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駆ける刑事前線  作者: 内村
警部補 熊谷好雄
14/15

第二話「慰めの言葉と確信の指輪」

1



 朝。好雄は自販機からオフィスに帰ってきた。

 すると、彼のデスクの上の電話が鳴った。

「はいもしもし」

《西新宿署の熊谷さんですか?新宿厚生病院です!》

「はい、私ですが?」


《暁琴音さんが病室から居なくなったんです!》

「えっ…?!!」

《警視庁の方にも電話したのですがまともに相手にしてくれなくて、アナタを勧められたんです!》

「っ…わかりました、すぐに見つけます!」

 受話器を置く直前入電が入り、小美川は好雄に相方になってもらおうと声を掛けた。

「好雄君、ちょっと__」

「ごめん、今の入電が入った事件、君と俊介君で追ってくれ!!」と言って好雄は椅子に掛けていたコートを手に取ってオフィスを大急ぎで出て行った。

「え?!ちょっ…好雄君…っ!?」


 好雄はJ31ティアナに乗り込み駐車場を出ていき琴音を探し始めた。道中、自分を勧めた人物のことも考えた。

(誰だ…警視庁から勧められるのは納得するけど、このぐらいなら僕じゃなくてもやってくれると思うけど…

とにかく、早く見つけないと…!」



2



 家には規制線が張られていて入れない。学校は休み。琴音とは一度、それも十分と満たない顔合わせと軽い聞き込み程度の付き合いしかない。どこによく行くのか何が好きなのかなぞ知る由も無い。

 署から2キロ、病院から3キロの地点を走っていた。

 すると、髪を変な色に染めた悪人面の二人組みに一人の少女が絡まれていた。その少女は、琴音だった。酷く怯え、涙目になっている。男の一人に手を掴まれ背後にも回られていて逃げられない。

「そんなに怖がらなくても大丈夫だって」「俺達一人で寂しそうにしてる君を保護して元気付けようとさせているんだから~」

「いや…っ!!離して…っ!!」

 好雄はティアナを停めて降車し彼らに歩み寄った。

「お前達その子を離せ!!」

「あ゛?んだてめェ?」「かっこつけようとしてんなら帰れ。でないとコレだぞ?」

 男の一人が折りたたみ式のナイフを取り出し刃を向けた。それを見てまた琴音が一層怯えた。

「ひっ…?!」

「大丈夫、落ち着いて…」そう言いながら好雄は男に歩み寄った。

「てめェこのナイフが見えねェのか__」

 好雄はナイフを握っている男の腕を蹴り飛ばし、怯んだ彼を片手で押し倒し、のし上がり、首と脚を絞め始めた。

「がっ…?!!」

「テ、テメェ…!!」もう一人の男は琴音から手を離してナイフを拾い上げ刃を彼女に向けた。

「きゃぁ?!!」

「テメェこの女を助けたいんだろ?!!だったら__」

「失せろって言いたいんだろうけど、消えるのは君達の方だよ」と好雄は男を離して立ち上がり静かに警察手帳を見せつけた。二人とも青ざめた。

「銃刀法違反と殺人未遂、公務執行妨害で逮捕確実だね」

「すすすすすすすいません…!」

「今日は見逃してやる。ただし二度とこの子に近づくな」

「はっはい!!」

 男達はナイフを捨てて走り去って行った。

 琴音は緊張が解けて安堵の息を漏らしてその場にへたり込んだ。

「大丈夫?」と好雄は彼女に手を差し出し、彼女は彼の手を取って立ち上がった。

「はい…ありがとうございます…」

「…で、何で病院を抜け出したの?」

「っ……」

 彼女は黙り込んだ。まさか自殺でもしようとしていたのではと思った好雄は彼女に提案した。

「…ちょっとドライブにでも行こうか」

「へ…?」

「行きたい所に行ってやりたいことをやれば、少しは落ち着くだろうし。ま、僕にダメって言われるようなことはさせないけど」

 彼女はまた黙り込んだ。本当に自殺をしようとしていたのではないかと好雄は不安になった。

「……母のところへ…」

「お母さんのところ…?

もしかして、お墓…?」

「はい…」と彼女は頷きながら答えた。

「(死ぬ気じゃないのかも…)

分かった。行こう」



3



 墓地に向かう最中、好雄はこれまでの事件の捜査の結果を話した。朱音の指から指輪が盗られていたこと、証拠は消えたり役に立たなかったり、店内のカメラの台数や位置に苦言したりと…。

 そうしている内に、暁朱音の遺体が埋葬されている墓地に着いた。彼女は母の墓の前で、静かに佇んだ。

「…母が、大好きでした…いつも優しくて、時には甘やかさず怒ってくれたり、手先が器用で、私がうっかり壊してしまった物を、直せる物なら何でも直してくれました…嘘を見破るのも得意で、私が何か隠し事をしてると、すぐに「何か隠してるでしょ?」って…

今まで、隠し通さなくても大丈夫だと思って、ほとんどは母に打ち明けていたんです…でも、今私が隠していることは、“言いたくても言えないこと”なんです…」

「…もしかして、あの手紙のこと?」

「っ__!?」

「ごめんなさい…アナタの部屋に入って、あの手紙を見ました。でも安心してください、中は見てません…

でも、そのことでも良いので、悩んだりしていることがあったら僕達に話してください。僕は刑事です。アナタが犯罪を犯していない限り、何があっても、僕は警察として、人として、アナタを守ります」

「熊谷さん…!」彼女の目頭が、じんわりと滲んでいった。

「…とりあえず、病院に帰ろう。皆心配してるよ、きっと」

「はい…」

 彼女は目を拭って、好雄に歩み寄った。



 病院に向かっている最中、彼女は事件について話そうとしていたことを打ち明けた。

 身長は180cmほど、細身、帽子は被っておらず髪は黒く短いボサボサな髪をしていたそうだ。

 そして、母の指輪のこと…。

「母はいつも、結婚指輪は必ず身に付けていました…数年前に亡くなった父が大事にとっていてくれと言われていたそうです…母が好きだったペリドットを金のリングに付けた指輪で…」

「ペリドット?」

「黄緑色の宝石です。意味は夫婦の幸福と信じる心だそうです」

「なるほど…話してくれてありがとう。絶対に犯人を逮捕して取り返してみせるから」

「はい…お願いします…」



4



 琴音を病院前で降ろし、好雄は署に戻ろうとしていた。

 すると、無線が入った。

《応答願います。各車応答願います》

「こちら西新455、どうぞ」

《ひったくりの犯人を追跡中行方が分からなくなりました》

「あれ?小美川さん達が追ってたんじゃ…?」

《犯人は現在住吉町を逃走中と思われます》

「了解…」

 ティアナをターンさせサイレンを鳴らしながら住吉町方面に滑走して行った。



 荒木公園付近に行くと、一人の男が停まっていたアベンシスの窓を破って開けコードを繋げてエンジンをかけようとしていた。後ろから来ているティアナに気づいてアベンシスを急発進させた。

「あいつか?」

 ティアナはアベンシスの真後ろに追いつき、横に突破した。そのとたんアベンシスはティアナに体当たりをしてきて、負けじとティアナも体当たりをする。前方から来る車を避けてもう一度体当たりをした。アベンシスは後輪を滑らせながら左に曲がりティアナもしっかりと後についていく。

 ティアナはアベンシスのリアバンパーをつつき、アベンシスからバランスを奪っていく。

 そしてアベンシスの横に着き、体当たりをした。アベンシスは本格的にバランスを崩してスリップし、工事現場の機材に乗り上げて横転した。



5



 男をティアナに乗せて署に戻り刑事課のオフィスに入った。

「好雄君どこ行ってたの…ってその人…」

「琴音さんのとこに行ってたら、逃がしちゃったって聞いたから早めに用事を済ませてから捕まえた」

 好雄は男を取調室に歩かせようとしたが、男が小美川にドカドカと歩み寄った。そしていやらしく笑い、

「よぅドジ女!!!ゴミ箱の居心地はどうだった?クッケッケッ!!!」

「っ…!!」

 男の顔面を殴ろうと拳を固めていた小美川を止めるように、好雄がキレて先に男に腹パンとかかと落としを喰らわせて気絶させた。

「あ…ありがとう…」

「仲間なんだから怒って当然だよ。こいつを取調室に運ぶの手伝ってくれる?」

「はい…」

(そう…仲間なんだから…仲間としてだから…)


 男は目を覚ました。取調室の天井が彼を迎え、顔を下げると同時に好雄が入ってきた。

「目が覚めたか…刑事舐めると痛い目に遭うぞ?」

「はいはい…ってて…」男は殴られた部位を擦りながら言った。

「…随分と余裕だな」好雄は椅子に座り腰を落ち着かせた。

「さて、名前は?」

「“深見春男“」

「歳は?」

「三十五」

「いい歳してあんなことしてるんじゃないよ」

「あ゛?」

「住所は?」

「…大田区蒲田三丁目」

「前科はある?」

「ねぇよ…」

「まぁ、どうせ後でデータベースで……?」


 春男の右手の人差し指に指輪がはめられていることに気づいた。金のキングに付いた黄緑色の宝石の指輪だ。琴音の言っていた指輪と特徴が一致している。もちろん似ているだけということもあるが、好雄は気になって彼に聞いた。

「っ…お前、それどこで手に入れた?」

「んぁ?これか?…買ったんだよ。けっこう良いだろ?」

 春男の目が泳いでいる…。姿勢も少し堅くなり、余裕の表情が消えていた。

「…三日前、お前は何をしてた?」

「…別に…アンタは関係ないだろ?いいんですか警察が__」

「どこに居た?!」

「っ…!」

「答えろ!!!」

「ッーー!!」

「早く!!!」

「ぬ゛アァァ!!!」

 春男は立ち上がって好雄を殴り飛ばし、取調室を飛び出ようとした。だが好雄は片腕で拳を防いですぐに動け、彼の服の襟を掴んで引っ張りテーブルに叩きつけ、壁を背にさせて押し倒した。春男は鼻血をダラダラと垂れ流し始めた。

 騒ぎに気づいた小美川や俊介が駆けつけてきた。

「ちょっ…?!何してるの?!」

 好雄は春男の胸倉を掴み何度も壁に叩きつけた。

「話す!!!ハナす!!!話すから゛ぁ゛…!!」

「あの日どこに行って何をしていた!!?」

「戸山公園の近くのマンションで、人の居ない部屋だと思って入ったら、女が居て、そいつを殺して、金目の物を盗って、女の付けてたこの指輪が良くてこれも盗って…!」

「っ…お前のせいであの子は…その人の娘は辛い想いをしてるんだぞ?」

「すいません…!!すいま__」

「謝って済むことならなぁ゛!!!俺はこんな仕事辞めてやるッ゛!!!」

 そう言って好雄は春男を床に叩きつけた。春男は蹲ってわんわんと涙と血を一緒に垂れ流し始めた。

「…指輪を外せ」

「はい…っ!!」

 春男は指輪を外し、好雄に手渡した。



6



 深見春男、本名“ヨ・ギドン”。韓国から出稼ぎに来ており、赤いポロを奪い他にもかなりの件数の盗みをしていた。盗んで気に入っていた物は質屋やリサイクルショップには出さずに自分に身に付けていた。高級な革財布、靴、ピアス、ネックレス、そして朱音の指輪…。

 ギドンの身柄は警視庁に引き渡された。その時の誠一は、馬鹿にしていた相手に手柄を取られて半ば悔しそうな顔をしていた。

「全く、香取君の真似でもしたの!!?」と好雄は正孝に叱られていた。

「本店の人が彼を見てなんて言ったと思う?「香取という刑事が帰ってきたのか?」だよ?!」

「うくく…っ」小美川はそう隅で笑った。

「すいません…」

「んもう…今度からは気をつけてよ?」

「はい」

 好雄は自分のデスクに戻り、デスクの上に置いた朱音の指輪を見た。

(返さないとな…)


 すると、

「もしもし…香取か。今度はどうした?」

《追われてる俺を見たって奴は居ないか?》

「いや、今のお前を見てもそう簡単に香取博之とは分かんねぇだろ」

《そうだった…!!》

「何があった?」

《潜入捜査官だってことがバレていた…車に盗聴器が仕掛けられていてな…!!SATが隠れ家を囲むのも知っている!!》

「何っ?!!「っ…!!」

《今追われていて、どっかの公園の前に居る。スマホが壊されて公衆電話で話している。来てくれるか?》

「当たり前だろ!!逆探をとってもらうからそこに隠れてろ!!」

《無茶言うな!!》

 すると、受話器越しから銃声が聞えてきた。

《あぁクソッ!!一人で受け持つんじゃなかったぜ…!!》

「香取…!!」

「香取君……っえぇぃ!!!」小美川は立ち上がりM37と手錠を持って大急ぎでオフィスを出ようとした。

「小美川さん、どこ行くんだ?!!!」

「相棒が…っ、仲間が助けを待っているんですよ!!!係が違うからってじっとしてなんていられるモンですか!!!」

 小美川はオフィスを出て行き階段を滑る様に降りていった。戸河内も銃と手錠を持ってオフィスを出ていった。好雄はすぐに先程の電話の発信源を特定してもらうよう電話し、コートを持ってオフィスを出て行き俊介はその後ろから付いてきた。

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