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駆ける刑事前線  作者: 内村
駆ける刑事前線
4/15

4話「蒼い協力者と灰色の仕事」

1



 香取はノートのペダルを制限速度ギリギリ維持するように踏んでいた。

「やべぇ…!」

 ショッピングセンターの前にノートを停めると、フリル付きの白いワンピースにジージャンを着ている彩香が歩み寄って来た。

「遅いよもぉ~…」

「ごめんごめん!洗車手伝えって親父が俺の事情気にせずに言ってくるから仕方なくさ…!」

「親離れしようよ?むぅ~…」

「ごめん、その分今日は夜まで遊び尽くそうよ」

「…そうね!」

 彼女はニッコリと香取に向かって笑った。


「会いたい……本物の彩香に…会って、会って…全部を…謝りたい……」

 深夜に近い時間帯、香取は自宅の浴室でシャワーを浴びながらそう呟いていた。叶うことのない願いに悲しんだ末に流れた涙がシャワーの水と共に流れていった。



2



 同じ時刻。正孝と俊介はとある住宅の中で話し合っていた。

「被害者はこの家の家主である”三谷敏夫”47歳。品川区の『フォーフロントカンパニー』という会社で働いているサラリーマンです。近隣住民との交流も多く評判の良い人です」

「皆が知らないところで何かやらかしていたんだろうね…」

 そう言ってしゃがんだ正孝の近くには、背中から包丁で刺された男性の遺体がある。彼の物である眼鏡のフレームが折れてレンズが砕けている。犯人に踏まれたのだろうか。


 十時間後。好雄と小美川は暴れる大男を引きずりながら刑事課のオフィスに入って来た。

「はーなーせーよ!!!」

「うるさいっちゅーの!!」「自分が何をしたか分かってないのかアンタ!!」

 彼はトラックを運転中、検問をしていた警察官のパトカーに向けて中指を立てた後、前を走っていたパトカーに気づかず正面衝突をしてパトカーのフロントを大破させた。

「すーいーまーせーんってばーぁー!!!」

「やかましい」と香取は男の頭を丸めた週刊誌で叩いて弱らせた。好雄一人で引きずられるようになり、好雄は一人で男を引きずりながら取調室に入って行った。

「ありがと…」

「いや…」

 すると、

「小美川君に香取君!」と言って立川と正孝がオフィスに入って来た。

「何ですか?」

「君達にやってもらいたい仕事があるんだ」


 夜十一時頃。三谷敏夫の家のパソコンにとあるメールが届いた。

『一日目、六月二十日に大田区蒲田駅東口に午後四時。

二日目、二十四日、東京タワー大展望台 1Fのカフェに午後一時。

三日目、二十八日、東京湾アクアライン4Fイベントフロア午後十二時』

という不審な内容だった。

「小美川君と香取君には、その場に居た人物の追跡をしてもらいたい。本店と地元の警察官と協力してしてもらう」

「そこに誰か待ってるのかもしれないからですか?」

「事件の報道はされているが被害者の名前は公表されていない。知らない可能性は十分高いからな」

「…で、何で俺らなんですか?」

「二十四時間動けるんでしょ?」

「まぁ…」

「じゃぁ私は…?」小美川は恐る恐る手を挙げて聞いた。

「だって君、香取君の監視と指導を頼まれてるんでしょ?」

「今更って感じですよ…正直この人、私じゃ制御出来ません。上下関係無関係に命令したりいつの間にか別の人と行動したり車から車に飛び移ったり…」

「まぁまぁ、とりあえず二人でやってよ」

「…はぁい…」



3



 六月二十日。大田区蒲田駅東口前。午後三時五十五分。

 小美川と香取はシルフィで来ていた。大田区の警察官や本店の刑事のパトカーも停まっている。

 三谷敏夫に化けた好雄が東口手前に立った。化けているといっても、好雄の面影が強すぎてすぐにバレそうだ。

「あれ、大丈夫なのかしら…?」

「さぁな…」香取は欠伸をした後言った。

 十分後。誰も偽敏夫を見ても立ち止まらない。

「誰も来ないわね…」

 香取からの返事が無い。

「…香取君?」

 香取は何の進展も無いことに退屈したのかいつの間にか眠っていた。

「不眠症じゃ…?」


 すると、

《捜査員を見て立ち止まり歩み寄った女性が居る》

 そう聞いて偽敏夫を見た。知らない女性が彼と話している。蒼いコートに身を包み、ストッキングの上に黒革のホットパンツとロングブーツを履いている。サングラスを掛けていて顔はよく見えないが、顔立ちからして美人そうだ。

《敏夫さんね》

《はい…》

《次の仕事よ》と女性はコートの裏ポケットから封筒を取り出して偽敏夫に渡した。

「あれは何__」


「うあああぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 突然香取は密閉された車内でそう大声を上げた。小美川はビクッとなり耳が鳴り始めた。

「ふぇっ?!!」

「っ~~!!!っ~~!!!」香取は目を見開いて辺りを見回した。

「ど、どうしたの?!」

「っ…何でもありません…」

「何でもないじゃないでしょ今のは?!」

 香取は黙り込んだ。

《じゃあね》と女性はその場を去った。

「……西新502号、女性を追います」小美川は無線機を取ってそう言ってシルフィを発車させた。

《了解》《こちら大田211号、同じく女性を追います》

 小美川は無線機をセットしてシルフィを発車させ、香取は好雄に電話した。

「何を渡された?」

《鍵だ…》

「鍵?」

《あぁ。僕を本物の敏夫と勘違いしたのか渡してきた…あ、メモ用紙も入ってる》

「メモ?」

 シルフィと女性は赤信号で停車した。シルフィの隣には大田区のパトカーであるアコードが停車した。真っ直ぐ進んだときのために居るのだ。

 女性はサングラスを外してコートの胸ポケットに掛けた。小美川とアコードに乗っている刑事は女性をカメラで撮影した。主に顔を。

《新宿区タイムズ高田馬場第21…駐車場か…》

「ってことはつまりそこにその鍵が使える車があるってことだな?」

《多分ね…》

 二台は発車し、シルフィと女性は右に曲がり、アコードは真っ直ぐに進んで行った。

 女性はとある立体駐車場に入り白でセダンの新しいアウディに乗り込んで発車した。


 写真を署に送り何者かを調べてもらった。

《“七海クレア”二十五歳。日系イギリス人で十九の頃日本に移住し大学に入学。しかし未成年でありながら飲酒、それによる運転と軽い公然猥褻で退学。現在無職》

「新車のアウディ乗り回してたんですよ?家が金持ちとか?」

《父親が会社の社長で、彼女が犯罪を犯すまでは結構な額があったそうだが、逮捕後それを聞いた下請け企業や利用者が一気に離れていき倒産してる》

「あれが貧乏人かぁ?」

「しばらく彼女の追跡をした方が良さそう…」

 二人は彼女の後を追ってとある建物の近くに着いていた。港区芝浦にある一軒の白い角ばった新しい家だ。

「豆腐に窓とドアが付いた家みてぇだな…」

「これ新築のハズよね…シェアハウスでもしてるのかしら?」

「…そうみたいだな」

「?」

 黒いSUVのベンツがやって来て、クレアのアウディの隣に駐車され、運転手が降りた。厳つい顔をした高身長で細身の男だ。黒のブレザーを羽織っていて手には茶色い革のトランクを持っている。

 小美川は男の写真を撮った。男はドアノブに手を触れようとした。


そのとたんこちらを向いて凝視し始めた。

「__!!」「おぅ…!」

 香取は急いで地図を開いて小美川に見せた。

「え、ちょ、何?!」

「合わせろ!!」

 その言葉の意味が分かり、小美川は地図に指で線を沿っているフリをし、香取はあわてた様な表情を作って当たりを見回すフリをした。

 男は家の中に入っていった。

「…ふぅ…」

「こりゃ離れた方が良さそうだ…」


 一方で、好雄と正孝はV37スカイラインで例の駐車場に来ていた。そこには黒のレガシィB4が停車してあった。MTでドノーマルのようだが、鍵を開けて中を調べてみると、シフトレバーの下にボタンがありそれを押すと、番号を入力するためのモニターがカーナビに表示された。

「暗号か…?」

 メモ用紙の裏を見ると四桁の数字が書かれており、その四桁をモニターに打ち込んでENTERを押すと、エンジンが掛かった。

「うおぉ…!トラ○スポーターみたいだ…!」

 サンバイザーを開けると、駐車券と新たなメモ用紙が挟んであった。

 好雄はB4を発車させ正孝はV37で後を追って署に向かった。


 署に行くと、小美川と香取が戻って来ていた。

「何で二人とも居るの?」

「七海クレアの家の同居者に見られ怪しまれた…だからマズいと思って帰ってきた…」

「そっちは何があったの?」

「黒い車だったよ。トラ○スポーターみたいに番号を入力してエンジンを掛けれる」

「おー」

「車内をもっと調べた?」

「あぁ。サンバイザーにこれが…」そう言って好雄はポケットから一枚のメモ用紙を取り出して二人と正孝に見せた。

『大成銀行新宿支店にて、六月二十三日午前九時に三人を送迎』と書かれている。

「銀行で送迎…本当にトラ○スポーターみたいなことされるんじゃねぇか?」

「え~…俺そんなに運転上手くないぞ…?」

「じゃあ当日は俺が扮装していく」

「でも、香取君がこの役を担ったら…私達、香取君を追うことに…?」

「そうなるな」

「もしかしたら、ジェ○ソン・ステ○サムを相手にするみたいなことになるんじゃ…」

「…ま、殺しはしないから安心しろ」



5



 六月二十三日午前八時五十七分、大成銀行新宿支店。

 三谷敏夫に扮装した香取はB4でその店の前に停車させた。付近にはJ31ティアナ、F50シーマ、そして修理が終わったレジェンドの覆面パトカーが待機している。レジェンドには好雄、ティアナには小美川、シーマには正孝が運転席に座っている。

「三谷敏夫はきっと、こういう仕事だから顔を憶えられたくなかったり、知ってると困ることを知られた悪人達に殺されたんだろうな」

《あの女性は雇い主ってことね…》

「いや、ただの遣いかもしれない」

《ところでさ、偽者ってバレたらどうするんだ?》

「…生きて捕まえるしかないだろ」

 九時になった。

 すると、大成銀行の入り口から二人の男と一人の女が飛び出てきてB4に乗り込んだ。三人とも顔をマスクで隠し、両手にボストンバッグを持っている。女は紺のライダースーツの上に黒いニットジャケットを着ている。

「出して!」

「おー」

 香取の目つきが変わった。クラッチを踏んで一速に入れた。

 そして彼女はH&KMP5を取り出し窓を開けて路駐されている車のタイヤに向けて打ち込んだ。小美川のティアナと正孝のシーマが巻き込まれ、対向車線に居た好雄のレジェンドは被弾を免れた。

「えぇ?!!」「嘘ぉ…!」

「俺だけかよクッソォ!!」好雄はレジェンドを急発進させサイドブレーキを引いてVターンをしてB4の後を追い始めた。

 銀行から強盗の通報を受けた警官達のパトカーがやって来た。

 クルーとクラウンのパトカーがB4の前に出たが、B4は右に曲がって細い路地に入ってその後ろをレジェンドやマーチのパトカーが付いて来た。

「もっとスピードを上げて!!」

 言われたとおり香取は三速に入れアクセルをベタ踏みした。

 路地を出たとたんフロントバンパーを擦って火花を上げながら道路に出た。路地を出たとたん横からトラックが迫って来ていて、B4はトラックの前を通り過ぎ、トラックはレジェンドのリアフェンダーにぶつかりマーチとレジェンドのリアバンパーを弾き飛ばした。レジェンドはスピンしたまま信号機にぶつかり反動で通りすがりのバンにぶつかって大破した。

「いってぇ~…!」

 B4は猛スピードで新宿の街を滑走していた。

(さすが4WD…あ?)

 香取は急ブレーキを思いっきり踏みRにギアを移しバック走行をし始めた。前には壁を作ろうとしているパトカーの群れが居た。バックターンをして右に曲がると、そこにもパトカーの群れが居た。だがまだ大丈夫とB4はパトカーの間をすり抜けていった。

 すると、前で渋滞が起こっていた。左右はパトカーや一般車両で封鎖されている。

 香取はハンドルを激しく回し、B4は右の片輪だけで走行し始めた。車内の三人は予想外すぎて息を呑んだ。B4はそのまま渋滞の間をすり抜けていき、交差点に出たと同時に左のタイヤを地面に付き再び四輪走行を始めた。パトカーの群れは渋滞中の車の前で停車し、B4を見失った。

「ふぅ…」

 女は車内のボタンを押して番号を入力するモニターを表示させエンジンを掛けるときとは別の四桁の番号を打ち込んだ。するとナンバープレートが変わった。三人はマスクを脱いだ。女は七海クレアだった。

「さ、本拠地で戦利品を分け合いましょ」

「「イエーイ!!」」「…ぃぇ-ぃ…」


「あんたらは抜きで」

 クレアは懐からサイレンサーを装着したワルサーPPKを取り出し後ろに座っている二人の男の頭に撃ち、リアウィンドウが血に染まった。

「__!!?」

「山に行きましょ。二人の遺体を燃やすわ」

「あ、あぁ…」


 脱落した強行犯係の面々は好雄のパソコンでB4のトランクに密かに仕掛けていたGPS発信機の現在地を見ながら三人ともV37スカイラインでその場に向かっていた。

「これ、箱根山に向かってる…?」

「香取君、口封じに殺されるんじゃ…」

「急ごう!」

 好雄はスカイラインのアクセルを踏み込んだ。



6



 B4は箱根山に着き、二人は降車した。

「で、どうやって燃やすんだ?そこら辺の草木やゴミで__」

「必要ないわ。離れて」彼女はジャケットを脱いで何かのボタンを取り出した。脱いだジャケットは腰に巻く。

「…まさか?」

「そのまさかよ」

二人はB4から三十メートル以上離れてクレアはボタンを押した。そのとたん、B4はエンジンから出火し直後に爆発して車全体が炎に包まれた。

「ここまでやる必要ねぇだろ…」

「アナタも、


警察がここまで犯罪者に加担するのもどうかと思うけど?」

「__!!」

 香取は腰のホルスターに入れていたM3913に手を掛けた。

「三日前会った時から思ってたわ。だって全然本物の敏夫さんと似てないもの。それでわざと危険な仕事をさせて、成功したら最後に偽者を殺そうと思ったけど、別の人になって、しかもあんなに運転が上手いだなんて…惚れ惚れしちゃう…♥」

 クレアは香取の右腕に抱きついた。紺のライダースーツの下にある豊満なバストが彼の腕を挟んだ。香取は何とも思ってないが。

「自ら灰を被っていた仕事を引き受けていたあの人よりも、クール…♥」

「悪いが、もう色恋沙汰はコリゴリなんだ…」

「あらそう……ところで、

“これから日本に進行してくる組織”、逮捕したいと思わない?」

「…何?」

「その組織の逮捕に協力してあげるから、ね?♥」

「(うっぜぇ…)何て組織だ?」

「“ロイヤルコーポレーション”っていうヨーロッパ拠点の組織で、日本だけでなく私の所属している“パーフェクトエレメント”の脅威にもなり得る。日本に上陸したら、薬中や、銃を隠し持つ人が急増するわよ?」

「…よし、協力しよう」

「でも条件が一つ」

「どうせ今までの罪を不問にしろとかこれから犯罪犯しても見逃してくれとかだろ」

「えぇ、少なくとも今後一年は」

「んじゃ、逮捕に成功したら一年見逃してやる」

「わーい♥」

 クレアは香取に擦り寄っていく。

 すると、二人の近くにあのSUVのベンツが到着した。そのとたん彼女は香取から離れ真っ青な顔になった。ベンツからあの厳つい顔の男が降りてきてクレアにズカズカと歩み寄った。

「ジ、“ジャック“!!落ち着いて…!!私は__」

 ジャックと呼ばれた男は彼女の顔にビンタして倒れそうになった彼女を抱き口を押さえて締め始めた。

「くっ…ふぅ…!!」

「私の何だ?新しいセ○レか?俺が居ながら、お前って奴は__」

 クレアを殴ろうとしたジャックの腕を香取は片手で掴んで抑えた。

「やめとけ。まずその子の話を聞いてやれ」

「俺の調教を邪魔するなジャップ」

「…とっとと退かねぇと俺がお前の調教してやるぞ?」

 香取はジャックと睨み合い始め、香取はまたM3913に手を掛け、ジャックはクレアを放して44マグナムのデザートイーグルに手を掛けた。

「二人ともやめて!!これから手を組んでロイヤルコーポを潰すんだから!!」

「…ったく」

「わかった。ただしクレア、今日の夜俺の部屋に来い」

「…えぇ」

 クレアとジャックはベンツに乗り込んだ。

「一つ聞いておきたいんだが」

「何?」

「信用できる同僚も連れて来ていいか?」

「えぇ、いいわよ。ちゃんと説得してね。

それじゃ、二十九日のこの時間にクイーンズスクエアのカフェで」

 クレアがドアを閉めるとベンツは発進した。

 好雄が運転しているスカイラインとすれ違い、スカイラインは香取の前に停車して三人が降りた。

「よかった、生きてた…!」

「署員の皆怒ってたよ!潜入捜査だからってやりすぎだって!」

「仕方ねぇだろ。それよりもな…」



7



 当日。香取と小美川、好雄の三人はクイーンズスクエア横浜のカフェに来ていた。

「何で犯罪者の手助けなんか…」

「まぁまぁ、いつか日本に訪れる危機を防ぐためでもあるし」

「連中を一年も見逃すなんて約束したら、あいつら好き勝手やり始めるわよ?」

「約束したのは俺一人だし、あの女とだけの約束だ」

「…そう」

 すると、あの蒼いコートを着たクレアが一人でやって来た。

「待たせてごめんなさい」

「いや…」

 彼女は香取の前の座席に座って書類を取り出してテーブルに置いた。

「まず、これからアナタ達に武装をしてもらうわ。日本の警察組織の拳銃や棒だけじゃ連中への勝ち目は無い。

その後私達の船に乗ってもらうわ。その船に乗り連中の貨物船に乗り移ってボスを叩く。

その後は…


私の仲間を全員殺して」

「はァ?」「アナタの同僚を?!」

「私を騙して犯罪に染めて人生を無茶苦茶にされて散々苦しめてきたあいつらに、私はケリをつけたいの。それが今回の仕事とアナタ達のおかげで出来る」

「今まで出来なかったのか?」

「武装した二十人をたった一人で相手にするハメになるのよ…ジャックを敵に回したら確実に殺される…」

「…わかった。ジャックは俺が殺る」

「ありがとう…」彼女は香取に微笑んだ。


 四人はクレアのアウディに乗ってパーフェクトエレメントの本拠地に向かった。車内で彼女は過去を語り始めた。

 彼女は大学入学直後、ジャックと出会った。その頃の彼は厳つい顔をしながらもまだ優しかったそうだ。ある日彼は友人の家に誘ってきて、彼女はついて行った。そこでクレアは未成年だからと断ろうとしても強引に酒を飲まされ、輪され、どうでもよくなった彼女は車を運転して事故を起こした。

 学校から追放され、両親に酷い迷惑をかけて、彼女は一人暮らしを始めた。容易にまともな職には就けず、彼女は身体を売って金を稼いでいた。

 そんな時、三谷敏夫が相手になった。彼はパーフェクトエレメントのメンバーに既になっていて、彼女を気に入って組織に誘って彼について行った。ジャックも入り組んでいて焦ったが、俊夫が励ましてくれていた。

「敏夫さんが居なくなった今、組織内に私の救いは無い…」

「…この仕事が終わったらどこに行く?」

「どこかに隠居してまた身体を売って生活するわ。その方が楽だもの」

「…敏夫の殺人犯に心当たりはあるか?」

「えぇ、たくさん…」



 その頃。

「三谷敏夫の殺人犯が分かった?!」

「えぇ。ですが、香取君にこれを見せるのはちょっとどうかと…」

 立川課長と正孝係長はオフィスでそう話し合っていて、戸河内が歩み寄って来た。

「誰?」

「この人だ…」

 正孝は戸河内に書類を見せた。そのとたん、戸河内の顔が真っ青になった。

「…これは見せられないな…

内に捜査を半分任せてもらえないか?」

「お願いします」



8



 パーフェクトエレメントの本拠地は静岡県静岡市にある古いコンクリートの三階建ての建物だ。地下駐車場に入った。一台も車が停まっていない。

「皆先に出たみたいね」

 アウディを停め、降りて建物内に行くと、案内されたのは武器庫だった。

「他の人は武装を済ませてるみたいだからこの中から選んで」

「おう」「うわぁ…」「これ総額いくらだ…?」

 香取はベレッタM92FSを二挺と686Eを持ち、小美川はFNブローニングハイパワーとグロック19を持ち、好雄はグロック18cとS&WM42を持った。

「チョ○・ユンファごっこしたるぞぉ~」

「アナタやたらテンション高いわね…」

 三人はアウディに戻って今度は清水港へと向かった。


 清水港にはジャックのベンツや組員のポルシェやBMWが停車していた。アウディが到着して香取が降りると、ベンツの隣に立っていたジャックが香取を睨んだ。香取も睨み返した。

「アンタあの人と何したの?」

「別に…」

 皆小さめのフェリーに乗り込み、敵の船に着くまでリラックスした。

 クレアと香取は無人のデッキに行って周りの景色を眺め始めた。

「…本当は、身体を売らずに、どこか綺麗で広大な所に家を建てて、のんびり暮らしたいんだよねぇ…」

「一年だけその生活じゃ物足りないだろ?」

「そうね、地元の警察に追われる日々が待っているかも。見逃すって約束はアナタにしかしてないもの」

「…賄賂でも使ってこれまでの罪を不問にしてやる」

「ほんと?」

「逮捕に成功したらな」

「…別にいいわ。アナタそんなお金も権限も無さそうだし」

「……。」


 一時間後。船が見えてきた。そんなに大きくは無さそうだが貨物船としては十分な大きさだ。

「そろそろね…」

「あぁ…」

 船内に降り武器を装備して乗り移る準備を始めた。

数分経って、船が間近になった。

「行きましょう!」

「うっし!」

 貨物船の碇に飛び移り、それを伝って登っていく。それに気づいた貨物船の乗員達がコチラにH&KG36を発砲してきた。一度皆の動きが止まったが、ジャックが船員にスプリングフィールドM14を向けて一発ずつ撃ち込んだ。


「何だ?!」

 船内の最上部のとある一室にボスの“フランケン・タッカー”が夕食を食していたが、銃声が聞え席を立った。

 船員の一人が部屋に大急ぎで入ってきて「侵入者です!」と叫んだ。

「全員武装を固めろ、生かして返すな!!」

 そう言ってボスは壁に掛けていたRPK-74を手に取った。


 皆船に乗船し、コンテナを盾に交戦を始めた。

 香取はM92を両手に持って前後や上に居る敵に向けて発砲するが、横から来た男に気づかずソーコムMk23を発砲された。だが香取はそれを避けて床に滑り込みその男の足を撃ち抜いた。

 小美川は前から敵が迫って来て焦り、コンテナの扉を開いて道を塞いだ。そのとたん敵達は扉にぶつかって跪いた。だが小美川の後ろには別の敵が居て、その敵に捕まって首を絞められ始めた。

「うぐ…ッ!!」

 敵は片手で小美川の脇腹にM1911の銃口を当てた。だが後ろから香取が敵を掴み小美川から腕が離れ、香取は敵を背負い投げして顔を踏んづけた。

「あ、ありがとう__」

「伏せろ」

 小美川は咄嗟に伏せた。そのとたん開けていた扉が押され詰まっていた敵が不意を突いて突破しようとしてきた。だが香取に肩や腹を撃たれ不意打ちが失敗した。

 一方で好雄はグロック18cを乱射していた。全然敵に当たらないがクレアがフォローして射撃している。

「連射する武器なんて…使うの初めてだぞ…!」

「…単発で撃てるの知ってる?」

「え?出来るんですか?」

「……。」


 香取は小美川と共に船内に入った。入ったとたん敵が下から二人に向かって発砲した。

「ここで待ってろ」

「え?!ちょっ…」

 香取は階段の手すりに座って滑りながら降りていった。それと同時にM92FSを下の敵達に向けて乱射した。ほとんどの弾が命中し先ほど撃ってきた敵の半数以上が倒れた。更に降りて床に足を付いたとたん横に居る敵達にも乱射した。

 敵の一人がG36を撃ちながらやって来て、香取はドラム缶の山に滑り込んで身を隠した。G36の弾幕がドラム缶を突く。小美川はその敵に向けて胴体に命中させた。

「ぉぅ…」

「香取君、大丈夫?!」

「あ、あぁ…」

 すると、クレアと好雄、ジャックが追いついて来た。

「ちょ、二人でこんなにやったの?!」

「そうだよ。んじゃ、次行こうか」

 だが、いつまで経っても他の仲間が来ない。

「にしても、他の連中が来ないな…迷子になるはずないのに…」

「…ま、追いついて来るだろ。行くぞー」


 船内の三階に行った。

「二手に別れよう。小美川と好雄はこの階、俺とクレアとお前は上に行ってボスを叩く」

「分かった!」

 言われた通りに別れ、三人は上の階に登って行った。

 そして最上部。ボスが居るのか敵の数が多くなった。先頭に香取が立ち、686Eに持ち替え階段の陰から飛び出て発砲した。一気に三人ずつの敵に弾が当たり、素早くリロードをしてどんどん先に進んで行った。

 だが一人の男が前に出てペースが一気に落ちた。男は黒いスーツに赤いネクタイを締めた金髪の男だった。彼は香取の不意を突いて腹に回し蹴りを喰らわせ686Eを蹴り飛ばし、S&WM10を香取に向けて撃った。だがすぐに香取は起き上がって彼に突進した。二人とも床に倒れ殴り合いを始めた。だが香取は接近戦が苦手なのか押され、香取が下になって男はM10を香取に向けようとした。だがクレアが男の頭に狙撃し、男は血を噴いて倒れた。

「大丈夫?」

「危なかった…」

「多分、ここにボスが居るわね…」

 香取は立ち上がってM92を再び持ち、クレアと共に銃を構えながらドアを蹴破った。それと同時に各々の銃を連射した。

 ボスのフランケンはRPKを撃とうとしていたそうだが、肩に集中砲火されて撃てずに終わった。まだ十分生きれる。今の内に応急処置をすれば生きたまま逮捕できるだろう。

 大量の血を両肩から噴出しながらもボスは何故か笑っていた。

「…何で笑っている?」

「分からないか?後ろに気をつけろ…」

「__!!」

 銃声と共に後ろを振り向くと、クレアが血を吐いて倒れた。

「クレア__?!!」

 銃を撃ったのはジャックだ。デザートイーグルから硝煙が立ち込めている。

「テメェスパイか?!!」

「もう遅いわァ!!!」

 M92をジャックに向けて発砲した。デザートイーグルとM92両者の残弾が切れるまで撃ち、ジャックは顔面蜂の巣になってゆっくりと地面に倒れた。香取は全く被弾しなかった。

「なんだよ…敵に回したら厄介な奴じゃなかったのかよ…」

 M92を捨てクレアに駆け寄った。

「クレア!!!」

 上着を脱いで彼女を抱き上げ、激しく出血している腹部をそれで抑えた。

「しっかりしろ!!!生きてこいつらと決別して。綺麗なところで新しい生活を始めるんだろ!!?」

「もう……もういいの…私……人生に…疲れちゃ……た__」

 クレアの冷たくなった手が香取から落ちた。

「…そうか。良く頑張った。ゆっくり休め……」

 香取は冷たくなった彼女をそっと抱きしめた。

 しばらくすると、生還した小美川と好雄が入ってきて、二人はその光景を目の当たりにしたがすぐにボスに気づいて応急手当を始めた。

 外には水上警察が到着していた。



9



「ロイヤルコーポレーションという組織は数名が生き残り、パーフェクトエレメントという組織は全滅。コンテナ周りには仲間割れをしたと思わしき遺体が多くあり、君達の話からしてそのジャックという男が全てやったと思って良さそうだ。

コンテナ類には大量の違法薬物と大量生産された銃器があり、全てを押収できたのはいいが…

これほどの死者が出たとなると、敵ながら空しいな…そう思わんか?」

「えぇ…」

「…とにかく、皆ご苦労だった。犯罪者に加担して捜査して疲れただろう。当分休みなさい」

「いえ、このくらいのことでへこたれていたら刑事は務まりません」

「…そうか」

 香取、小美川、好雄の三人は解散して各々がやろうとしていた仕事に戻った。

「三谷敏夫の殺人犯、わかりましたか?」と好雄は正孝に聞いた。

「えっ……いや、まだ見つかってないよ…」

「そうですか…」

 正孝は冷や汗をかいた。


 小美川は自宅に帰った。父と小太郎がすぐにやって来る。

「ただいまー…」

「おかえり…どうした?元気無いぞ?」

「ちょっと色々あって…」

 小美川は寄って来た小太郎の前で座り撫で始めた。

「…何があったんだ?」

「…二つの組織が対立して、片方に加担したら、スパイが居て、全員死んじゃった…」

「それは敵だとしても辛いな…」

「関係している殺人事件も謎のままだし、香取君の夢も何だったのかわかんないままだし…」

「香取…あぁあの福岡から来たっていう…

ま、そういうこともあるさ」

「うん…」



 一方、香取は正孝の言動が怪しく、署に残って彼のデスクを上から中まで漁っていた。

 すると、今日の日付が書かれている書類を見つけて手に取った。

「……コイツか…」


「香取?!帰ったんじゃ?!」

 戸河内がオフィスに入ってきて灯りを点け、香取に歩み寄った。

「お前それ…」

「戸河内さんは知ってたんですか?」

「…あぁ。今のお前が知ったとしたらマズいと思ったからな…」

「他に何か隠してるんですか?」

「…いいか香取、この事件は半分俺ら暴力犯係も追っている。情報の共有はするべきだろうが、今のお前に奴を追わせたら、生かして返さないだろ__」

「殺して当然じゃないですか!!!こんな野郎!!!」

 香取は戸河内の胸倉を掴んだ。だが戸河内はすぐに弾き返した。

「落ち着け!!!潜入捜査官時代のお前の詳しいことはまだ分からんが、こいつが今のお前を作った根源だってのはよく分かる!!!

こいつを追いたかったら、そのすぐに躍起になる性格を治してから来い!!!」

 香取から書類を奪い取り、灯りを消してオフィスを出て行った。

「…クソッ!!!」と香取は叫んで自分のデスクを蹴り飛ばした。

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