた。“猪口鈴音”。葵と同じクラスの子でかなり仲が良い。彼女のことは葵が夕食や車内で語ることが多い。
好雄はその様子を見送ってティーダを自宅に向けて発車させた。
そのティーダの近くに、一台のデリカD:5が停車していた。運転手は鈴音だけを目で追っていた。
3
「…わからんな」
「何が?」
西新宿署で、小美川は悩んで頭を抱えている香取にアイスコーヒーを渡した。
「この間の綾花さんの事件。俺と綾花さんを襲ってきたデミオの男が何者かが分からなくてさ…捕まった犯人は別人だったし、聞けばそんなこと記憶にないだってさ…」
「…もしかしたら、綾花さんじゃなくて、アナタだけを狙った犯行って可能性も…」
「…てことは、この事件とあのデミオの男とは関係が無い…?」
すると、
《警視庁から入電中》
「ったく、またか…」
「行きましょ」
「分かってるよ」
好雄は自宅で家事をこなしていた。風呂場を洗い、洗濯物を取り込み、外に干し、乾いた衣類を畳んで各々のタンスに入れ、キッチンに行ってカレーを作った。それを午前に全て終わらせた。授業参観まで少し時間が有り、ティーダを洗車した。終えた頃には正午になっており、好雄は昼食を取って学校に行く準備をし、ピカピカになったティーダに乗り込んで学校に向かった。
学校に行くと、沢山の車と生徒の保護者が居た。ティーダを駐車場に停めて校舎に入り、五年生の教室がある三階に向かった。丁度五時間目が始まろうとしていて、好雄は葵と鈴音が居る二組に入った。二人とも授業の準備を済ませ席に着いている。
一方外では、あのデリカが校舎の裏に回って停車した。
「『今すぐ金の横領を認めろ。さもないと娘の命は無い』…か…」
株式会社猪口という子会社の社長室で香取はそう書いてある電子メールを読んだ。窓際には社長の”猪口鈴男”が涼しい顔で立っている。
「私は横領などという汚いマネはしません」
「わかってます。ですがこういうメールが来た以上、娘さんの身の安全を守るべく護衛を__」
「必要ありません。こういう悪質なイタズラはよくあることです」
「ですが__」
香取は鈴男に攻め寄っていく小美川の肩を掴んだ。
「もういい、帰ろう。必要ないなら出さないさ。後で本当に娘さんが襲われて後悔しても遅いぞ…」
「フンッ…」
香取と小美川は社長室を出て会社の建物を出て、駐車場に停めていたL33ティアナに乗り込んだ。
「娘さんは確か鈴音ちゃんだったよね?学校は__」
「行くのか?必要無いって言ってただろ?」
「不安なのよ…」
「…新宿第三小学校だったハズだ」
香取はティアナを発車させ例の小学校に向かった。
4
五時間目の授業が終わり、好雄はティーダに忘れ物を取りに行こうと一階に来ていた。一階には誰も居ない。
だが、裏口が開いた。そこから顔をお面で隠した人間が現れた。好雄はすぐに隠れその様子を見続けた。
「猪口鈴音は五年生だ。五年生と六年生は三階だ。二手に別れ、お前らは二階と四階を占拠しろ。私は三階に行く」
「「「「はい」」」」
彼らはそれぞれ行動し階段を登って行った。
(何だあいつら…占領って…?!)
そしてすぐ、
「きゃぁぁあああああああ!!!!」
という女子生徒の悲鳴が聞えてきた。そして悲鳴の数は増えていく。
その中に、聞いたことのある声が聞えてきた。
「いやぁぁあ!!!離して__きゃぁっ!!!」
葵の声だ。
(葵__!?)
葵は連中の一人に捕まり教壇に立たされ、トカレフの銃口を頭に付けられた。生徒や保護者、皆怯えている。
「いいかよく聞け!!!今この学校は俺達“聖なる騎士団”が占領した!!!警察を呼んでも構わないが、生きて家に帰れると思うなァッ!!!」
彼らの何人かは学校の出入り口を机や椅子、棚で塞ぎガムテープで固定した。
(しまった、出られない…!)
西新宿署に電話が掛かってきた。正孝が出る。
「もしもし西新宿…あぁ好雄君。どうしたの?
……えぇ?!!学校が占領された?!!」
好雄は小美川にも電話をした。
「学校が占領?!!何て学校?!!」
《新宿第三小学校だ…》
「そこって…私達が向かってるとこよ!!すぐに着くから待ってて!!」
《急いでくれ、もしかしたら、葵が…妹が人質に取られてるかもしれないんだ…》
「いや、全校生徒と保護者が居るときに占領したんだろ?人質はお前の妹よりも多い…」
「香取君、急いで!!!」
「わかってるァァッ!!!」
香取はアクセル全快でドリフトをして左に曲がった。
5
好雄の武器は何も無い。警察手帳は一応持っているが彼らに見せても意味が無いだろう。鍵で目潰しをするなんてことは彼に勇気が無い。そうなるとやはり…
(あいつらから銃を奪って逆転させてやる…)
好雄はまず一階に一人で居る男の背後に静かに歩み寄って項を突き、頭部を掴んで壁に叩きつけ、背負い投げをした。男は気絶して泡を噴いた。好雄はサイレンサー付きのワルサーP99コンパクトを手に取って腰に仕舞い、次の男に歩み寄った。背負い投げをした時の音で反応したのか、一気に二人がコチラにやって来た。好雄は素早く後ろに回りこみ、一人のももを蹴り飛ばしてもう一人の頭部を掴んで首をへし折り、ももを蹴られて倒れた男の背中を踏みつけて頭部を蹴り飛ばした。
「香取に押されて弱く思われてきたが…接近戦なら俺の方が断然有利なんだぞ…!!」
そう言っても誰も言葉を返さないのは分かっていても、心の中に溜まっている物を吐き出したかったのだろう。好雄は二人のP99コンパクトのマガジンを取りトカレフを手に取って教室に向かった。一階の教室には二年二組にしか連中の仲間は居ない。
教室に入り「皆目を閉じて」と言って教壇に立っている男の足に集中砲火をした。倒れた男に声を発する余裕も与えず顎を蹴り飛ばして気絶させた。
「…皆、静かに裏の出入り口から出て。気づかれないように木陰に隠れて。静かに、しゃべったり走ったりしちゃダメだよ」
好雄は警察手帳を見せてそう言った。生徒達は担任の先生を先頭に外に出て行った。先生と保護者達は裏口を封鎖しているガムテープを破り机やテーブルを除けて扉を開けた。
一階の全校生徒と保護者が外に出たことを確認してから二階に登った。
6
五年二組。震えている葵の頬に、男はトカレフの銃口を擦りつけた。
「や、やめてください…」
「んん~…どうしようかなぁ~…」
「あ、あの…トイレに行っていいですか…?」
彼女は人質に取られたことをすぐに自覚し恐怖で尿を漏らしそうになっていたが何とか我慢していた。だがもう限界みたいだ。
「…よし分かった」
男は仲間の一人を教室に入れ、葵を連れて二階のトイレに連れて行った。
「あの…三階にもトイレが…」
男は無言で二階の女子トイレに入って。個室に入り、
葵を便器に座らせ押し倒した。
「きゃぁ!!?」
「ったく、小学生のくせに男を誘ってる様な服装しやがってこのビッチめ…お望み通り犯してやる…!」
男は発情していた。会った時からずっとこう思っていたのだろう。彼は彼女のTシャツとホットパンツを掴みずらそうとし始めた。
「や、やめて!!!」
「やーだ」
「いや!!誰か…!!誰か助けて__」
男は何者かに首を掴まれ個室を連れ出された。
「__!!?」
好雄は男の顔を思いっきり殴り、膝蹴りをして、背負い投げをして、便器に叩きつけた。
「お…お兄ちゃん…?!」
「葵!!無事か?!」
「お…お兄ちゃん…ふえぇぇぇ!!怖かったよおぉぉっ…!!」と葵は大泣きしながら好雄に抱きついた。好雄は彼女の頭をそっと撫でた。
「もう大丈夫…さ、裏口から避難して…」
「うん…分かった!」
葵は女子トイレを出て、一階に下りていた。好雄も女子トイレを出て、教室に向かった。
7
学校周辺にティアナのパトカーが到着し、香取と小美川は正面入り口が塞がれていることに気づき裏口に回った。コチラは開いている。
「皆さん無事ですか?!」
「はい!!刑事さんが助けに来て…!」
「好雄か…行こう」
「えぇ!」
二人は裏口から校舎に入ろうとした。すると、葵がやって来た。
「あ…お兄ちゃんの仲間…?」
「君は…好雄の妹?」
「はい…襲われそうになったところをさっき助けてくれて…」
「今彼はどこに?」
「二階です」
「わかった、ありがとう!」
二人は二階を出来る限り静かに駆け上がって行った。
二階の教室では、順調に連中を倒していた。二階には三年二組と四年一組に連中が居て、好雄は彼らをP99と己の接近戦で活用できる技術を最大限活用して撃退していた。二階の生徒と保護者、教員の避難も終わらせると、香取と小美川が駆け寄って来た。
「好雄、無事か?」
「あぁ。葵は?」
「さっきすれ違った。安心しろ」
「敵は何人?」
「分からないけど、少なくともあと四人は居る」
「連中はきっと、猪口鈴音って子を狙ってる」
「猪口鈴音…って、葵の友達じゃ…」
「そうなのか…?」
「でも、何で狙う?」
「その子の父親の金の横領を自白させるためだろ。何階に居る?」
「葵と同じクラスだから、五年二組のある三階だ」
「よし行こう」
香取はM3913を持ち、小美川はM37を持ち、好雄はP99を構えて三階に向かった。
男は戻ってこない葵の代わりに、本来の目的である鈴音を教壇に引き連れてトカレフの銃口を頭に当てた。
「ひっ…!!」
「おっと、俺を恨まないでくれよ。恨むなら罪を認めない君のお父さんを恨みな」
「父さんを…?」
「そうさ。自分の会社の金を横領して君やお母さんの生活費に回していたんだよ?それをね、君のお父さんはやってないって言い張ってるワケ」
「そんな…」
「ねぇ、お父さんのこと嫌いになった?こんなに怖い想いをすることになったお父さんを恨みたくなった__」
「それ以上言うな!!」
「__!!」
好雄は教室に飛び入り男の腕を掴み銃を奪い、彼の腕をへし折りながら持ち上げて黒板に叩きつけた。倒れて立ち上がろうとする彼に好雄はP99を向けた。
「それ以上余計なことをしゃべったら撃つ…」
「…わかった、わかったよ…」
男はトカレフを床に置き、両手を挙げて降参した。
好雄の居る教室に他のクラスや四階発せられた銃声が届いてくる。香取と小美川の声は聞えてこず、連中の声が響き渡ってきた。
「鈴音ちゃん、大丈夫?」
「は、はい…アナタは、葵ちゃんの…」
「お兄さんだよ。さ、皆外に出て」
全校生徒と全保護者、教員達は皆無傷で生還し、犯行グループも全員逮捕できた。
葵は鈴音に駆け寄って行った。
「鈴ちゃん、大丈夫だった?!」
「うん、大丈夫…」
「良かったぁ…!」と葵は彼女に抱きついた。鈴音の顔は曇っている。葵に抱きつかれていることではなく、父の話を聞いて心が曇っているのだ。
「……。」
「好雄、俺達は鈴男の元秘書の家に行く。突然解雇されたから何か知ってるかもしれん。来るか?」
「…あぁ」
三人はティアナに乗り込み、鈴男の元秘書の家に向かった。
8
元秘書の家に行くと、黒いクラウンが二台停車していた。ティアナを停めて三人は元秘書の家に入った。そこでは、黒服の男達が玄関を見張っていた。彼らは三人に気づいて歩み寄って来た。
「何だテメェら?」「ここァ取り込み中じゃ、とっとと消えろォ」
三人はそっと警察手帳を見せた。そのとたん男達は怯んで下がった。
「この人達、何かしら…?」
「鈴男の野郎、元秘書に脅し役を回したな…」
「だとすると、その人は本当の事を知っている」
三人は元秘書の家に上がりこんだ。居間に行くと、恐怖で震えている女性とその人を取り囲む四人の黒服の男が居た。
「あァ?!てめぇら何モンだ__」
ドカドカと歩み寄って香取の胸倉を掴もうとした男は香取に腕を掴まれ引っ張られ、壁に叩きつけられた。他の男達も三人に襲いかかるが、好雄が一人の男の足を蹴って転ばせ、もう一人の男の腹に膝蹴りをして跪かせ、最後の一人の首に腕を回しアームロックをかけた。アームロックをかけられた男の顔が青くなりやがて泡を噴き始めた。
「ヤバイ!!それ以上いけない!!」
好雄はアームロックを解き、四人は三人(実質二人)に怯えて見張りをしていた男達と共にクラウンに乗り込んで逃げて行った。
「え…もう帰るの?」
「へたれにも程があるぞ…」
好雄は女性に歩み寄った。
「大丈夫ですか?」
「は、はい…」
彼女の名は“宮越郁恵”三十歳。鈴男の元秘書で、鈴男の金の横領を警察に伝えようとしたところ、それがバレて即クビとなった挙句『しゃべったら家族の命は無い』と脅され、その上常に見張りを付けられるようになってしまった。
「皆さんのおかげで、これを出せるようになりました…」
「そう言って彼女は茶色い封筒を懐から取り出し三人の前に置いた。
「告発文です」
「告発文__?!!」
「はい。これを各報道関係者に送り鈴男の悪行を暴きます」
「…あの、
もう少し、待っていただけますか?」と好雄は彼女に言った。
「…は?」
「お願いします!!我々がもっと詳しく調査を進め、鈴男さん本人から事実を話すよう説得しますから!!お願いします!!」と好雄は深く頭を下げた。
「…わかりました。一週間待ちましょう」
「…ありがとうございます!」
香取は、そんな好雄を冷ややかな目で見ていた。
一度ティアナで学校に送ってもらい、二人は鈴男の元に向かって事件の報告をしに行った。好雄はティーダに乗り込み家に向かった。
家に帰ると、そこには葵だけでなく鈴音も居た。
「鈴音ちゃん、何でここに?」
「ちょっと…父さんのことで…」
「…お父さんはやってないって」
「そうですか…」
「…信用できない?お父さんのこと…」
「はい…会社の社長っていうのは知ってましたけど、小さな会社で、それほど収益も良すぎるわけじゃないって母さんから聞いていたんですが、それにしてはお小遣いが多くて、食事や車も結構奮発していて、それでもあんまり困ってなかったので…」
「…それほど君やお母さんを幸せにしてあげたかったんだとしたら?」
「それでも、私は悪いことをしてまで幸せになんかなりたくありません…」
「…その気持ち、お父さんに伝えられる?」
「自信はありません…」
「…とりあえず、お家に帰ろう。お母さんやお父さんが心配してるかもしれないから…」
「はい…」
夕方。好雄はティーダで鈴音を家に送った。二人は家に入ると、
「鈴音!!」と彼女の両親が駈け寄ってきた。
「お母さん、お父さん!」
鈴音は二人に抱きついた。二人の後ろには、香取と小美川が居た。
「ごめんな!!父さんが悪いことを認めなかったせいで、鈴音に怖い想いをさせて…!!」
「お父さん…私、お父さんが悪いことをしてまで、楽になんかなりたくないよ…だからもうやめて…ね?」
「あぁ…!!ごめんよ!!ごめんよ…!!」
「…鈴男さん、これからどうするんですか?」
彼は鈴音から離れて立ち上がった。
「近い内に、記者会見を開きます…皆さん、私のせいでとんだご迷惑をお掛けしてすいませんでした…」
「いえ、反省しているなら、それで結構です…」
好雄は彼らを香取達に任せ、外に出て郁恵に電話を掛けた。
「宮越さん。鈴男さんが罪を認めて、近い内に会見を開くと…」
《そうですか…わかりました》
郁恵の方から電話が切られた。
鈴男は泣き崩れている。好雄は彼に歩み寄ってしゃがみ、彼の背を擦った。
9
その後、鈴男は記者会見を開き、自分の金の横領の話と元秘書をクビにして告発を止めようと暴力団員を雇って脅しをしていたことを話し、反省の意を示すために辞職することを発表した。しばらく新聞やテレビのニュースで報じられていたが、数週間で炎は収まった。
「鈴音ちゃん、田舎の学校に転校するんだってさ」
「ふ~ん。ま、そりゃ父親があんなことすればねぇ…」
好雄と香取の二人は署内の自動販売機の前でそう立ち話をしていた。
「ま、お父さんも反省してるし、鈴音ちゃんと葵はこれからも仲良く__」
「反省してるからって犯罪者を許すのかアンタは」
香取の冷たいその一言が、好雄の正義感に突き刺さった。
「…え?」
香取は飲み干したスチール缶を捨て、一人オフィスに戻って行った。好雄は重たい空気のその場所で。一人立ち竦んだ。
この話の初期はもっと暗い終わり方だったんですがそれは筆者としてもなんか嫌だなと思って書き直しましたが、やっぱり暗い終わり方になった…orz。
本編中で書いていませんが、好雄には父と母、高校生の妹、中学生の弟、そして小学生の妹(葵)がいます。子沢山ですねぇ~。